シェフはフロイライン
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4部分:第四章
第四章
「正真正銘のフロイラインですよ」
「フロイラインですか」
「はい、フロイラインです」
これまた本気での言葉である。
「それは保障しますよ」
「そうですか」
「はい、何度でも言います」
こうまで言う彼だった。
「フォーゲルヒルデさんは」
「ですが私は」
しかしだった。ここでだ。
エリザベートは気品があるがそれでもだ、苦笑いになってだ。こう一希に話すのだった。
「別に特別な存在では」
「ないというのですね」
「はい、ごく普通のです」
何かとだ。話すのだった。
「オーストリアの娘です」
「オーストリアのですか」
「それ以外の何者でもありません」
今度は優雅な笑みに戻ってだ。そうしての言葉だった。
「ですから。そうしたことは」
「そうですか」
「ですが。ウィーンのカフェを回られることは」
そのことはというのだ。話はそこに戻っていた。
「続けられますね」
「そうさせてもらいます」
まさにそうだと答える一希だった。
「是非」
「そうですか。それでは」
「はい、それでは」
こう話してだった。彼はだ。
それからもウィーンのカフェを巡っていた。その中でだ。
ウィーンの中でもとりわけ味がいいというカフェに入った。そこは白、それに金色の装飾がある店だった。
白亜の中に黄金があるそれはだ。貴族の屋敷を思わせる。カーテンは白く気品のあるデザインでありテーブルも椅子も白く奇麗なデザイン、ウィーンのそれに相応しい優雅なものだ。
そこにいるウェイトレス達は黒に白、これまた完璧なまでに気品のある如何にもウィーンといった店であった。彼はこの日はその店に入ったのだ。
そしてそのうえでだ。コーヒーとザッハトルテを頼んだ。その味もだ。
甘い。とにかく甘い。ウィーンの甘さだ。そしてそこに気品もある。その甘さを堪能してコーヒーも飲む。クリームのその味がコーヒーをだ。
まさに天使の様に甘くさせていた。地獄の様に熱いが天使の様に甘い。その甘さを味わっている。その甘さも味わってからだ。
彼はだ。会心の笑みを浮かべた。そこにだった。
「お客様、如何でしたか?」
彼にソプラノの声がかかってきた。
「我が店のお菓子とコーヒーは」
「最高ですね」
その会心の笑みで答える彼だった。
「この店は特に」
「御気に召されましたか」
「はい、本当に」
こう答える彼だった。声の主に。
「そう思います」
「左様ですか」
「はい、それでなのですか」
彼はここで声の主に問うた。
「このお菓子を作ってコーヒーを淹れたのは」
「同じ者です」
この返答が返って来た。
「同じ者が作り淹れました」
「それは誰ですか?」
彼はずっと皿とカップを見ている。そうして余韻に浸りながら話していたのだ。
「一体。これ程までのものを」
「私です」
今度の返答はこうしたものだった。
「私が作って淹れました」
「貴女が?」
「はい、私です」
また答える声だった。
「私がさせて頂きました」
「貴女は」
その声につられてだ。顔をあげた。するとそこにいたのは。
エリザベートだった。白いコックの服に帽子にだ。エプロンを着た彼女がいた。長い髪を後ろで束ねてそれであげている。その彼女がいたのだ。
一希に対して優雅な微笑みを見せてだ。彼の傍にいたのである。
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