声で

第五章

　戸惑いながらもだ。こう言うのだった。
「ううん、何か急で」
「驚いてる？今」
「そうなの？」
「正直なところね」
　その通りだと答える彼女だった。実際に戸惑う顔になってだ。
　そしてだ。その顔で出した言葉はというと。
「凄い展開よね」
「けれどいい展開よ、鈴子にとって」
「それもかなりね」
「このままいくと願いが適うわよ」
「彼氏、ね」
　鈴子はここでその顔を赤くさせて言った。
「本当にできるのね。私に」
「彼ね。結構以上に男らしい性格だから」
「一本気で曲がったことが嫌いでね」
「それに弱いものいじめとか大嫌いだし」
　そうした性格だというのだ。
「バレーボール部でも後輩から慕われてるし」
「先輩の人達からも評判がいいし」
「融通は利かないけれど真面目でね」
「友達も多いのよ」
「いい人なのね」
　大事なのは性格だ。それもいいと聞いてだ。
　鈴子も心が動いた。それでだった。
「じゃあお友達からね」
「そうそう、そこからはじめてね」
「決めればいいからね」
「わかったわ。それじゃあ」
　こうしてだった。鈴子は昂輝とはまずは友達からはじめた。そうしてだった。
　やがて交際する様になった。それからだった。
　彼にだ。下校中に一緒に歩きながらだ。こう尋ねたのである。
「ねえ、いいかな」
「何かな」
　昂輝はその鈴子の言葉に応えてだ。彼女に顔を向けてきた。
「何かあるのかな」
「うん、何で私と一緒にいるの？」
　具体的に言えば付き合っている。それは何故かというのだ。
「何か理由とかきっかけは」
「声だよ」
　昂輝はそれにだ。理由があるというのだった。
「声を聴いてさ。三田村の」
「声なの」
「声が凄くよかったから気になって」
　放送部の放送を聴いたその時のことをだ。彼は鈴子本人に話したのだ。
「それでだったんだよ」
「声なの」
「うん。けれど何でそんなこと聞くんだよ」
「だって私胸ないから」
　そのコンプレックスのことはどうしても気になっていてだ。自分でも言うのだった。
「それでどうして私なんかと思って」
「胸な。そんなのはな」
「そんなのはって？」
「どうでもいいんじゃないのか？」　
　実に素っ気無くだ。昂輝は言った。
「そんなの大したことじゃないだろ」
「そうなの？」
「ああ、俺は胸は小さくでもいいんだよ」
　ここでちらりと鈴子のその胸を見る彼だった。
「というか大きいとかにこだわるんだな、女の子って」
「どうしてもね。そうなのよ」
「男が背にこだわるのと同じなのかね」
　ふとだ。昂輝はこんな感じなのかと思い呟いた。
「そういうものか」
「多分。そうだと思うけれど」
「そうか。まあとにかく俺は胸にはこだわらないからな」
「声なのね。それじゃあ」
「ああ、三田村の声がよかったから気になって」
　このことは確かにだとだ。昂輝は言う。
「それでなんだよ」
「そう。声なのね」
　鈴子はそのことを知ったのだった。女の子は胸だけではない。声もまたそうだとだ。彼女は昂輝に言われてだ。心の中で頷き嬉しさも感じたのだった。


声で　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１１・１１・２７