シェフはフロイライン
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2部分:第二章
第二章
「そんな人が実際にいるなんて」
「性格や学業はともかく貴族はね」
「今でもいるから」
爵位はなくなってもその血筋はという意味である。
「そういう人はね」
「何だかんだで」
「いや、凄いね」
そのことに素直に驚きの言葉を述べる一希だった。
「これがオーストリアなんだ」
「普通じゃない?」
「そうだよね」
ウィーンっ子達にしてみればそうだった。しかしだった。
日本人である一希はだ。こう言うのであった。
「普通じゃないよ、凄い話だよ」
「そうかなあ」
「そう思わないけれどね」
ここに違いが出ていた。御互いにこう話すばかりだった。
だが何はともあれ一希のウィーンでの生活がはじまった。彼は他にもオーストリア文化を堪能する為にだ。カフェも巡っていた。
ウィーンのお菓子にコーヒー、そうしたものも楽しんでいたのだ。そのことも学友達に対して満面の笑顔で話すのだった。
「いやあ、美味しいよね」
「日本の方が美味しくない?」
「そうだよね」
「日本人って美味しいものばかり食べてるんだろ?」
「オーストリアよりも」
「まあ美味しい料理が多いのは確かだね」
それは否定しない一希だった。確かにウィーンは好きだが祖国への愛情を忘れた訳ではないのだ。ここもかなり重要である。彼にとっては。
「和食とかね」
「それと比べたらさ」
「オーストリアの料理は」
「ちょっとねえ」
「凄過ぎるじゃない、日本の料理って」
和食はウィーンでも評判になっている。それでこう話す彼等だった。
「それと比べたら」
「幾ら何でもね」
「だよな」
「いや、美味しいよウィーンのお菓子もコーヒーも」
無論他の料理全体もだ。それも含めての言葉である。
「美味しいっていうのはランクじゃないからね」
「だからなんだ」
「そう言うんだ」
「そうだよ。美味しいよウィーンのお菓子もコーヒーも」
あらためてこう話す彼だった。
「本当にね」
「そう言って下さるのですね」
ここで、だった。気品のある女性の声がしてきた。
そしてだ。一希達のところにだ。あのフロイラインが来たのだった。
そのうえでだ。彼に対して優雅な微笑みで言ってきたのである。
「ウィーンのお菓子やコーヒーを。褒めて下さるのですね」
「あっ、あの」
「はい、エリザベートです」
彼女は優雅に微笑んで己の名前を告げた。
「エリザベート=フォン=フォーゲルヒルデです」
「フォン=フォーゲルヒルデさんですか」
「はい」
優雅な微笑みで答える彼女だった。
「宜しく御願いします」
「はい、こちらこそ」
「それでなのですが」
ここまで話してだ。あらためてだった。
その美女エリザベートはだ。優雅な微笑みで一希に話すのだった。
「我が国のお菓子やコーヒーを気に入れられたのですね」
「ええ、そうです」
その通りだと答えた一希だった。
「楽しみにしていましたけれど期待以上でした」
「期待以上でしたか」
「はい、そうです」
まさにそうだというのである。
「甘くてとても気品があって」
「そうした味だと言われるのですね」
「趣味ができました」
笑顔でこうも言うのであった。
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