足りぬ足りぬは
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1部分:第一章
第一章
足りぬ足りぬは
今演劇部ではだ。部室で部員達全員が頭を抱えていた。
何故かというとだ。まず部長が言った。
「何でこんなに予算がないんだ」
眼鏡をかけた神経質そうな青の詰襟、七つボタンの学生だ。その彼が言うのだった。今彼は部室の前の壇のところで黒板を背にして苦渋に満ちた声を出していた。
「うちの部は」
「何言ってるのよ」
彼の横にいるだ。黒のロングヘアの女子学生が言ってきた。彼女は赤いブレザーに青いミニスカートだ。ネクタイは青でブラウスは白だ。
その彼女がだ。部長に言うのだった。
「部長前の舞台何をしたのよ」
「前って?」
「だから。オセローよ」
シェークスピアの劇だ。劇としてはポピュラーではある。
「あれで何をしたのよ」
「あれは凝ったからな」
部長は腕を組んで彼女、副部長に話した。
「もうかなり注ぎ込んだな」
「そうよね。時間も何もかもね」
「そうしないと駄目だからな」
「お金どれだけ使ったのよ」
副部長が言うのはこのことだった。
「もう後先考えないでお金注ぎ込んで」
「俺のせいだったのか」
「そう、部長のせい」
はっきりと糾弾する言葉だった。
「それ以外の何でもないから」
「それで予算ないのか」
「全く。金銭感覚ないんだから」
また糾弾する副部長だった。
「それでよ。今度の劇だけれど」
「ああ、助六な」
次は歌舞伎なのだった。
「それだよな」
「そうよ。お金ないわよ」
厳然たる事実だった。
「全く。いつも普通の倍は使うんだから」
「まあとにかくですよ」
「舞台はしないといけないですよ」
それぞれの席に座っている部員達がここで言う。
「縁劇部なんですから」
「ですから」
「そうだな。よし、ここはだ」
どうするか。部長は強い声で言うのだった。
「あれだな。工夫だ」
「工夫って?」
「そうだ、工夫するんだ」
部長は右手を拳にして掲げながら副部長に話した。
「それでいい舞台にするんだ」
「お金がなくても?」
「確かにお金はない」
他ならぬ今言っている本人が滅茶苦茶に使った結果である。
「それでも俺達には頭があるんだ」
「頭がなのね」
「それに工夫があるじゃないか」
「助六できるの」
「ああ、できる」
断言して言う部長だった。
「そうしよう。ここはな」
「頭を使っていいお芝居にするのね」
「そうする。じゃあ早速用意をするぞ」
部長は強引に話を進めた。そうしてまずはだ。
舞台はだ。何とだ。
学校の技術の先生に言ってだ。それで捨てる様な木材を山程貰ってきた。それをなのだった。
部員達の前に持って来てだ。鋸にハンマーを手にして言う。
「ここから造るんだ」
「舞台をですか」
「それに装飾をですか」
「こうすれば金はかからないからな」
それでそうするというのだった。
「これでどうだ?」
「考えたわね」
当然副部長もいる。腕を組んで部長に対して話した。
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