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真田十勇士

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巻ノ二十 三河入りその六

「しかしな」
「城攻めは、じゃな」
「うむ、あまり上手とは聞かぬな」
「徳川殿は城攻めが下手と聞いたが」 
 このことを言ったのは望月だ。
「それはまことか」
「そういえば城攻めの話はあまりないな、徳川殿には」
 霧隠も言う、望月に応えて。
「外での戦は色々お働きがあるが」
「砦を攻めたことはあるが」
 こう言ったのは筧だった。
「しかし城攻めはあまりないのう」
「下手ではないのか?」
 あえてだ、清海はこのことを言った。
「徳川殿は城攻めは」
「そうやも知れませぬな」 
 伊佐もそのことを否定しない。
「上杉謙信殿もそうでしたが外で戦うのは上手でも」
「城攻めはか」
「徳川殿は不得手」
「そうであると」
「はい、ただ謙信公は程度の問題でした」
 それでもというのだ。
「外での戦は無敵、城攻めは幾分か落ちるだけで」
「謙信公は城攻めも強かった」
「やはり軍神であられたか」
「そう思います、ですが」 
 それでもというのだ。
「徳川殿は」
「確かに徳川殿の城攻めの話は聞かぬ」
 幸村もこう言う、岡崎城を見つつ。
「こうした場所ではさして城攻めも学べまい」
「三河は他の城も小さな平城が多いですし」
「そうした城ばかりでは」
「どうしてもですな」
「城攻めについては」
「羽柴殿は違うが」
 秀吉は、というのだ。
「あの方は正反対に外での戦よりもな」
「城攻めですな」
「そちらの方が得手」
「そうした方ですね」
「あの方はどうも色々多くの天性のものをお持ちじゃ」
 秀吉のその資質をだ、幸村は的確に見抜いて言うのだった。
「政にしても戦にしてもな」
「城攻めですか」
「それも」
「うむ、軍勢を支える兵糧や武具の調達もお見事じゃが」
 必要なだけ買い集め充実させている、その才覚もよいというのだ。
「城攻めもな」
「非常にですな」
「得手とされている」
「そうした方ですな」
「あの方は」
「そう思う。だからあの城も築かれておるのじゃ」
 岡崎城を前にしてその目に見つつだ、幸村はその城のことも話した・
「大坂のな」
「城のことを熟知されているが故に」
「あの城をですか」
「築かれていますか」
「天下の城を」
「あの城は容易には陥ちぬ」
 その大坂の城はというのだ。
「その羽柴殿が築かれるだけにな」
「では殿、やはりです」
 猿飛は幸村の話をここまで聞いたうえで主に問うた。
「天下はこれからも」
「その大坂城があるからじゃな」
「はい、その守りがあるのなら」
「いや、違う」
「違いますか」
「天下を守るのに確かに城は大事じゃ」
 それ自体はというのだ。
「紛れもなくな。しかしじゃ」
「それだけではですな」
「天下は成らぬ。天下は城によって成るものではなく」
 幸村は言った、ここで。 
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