大切な一つのもの
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
38部分:第三十八章
第三十八章
「その証拠は持って来ておるのだな」
「無論です」
「そうでなければ私達は戻って来たりしません」
彼等は口々に述べます。それを聞いているうちに皇帝も遂にわかりました。それが一体何処にあるのか。彼もようやくわかったのです。
「成程な」
そこまでわかると彼もまた笑みになっていました。見れば騎士達も同じでした。
そのうえで教皇に顔を向けました。その笑みのまま述べるのでした。
「これでわかったぞ」
「そのようじゃな」
それは教皇もわかりました。彼にも。
「そなたへの贈り物はこれで決まったぞ」
「うむ」
教皇もその言葉を受け取ります。何もかもに満ちた笑みで。
「そなたは今は妻はおらんかったの」
「残念にな」
この世界での教皇は妻も持てます。ですがこの教皇は奥さんがいませんでした。既になくなっていてそれからは孤独な男やもめだったのです。
その彼に対して。皇帝は言いました。
「わしの妹をそなたの妻に」
「そなたのか」
「不服か?」
穏やかな笑みで教皇に問います。
「それは」
「不服なものがあるものか」
教皇も穏やかな笑みを浮かべて彼に応えます。
「わしも今愛が欲しいと思ったからな」
「ではいいな」
「喜んで」
「そなた等のおかげじゃ」
皇帝は騎士達に顔を向けて述べました。
「これで我等の対立も大きく変わる」
「それだけではないぞ」
教皇もまた言いました。二人はもうそれまでのいがみ合う二人ではなくなろうとしていました。それも全て何によるものかは言うまでもありませんでした。
「帝国も教会も大きく変わる」
「これから我が帝国において最も貴いものは剣ではない」
「教会においても」
「ではそれは一体」
騎士達は二人に尋ねます。
「何なのでしょうか」
「言うまでもないと思うがな」
皇帝は満面に笑みを浮かべて騎士達に述べます。
「それは」
「それは」
「愛に他ならぬ」
きっぱりと言い切るのでした。
「愛こそがこの世で最も尊いもの」
「それを今讃えようぞ」
教皇もまた言いました。
「今この時より」
「我々は愛の下僕となるのだ」
「愛を讃えよ!」
皇帝と教皇が愛を讃えたその瞬間に宮殿全体を叫び声が支配しました。
「この世で最も貴いものが今ここに満ちる!」
「愛こそがこの世を支配するのだ!」
「その通りだ!」
皇帝も騎士達も教皇もその言葉に応えます。騎士達も皆立っていました。
「愛をなくした者は人にあらず!」
「愛を讃えよ!永遠に!」
愛を讃える言葉はそのまま国に満ちました。こうしてこの国は愛に包まれ何時までも何時までも幸福の中に過ごしました。愛を探しそれに包まれるまでのお話でした。
大切な一つのもの 完
2007・9・18
ページ上へ戻る