大蛇
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11部分:第十一章
第十一章
「そうか。河賊達が河に落ちたんだな」
「それでピラニアか鰐に食われたな」
「奴等は血の匂いを嗅ぎ付けて来たんだな」
「それで河に落ちた奴をか」
「ってことは」
パンチョは兄弟の言葉を聞いてあることがわかった。
「河賊には間違いなく損害が出てるんですね」
「当然じゃ。わしの成敗を受けておるのじゃ」
またこんなことを言う博士であった。
「それで何とかならん筈がなかろう」
「まあそれはいいとしまして」
博士のなりきっている言葉はまずはいいとしたパンチョだった。
「連中を河に落としたと思われるあの光の主は?」
「さあ。何か相当大きいみたいだけれど」
「何ですかね」
ドウモト兄弟もそれはわかりかねるものであった。
「あれは」
「わからん。しかしじゃ」
「しかし?」
「あの光の周りには撃たん方がいいようじゃな」
それは本能的に察した博士であった。
「どうやらな」
「そうですね。助けてくれてるのは間違いないですし」
「ならばじゃ。他のところを撃てばいい」
「ええ、何か目が慣れてきて見えてしましたよ」
河賊達の船がである。クルーザーの周りに無数のボートが群がっていた。それが彼等のものであることはもう言うまでもなかった。
「それじゃあ」
「ボートの上にいる奴等を次々と撃って」
「そうしていきましょう」
ドウモト兄弟も言ってきた。
「それでここは」
「凌ぎましょう」
「諸君、やるぞ!」
ここでまた博士が高らかに言う。
「悪者の成敗じゃ!」
こう言ってまた派手に発砲する。流れは彼等のものになってきていた。
戦いは朝まで続いた。そしてその戦いが終わった時には。戦場に残っているのは四人と。彼だけであった。
「何かって思ったら」
「こいつだったのか」
「これは考えませんでしたよ」
ドウモト兄弟とパンチョがその彼を見て言う。何とクルーザーのすぐ側にその巨大なアナコンダがいたのである。間違いなく昨日写真に撮ったそれである。
「助けてくれるなんて」
「こんなことが」
「何でですかね」
パンチョはそれが何故かを考えるのだった。
「私達を助けてくれるなんて」
「あれかも知れんのう」
博士は少し考える顔になってからパンチョに対して答えた。
「わしが捕まえるのは止めようと言ったじゃろ」
「ええ」
「写真を撮るだけでよいとな」
このことではないかというのである。
「そのせいかのう」
「それですかね」
「そしてそれを恩に感じて。まあわかっておるのは蛇だけじゃ」
今もそこに留まっているアナコンダを見ての言葉だ。河賊達の死体は鰐やピラニアに次々に食べられていっている。それはかなり無惨な有様である。
だがそれは無視してだ。彼等は話をしていくのだった。
「とにかくわし等はこの蛇に助けられた」
「そうですね」
「それは間違いありませんね」
ドウモト兄弟もそれは確かだと頷いた。
「この蛇のおかげで」
「無事に」
「礼を言うぞ」
博士は自分達に顔を向けて来ている蛇に対して告げた。蛇はその鎌首をあげてクルーザーにいる彼等にその顔をじっと向けてきていた。
「このことは」
蛇は何も語らない。ただ博士達をじっと見ているだけだ。しかし博士はその目を見て頷くのであった。
そうしてそのうえで、であった。蛇に対して最後の挨拶をした。
「達者でな。機会があればまた会おうぞ」
こう告げてだ。他の三人に対して声をかける。
「では戻るとしようぞ」
「ええ、それじゃあ」
「このまま」
「帰りましょう」
「わしの長い人生の中でも最高の旅の一つじゃった」
博士は満面の笑顔だった。
「思いも寄らぬ助けを得られたからのう」
彼はそのことを心から喜んでいた。そのうえで今帰路につくのだった。博士が乗るクルーザーを蛇は見送っていた。その姿が完全になくなるまで。
大蛇 完
2009・11・2
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