大切な一つのもの
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22部分:第二十二章
第二十二章
炎の騎士は帝国西方の大きな河に向かいました。そこはライン河、帝国の中で特に大きな河の一つです。
「さて、この辺りかな」
川辺のほとりに来て言います。
「この辺りにいると思うけれど」
「あら、貴方だったのね」
河の中からうら若き女性の声が聞こえてきました。騎士が下を見るとそこには青い髪と瞳を持つ薄い水色の衣を着た三人の乙女達がいました。騎士は彼女達を見ていました。
「どうしてここに」
「君達に会いに来たのさ」
騎士は軽やかな調子で乙女達に対して述べました。
「ラインの乙女達」
「あら、どうして」
「私達のうちの誰かに告白しに来たのかしら」
「ふふふ、まあそんなところだね」
騎士は楽しそうに笑って三人に言いました。
「じゃあ誰かしら」
「私?」
「それとも私?」
「いや、三人に」
また楽しそうに笑って述べます。
「君達三人にね。どうかな」
「あら、随分欲張りね」
乙女達は騎士の冗談めいた言葉に軽やかに返します。まるで声までも清らかな青い水の中に漂わせているかのように。
「貴方はもう全てを手に入れているのに」
「知恵も力も美貌も。それでどうして」
「一つだけ手に入れていないものを手に入れにね」
その楽しそうな顔で三人にまた述べます。
「ここに来たのさ」
「それで私達に?」
「そういうこと」
今度は真面目に答えてきました。
「いいかな。それで」
「それで何かしら」
「私達にって」
「君達は。指輪を持っていたよね」
三人に対して問い掛けます。
「確か。赤金色の指輪を」
「ああ、あれ」
指輪のことを聞いた三人の顔が一挙に変わりました。それまで朗らかな感じだった顔がまるで冬の氷に包まれた河の様に沈んで暗いものになったのです。
「あの指輪ね」
「あれをどうしたの?」
「欲しいと言ったらどうかな」
怪訝な顔になる三人に対して問います。
「あの指輪をね」
「駄目よ、あの指輪は」
乙女の一人は眉を顰めさせて騎士に言います。
「私達の仕事はあの指輪を守ることだから」
「それにあれよ」
乙女達はさらに言います。
「あの指輪を手にしたら破滅よ」
「破滅、そうだね」
騎士はそれを聞いても落ち着いたものでした。まるで全てをわかっているかのように。
「あの指輪は愛を捨てた者しか手に入れられない」
「ええ」
「そして指輪を手に入れれば世界を手に入れられるけれど」
「必ず誰かに殺される」
「それが指輪の呪いなのだから」
乙女達は言います。そうして騎士を河に入れまいとしきりに泳ぎ回ります。
「それは知っていると思うけれど」
「それでどうして。貴方は」
「実はね。私は指輪が欲しいわけじゃないんだ」
ところが騎士はここでこう言ったのでした。相変わらず軽やかに笑いながら。
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