真田十勇士
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巻ノ二十 三河入りその四
「疑わしい、いや」
「道理がない」
「奪った天下ですか」
「羽柴殿の天下は」
「そこにも弱みがありますか」
「奪ったものは奪われる」
幸村は厳然とした口調で言い切った。
「そうなるものだからな」
「では羽柴家の天下は」
「そのことは」
「今はよくとも」
「やがては」
「相当上手にせねばな」
それこそというのだ。
「なくなる」
「ううむ、今羽柴殿の勢いは日の出のものですが」
「その天下は危うい」
「例え天下を握れたにしても」
「それでもですか」
「拙者はそう見ておる」
幸村は確かな声で答えた。
「羽柴殿が生きておられるうちは大丈夫でもな」
「問題はですか」
「その後ですか」
「羽柴秀吉殿の後」
「それからですか」
「結構以上に先のことじゃがな」
だがその先のことをだ、幸村は既に見ていた。そのうえでの言葉だ。
「羽柴家の天下は危ういな」
「では若しもです」
「羽柴家の天下が危ういのなら」
「その次は」
「その次の天下は」
「確かなことは言えぬが」
この前置きからだ、幸村は自身の読みを話した。
「徳川殿やもな」
「今我等がそのご領地を見ている」
「そして若しかして今後我等と干戈を交えるやも知れぬ」
「その徳川殿ですか」
「見ての通り徳川殿の政はよい」
整っている町や村、そして民達の笑顔を見ての言葉だ。
「普代の家臣の方も優れた方が多くご子息もおられる」
「まとまっていますな」
「しかも人徳もおありで」
「天下でも律儀でよい方と言われています」
「それでは」
「これまで以上に力をつければな」
その時はというのだ。
「徳川殿が天下人になられるやもな」
「天下の流れはそうなるやもですか」
「羽柴家から」
「徳川家ですか」
「まだはっきりとせぬがな」
それでもというのだ。
「そうなるやも知れぬ」
「ううむ、羽柴家の天下は」
「色々と弱みがありますか」
「秀吉殿だけの天下」
「一代だけの」
「そう思える、とはいってもこれから次第じゃ」
どうなるかはというのだ、天下は。
「天下はまだまだわからぬ」
「出来れば戦の世は終わって欲しいですが」
「それが、ですな」
「まだわかりませぬか」
「戦の世が終わるかもどうかも」
「天下のことが確かに言えぬが故に」
「戦の世は徐々に終わってきているがな」
このことは確かだというのだ、幸村も。
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