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剣術

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第四章

「ご教授頂けるのでござるな」
「そうなった、感謝する様にな」
「ベール様のご好意にな」
「かたじけない、では」
「入るがいい」
「中は執事殿が案内して頂く」
 門番達は木久蔵にこう言ってだった、門を開けた。するとそこには黒いタキシードを着た黒のオールバックの黒い肌の男が立っていた。
 その彼がだ、こう木久蔵に問うて来た。
「貴方が木久蔵殿ですね」
「如何にも」
 その通りだとだ、木久蔵は男に答えた。
「お話は聞いているでござるな」
「はい、私がベール家の筆頭執事フランソワといいます」
「フランソワ殿ですか」
「以後お見知りおきを」
 人の世、西欧のその礼をしてからの返事だった。
「これより旦那様の下に案内させて頂きます」
「かたじけない」
「ただ、旦那様と会われます時は」
 この時はとだ、フランソワは木久蔵に言うのだった。
「一つお願いがあるでござる」
「それは一体」
「そのお腰の刀を預かりたいのですが」
 こう木久蔵に言うのだった。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「ベール殿に会うが故に」
「左様です」
「用心の為でござるな」
「魔神の方には帯刀で会うことは出来ないのです」
「それが魔界の決まりでござるな」
「そうなっています」
 その通りだとだ、フランソワは木久蔵に答えた。
「ですから宜しいでしょうか」
「それはこちらも同じこと」
 木久蔵はフランソワに淡々と返した。
「貴人と会うには帯刀はない」
「それでは」
「そうさせて頂く」
 一も二もない返事だった。
「これより」
「それでは」
 木久蔵は愛刀紅雪をフランソワに預けた、フランソワはその刀を屋敷の者達に預けてそのうえでだった。
 木久蔵を屋敷の中に案内した、極彩色の草花が生い茂咲き誇る不可思議な模様で飾られている庭を越えて。
 混沌とした色彩と形の宮殿の中に入った、宮殿の中も赤や緑、青に紫に黒が入り混じった不気味に輝く壁と窓、様々な歪んだ芸術品で飾られていた。
 そして迷宮の様なその中を深くまで進んでだ、辿り着いた主の部屋は。
 赤が入った黄金のシャングリラに照らされており下は漆黒の絨毯が敷かれ旗には紋章が描かれていた。そして。
 主の座にいたのはだ、蜘蛛の身体に老人と猫、蛙の三つの頭を持つ異形の者だった。老人の頭には王冠がある。
 その異形の者がだ、自分に一礼した木久蔵に言って来た。しわがれた低い声であり聞き取りにくい声だった。
「貴殿が木久蔵殿か」
「はい」 
 頭を深々と下げてだ、木久蔵は答えた。
「日本の地獄から武者修行に出ております」
「そしてこの魔界に来て」
「魔界一の剣豪ベール殿にお会いしたく参上しました」
「余がベールである」
 異形の者は自ら名乗った。
「魔界の元老の一人にして大公である」
「貴殿がですか」
「左様、その余の剣術を見たいか」
「それ故に参上しました」
 木久蔵はベールにありのまま答えた。
「こちらまで」
「わかった、それではだ」
「はい、それでは」
「その望み適えよう」
「ベール殿の剣技を見せて頂くのですか」
「これよりな」
「それは有り難きこと。ただ」
 木久蔵はベールが自分の申し出を受けてくれて喜んだ、だがそれと共に彼にこうも言ったのだった。
「一つお聞きしたいことがあります」
「何か」
「ベール殿は剣を使われるといいましても」
「この姿ではか」
「はい、蜘蛛のお身体です」
 その蜘蛛の身体を見ての言葉だ。身体の大きさな人と同じ位で手足を入れるとその数倍は優にある程だ。 
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