八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十六話 午後の紅茶その八
「狼男の話も」
「ドイツやフランスでな」
「フランスにいた何か人食いの」
「ジェヴォダンの野獣か」
「あれもそうした話があるのよね」
「うむ、狼にしては殺し方がおかしくてな」
それで、というのだ。
「実際にそうした説もある」
「犯人は狼男」
「野獣の目撃例には人を思わせるものもある」
「実際にそうだったのかしら」
「さてな。しかしだ」
「しかし?」
「あの野獣は調べたところ狼だった可能性は低い」
俗に言われているこの獣ではなかったというのだ、井上さんは。
「狼のものではない行動が多過ぎる」
「だからなのね」
「そもそも狼は滅多に人を襲わない」
「あっ、そのこと親父に言われました」
ここで僕は井上さんに言った。
「狼は実は人を襲わないって」
「家畜は襲うがな」
「それでも人は、でしたね」
「相当に餓えていない限りはな」
「襲わないんですよね」
「そもそも犬は狼から生まれたものだ」
狼を家畜化したものに他ならない、だから秋田犬やシェパードといった種類の犬は比較的狼に似ているのだ。
「それで何故人を好んで襲う」
「親父にそのことを言われました」
子供の頃動物園にお袋以外の女の人それも何人かと一緒に連れて行ってもらった時にだ、狼のコーナーの前で教えてもらった。
「実はそうだって」
「そしてその通りだ」
「狼は、ですね」
「人を滅多に襲わないのだ」
「だからあの野獣は、ですね」
「狼であったとは思えない」
「じゃあやっぱり」
狼男、所謂狼人かとだ。僕が言おうとしたところで。
井上さんはシビアな目でだ、僕達に話してくれた。
「複数犯いたと思った方がいい」
「狼男だけじゃなくて」
「その妖怪もいたかも知れないが」
「それでもですか」
「殺し方もまちまちだったりする、中には騒動に紛れて酷い欲望を満たしていた輩がいたかも知れない」
「殺人快楽者ですか」
「そういう輩も混ざっていたかもな」
野獣のものと言われる事件の真犯人の中にはというのだ。
「今となっては真相は不明だがな」
「野獣のこともですか」
「一応野獣は殺されたが屍は腐敗は酷くすぐに埋められてだ」
「後は、ですか」
「不明だ」
野獣のその後はというのだ。
「正体も何もかもがな」
「そうなんですね」
「うむ、しかしだ」
井上さんはここでさらに言った。
「その正体は不明だがだ、狼にしてはだ」
「おかしなことが多いんですね」
「快楽殺人者的だからな」
その殺し方がというのだ。
「狼なら人を襲うよりもだ」
「家畜を、ですね」
「家畜がいるのならな」
そちらを狙って襲うというのだ。
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