野獣
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12部分:第十二章
第十二章
翌日早速その血が調べられた。調べたところそれは豹の血とほぼ同じだという。
「というと大型の豹でしょうか」
僕は館員に対して尋ねた。
「そう考えるのが一番妥当でしょうけれどね」
彼は難しい顔をしながら答えた。
「けれどあんな大きな豹となると」
「突然変異種であるとか」
「それは考えられますね。だとしたら説明はつきますが」
しかしそれでもやはり不自然であることに変わりはない。
「ところで奴は一体何処に消えたんでしょうかね」
今度はガイドが尋ねた。
「それが全くわからないのです」
ここで医者が僕達のいる研究室に入ってきた。
「わからないとは?」
「血痕が消えていまして。どうして消したのかはわかりませんが」
「そうですか」
建物の上から逃げたのだろうか。それなら納得がいくが。
「建物の上から逃げたかも知れませんね」
「それは今調査中です」
彼は答えた。
「そうですか」
僕は納得した。そしてあの女性のことを口にした。
「ところであの路にいた女性ですが」
「はい、私はそのことをお聞きしたいのです」
医者だけではない。他の二人も僕に顔を向けてきた。
「何処で見かけたのですか?」
それは重要な捜査の手懸かりとなる。皆僕の言葉に神経を集中させた。
「とある土産物屋なんですが」
「あそこですか」
ガイドはすぐにわかったようだ。
「どうやら貴方もご存知のようですね」
「はい」
彼は医者の言葉に頷いた。
「ではすぐにそちらに向かうとしましょう。ただし」
彼はここで表情をさらに険しくした。
「変装していった方がいいでしょうね。顔を知られている可能性が高いです」
「ですね」
彼女がムングワと関係があるとしたら。そうした用心は必要であった。
僕達はその店に向かった。店は開いていた。
「いらっしゃい」
店にいたのはその女性であった。
黒い肌に黒くあまり縮れていない髪を持っている。すっきりした目鼻立ちに均整のとれた身体を持つ美しい女性だ。緑のシャツに赤いスカートを身に着けている。
(彼女だ)
僕はそれを見てすぐにわかった。だがそれは必死に心の中に隠した。変装しているといっても下手なことをしては
気付かれてしまう。
「何かいいものはありますか」
僕達は旅行客を装って話を聞いた。そしてちょっとした買い物を済ませると店を後にした。
去り際に僕は気付いた。彼女が首に何かしら細長い小さなものをぶら下げているのを。
「どうでしたか」
警察に戻ると医者は僕に対して尋ねた。
「間違いありませんね」
確信した。あの路にいたのは彼女だと。
「そうですか」
それを聞いて他の二人も頷いた。
「どうやら彼女がムングワと密接な関係があると見ていいですね」
「そう思います。ただ何故彼女が店に出ていたか不思議なのですが」
「どうしてですか?」
「いえ、いつもは老人が店番をしているのですけれどね」
「ほう、老人が」
僕はその老人について詳しく話した。
「そうですか、おそらくその老人も関係していますね」
医者はそれを聞いて言った。
「でしょうね」
館員もそれに同意した。
僕達はそれから今後の動きについて話し合った。結果今夜にも店に捜査に入ることとなった。
そして店に向かった。僕達は夜の闇に隠れるようにして向かった。
「行きますか」
「はい」
僕が先導を勤めた。そして店の裏口に回った。
見たところ怪しいところはない。ごく普通の店の裏である。
「表にも人がいるのですか」
僕は医者に対して尋ねた。
「はい、制服の警官達が向かっています」
「抜かりないですね」
僕は正直に感嘆した。
「当然です。相手は化け物ですよ」
医者は顔を引き締めて言った。
「化け物ですか」
「そう言わずして何と言いますか?」
「・・・・・・いえ」
これには僕も反論できなかった。確かに奴は化け物だった。
僕達は左右に散り扉の前に来た。そしてその扉をゆっくりとこじ開けた。
「いきますよ」
医者がこじ開けている。軍では特殊部隊にいたのであろうか。やけに手馴れている。
「行きましょう」
扉は簡単に開いた。どうもあまり大した扉ではなかったようだ。見ればかなり古い。
僕達は銃を構えながら中に入った。そして部屋の中を懐中電灯で照らした。
「気をつけて下さいよ。何時何処から襲い掛かって来るかわかりませんよ」
「・・・・・・はい」
医者の言葉は実感があった。僕達は少しずつ手探りのような状況で進んでいった。
入口には何もなかった。見ればそこにも警官達が来ている。
「これで完全に包囲しましたよ」
医者はそれを見て満面に笑みを浮かべた。
「逃げられるものではありません」
かなりの自信があるらしい。闇夜の中に浮かぶ警官達の顔を見た。見れば精悍な顔立ちの者ばかりである。精鋭なのであろう。
次の部屋に入った。その後を数人の警官が続く。
そこは調理場であった。見たところ誰もいない。
「油断は禁物です」
そこで館員が言った。
「ここは危険なものが一杯ありますから」
「確かに」
ガイドがそれを聞いて声をあげた。確かにここには包丁や鍋といった凶器となり得るものばかりある。
僕達はやはり少しずつ慎重に進んだ。ムングワが潜んでいるかと思うとやはり怖かった。
だが結局ここにもいなかった。すぐ側で音がする。どうも店の品物が置かれているところにも警官達が入って来ているようだ。
「開けますよ」
耳を澄ませてそれを聞いていた僕に対し医者が声をかけた。見れば左の部屋の扉の前にいた。館員やガイドも一緒
である。
「は、はい」
遅れた形になった。僕はすぐにその扉の前に向かった。
扉が開かれた。そして中に入った。
そこは寝室だった。粗末なベッドが一つと鏡や化粧道具等が置かれている。服は壁にかけられている。この国特有の長い服である。
「あの女性の寝室でしょうか」
僕は医者に対して尋ねた。
「おそらく」
彼は答えた。そして早速部屋の中を調べはじめた。
くまなく捜した。だが何もなかった。
「何もないですね」
僕はベッドを調べながら言った。
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