殺戮を欲する少年の悲痛を謳う。
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3話 葛藤する殺人鬼(マーダラー)
「カリヒ隊長」
新隊員の内の1人、レンジさんがミネベアのグリップを僕に向けて名前を呼んできた。
「ん?」
「この中にペイント弾が入っています。早速ですが、昨日対隊長ように鍛えた3人と戦ってください。模擬戦です」
「え?良いけどどうして?」
彼はにっこり笑った。
「卒業試験とでも思ってください」
付近には廃校舎が存在した。そこは昔、現地の学校だったらしく、大きさは2階建ての一軒家ほど、グランドもあり、今では草木が立ち並んでいて、模擬戦にはちょうどいい場所だった。
「相手は?」
フランカ、太一、海彦さんだ。
「カリヒさん。よろしくお願いします」
海彦さんがお辞儀をすると、2人も続いて礼をした。
「今からやるのは模擬戦です。カリヒ隊長は愛用のミネベア。それ以外の隊員はシグ・ザウエルP226です。弾倉は1人、4つまで。弾切れ、又は赤いインクが頭、胴に当たった時点でその人はリタイアとなります。リタイアした隊員の武器、銃弾は使用可能。制限時間は10分で、制限時間内に決着がつかなかったらカリヒ隊長の勝ち。それでどうですか?」
レンジさんは丁寧に説明してくれている。
人数的に少ない僕は、向こうの弾切れを狙うことを考えていたのだが、拾って使うと言う選択肢も出てきたので、かなり葛藤している。
「わかった。じゃあはじめよう」
「銃声が合図です。自分が空に空砲を撃ちます」
僕が中に入り、それ以外のメンバーが外から襲撃を仕掛ける形になる。
まず僕は学校の2階に入る。
2分ほどで、銃声が鳴る。
まず、此処の階段は1個しか無い。侵入は9割方ここからだ。他に考えられる場所と言ったら3つ存在する窓だろう。
僕は階段から直角に隠れ、侵入を待つ。
すぐに、気配を感じた。そして、僕の目の前に現れたのは海彦さんだった。僕は持ち前の反射神経で、海彦さんの胴を撃った。海彦さんは鈍い声を上げた。いくらペイント弾と言っても痛いはずだ。
「参りました」
その次の瞬間、窓の方から2人が僕に向かって発砲してくる。
僕はすぐに階段の方へ逃げ込む。
たった1日でロッククライムの技量を手に入れるとは…予想もしていなかった。
海彦さんはそのまま銃を置いて階段を降りていった。
音から察するに、1人は窓から地面に降り、もう1人は近づいてきている。
挟み撃ちにするつもりだろう。僕は2階に残っているフランカを殲滅するべく、駆けまわる。単発式なので、当たることはまず無いだろう。インクが飛び散り、部屋を汚した。
「チェックメイト。フランカ」
僕はフランカから9メートルの位置まで走り、ペイント弾を乱射する。するとフランカの肩と胴に赤いインクがべっとり付いて、うめき声を上げながら倒れた。
「おい。流石に大袈裟だろ」
「いやだって、痛いもん」
そんな無駄話をしていると僕の髪の毛をかすめて、ペイント弾が滑空し、窓へとあたって、赤いインクをつける。
僕は急いで窓を飛び降りる。
太一はそれに続いて、乱射しながら落ちる。
僕は受け身をとり、木陰に隠れる。連射の速度が以上に早いことに僕は今始めて疑問に思い、一瞬で自問自答を終わらせる。彼は2丁拳銃でこちらに攻撃を仕掛けていた。それに、受け身に専念していた僕でもやっとの思いで痛みをこらえたものの、彼は直前の受け身で、落ちた時の衝撃をかなりおさえていた。
「対隊長部隊かぁ。中々強いねぇ!」
あの2人に比べ、彼は格段に機動力は高かった。
僕は木陰でゴソゴソと動き、敵の弾切れ、マガジン装填を待った。しかし、一向に撃つ気配がない。それもそのはず。反対方向に回りこまれ、太一との距離は2メートルを切っていた。
「っく!」
彼が照準を合わせ手を伸ばしているところに僕は踏み込み、腕と体の間までに距離を詰めた。
彼は少し驚いた表情を見せた。僕は浸けこむように彼にタックルし、押し倒す。そしてペイント弾を腹部に一発打ち込んだ。
うめき声を上げ赤く染まる。
「やられましたねぇ。対隊長用部隊。頑張って勝てそうな人を選んで鍛えたのですが1日では無理ですね」
「当たり前だよ」
レンジさんは頭をかく。
彼は僕の技量を試したかったのだろう。それにはまず対等に戦える人が必要だった。しかしこの隊にはそんな人もおらず、結果的に、僕の実力の半分も見れないまま終わったのだが、昨日の夜、上層部から命令があり、来週の9月25日に本拠地の在るロシア支部に零部隊の3人で来るように言われたのだ。
レンジさんとは短い付き合いでお別れなのだ。
「アーシャ。リーナ。本部へ行く準備をしてくれ。準備と言っても着替えだけだ。飛行機を使っていくから武器はもっていけないんだ」
出発まで約6時間。彼女たちに軽く言い聞かせ、海彦さんが運転するバギーに乗って付近の空港に向かう。
「カリヒさん。今まで私達のために尽くして頂きありがとうございます」
海彦さんは運転中、軽く涙を流している。
「気にしなくていいよ。むしろ、僕らがお世話になったくらいだから」
本部に行くと、怪我人がやたら多く存在していた。僕らには暗殺スキルが備わっているわけではない。
僕は本拠地で暗殺の基本であるナイフを習っていた。教官はミカエル。彼女はキリスト教徒が飼い主だった元奴隷。名付け親は飼い主だった模様。
僕は人型の藁に右手で斬りかかるが、ミカエルは声を出して俺を止める。
「カリヒさん。少しぎこちないです。両手で別々の動きをして、威力よりも手数を多くしてください。確実に殺すにはそれが手っ取り早いです」
僕は両手のナイフの動きを止めた。
「どうやるんだ?」
「まあ。私の動きを真似ろとは言いませんが、極力頑張ってください」
彼女は両手にナイフを2つずつ持ち、口にナイフを掴む。そして右手に在るナイフ1本で藁の右腕部分を切り落とした。そして左手のナイフ2つを宙に上げ、1つを坂手持ちして、肘打ちと同じ容量で斬りかかり、左腕部分を削ぎ落とす。右手のナイフを2つとも空に上げ、口のナイフをつかみとり、右手に持ち替え、先ほど左手で投げたナイフを右手に掴み、そのまま突き出す。
その演舞を見ていると、時が移りゆく様が非常に鬱陶しく思えるほどに美しく、ずっと見ていたいと願うほどであった。
「左右で変則的な動きをすれば敵もかなり翻弄できるはず。試してみてください」
彼女は俺にナイフを渡す。
「えっと。どんな感じが良いのかな?」
「右手と左手。同時に動かして見てください」
僕は言われたとおり、右手で刺突、左手で斬撃を選んで行動してみた。
「うまいです。これを変則的に行えれば最高です」
その後俺は寮に戻る。するとリーナが僕の部屋の前にいた。
「ん?どうしたの?」
「いや」
彼女は深刻な顔を見せる。僕は無言で部屋を開け、彼女を中に入れる。
「その…カリヒさん。私達って暗殺部隊になったわけじゃないですか?」
言葉をつまらせながらも説明するリーナ。僕は彼女の髪の毛を耳にかけて、唇を重ねる。
「リーナ。何か思うことがあれば僕に相談しな」
すると彼女は少しだけ楽な表情になる。
「人を殺したくありません」
彼女は平和主義者だ。穏やかな性格で、飼い主に殺されそうになったのに、それでも飼い主を恨んでいない。僕はその時、リーナの飼い主を任務で殺し、彼女をこちらの世界へと引き連れてしまった責任がある。あのまま楽に死なせてあげればよかったのかなと思うほど、彼女は立派に死と戦い続けていた。
「元々、此処のレジスタンスの目的って、政治権の略奪なのにどうして武力行使に出るのかすごく疑問です」
「君には考えられないかもしれない。人が人を殺したいほど憎いと思う経緯を。リーナはもし、僕が目の前で見知らぬ男に殺された時どう考える?」
「…悲しいです」
彼女は少し間を置き考えた。いくら考えても、彼女は仇を取ろうとか、憎むとか、そんなマイナスな思考に至らないのだ。
「だろ。だったらそれでいいんだ。君はただ、感情を消費するだけに生きている僕とは違う。深く考え、先を読み最善の策を練る。でも、その考えだと、この時代に生きて入れないかもしれない」
彼女は悲しい顔を又見せた。
「私は、カリヒさんと一緒に居られればそれでいいです」
「だったら、殺したくないとか考えるな」
僕は優しく語りかける。
「ずっと。僕のそばに居てくれればそれでいい」
そして彼女を抱擁し、キスをした。
彼女を抱いていると、出会った時のことが蘇ることがある。
僕が10歳の頃。シグ・ザウエルP226を片手に、ヨーロッパの牧草地にある小屋を目指して歩いていた。
フレイドル・バード・カーミと言う奴隷主がその土地で、20人を超える奴隷を飼育していると言う報告があり、当時第六部隊の任務で奴隷の保護を務めていた。
僕は大人に、取り敢えず奴隷以外は殺せと言われた。抵抗してきたら奴隷も殺しても構わないと。
僕は当時から、いや、それの3年前からニンゲンを殺すことが大好きだった。
そしてその土地の小屋に白昼堂々中に入る。昼間だったので、奴隷たちは農作業や荷物運びを行い、飼い主は農作業をしていた。小屋には怪我をして倒れている少女が居た。彼女がリーナなのだが、僕はその時、フラッシュバックで、自分の過去が思い浮かんだ。
彼女に近寄ると、虫の息だった。
僕は取り敢えず外に出て、農作業をしている男に、飼い主、フレイドル・バード・カーミがどれなのかを聞いた。
すると、1番楽そうな作業、農作物の水やりをやっているのがそれのフレイドルだったらしい。僕はそいつに近づき、さっきの女の子のことを問い詰めた。すると男は「役立たずの奴隷なのだからお仕置きをした。欲しければ買っても構わない」と。僕はその時笑いが止まらなかった。今でもフレイドルの言葉を一語一句覚えている。
僕はシグを飼い主の左耳たぶに向けで撃ち放つ。すると男は泣きわめく。耳に穴が空き、銃声で鼓膜が敗れただろう。
奴隷たちがこの場に集まってきた。
「いいか!よく聞け奴隷ども!僕らはSRAだ。いつまでも奴隷で居たければ此処で死ね!開放されたければ我々についてこい!」
僕はとっさに言葉を放つ。これで抵抗されたら僕は死んでいただろう。しかし、怒声が聞こえたと思ったら、それは歓声で、僕はその場の救世主になったのだ。最近そこで助けた元奴隷の人と、ここですれ違ったばかりだ。
飼い主はその時、命乞いや、権力に依る脅しを仕掛けてきたが、僕は両足の腱を撃ち、奴隷たちに隙なだけ殴るように言い聞かせてみた。奴隷が飼い主を殴る瞬間は恐らくこの世の何よりも快感だろう。
僕はすぐ小屋に戻り、ふくらはぎに青痣ができているリーナに名前と覚えていることを全て聞いた。
驚いたのは、彼女にはなにもないことだ。
そして、飼い主を殺したことを言ったら悲しい顔を見せた。それ以外に、命を救って切れたことも感謝された。
僕は彼女にリーナという名を与え、兄として接してきたつもりだった。
いつからだろう?
彼女が僕を恋愛対象として見るようになったのは。少なくとも、僕が彼女を初めて抱いたのは2年前の16歳、彼女が15歳の時だった。それ以前に、彼女は僕のことを思っていたのかもしれない。
「何を考えていたんですか?」
リーナはベッドで横目に僕を見る。僕は使い終わった避妊具を固結びし、ティッシュにくるみ、ゴミ箱に投げ入れた。
「リーナ、出逢った頃から全く変わらないよな」
「なんですか?急に」
僕は彼女の頭を撫でる。
「君のお兄ちゃんで居たつもりが、いつの間にか、君が近くに来ていたよ」
彼女は猫なで声を上げる。
「カリヒさんはいつまでも私のお兄ちゃんです」
「流石に、妹と性行為は嫌だな」
「兄妹の禁断の気みたいで萌えません?」
「萌えないよ」
リーナはにっこり笑い、
「私に魅力は感じませんか?」
という。僕はそれに対し、
「魅力がありすぎて妹として見れなくなったの」
と、冗談を混ぜた最後の本音を言った。
リーナが近くなればなるほど、リーナが当座買っていく不思議な葛藤。この感覚は歯がゆく、心に鎖をまとわせた。
その頃、日本で。クロノスと言われる男の話。
彼は殺し屋をしている。
「お願いします。少ないお金ですが…」
裸の20万の札束を差し出す女性。30代後半の女性は体を売って稼いだお金をクロノスに差し出す。クロノスはそれを受け取ってこういう。
「これで日本の佐久島組という暴力団を敵に回せというのか?」
女は真っ青な顔を見せる。
「た、足りないのであれば体で払います」
クロノスはその言葉を聞くと、怒りを覚えた。彼は奴隷だった。殺し屋の奴隷だったため技術や技量は潜在的に高い。
彼は飼い主を殺し、殺し屋として独立し、名を売る。彼を雇った奴隷主は百人以上いるが、彼は自分に合わなかったり、報酬が少ないと、全部殺した。奴隷主ではなく、一般人がお金を持ってクロノスにお願いするのは異例の事態である。
「イラネーよ」
クロノスは落ち着いて反論する。
「え?」
女性の思考は混濁した。
それを見たクロノスは告げる。
「テメーみてーな誰とでも腰を振れる女なんざ俺の眼中にねえ。今日はこれで勘弁してやる。佐久島組を敵に回せば1ヶ月以上金に困らなそうだな」
彼はカリヒと同類のニンゲンだ。人を殺す瞬間が1番の生きがい。
佐久島組とは、日本で最も有名な暴力団で、日本のヤミ金や株を取り仕切っている。
クロノスはそれを知っていた。先ほどの女性は夫がヤミ金に関わっていて自殺をしたらしい。法に触れずに暴力団が動いていたため彼女はもう殺し屋に頼るしか方法がなかった。
クロノスは1つのヤミ金を仕切っている事務所に訪れた。彼の格好はスーツ姿で、髪の毛をワックスで7・3に分けた。いかにも百年前のサラリーマンだ。
彼は日本人では無いし、それ以前にまともな仕事についたことがないので、このような古臭い髪型をしているのだ。
サブマシンガン、スコーピオンをスーツケースに入れ、ヤミ金が必要な出稼ぎの外国人を演じて、安全に事務所の待合室に入る。
「家族を母国に残したまま、日本に来ました。先日空き巣に入られ、生活が苦しくなってしまいました」
彼は唐突に思いついた言葉をべらべら並べる。すると女性は、
「どうして此処を選ばれたのですか?」
と、露骨にも疑いを掛ける質問をした。
それを見ぬいたクロノスは、
「此処に暮れば手っ取り早くお金が借りられると、駅のホームで立ち聞きをしましたので」
と、いかにも作り話のように言葉を出す。わざとらしくした態度を見ながらも女性は軽く微笑みを見せ、クロノスに聞く。
「いくらお借りしますか?」
クロノスは考えていなかった答えに一瞬戸惑うも、すぐに嘘が思い至った。
「えっと。すみません。電卓を貸していただけませんか?」
すると女性は机にゆっくりと歩き電卓を取る。クロノスは電卓と一緒に拳銃を内ポケットに入れたのを把握した。
「はい。どうぞ」
女性は電卓を渡す。クロノスは電卓を仕向ける女性の左手首を掴み、そのまま投げ飛ばす。女性は急いで胸ポケットに手を伸ばし拳銃を取り出す。彼はその拳銃を持った右手を踏みつける。
そしてスーツケースを片手で開け、左手でスコーピオンの安全装置を解除して、眉間に撃ちぬく。
銃声を聞いた事務所を取り締まったいる男たちは一斉に出てきた。
クロノスは男たちが出てきた瞬間に銃を乱射し殺害した。
その後クロノスは中に行き、未だ人が居ないかを確認した。
「誰も居ないか」
金庫や、引き出しから大量に金を取り出し、かばんに詰め込む。そして薬莢を掃除し、死体を綺麗にまとめた。
これには3つの意味がある。
1つ目はただ単純にお金が欲しかった。
2つ目はこれを強盗殺人と思わせるため。
3つ目はこれを暴力団の構想に見せるため。
彼は暴力団の耳をすべて持ち帰り、女性に見せる。すると女性はさっきより多い、6千万円を入れた段ボール箱を渡す。
「追加料金は必要ない」
クロノスは女性に向けて冷たい態度を取る。女性はにっこり笑って言った。
「いえ。まだ依頼をしたくて用意したものです。先ほどヤミ金から借りてきました」
彼女は懲りないなと、クロノスは思いながら金を受け取ろうとしなかった。
「さっきの金でやってやるよ。誰を殺すんだ?」
「いえ。20万円じゃ絶対足りないことは知っています。ですから貰ってください」
「いや。6千万以上こっちはもらっているから」
彼には律儀な所が在る。それは自覚していなが、女性はそれを見て微笑ましく思い、涙を見せた。
「なんで急に泣くんだよ」
「息子が生きていたら、こんな感じで接してくれていたのかなと思って」
「その息子は誰に殺された?」
クロノスは考えなしに聞く。
「いじめです。お金がないことをネタにされ、学校でいじめにあい、自殺を図りました」
彼は苦い顔をした。
「わかった。そいつらを殺せばいいんだな?」
「いえ。息子をいじめた子供たちはもうとっくに亡くなっています」
彼はその複雑な事情にこれ以上首を突っ込もうとしなかった。きっと、この女が殺し屋を雇って殺したのだと確信できたからだ。
「このお金で。私を殺してください」
彼女はそう言うと、クロノスは眉1つ動かさず答える。
「わかった。でも俺を恨むなよ。俺は殺せと言われて金払いが良ければすぐにやるから」
「はい。良いです」
「心残りは無いんだな?」
彼女は体にまとっている服を脱ぐ。
「その前に、楽しみます?」
「いらない」
クロノスは先ほど盗んだトカレフを女の眉間に撃つ。即死なので、苦しみがない。
彼はそれを選んだ。
僕の右手は名も知らぬ兵士に引きずられている。足には殺したはずの飼い主が。締め付ける感覚が報いのようにつきまとう。これが僕の罪だと気付かされた時、僕は目を覚ました。
「ゆ、夢?」
リーナは僕の右手をがっちり掴んでいた。
「あら?もう起きたんですか?」
「ああ。起きるよ。今日も又特訓だ」
「頑張ってください」
僕は笑いながら答える。
「君もだよ」
作戦実行は来月。大統領、シャルラッハート・ワシントンを殺すために、僕らは血眼になって鍛えている。
そう言えば、アーシャは最後の大きな作戦の前に入隊したんだよな。彼女は確かいいところのでだったはず。出身はロシアで、両親の死を切欠に奴隷になった。両親が死んだ原因はどうやらシャルラッハート・ワシントンに逆らったからだろ本人は言っていた。
今から1年前。人手と銃火器がいつも通り足りない第三部隊カラーズ。僕らは先日正規軍を撃退した時の戦利品を回収して、換金し、武器を買った。
「これだけみたいだな」
サジはダンボールいっぱいの榴弾を台車に乗せて第三部隊拠点に持っていく。僕はM16を4丁背負い、運んでいる。するとそこにミレーナがトラックを持ち、待ち構えていた。
「こんだけか。まあいいや乗せな」
ミレーナは運転が出来ることを僕はその時初めて知った。
荷物を載せ、僕ら2人はトラックに乗り込む。僕が前でサジが後ろ。じゃんけんで決めた。
「なあ。カリヒ」
ミレーナはトーンを落とし、運転しながら横目で僕に問いかけた。
「どうしたの?酒の交渉?僕は上げないよ」
「違うよ。今日から新しく又女の子が戦場に来るらしい。全く。女子供を戦わせる最悪な世の中だよ」
ミレーナは歯ぎしりをしながら言った。僕はそれに対し、当時最善の対応と思われる返答をする。
「そう?最悪かな?僕は自分の身の丈に有っているよ」
ミレーナは怒ったような目をして僕に言う。
「その言葉。リーナの前で言えるか?」
当時、リーナと急接近した瞬間だった為、僕が心変わりしたものだと彼女は思ったのだろう。
実際変わったのはリーナの立場で、僕の部分の変化は一切なかった。それをいえばめんどくさいので、僕は黙った。
言えないと言う意思表示も込めて。
当時隊長だったシリアさんに呼ばれて、全員が射撃場に集まった。
配属された女の子はやたらと髪の毛が綺麗に整えられていて当時、僕が堅苦しくて着たくなかったワイシャツを綺麗にコーディネートしていた。
「はじめまして。アーシャ・K・東です。よろしくお願いします」
目と髪の毛は黒く、僕と同じ日本人のように感じられた。
「お父さんが日本人。お母さんがロシア人のハーフです」
僕は父母のことを知らない。だからそれを聞いた時、彼女は恵まれていると感じた。
彼女は僕に持っていないものをいくつも持っていた。
戦場に必要な視力。生活の上で欠かせない炊事スキル。気品のある可憐さ。
それらは僕からしてみれば初めてのもので、すべてを羨ましいと感じるほどであった。
僕の感情を見ぬいたリーナは、
「人には人のいいところがあります」
と言ってくれた。それは当回しに、僕には炊事や気品が似合わないと言っているように聞こえた。
今、アーシャは腕立て伏せを行っている。
「29…さん!さん、30!」
ゴムナイフの模擬戦で、負けたほうがこれを行うというルールが有った。それで、リーナとアーシャが戦って、アーシャがボコボコにされたのだ。
「カリヒさん」
罰ゲームを見て休んでいる僕に、ミカエル教官が僕の戦闘結果を記録した紙を見てこういう。
「年齢はいくつですか?」
「18。今年で19」
僕はそう答えると。彼女は持っているペンのノック部分を額に押し当てて、考える素振りをした後に。
「強制禁煙です。部屋にある煙草を押収します」
「え?待ってよ!最近は吸う量を減らしているよ!?」
「そういう問題ではありません。煙草には有害物質がたくさんあります。タイムを見てみると、明らかに持久力が弱い事がわかります」
僕はその日から、煙草にありつくことができなくなった。
それを知ったリーナはにっこり笑い、
「良かったです。正直煙草って、臭いが嫌いなんですよ」
と言う。だったらもっと早くに言ってくれよと心のなかで叫び散らす。
……続く
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