真田十勇士
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巻ノ二十一 浜松での出会いその八
「そして町は焼かれることも多いです」
「それを建てなおすのも大名の務め」
「そうなっていますな」
「しかし明や南蛮の城は違いまして」
「城の中に町があり」
「堀と城壁で守っております」
「そしてそれは小田原も然り」
幸村はその城のことにここで言及した。
「そうして民も守る巨大な城ですな」
「その小田原の城もです」
「よければですか」
「観に行かれてはどうでしょうか」
こう幸村に勧めるのだった。
「暇があれば」
「そうですな、旅は順調です」
信濃からはじまったそれがだ、上方を巡って遠江にも至っているがその歩みは相当に速いものであり日数は経っていない。
「ですから時間はです」
「おありですか」
「少ししたら国に戻るつもりでしたが」
上田とは言わない、浪人の素性がわからないのでそうしたことは隠しているのだ。
「しかし」
「暇がおありだからですな」
「行くのもいいですな」
「小田原まで」
「はい、そして箱根も」
その地もというのだ。
「越えるのもいいですな」
「あそこは凄い場所です」
「東国と西国を分ける場所で」
「非常に険しい場所です」
「箱根八里は馬では越えられぬ」
こうした言葉もだ、幸村は出した。
「そう聞いています」
「確かに越えるのは厄介ですが」
「そこを観ることは」
「かなり大きなことかと」
その地に実際に行ってみてその地を知る、そのことがというのだ。
「ですから」
「そうですな、少し考えてみます」
「それでは」
「はい、そして」
「そして?」
「貴殿は見たところ浪人ですが」
「はい」
その通りだとだ、浪人は幸村に答えた。
「今はそうです」
「左様ですか」
「とりあえずは徳川家に仕官をお願いしようと思っています」
「この遠江を治めている家にですか」
「そう考えています」
「徳川家康殿は智勇と仁愛を備えた方と聞いております」
幸村は家康についてだ、浪人にもこう話した。
「ですから」
「お仕えしてもですな」
「よいかと」
「そうですな、では」
「仕官をお願いしてみますな」
「そうしてみます」
浪人は幸村に確かな声で答えた。
「少し考えてから」
「それでは」
「さて、天下はこれからどうなるか」
幸村と仕官の話をしてからだった、浪人は一旦その目を遠くさせてだった。こうしたことを言ったのだった。
「前右府殿が倒れられ次は羽柴殿と言われていますが」
「拙者もそう思います」
「徳川殿はどうでしょうか」
浪人は何気なく、少なくともそれを装って幸村に問うた。
「あの方は」
「資質はあるかと」
これが幸村の返答だった。
「それも」
「ありますか」
「先程も申し上げましたが知勇兼備、仁愛も備えた方です」
「その資質はおありですか」
「戦だけでなく政も素晴らしいです」
「この浜松にしてもよく治まっていると」
「他の町や村も」
これまで見たものもだ、幸村は語った。
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