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ラブライブ Novels of every season

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触れ合うほどの距離で



「ただいま……って、誰もらへんのやけどな」

 扉を閉める音が、やけに耳に響く。
 まるで自分がこの世界から隔離されたような、そんな感覚にさえなってしまう。
 らしくもない。一人になる事なんて、すでに慣れていたはずだったのに。
 靴を脱いで部屋へ上がる。足の裏から伝わる温度は、まるで氷のように冷たかった。
 それもそのはずだ。
 季節は冬、暦では十二月、日付は二十四日。

「はぁ……なにやとんのやろ、ウチ」

 最近独り言が多くなってきたような気がする。
 ある少女と距離を縮めたいと思い、とっさに喋ったこのエセ関西弁も、いつしか板についてきていた。
 実際大阪で暮らしていたこともあるのだから、似非ではないのだが。

 彼女の名前は東條希、通称「のんたん」
 かつて、音ノ木坂学院を廃校の危機から救った九人の少女。
 彼女らはスクールアイドルグループ「μ´S」として活動を行い、その活動の幅は世界へと広がる程だった。
 しかし、三年生の希と、同じく三年生の矢澤にこ、絢瀬絵里の卒業を機にμ´Sは解散。
 彼女らの出した、彼女ら自身が見つけた「答え」は、同世代の女の子だけではなく、多くの人達の心に残った。

 大学へと進んだ希は、考古学を専攻。他の二人も、それぞれ別々の道を歩んでゆく。
 一年目の夏、彼女らは久々に九人で集まり、あの頃のようにたわいないお喋りに花を咲かせる。

「そういえば、にこちゃんと真姫ちゃんって、最近会ってるのにゃあ?」

「ヴェエ!」

「は、はぁ?なに言ってんのよ!にこはアイドル活動で忙しいし、真姫ちゃんだって来年は受験だからって中々時間が取れないから会えてないわよ」

「はぁ?なによそれ。私はこの前会おうって言ったのに、にこちゃんが急に予定入れちゃうから結局会えなかったんじゃない」

「な、ぬぁんですってぇ!急なオーディションの話があったから行こうとしたけど、真姫ちゃんと会えなくなるのは嫌だからそっちに行ったのに、オーディションの方が大事なんだから行ってきなさいって言ってくれたのは真姫ちゃんのほうでしょ!」


 夫婦喧嘩は犬も食わぬとはこの事だろう。
 変わらぬ二人のやり取りを、希は微笑ましく見つめる。
 他のメンバーはというと、花陽と凛も相変わらず仲良し。花陽はアイドル部の部長として、皆の引っ張っているみたいではあるが、お決まりのあの台詞は今だ健在のようだ。
 μ´Sの発起人である穂乃果は、生徒会長としての職務をなんとか全うしているというような様子。
 頼りになる幼馴染の二人、海未とことりもいるし、彼女ならどんな困難にだって立ち向かって、最後は乗り越えていくだろう。
 希はそれを間近でみていたのだから、予想ではなくもはや確信に近いものだ。
 卒業をしてまだ数か月しか経っていないのに、希の目に彼女らは随分と変わって見えた。
 自分はどうなのだろう?
 ふと、あの子と目が合う。

「どうしたの、希?」

 昔はポニーテールだった金髪は、今は下ろしている。
 青く綺麗な瞳、透き通るような白い肌、どこか落ち着く声。
 女性の目から見ても、息を飲むようなプロポーション。
 元生徒会長の絢瀬絵里。賢い、可愛い、エリーチカ。略して「KEE」
 久しぶりに会った彼女は、以前よりも綺麗になっていた。色っぽいというか、女らしくなったというか、そんな印象を受ける。

「ううん、何でもあらへんよ。皆相変わらずやなぁと思ってね」

「ふふ、そうね。どう最近は?」

「ん?大学の方?覚える事が多いけど、まぁ楽しいかな。えりちは?」

「私も似たようなものね」

「えりちの事やから、また学校で一人ぼっちになっとるんちゃうかなと思って心配やったんよ」

「なによそれ。ちゃんと友達も出来たわよ」

 絵里の話を、希は笑顔で聞いていた。
 いや、それは正しくない表現だろう。
 正しくは聞き流していた、というべきなのかもしれない。
 別に彼女の生活が羨ましいとか、そういう事ではない。事実彼女が順調な大学生活を送れているのは、希にとって喜ばしい事だった。
 その気持ちに偽りはない。
 嘘があるのだとすれば、それは……


 季節は移り、街はすっかりクリスマスムードに包まれていた。
 コンビニでショートケーキとチキンを買って、自宅へと戻った希は携帯の画面を見つめる。
 元μ´Sのメンバーからのメッセージ、一人一人に返していく。

「えりち、何しとるんかな……」

 ふと、視界が歪む。希は慌てて目を擦った。
 あの夏の日以降も、希と絵里は会ってはいない。連絡のやり取りはしているものの、会う事はしなかった。
 希自身が、会う事をどこかで拒んでいたのかもしれない。
 彼女からしてみれば、大学の勉強も忙しいし、親友の邪魔もしたくない。
 お互いの将来に向けて大事な時期だし、新しい生活もあるのだから昔のようにはいかない。
 頭ではわかっているつもりでも、どうにも引っかかる感情が一つ。
 希がその気持ちに気付いたのは、丁度一年前のあの時。ラブライブ出場を賭けて、A-RISEと勝負した時に作った曲。

 あの曲は、誰に対して歌ったものなのだろう。
 どうして、自分はあんな事を言い出したんだろう。
 なんであの子は、私の背中を押してくれたんだろう。

 大学へ進み、教師になると教えてくれたあの日。自分の夢を打ち明けてくれた彼女。
 憧れを語るその瞳は、遠くを見つめていた。その隣には自分はいないのだなと、寂しさを感じたのを覚えている。
 打ち明けられないまま時間が過ぎ、閉じ込めた正直な気持ち。
 どこにも行かないでと言えたら、彼女は微笑んでくれたのだろうか。

「ふぅ……お風呂入ろうっと」

 携帯をベッドに放り投げ、部屋を出ようとした時に着信音が鳴る。
 誰だろう?
 確か穂乃果からは、幼馴染三人でクリスマスパーティーをしているというlineが来ていた。
 もしかしたらお誘いの電話だろうか?希は少しだけ胸を弾ませながら、着信の相手を確認する。
 画面に表示された名前を見た瞬間、彼女の心臓は一気に跳ね上がった。

「え、な……なんで」

 画面には、「えりち」と表示されていた。
 一体何を話せばいいんだろう。そもそも、なぜこんなにも自分は緊張しているんだろう。
 ぐるぐると思考が回る中、希は恐る恐る通話のボタンを押す。

「も、もしもし?」

『もしもし、希?今大丈夫かしら』

「うん、どないしたん、えりち」

 頬が緩むのが自分でもわかる。
 さっきまで不安だった心が、寂しさで震えていた身体が、彼女の声を聞くだけでほぐされていく。
 ああ、そうか。自分はこんなにも彼女の事を……

『えっとね、特に用はないんだけど……どうしてるか気になってね』

「ふふ、なんなんそれ?今日は折角のクリスマスイブなのに、彼氏とデートとかやないのん?」

 チクリと胸が痛む。
 本心なんかじゃない。でも、この気持ちを打ち明けたら、きっとあの子は困ってしまうだろう。
 あの子は優しい子だから。
 ちょっとした冗談のつもりで言った言葉だったが、彼女から返ってきた返事は意外なものだった。

『彼氏なんていらないわ』

 キッパリと、力強く、そして真っ向から突き放すような言い方に、希は思わず萎縮してしまう。
 グッと目頭が熱くなるのを堪えた。しまった、怒らせてしまったかなと謝罪の言葉を探していたが、希が次の言葉を話す前に、続けて絵里が口を開く。

『クリスマスぐらい、好きな人の声ぐらい聞きたいじゃない?』

「え?な、なん

『ねぇ、今家よね?』

「う、うん。せやけど」

『ふふ、良かったわ』

 さっきまでとは違う、優しい声。
 彼女の大好きな、柔らかな声色が鼓膜を震わせる。

 インターホンが鳴った。
 携帯を持ったまま、ただ茫然と扉の方へ向かう。
 ドアチェーンを外し、カチャリと鍵を開け、扉のドアノブに手をかける。
 心臓がさっきよりも、ドキドキと音を立てている。
 希は一つ深呼吸ををして、扉を開けた。

「メリークリスマス、希」

 気が付いたら、希は絵里に抱き付いていた。
 泣きながら、何度も何度も彼女の名前を呼ぶ。
 絵里は希の髪を優しくなでながら、頬を伝う綺麗な滴を指で拭う。

「落ち着いた?」

「ぐすっ……うん」

「ふふ、それじゃあ中に入れてもらっていいかしら?このままでも十分温かいんだけど、ここじゃあ……ね?」

「ふわぁ!ご、ごめんね。ど、どうぞ……」

「うふ、お邪魔します」
















 カチッコチッと、時計の針の音が聞こえる。
 さっきまでの事を思い出してしまい、希は顔を真っ赤にしてベッドへ潜った。
 ちょこんと布団から顔をだし、隣を見る。
 規則正しい寝息が、耳に心地いい。

「ん、んん……」

「あ、ゴメンな……起こしてしもたな」

 綺麗な青い瞳が、虚ろながらにもこちらを見ている。
 にっこり笑顔を向けると、まるで花が咲いたようにそれに応えてくれた。

「……ううん、いいのよ」

「ふふ」

「どうしたの?」

「ううん。ウチ、今すっごい幸せやなぁと思って」

「あら、奇遇ね。私もよ」

「ふふ、お揃いやね」

 少し冷えてしまったお互いの指が重なり合う。
 それだけで熱を戻すのだから、人の身体というものは不思議なものだなと実感する。

「ねぇ、希」

「なぁに、えりち?」

「さっきの言葉、もう一回聞かせて?」

「さっきのって?」

「さっき部屋に入る前に私に言ってくれた言葉よ」

「うぅ、恥ずかしいぃよぉ」

「あら、私ばっかりじゃ不公平じゃない。認められないわぁ」

「もぅ、えりちの意地悪ぅ」

「ねぇ……お願い」

「わ、わかったよぉ」

 恥ずかしそうにしながらも、希は絵里の方へ身体を寄せる。
 お互いの唇が触れ合うほどの距離で、そっと耳元へと近づく。

 不思議な気持ちだと思った。
 まるで、空から降ってきた粉雪のように、優しく、柔らかく、ゆっくりと積もっていく。
 多分、初めて出会った時から、こういう予感があったのかも知れない。

 ねぇ、えりち。もしも貴女が困った時があったら、ウチに教えてほしいな?
 すぐに会いに行くから、ぎゅって抱きしめてあげるよ。
 どこにいても、どこでも。




 あんな、えりち……ウチえりちの事が…… 
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