大切な一つのもの
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26部分:第二十六章
第二十六章
狼の騎士は吹雪の中を歩いていました。周りは雪の他は何もありません。
それでも彼はその吹雪の中を進んでいきます。暫く進むと遥か彼方に明かりが見えました。
「あれは」
騎士はその明かりに目をこらして言います。
「あの明かりはまさか」
人の家の明かりかと思いました。そうと思えば俄然元気が出てきました。
「よし」
元気を奮い立たせて先に向かいます。そうして前に進むとそこには大きな屋敷がありました。騎士の願い通りでした。
「申し訳ありません」
そう言って屋敷の扉を叩きます。その屋敷はまるでお城のように大きく扉も褐色の樫の木でできた頑丈なものでした。彼はその扉を叩いていました。
「どなたかおられませんか?」
「はい?」
すぐにその扉の向こうから声が聞こえてきました。
「そなたですか?」
「私は騎士です」
彼はまずそう名乗りました。
「名をジークムントといいます。御存知でしょうか」
「ジークムント様ですか」
「如何にも」
厚い扉の向こうの声に答えます。声は何か驚いたようでした。
「その通りですが」
「狼の騎士がこちらまで」
声の主のうわずった声を聞いて聞いて騎士はいぶかしみました。何かあったのではないかとさえ思ったのです。
それを聞こうと思いましたが止めました。それでまた聞きます。
「それでですね」
「はい」
声の主はまた答えます。何か繰り返しているようです。
「実は探しものをしていまして」
「探しものですか」
「ええ。それで御聞きしたいのです」8
そう扉の向こうに問い掛けます。
「そのことにつきまして」
「我が家の中に入られるのですね」
「いけませんか?」
「いえ」
声は何故か彼を拒むようです。騎士の方でもそれがわかってきました。
去ろうかと思いました。だがその時です。
「よい」
扉の向こうから別の声がしました。今度は重厚な男の声です。
「旦那様」
「旦那様?」
騎士はその言葉を聞き逃しませんでした。
「とするとこの屋敷の主が来たのか」
「狼の騎士だな」
「そうです」
扉の向こうで話が続きます。
「宜しいのですか、本当に」
「我が家の家訓に反することはせぬ」
旦那様と呼ばれた声はそう言うのでした。
「わかったらすぐに開けよ。よいな」
「わかりました。それでは」
その声に従い扉が開けられます。するとそこには若い兵士と濃い髭に顔を覆った黒い服の体格のいい大男がいました。
「狼の騎士殿ですな」
「如何にも」
騎士は前に出て来たその大男に応えました。
「私がその狼の騎士ジークムントです」
「そうですか。やはり」
大男も彼の名を直接聞いて顔を曇らせました。
「ですがいいでしょう。さあ中へ」
騎士に屋敷の中へ入るように勧めます。
「我が家は旅人が来たならば誰でも招き入れるのが家訓です」
「そうなのですか」
「はい。ですからどうぞ」
声は憮然としたものですがそれでも礼儀正しく騎士を導き入れたのでした。
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