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八神家の養父切嗣

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五話:旅立ち


 向かい合う一人の少年と一人の少女。そして、少女に付き従う四人の騎士達。
 クロノとはやて達家族は騎士達の罪と今後のことについて話し合う必要があるのだ。

「辛いことがあったすぐ後にこんな話をするのも心苦しいが、避けては通れない道だ」
「はい、わかっとります」
「なら、君達の今後について話をしよう」

 クロノは目の前にディスプレイを出現させ、資料を出していく。
 はやて達はその資料に書かれていることに真剣に目を通していく。
 しばらく、無言で資料を読んでいたはやてだったが、やがて息を吐き、口を開く。

「この保護観察っていうのはどういうものなんですか?」
「大まかに言えば、更生の意思、見込みがある者が社会に復帰できるように保護、そして再び悪さをしないかを観察するためのものだ。嘱託魔導士になればさらに裁判で有利になる。フェイトが良い例かな」
「なるほど、それで私とこの子達が管理局に従事したりするんですか?」

 今後、騎士達と主はやてが共に暮らせる唯一の道である保護観察による管理局職務への従事。
 クロノが事件終了後から休むことすらなく探して見つけた唯一の道だ。
 それははやても重々承知しているので文句など言うことはない。
 騎士達も自分達の行いが罰せられ、償いを受けることができるというのは素直にありがたいことなので文句などない。

「その件についてなんだが……守護騎士達の罪は庇いようがない。死者はいないが負傷者は出ているからな」
「その……本当にすまない」
「僕に言われても困るが、まあ、話の本筋はそこじゃない。騎士達は、これ以上は庇えないが八神はやて、君なら無罪にできる」

 はやてが無罪になると聞いて騎士達全員が色めき立つ。
 やはり、自分達が罪に問われるのは当然だが何も知らなかったはやてが罪に問われるのは心苦しかったのだ。
 一方のはやては共に罪を償う気でいた為に不意を突かれた顔になる。

「どういうことなんです?」
「今回の君の立場は中々に複雑な立場だ。守護騎士達の主でありながら蒐集に関しては一切知らなかった。それどころか禁止の命を出していた」
「そうだよ、はやては何にも悪くねえんだよ。悪いのは全部あたし達なんだ」

 クロノの言葉にヴィータが同意の言葉を発し、ザフィーラも頷く。
 彼らはそもそもはやてが無事であれば自身の消滅すら厭わない存在だ。
 罪の全てを自分達が受けることになったと言われれば喜びさえするだろう。
 だが、心優しい夜天の王がそのようなことを許すはずもない。

「なに言うてるんや。私がみんなの主なんやから私にも責任があるやろ」
「そうだ。いくら、独断と言えど主には責任がつきまとう。言い方が悪いが、こっちの世界でも飼い犬が誰かを傷つけた場合は飼い主に責任が問われるだろう?」

 ヴォルケンリッターは疑似魔法生命体として定義される。
 簡単に考えればはやての使い魔のようなものだ。
 使い魔が罪を犯せば当然のことながらそれを放置した主へも罪は及ぶ。

「このままなら全員で保護観察を受けてもらうことになるが、ここで別の要素が加わる」
「別の要素?」
「ああ、それは―――衛宮切嗣だ」

 その名前を出した瞬間にはやての瞳が僅かに悲しみに揺れる。
 クロノもそれに気づくが自分がどう言っても解決できるものではないので淡々と事実だけを告げていくことにする。

「今回、衛宮切嗣は闇の書を完成させようと暗躍していた。それは間違えのない事実だ。そして、何よりも君達を騙していた」
「でも……おとんは」
「言いたいことがあるのは分かるが今は黙って聞いてほしい。君の立場はある意味で被害者でもあるわけだ。望まぬうちに蒐集をさせられたね」

 そこで一旦言葉を切り、話していいものかと若干の戸惑いを見せるクロノ。
 はやての方は、自分は決して騙されていただけではないと言いたかったが言われたとおりに黙って次の言葉を待っている。
 その様子にクロノも覚悟を決めて話を再開する。

「彼に脅されて蒐集を行わされた。催眠をかけられた。あるいは騎士達ははやてを人質に取られ否応なしに蒐集を行った。そう言った事実があれば無罪にもっていける」
「それは…! そのようなことはッ!」
「だが、父親という決して子供が逆らえない立場にあった人間が黒幕だったというのは事実だ。僕も嫌いだが、一つの、最善の選択肢なら示さないわけにもいかない」

 暗に虚偽の証言を出せばはやてが助かるという申し出に声を荒げるシグナム。
 クロノも渋い顔をしながら、それが最もはやてにとって良い選択肢なので告げたと答える。
 彼としてはこういったことは本来許せない性格なのだが、はやての為を思い提示した。
 何よりも、実際にそういったことがあったという可能性もあるのだ。
 確かめること自体は必要であるが直接聞いたのは、はやてにどちらかを選ぶ権利を与えるためだ。

「何よりも、今回の黒幕はあのエミヤだ。ヒールにはもってこいだ」
「なぁ……さっきからエミヤって言ってるけど、切嗣は八神じゃねえのかよ?」
「確証はないが、今回の件とロッテとアリアの証言から考えれば十中八九で魔導士殺しのエミヤの正体は彼だろう」
「魔導士殺しのエミヤ……」

 物騒な二つ名に表情を硬くするはやて達。
 彼女達は誰よりも切嗣のことを知っていると同時に誰よりも彼のことを知らない。
 衛宮切嗣の本当の姿を知っていても仮の姿は知らないのだ。

「五年程前まで精力的に活動していた、魔導士殺しに特化したフリーランスの暗殺者の名前だ」
「五年前って……おとんが家に来たのと同じ時期や」
「今の今まで素顔すら現さなかったんだが……今回の失敗(・・)でようやく顔がわれた」

 失敗という言葉に何とも言えない顔をする騎士達。
 当然のことながら切嗣の策が成功していれば自分達は今ここにいない。
 そして、逆に失敗したことで切嗣は自分達の前から姿を消した。
 生きているには生きているだろうがあの失意に沈んだ人間に生きる気力があるとは思えない。
 裏切られたとはいえ、やはり気になってしまうのは家族故だからだろう。

「次元世界のあらゆる紛争地帯で活動して荒稼ぎしていたと言われていたんだが……あの様子を見るに彼は……彼の正義を貫き続けていたんだろうな」

 今回のようなことを幾度となく繰り返してきたのだろうと察して思わず同情してしまう。
 心を殺した機械として生きていた彼はその実、誰よりも優しい心の持ち主だった。
 切嗣の行いを肯定するわけにはいかないが、永遠に救いのない道を歩きながらも世界の為に生き続けたという事実には畏敬の念を覚えてしまう。

「まあ、彼の過去は、今は良い。現状彼は姿をくらましている。こちらに姿を見せる真似はしないだろう。だから、君は誰の指示も受けない自由な選択ができる」
「…………」
「八神はやて、そして守護騎士達に聞きたい。衛宮切嗣に脅しや暗示、強迫紛いの行為は受けていなかったか?」

 黙ったまま真っすぐな瞳で自分を見つめるはやてにクロノは問いかける。
 ここではやてが頷けば、はやてを無罪放免にもっていくことができる。
 騎士達も以前よりも、より良い待遇で管理局に迎えることができるだろう。
 ただ、彼女が衛宮切嗣と、家族であったことを否定さえすれば。



「―――いいえ、全くありません」



 だが、彼女は首を横に振り、力強い言葉でそんなことはなかったと断言した。
 クロノは彼女の言葉にどこか眩しそうに目を細めた後、今度は騎士達に目を向ける。
 騎士達もまた、主と同じように真っすぐな瞳で彼を見つめ返してきた。

「私もそのようなことは一切確認していない」
「ええ、私も見たことも聞いたこともありません」
「あたしも記憶にねーな」
「同じく」

 四人が四人とも同じように首を振る。
 つまりは、彼女達は自由よりも家族としての絆を取ったのだ。
 その決断にクロノは少し頬を緩めるがすぐに引き締めて喉を鳴らす。

「そうか、なら事情聴取はこれで終わりだ。何とかして君達が離れないで済むようには取り計らう。安心してくれ」
「何から何まですんません」
「いや、これが仕事だからね。詳しいことは後で伝えるよ。今は休んでいてくれ」

 クロノは報告書の作成に移るために立ち上がり、ここに来て初めて笑みを見せる。
 その笑顔は相手を安心させる意味合いが殆どだが彼女の決断に感服したのも含まれている。
 それをはやても感じ取り、精一杯の笑みをクロノに返すのだった。





 その後、嘱託魔導士となるという選択肢を受け入れたはやては一端、病院に戻っていた。
 どうやら、昨日の内に外泊許可は切嗣が取っていたらしくおとがめはなかった。
 しかし、急に足の状態が良くなったこともあり、しばらくの間、精密検査が行われていた。
 そのせいで少し気だるげなはやてであったがお見舞いに来てくれたアリサとすずかの手前、そんな様子を欠片も見せることはなかった。
 そして、正午近くになったところでなのはとフェイトが訪ねてきた。

「それで、私は嘱託になることになったんよ。よろしゅう頼むな、先輩(・・)
「あはは……ちょっと恥ずかしいかな」
「うん……あ、でも、困ったことがあったら何でも言ってね」

 先輩という言葉に少し照れながらもしっかりと手を貸すことを約束するなのはとフェイト。
 はやての方も朗らかに笑いながら感謝を込めて頷く。
 色々と大変なことはあったがそのおかげか昨日よりも自分達の絆は強くなっている。
 これも、聖夜の奇跡なのだろうかとはやては目を細める。

「ねえ、はやてちゃん。お父さんの方は……」
「それがな、未だに帰ってこんのや。おとん、ああ見えて負けず嫌いやから自分から帰ってくることはないやろなぁ」
「はやて……ごめんね」

 できる限り悲しい表情を見せずに語るはやてだったが、やはりその瞳には影が差していた。
 それに気づいたフェイトが切嗣が消えてしまった非は自分にもあると頭を下げる。
 なのはもフェイトに続くように頭を下げる。
 だが、頭を下げられたはやての方は慌てて手を振る。

「なんで、二人が謝るん? 二人はなんも悪くないよ」
「でも……もっと他の方法ならはやてちゃんのお父さんも救われたかもしれないのに」
「それは、もしもの話や。悔やみ過ぎるんわ、良くないよ。それに……おとんは遅かれ早かれ、ああなったと思うんよ」

 はやては切嗣の半生を想像しながら噛みしめるように呟く。
 例え、今回はやてが永遠に凍結されるという結末を迎えていたとしても、切嗣は必ず己の理想の矛盾にぶつかっていただろう。
 そして、同じように絶望し、誰かの前から永遠に姿を消していただろう。
 何の根拠もない予想であるがはやてには確信があった。
 何といっても、彼女は切嗣の娘なのだから。

「二人のことはちっとも悪く思っとらんよ。やけど、ちょーっとばかし、手伝って欲しいことがあるんよ」
「何? 何でも言ってね」

 手伝って欲しいことがあると言われて俄然やる気になるなのはとフェイト。
 その素直さにこの子達は将来騙されたりしないだろうかと若干不安になるはやてだったが話の腰を折るわけにもいかないので気にせずに続ける。

「私達はな、何も償いの為だけに管理局に入るわけやないんよ。折角、警察みたいな職業に就くんやからこれを利用せん手はない」
「……はやてって意外と腹黒いタイプ?」
「なんや、失礼やな。こちらとなぁ、子ども相手にズルしてでも勝とうとする父親に育てられたんやで。色々と頭使う癖がついとるんよ」

 はやては思い出す。親子でポーカーをした時に初手からイカサマで勝ちに来た切嗣の姿を。
 あの時は一日中話すのをやめたことで逆襲した。
 だが、切嗣はそれに懲りることなく何か勝負をするときは一切の容赦がなかった。
 そのおかげと言うのもなんだが、騎士達が家に来てから遊ぶ時は、はやてが全戦全勝だった。
 
 最初は騎士達が気を使っているのかと思ったがヴィータとシャマルがかなり真面目な顔で涙を流していたことから自分が強くなりすぎたのだと悟った。
 特に、某、まんまるピンクの星の戦士が乗り物に乗って争うゲームでは大変だった。
 決して復帰を許さないように徹底的にシグナムのまんまるピンクを跳ね飛ばし続けた結果、土下座をして謝られたのは記憶に新しい。

「まあ、それはともかくや。私達の現状の目標は―――おとんを捕まえることや」
「はやてちゃんの……お父さんを?」
「そや、おとんが逃げるなら追って捕まえる。ぎょーさん、言わんといけんことがあるんや」

 真剣な目で語るはやてに続くように騎士達は頷く。
 なのはとフェイトもその顔に彼女達が本気なのだと悟り、黙って聞く。

「リインフォースが言うとった。『また会える』って。やから、また会えるように努力する。諦めないなら必ず叶うって私は信じてる」
「はやてちゃん……」
「そんでな、二人にはその手伝いをして貰いたいなって思ったんやけど……どうや?」

 例え、自分たち家族だけでも、いや、自分一人でも追い続けるつもりだ。
 だが、しかし。孤独で居続ければいつかは自分も養父のようになってしまいかねない。
 それでは例え、捕まえたとしても合わせる顔がない。
 切嗣が個人で行くというのなら、自分は多くの友と家族と共に行く。
 それがはやての考え抜いた上での結論であった。

「もちろん! なんだって手伝うからね!」
「うん。それに、私は執務官を目指しているから、個人的にも追えると思うし」
「おおきに、ありがとうな。なのはちゃん、フェイトちゃん」

 満面の笑みで答えてくれた親友に、自然とはやての顔も明るくなる。
 悲しみの記憶は決して消えてくれない。だが、それでいいのだ。
 悲しみを糧に、希望を道標に、ただ歩き続けていけばいい。
 途中で挫けることも、道を逸れることもあるだろう。
 しかし、優しい家族と、この真っすぐな友が居れば道を誤ることはないだろう。

「ほな、これからもよろしくな」
「よろしくね」
「うん」

 三人の少女は固く手を握り合う。
 それは未来への旅路の始まり、新たな時代への導き。
 その果てにどんな運命(Fate)が待ち受けるか、それはまだ、誰にもわからない。





「今回の失敗をどう受け取るかね?」
「結果的にはより良いものとなった。エミヤに関しても変わらず“正義”に尽くす所存だと」
「ならば、そのまま使えばいいのでは? 使い潰すにしてもあれはまだ使える。使える駒を無意味に捨てるのは愚策」
「うむ、それで今回は問題ないであろう。結果的に管理局の戦力も増えた。そうと決まれば早速奴に指示をだそう」

 暗い闇の中、姿なき声が会話を交わす。
 声だけが不気味に響く。その声は不思議な程に威圧感と威厳に満ち溢れている。
 生半可な者であればその声だけで従ってしまいかねない。
 それは会話を行う三者の人生の重み故。

「それで、スカリエッティの方はどうなっておる?」
「順調ではあるのだが、どうにもあれはコントロールが効かん。もう少し従順にすべきだったか」
「まあ、如何なる時も余裕を持っておけば万が一の失敗もない」

 かつて、三者は願った。平和な世界が欲しいと。
 そのために人生の全てをかけ、世界に僅かではあるが安寧をもたらした。
 だが、それではまだ足りない。望んだ世界には遠く及ばない。
 故に彼らはその身を捨て去った。

「世界はかつてよりは平和になった。だが、望む世界にはまだ遠い」
「それ故に、こうして生き長らえておる」
「全ては我らの願いの根源に至るために」

 肉体を捨て去り、脳髄だけの姿となりながらも彼らは生き続ける。
 自分達が選んだ指導者の統治により、世界を平和にしたいというエゴを満たすために。
 己が信じる独善的な正義を貫き続ける。


『次元世界に永遠の平和を』


 例え、その過程でどれだけの犠牲と悲しみが生まれようとも戸惑うことなく。
 彼の者達は己の無限の欲望に従い続けるだろう。
 ―――己が正義を決して疑うことなく。
 
 

 
後書き
ここからはオリジナル要素が結構出てくると思います。
最高評議会も結構変わります。というか、こいつら資料少なすぎ。
活躍させるにはオリジナルで行くしかない。

それと三人って切りが良い数字ですよね。御三家も三人だし。 
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