野獣
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14部分:第十四章
第十四章
「・・・・・・愚かな」
「少なくとも僕はそうは思わない」
ここまできたらもう命も惜しくはない。思いきって言った。
「そんな知りもしない過去の先祖のことで殺された者にとってはいい迷惑だ。無意味に命を奪われる者の身にもなってみるがいい」
「どうやら血の尊さがわかっていないようだな」
「少なくともあんた達よりはわかっているつもりだ」
僕は言い返した。
「血の絆は復讐とは関係ない。愛情とは関係あってもだ」
両親から教えられたことをそのまま言ったに過ぎない。だが血の報復よりは確実に立派な考えだと思った。
「あんた達のそれはただの虐殺だ。報復に名を借りた単なる殺戮に過ぎない」
「我等の報復をそのように愚弄するか」
「だったら反論してみろ。違うという反論をな」
「・・・・・・許せん」
どうやらこれが反論のようだ。
「我々を愚弄するとは。最早生かしてはおけぬ」
最初からそのつもりはないだろう、と言いたかったが時間がなかった。彼女は首にかけてある笛を吹いた。
何やら空気を切り裂くような音が聞こえた。そして老人が急に姿を変えはじめた。
「いよいよか・・・・・・」
僕達はそれを見て喉を鳴らした。目の前で老人の姿が瞬く間に変貌していく。
全身が毛に覆われていく。そして顔が変貌し豹のようになっていく。
すぐに四本足で立った。そして尻尾が生えてきた。
「グルル・・・・・・」
そこには奴がいた。あの野獣、ムングワである。
彼女は再び笛を吹いた。ムングワはそれを合図に床を蹴った。
「ウワッ!」
僕達に襲い掛かって来た。負傷しているとは思えない素早さである。
「偉大なるムングワよ」
彼女は感情の篭っていない声で言った。
「その愚か者達を貴方に捧げます」
つまり僕達は生け贄というわけだ。たまったものではない。
ムングワは尚も僕達に襲い掛かって来る。左右に跳び爪で切り裂かんとしてくる。
「クッ!」
僕達は銃で狙おうとする。だがとても狙いを定められない。
あの女を狙おうにもムングワに手が一杯でそれどころではない。その間に傷だけが増えていく。
「どうやらムングワの生け贄になる運命だったようね」
「何を・・・・・・」
僕達は歯噛みした。だがとてもそれに対して言い返す余裕はなかった。
ムングワの攻撃は続く。それと共に僕達は傷を負い徐々に動きが鈍ってきた。
このままでは死ぬ、そう思った。何とかしなくてはならない。
(しかしどうやって・・・・・・)
女を狙う余裕はとてもなかった。ムングワの攻撃を避けるだけでも必死である。
その時だった。扉の方から音がした。
「ここでしたか!」
警官達だ。どうやら僕達の助っ人に来てくれたらしい。
「探しましたよ。家の何処にもいないんですから」
「隠し階段はそのままにしておいた筈だが」
医者はそれを聞いて苦笑した。
「いえ、暗くて。中々見つからなかったのですよ」
「そうか、それにしても遅いぞ」
「すいません、けれどその分は働きますよ」
警官達はムングワと女に向かおうとした。
「君達は女を頼む」
医者は言った。
「ムングワは我々がやる」
彼は強い声で言った。
「それでいいですね」
それから僕達の方を振り向いた。
「はい」
ここで下手な犠牲を出すよりは。この四人で倒したかった。
僕達はムングワに向き直った。そして睨みつけた。
「いきますよ」
医者が奴を睨んだまま僕達に言った。僕達はそれに対し頷いた。
まず医者が発砲した。ムングワはそれを上に跳びかわした。
そのまま僕達に襲い掛かる。だがそこを館員の足が襲った。
格闘技でいう踵落としだ。まず上に跳躍し振り下ろした。
それがムングワの脳天を直撃した。芸術的な程綺麗に決まった。
そこにガイドが銃を放った。直撃こそしなかったが奴の右眼を掠めた。
「ガッ」
ムングワが呻き声を出した。どうやら瞼のところで防いだらしい。しかし血が眼に入った。
それで見えなくなった。片目を失いさしもの奴も動きが鈍くなってきた。
それだけではない。見たところ女が警官達と死闘をはじめてからその動きが少しずつ遅くなってきている。どうやらあの女の笛によりコントロールされていたらしい。
「やはりな」
あの笛は犬笛と同じだったのだ。ムングワを意のままに操る笛だったのだ。
横目で女を見る。警官達を相手に棒を取り出し戦っている。見たところ彼女もかなりの戦闘力だ。
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