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レーダーホーゼン

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第三章

「長ズボンだね」
「このズボンでね」
「今からなんだ」
「山に登るよ」
「君本当に半ズボンに抵抗あるんだね」
「どうしてもね」
 気分的な問題でというのだ。
「そうなんだ」
「それで今からなんだ」
「部活の時は仕方ないけれど」
「今は部活じゃないからだね」
「このことはね」
「やっていくよ」
「そうするんだね」
「これからね」
「じゃあね」
「うん、登って来るよ」
 彼等がいる街のすぐ傍のだ、部活でも登っている山を見て言う。
「あの山にね」
「あの山好きだね、君」
「景色がいいからね」
 それでなのだ、実際に。
「今から行って来るよ」
「僕も行くよ」
 ヴィルヘルムは山に行こうとするオットーにこう申し出た。
「今暇だし」
「君もなんだ」
「それに山登りは一人で行くよりもじゃない」
「何かがあると危ないしね」
 二人が所属しているワンダーフォーゲル部での教えでもある。どんな山でも危険があるので一人で登らない方がいいというのだ。
「だからね」
「それでなんだ」
「うん、どうかな」
 こうオットーに提案するのだった。
「二人でね」
「それじゃあ」
 友人の言葉だ、それでだった。
 オットーは頷いてだ、こうヴィルヘルムに答えた。
「そうしようか」
「一緒に行こう」
「あの山にね」 
 こうしてだった、二人はその山に共に登った。オットーは長ズボンであるがヴィルヘルムはレーダーホーゼンではないが半ズボン姿だ。二人はそのそれぞれの格好で山に登った。
 ヴィルヘルムはすいすい進む、だが。
 オットーは長ズボンの裾がだ、何かとだった。
 山の木々や石にかかってだ、しかも丈が長いだけ重さもあり。
 普段より進めない、それでこうしたことを言った。
「何か」
「どうしたの?」
「いや、いつもと比べてね」
「部活の時よりも?」
「進みにくいよ」
「調子が悪いとか?」
「いや、ズボンが」
 その長ズボンがというのだ。
「山の木にかかるし重くて」
「だからなんだ」
「普段より進みにくいよ」
「そういえばズボンに葉が一杯付いてるよ」
 ヴィルヘルムはオットーのズボンを見て言った。
「あちこちにね」
「後で取るのが大変かな」
「それ位付いてるよ」
「参ったね」
「長ズボンだとそうなんだ」
「これは参ったね」
「どうするの?それで」
「いや、結構進んでるしこの山高くないし」
 それでというのだ。
「頂上まで進むよ」
「そうするんだ」
「うん、途中で辞めるのは嫌いだしね」 
「じゃあ僕も付き合うよ」
「それじゃあね」
 こうしてだった、オットーは山の頂上を目指した。ヴィルヘルムも彼についていった。そして二人は頂上まで辿り着いたが。
 自分のズボンを見てだ、オットーは憮然として言った。
「結構かかったし」
「葉も凄いね」
「これは酷いね」
「山から下りたら全部取らないとね」
「それだけでも大変だよ」
 やれやれとした顔で言うのだった。
「これはね」
「そうだね」
「参ったよ」
 苦い顔でだ、オットーはまた言った。
「これは、もうね」
「もうって?」
「長ズボンでは登らないよ」
 こう言うのだった。
「この季節山にはね」
「それが結論だね」
「うん、そうするよ」 
 その苦い顔での言葉だ。そして彼は下山してからも苦労した。
 そして後日だ、オットーは顧問の先生にこのことを話したが。 
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