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伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚

作者:OTZ
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第五話 茜の空

 キキョウシティを出た二人は32番道路、つながりの洞窟、33番道路を2週間かかって進む。ヒワダに着いた頃にはヒノアラシはマグマラシに、チコリータはベイリーフに進化していて、レベルもそれぞれ26となっていた。

―ヒワダタウン―

 紀伊半島の深い森の中に存在する集落。
 静かな町で、ヤドンの住処になっていたりして自然豊かな場所である。
 カモネギが作るスミ職人の家、ボール職人のガンテツの家があったりと職人達の集う集落でもある。


―3月11日 18時 ヒワダタウン―


 町を歩きながら話していると、白髪の堅そうな印象の親父さんが話しかけてきた。

「おお、アンタ達もしかしてレッド君とエリカちゃんか?」

 親父さんは存外、快活に話しかけてきた。

「はぁ。そちらはどちら様でしょうか」

 レッドは素っ気無く答えたが、エリカの反応は違う。

「もしかしてボール職人のガンテツさんでございましょうか?」

 エリカの言葉に対して、ガンテツと呼ばれた人物は頬を緩ませ

「おー、ワシを知っとるのか! こんな若いねぇちゃんに名前をおぼえてもらえるなどワシは幸せ者や……」

 ガンテツは満足げに頷く。

「せっかく来たんや。もう遅いし今日は家で泊まっていかんか?」
「そんな! お邪魔になるのではありませんか?」

 エリカは遠慮がちにそう言った。

「とんでもない! それに、孫は二人の大ファンでもあってのー。この機会に一度会ってもらえんかなーとも思ったんやが」
「左様ですか……。貴方、どう致しますか?」

 事情を訊きだしたエリカはレッドに尋ねる。

「……。丁度ポケセンにも飽きてきた頃ですし。お言葉に甘えさせて頂きましょう」

 そういうことでレッドとエリカはガンテツの家で宿泊する事になった。
 ガンテツの家は茅葺で屋根は本を伏せたような斜面を特徴とする切妻造という特徴を持つ古風ながらも典型的な日本家屋だった。

―同日 午後9時 ガンテツ宅―

 同居している孫と一緒に夕食を済ませ、二人が茶の間で寛いでいると、ガンテツが話しかけてくる。

「あんたら明日はどうするんや?」
「ジムに挑戦ですかね」

 レッドがそう言うとガンテツは即答した。

「ジムか、そりゃ無理やわ」

 予想外の返答にレッドは驚きを隠せず、続いて尋ねる。

「どうしてです?」
「ツクシがエンジュ大学受験の為に、半年前から集中したい言うことで高校があるコガネシティの方までいったんや。代役もいないからジムは当分閉鎖中なのじゃ」

 それに対して疑問を持ったのかエリカが尋ねる。エンジュ大学はタマムシ大学と並ぶ難関大である。

「しかし、エンジュ大の入試は後期を鑑みたうえでも例年2月下旬には終わるはずですが? 時期を考えれば戻ってきてもおかしくはありませんわ」
「うむ、じゃから入試はもう終わってて合格の通知もこっちまで来とるのじゃ。だが、希望の学部には受からなかったらしく、来年まで残るそうやな。ここ半年は大好きな虫取り大会にも出ずに頑張っとったのになー……」
「なるほど……」

 それでエリカは頷きながら納得する。しかし、レッドは素っ頓狂な声を上げて、

「え、じゃ一年間ジムは封鎖ですか!?」
「そうはなるが一応、挑戦は受けてるみたいやからの。コガネに留まってるらしいから、探してみたらどうや?」
「探したらって……。コガネは相当な大都会と聞いてますよ。一体何日かかる事やら」

 コガネシティはジョウトはおろか内国(ジョウト・カントー・ホウエン・シンオウ)でも一二を争う大都会だ。レッドの不安も尤もである。

「それもそうやな。じゃからまずはコガネジムに行ってみるとええ」
「え? ツクシ……って人はここのジムリーダーじゃ」
「行けば分かるわい。連絡はつけておくで」

 レッドが途中まで言った後、遮るようにガンテツはふっと笑いながら言った。レッドはどこか当惑気味な表情である。
 二人は22時ごろ、床についた。


―3月12日 午前6時―

 ガンテツに別れを告げた後、二人はゲートを目指す。

「ふう。いよいよコガネか……」

 レッドは気が入ったかのような声で言った。

「随分気合が入ってますわね」
「そら、ジムリーダーとの戦いには気合が入るもんさ。にしてもどうしてガンテツさんはコガネジムに行けって……」

 レッドは一日経っても疑問が解消できないでいた。

「恐らくですが……、きっとガンテツさんは二人一気に倒せと申し上げてるのではありませんか?」
「え? 確かにこの本にはコガネにもジムがあるって書いてあるけど……」

 レッドはキキョウシティで購入したトレーナーの歩き方の記述を思い出しながら言った。

「左様ですわ。コガネシティはアカネさんという快活な女性がジムリーダーを務めております。それに私の記憶ではお二人はお年が近いせいか仲が宜しいようですし……」
「ああ……なるほど」

 レッドはエリカの解説で全てを理解した。つまり、次の街では二人のジムリーダーを倒さなければならないという事である。
 その後、ウバメの森、34番道路を5日かけて進んだ。

―コガネシティ 
 ジョウト一の大都市。東のタマムシ、西のコガネとよく言われ、コガネはタマムシと肩を並べるほど発展しているものの治安が悪い。
 ゲームコーナーや地下通路、コガネデパートやラジオ塔、ミラクル自転車などいろいろな施設が揃い踏みである。


―3月17日 午前10時 コガネシティ入口―

 コガネシティは遠くからでも分かるほど高層ビルが林立している。
 タマムシの整然とした雰囲気ともまた違い、この都市はどこか猥雑な雰囲気を醸し出していた。

「ここがコガネか、噂通り大きな都市だなぁ」

 田舎育ちなレッドにとって、このような大都市は毎回圧巻されるものである。

「タマムシには負けますがね……」

 エリカはぽつりと呟く。出身地の、ましてやヤマブキと連なる首都の威厳はやはり崩せないようである。
 それを聞きつけたのか将に地獄耳とも言うべき、桃色の二つに縛った髪をした一人の少女が駆け寄ってきた。

「あんた今コガネをバカにしたんか! タマムシなんて……」

 少女は近寄って初めて気が付いたのか、口撃を止める。

「あら。お久しぶりです。アカネさん」

 エリカは帽子を取って深々とお辞儀をする。ジムに行くまでも無かった。

「ひ、久しぶりやな!」

 アカネは同業者に礼を失した行いをしたのを恥じたのか、相手がエリカだからか定かでないが少したじろぎながら言う。

 レッドはアカネの豊満な躰を見て、相も変わらず不埒な事を考えていた。
 アカネとエリカが他愛もないしていると、程なく紫髪の少年がやってきた。如何にもボーイスカウト風である。

「アカネさーん、急にどうしたの……って、レッドさんにエリカさん!?」

 その少年は大いに驚いている様子だ。トレーナーの歩き方の限りだと彼はツクシという人だとレッドは思い出した。
 その本のコラムの欄に書かれていた『勘違いされて同性より声を掛けられた事は数知れず。それもあってか彼は虫捕り以外でもあのキャンプボーイ風の格好をしている』という記述も納得な程に彼は典型的な優男である。

「せや、本当にこのコガネにも来たんやね……」

 アカネは感心しているような目線を投げかける。

「どうして二人とも一緒に……?」

 エリカが尋ねる。

「同じ高校の同じ学年、同じクラスなんです」

 ツクシに続いてアカネが言う。

「そ、どーも馬が合ってよく一緒におんねん」

 アカネは胸の下で腕を組みながら言っている。

「尤も、アカネさんはとっくの昔に推薦でエンジュ大に決まってて僕は一般で理学・工学部に受かったんですがやっぱりどうしても虫に関して研究したくて蹴っちゃったんです」

 ガンテツの話通りである。それを全国の浪人生に言ったらどうなるだろうか、などとレッドは思っていると、アカネが口を出した。

「ツクシは背伸びし過ぎたんよ、そんなわざわざ飛び級せんでゆっくりやればええものを……ホンマ、難儀な子やね」

 アカネは親友と距離が開いてしまうのが寂しいのか、少しトーンを下げて言った。

「僕にはあと2回留年するチャンスがあるので頑張りたいです。それにしてもやっぱりアカネさんは凄い人だよ。僕一回も生物以外で勝てなかったもの……」

 ツクシは純粋な尊敬の目線をアカネに投げかけた。

「フッ。ツクシとウチじゃキャリアがちゃうねんキャリア!」

 アカネは威張り調子にそう言った。

「あの……。不躾な事とは重々承知な上でお尋ね致しますが、もしかしてお二人は交際しておられるのですか?」

 エリカが思わず尋ねる。

「いや、僕は単に憧れの先輩として、もう一つは一人の親友としか見てないですね」

 ツクシのきっぱりとした口調とは引き換えにアカネは何故か少し表情を歪ませている。

「あのー、お二人とも俺のこと忘れてません?」

 レッドは疎外感を何とかしようと発言をした。

「あーすまへんすまへん。そいで何? 挑戦?」
「勿論ですわ」

 エリカが答えた。

「挑戦ならここじゃなくてアカネさんのジムにしませんか?」

 ツクシが提案する。

「せやね」

 こうして四人はコガネジムへと向かった。

―コガネジム― 

「いちいちひとりづつやっとるんじゃ時間がもったいあらへん! ここはエリカとレッド。ウチとツクシのタッグバトルでいくで!」

 アカネはハキハキとした口調で概要を説明する。レッドの予測通りではあったが、二人同時に相手するのは初めてな為少々緊張している。

「僕とアカネさんに勝ったら2つバッジを差し上げます。頑張って下さい」
「互いに三体づつで宜しいのですね」

 エリカは確認している。

「せや。エリカ! アンタには勉強じゃ勝てへんけど、この勝負かわいーうちのが有利やで! レッド! アンタもやで! ボコボコのギタギタにしたるで!」
 
 アカネは勝負の直前で興奮しているのか攻撃口調になっていた。その上指を突き刺しながら言い続けている。

「ちょちょアカネさん!それぐらいに」

 ツクシが制止を求めたが、敢え無く終わる。

「黙れやツクシィ! あんたもなんか言うたれ!」
「え!、その……頑張って」

 ツクシはか細い声で言う。
 それがアカネの癇に障ったのか、捲し立てながら続ける。

「さっきと同じやないか! ツクシぃ、なんでそんないつも弱気なん? もっと男らしくビシィ言うたれ!」
「あの、そろそろ始めませんこと?」

 収拾がつかないと見たエリカは勝負に持ち込ませた。

「それもそうやな! 行けぇ! ハピナス!」
「頑張って……、ツボツボ!」

 こうしてレッドエリカvsツクシアカネの戦いがはじまる。
 レッドとエリカが力を合わせて戦う初めての戦闘となった。

「行け、リザードン!」

 リザードンはモンスターボールから出ると雄々しく羽ばたく。
 そして颯爽と地に舞い降りる。

「おいでなさい、キノガッサ!」

 キノガッサは悠々とフィールドに出た。
 やる気に満ちている。

「キノガッサ。ハピナスにやどりぎの種です!」
「承った!」

 キノガッサは掛け声と共に素早くハピナスに種を植え付けた。他意はない。

「ケッ、見え見えの策やね! ハピナス、どくどくや!」

 ハピナスはキノガッサに猛毒を放った。運悪く毒を喰らい、キノガッサは猛毒状態に陥った。

「リザードン。ツボツボに大文字だ!」
「了解!」

 リザードンは大口を開け、間を置かずにツボツボに向かって大きな火の玉を放つ。
 ツボツボはその瞬間、咄嗟に殻の中に籠ってやり過ごそうと試みる。
 大の字となった火の玉は瞬く間にツボツボを包み込み、さながら火中の栗の如き状態となった。
 火は30秒もすると消え去って行った。ツボツボはその後なんの気もなさそうにニョキニョキと肢体を現した。

「グッ……。堅い。これが噂のツボツボか」
「へぇ……レッドさん、御存知でしたか……。ツボツボの強さ」

 ツクシはさっきの気弱な態度とは少し変わって、気の入った声になる。

「……。まあラジオとかで耳には」
「それは光栄です! でも、ツボツボは単に堅いだけじゃないんですよ。まあ見ててください。ツボツボ!」

 ツボツボは頭をヒョイと後ろに向けてツクシに目線を合わせる。

「リザードンからパワーシェアだ!」

 その指示が下ると、ツボツボはリザードンに目を向けた……かと思いきや目を閉じてひたすらに何かを念じているかのような姿勢を取る。
 レッドは聞きなれない技名に驚きつつも、動静を見守る。
 
「……? 一体何が変わったんだ」
「それは後のお楽しみですよ」

 レッドは嫌な予感を内に抱えつつ、ターンを終える。
 
「……! キノガッサ。交代ですわ」
 
 エリカは先ほどからの動静に何かを感じ取ったのかポケモンの交替を指示する。

「おいでなさい! ワタッコ」

 キノガッサを戻したのち、ワタッコを繰り出す。
 当然交代した為、指示は出せない。

「猛毒だから戻しよったか……。当然の戦術やな。せやけどその程度じゃウチを破れやせんで! ハピナス、タマゴ産みや! ツボツボにあげな」

 ハピナスのタマゴによって、ツボツボは体力を回復する。大文字のダメージを8割方回復した。

「チッ……。面倒なこった。リザードン! エアスラッシュだ」

 レッドは大文字が外れる事を嫌って、安全策を取る。
 空気の刃はツボツボを的確に射抜いたが、どうやら怯んでいる様子は無い。

「よし……。ツボツボ! 岩なだれだっ!」

 天空から岩が次々とリザードンの頭に降り注ぐ。
 リザードンは懸命に避けようと試みるが、失敗に終わり岩の餌食となる。
 しかし、所詮はツボツボの攻撃である。大したことはないだろうとレッドは高をくくったが、どうもそうではない。
 リザードンは思ったよりも余程ダメージを喰らっていた。HPにして7割を失う。
 レッドはこの事態に面食らった。

「どうです? 驚いたでしょう?」

 ツクシはすっきりとした笑顔を浮かべながら言った。

「ど……どういう事なんだ、いったい!」
「パワーシェアは文字通り、パワーをシェアする技……」

 レッドはその一言で漸く勘付く。いくら小卒なレッドでもその英単語くらいは知っている。

「そう、僕のツボツボはリザードンより力を拝借した! だからこそ、これだけの力を出せたんです! 凄いでしょ?」

 彼は遂には無邪気な笑みをたたえ、自らの戦果を誇った。アカネもその横で微笑んでいる。
 レッドは自らの無知を恥じたが、それと同時にある方法を思いつく。それと同時にエリカの行動も理解した。

「さぁ、次でレッドさんの切り札、そして僕の天敵も……」
「ツクシ……って言ったっけ」
「はい?」
「残念だったな。まだ、こっちにも手が残っている……!」

 と言ってレッドはエリカに目配せする。

「良かった……。貴方なら理解して頂けると思いましたわ。ワタッコ! 日本晴れです」

 ワタッコは軽快な体を利用して縦横無尽に飛び回り舞を踊る。やがて、フィールドは明るくなり、晴れの状態となる。
 アカネは迅速に動いた。

「日本晴れで有利になるんわ、何もそちらさんだけに限らないんやで! ハピナス! ワタッコに火炎放射や!」

 ワタッコは不一致の技ではあったが、日本晴れ効果によって一撃で倒れる。

「このくらいの事は想定内です。ワタッコ。良くやりましたわ」

 エリカはそう言って、ワタッコを戻す。

「よしっ、仕返しだリザードン! ツボツボに大文字だ!」

 タイプ一致は然ることながら、日本晴れ、そして猛火の特性……。
 この大技に倒れないポケモンの方が稀である。如何に堅牢なツボツボといえど、圧倒的な火力の前には為す術はあらず。甲羅から出ることは無かった。

「っ……。 まだまだ! 終わった訳じゃない! 行け、アーマルド!」

 ツクシは一瞬だけ下を向いたが、すぐさまツボツボを戻し、アーマルドを繰り出す。

……

 リザードンの火炎放射によって相手側最後のポケモンであるハッサムは倒れた。
 こうしてレッドは2体、エリカは1体を残し勝利した。
 
「参りました……! 僕たちの負けです。アカネさんもほら」

 ツクシはアカネに目線を遣るが

「うわー! 酷いわー!」

 コガネ迷物、アカネのえんえん泣き。
 アカネは対戦に負けると泣いてしまう。泣きやむまでバッジを貰う事はできないのだ。そしてその時間はアカネの気分次第。

「はぁ、やれやれ……」

 レッドは帽子を目深に被り、エリカも静かにアカネが泣き止むのを待つ。

―10分後―

 漸くアカネが泣き止み、すっきりした表情で立ち上がる。

「ふう! 二人はホンマに強いんやね! ほなレギュラーバッジやで! これが欲しかったんやろ!」
「やっと機嫌直った……僕からもインセクトバッジをお渡しします」

 レッドとエリカは2つのバッジを手に入れる。

「有難うございます!」

 エリカは深々と頭を下げる。

「いやいやお二人とも中々の手前で……少なくともキキョウのあれよりは全然……ね」
「もうそれおやめになられませんこと?」

 エリカは少しだけ笑みを浮かべながらレッドに自制を促す。

「キキョウって、あの鳥バカがジムリーダーのとこやっけ?」

 アカネはわざととぼけた風だ。

「ハヤトさんですよ。名前くらい覚えましょ?」
「言われんでも知っとるわ! うちあの人好きやないし」
「あらそうなのですか……。しかしあの人、変わった感じがしましたよ」

 エリカの発言に、同業者二人は少しばかり、社交辞令という側面もあるかもしれないが一応の興味を示す。

「何か…マダツボミの塔で何かあったのでしょう。私たちと戦って何かしらの変化があったようですわ」
「へー、そうなんだ。今度会ったらよく観察してみよう……」

 と、ツクシは観察日記と思しき手帳に書き込んでいた。
 一方のアカネは全くの無関心だったかのように次に話を進める。

「それはそうと、あんたらこれからどないするん?」
「勿論、エンジュシティに観こ……ジムに挑戦するつもりですわ」

 エリカは最早エンジュに心を奪われている。早速本音が出てしまっている。

「そかそか。うちもエンジュ大にオリエンテーション受けにいかなあかんし、一緒にいかへん?」
「いいですね! 私も久々にアカネさんとお話ししたいですし」

 完全に華の世界になっている一方、レッドが申し訳なさそうに言った。

「もしもし?」
「うん? なんやねん?」

 アカネは邪魔されて少々不機嫌そうに答える。

「男俺一人になって気まずいんだけど……」

 レッドはもう慣れてきたため、大して臆さずに言った。

「それもそうやろなー……。ツクシ、お前も行くねんな?」

 アカネはツクシに尋ねる。

「いや僕は残って勉強した」
「お前なーそんな勉強ばかりしとると体壊すで? たまには息抜きも必要やねんで。疲れが顔にでとるよ。ツクシの好きな自然公園まででもええし……な?」

 アカネはツクシの隣に立ち、時折肩を叩きながら説得する。アカネ当人は本当に親友であるツクシを気遣っている様子である。

「はぁ……分かりました。行きますよ」

 ツクシは仕方なく同行する事になる。


 コガネシティを出、4時間ほどで35番道路を抜け、ゲートに入る。

―午後2時30分 ゲート―

「あれ、こんな分岐あったっけ……?」

 ツクシは見慣れない分岐に疑問を持っている。

「ツクシはホンマ勉強しかせぇへんな。あそこはポケスロンいうて、ポケモンの力試しをするとこやで! ただ勝負やのうて、言うなればオリンピックみたいな感じやね」
「へー、面白そうですわね! あまり意に介しては居なかったのですが、こうも間近にあるとそそられるものが……」

 エリカは関心を示す。

「ウチも行きたいのはやまやまなんやけど、エンジュにいかなならんしな……」

 などと女二人が話している一方、男のほうはと言うと、

「ツクシ君、この先は?」

 レッドはツクシに尋ねた。年下だと思っているのか君づけである。

「自然公園ですよ。月木は虫取り大会があるんですけど今日はないそうですね……」

 ツクシは一瞬落ち込んだが、すぐに目を輝かせながら続けた。
 
「でもいい所ですよ! 道は綺麗ですし。それに、虫捕り大会とかは無くても、虫ポケモンもかなりいて僕の大好きな場所です!」

 ツクシはあくまで純粋である。

「ほんと、虫のことになると君は目の色変えるねー」
「当然です! 虫ポケモンは僕の生き甲斐ですからっ」

 そんな受け答えを見ていたアカネはツクシに時折恍惚な目線をかけている。
 エリカはそれを見て何かを確信した様子だ。

―自然公園―

 都市と都市の間に建てられた緑豊かな公園。
 中央の噴水から草むらがひろがり、上品なピアノの曲の放送はいうべきにあらず。
 コガネジムとエンジュジムの間の息抜きとして通るトレーナーもいる。
 ツクシはウバメの森に次ぐ二大虫取りスポットと位置づけている。

―3月17日 午後2時 自然公園―

「レッドさん。図鑑埋めがてらでジョウトの虫ポケモン、お見せしましょう。穴場のスポットがあるので、そこをご紹介します」

 ツクシはそう提案した。久々の虫取りでうずうずしている様子だ。

「おお、これは有難い。エリカとアカネさんはどうする?」
「お話したいことがあるので留まりますわ」
「全く……。まあ無理に連れてきたツクシの頼みやし、しゃーないか」

 アカネは半ば諦め気味で認めた。
 という事で二手に分かれる。

「じゃ、また」

 男二人は草むらにへと入っていった。

「本当、良い所ですわ」

 目の前には噴水があり、丁寧に管理された草むらや植栽など、全体的に上品な雰囲気でエリカ好みの場所である事は明白だった。

「やろ? エンジュとコガネの共同設計やねん。エンジュの叡智とコガネの技術が合わさった一つの作品ともいっていいかもしれへんね」

 アカネは得意げに言う。

「確か自然公園の制定は4,5年ほど前でしたわね。アカネさんも何かしら関わったのですか?」
「ウチは宣伝部長として数年前頑張ったんやで!」
「まあ。左様にございますか……。さぞかしご苦労があったでしょうに」
「なになに。ウチにかかればそんなもんお茶の子さいさいやっちゅーに!」

 アカネは朗らかな調子で話し続ける。この突き抜けた明るさは彼女の特徴と言える。

「因みにマツバも公園全体の構想やら何やらに関わっててな。そこから仲良くなったんよ」
「なるほど……。学業にジムリーダー。両方励んでいらっしゃるようで、私としても嬉しい限りです。ところで……」

 エリカは膝をややアカネ側に向け、手もそれに連れさせる。本題を切り出すかのような口調で言い、アカネの反応を待つ。

「ん? 何やね?」
「単刀直入にお伺いいたしますが……。ツクシさんの事、どう思われてます?」
「え!? そ……そら、友達の……一人やけど?」

 アカネは急な問いかけに驚いたのか、他意があるのか定かでないが先ほどよりは大分声を小さくして答える。

「随分と声が小さくなりましたね」

 エリカはすかさずそこを衝いた。

「友達や言うとるやろ!」

 アカネはそれに対し、取り繕うとしたのか声をあげて返した。

「声を荒げても私の目はごまかせませんわ。伊達に男子禁制のジムを営んでませんから」

 しかし、エリカは沈着に返す。

「う……。そ、そんなん知らへん! 友達や、友達!」

 アカネは逃げ切ろうとした。が、一度網にかかった虫の抵抗など儚きものである。

「あなたがツクシさんを褒めたり貶してたりしてたジム戦の時までは、そういう風に流してました。しかし、ゲートの時、ツクシさんがはしゃいでいらした時のあなたのお顔。貴女は気付いておられなかったようですが、頬が必要以上に紅潮しておりましたよ? 明らかにお友達を見てる顔ではないです。下世話な言い方ではありますが、男を見ている顔でしたわね」

 エリカの緻密な分析にアカネは黙るしかない様子だ。

「正直になられたらどうです?」

 しかし、アカネは窮したままで、顔を赤くしたまま口を真一文字に結んだままである。

「寵辱には驚くが如し……。自らをそうやって偽り続けたままでいらしては、自らに正直であれというこの老子の教えも意味を為しませんわ。貴女は自らの心に背を向け、逃避し続ける……、その為に勉強をしてこられたのですか? その術を学ぶ事に、心血を注がれたのですか?」

 エリカは正攻法では無理だと悟ったのか、アカネの心を衝く策に出る。
 彼女本人がここまで懸命に築き上げてきた財産に対して、一つの針を刺したのだ。

「な……。そないな事あるか! 下らんこと言うとるといくらエリカいうても堪忍せぇへんぞ!」
「堪忍しなくても宜しいですから……。正直に話されてはいかがですか」

 泰然とした彼女を見て出鼻を挫かれた体の彼女はそれから数秒ほどの間を置いて、アカネは一つ溜息をつき
 
「エリカ……あんたには敵わへんね。せや、ウチはツクシのこと……好いとる。飛び級で来て、最初はただの友達やと思うとったら、いつからかあいつの一挙一動が愛しうなってな……。でもここまで仲良うなってもウチを見るツクシの目はふつーの女の子を見ているのと同じ目。ウチになーんの興味を示さへん。せやから……これは叶う事のない恋なんよ……」

 アカネは言い終わると、顔を赤くしたまま、塞ぎ込む。エリカは何も言わずに聞き入れたのだった。

―同じ頃 自然公園 森の中―

 ツクシは木によじ登ったりどこから持ってきたのか虫取り網を鮮やかにふりかざしたりと八面六臂の活躍を見せる。そして、モンスターボールを一度も使わずに1時間半ぐらいで八十匹の虫ポケモン捕まえた。
 しかし、その後は大抵逃がしている

「ほら! ヘラクロスですよ!」

 ツクシは木に登って、大きなヘラクロスを急所を押えながら片手で持ち、レッドに見せる。

「うーん、図鑑が埋まる埋まる……」

 こうしてレッド含め、完全に夢中になっている。
 と、そんな事をしていると、草木をかき分けてやって来たウツギが話しかけてくる。

「お、いたいた」

 ウツギは何の気無しに二人に話しかけた。

「ウツギ博士!?」

 まず驚いたのはレッドである。

「は……博士がなぜここに……?」

 ツクシはウツギに気が付くと、スルスルと木から降りてウツギの近くにまで行った。

「いやー、君がエンジュ大の生物学部に落ちたのが不思議でね。少し文句を言いに言ってたんだ」
「…へ?」

 ツクシは突然の事できょとんとしている。

「君が虫ポケモン大好きでエンジュ大のそこを目指してるのは、僕ぐらいの博士なら皆知ってるさ。君はポケモン研究会の金の卵どころかダイヤモンドエッグだからね。そんな君を落とした理由を知りたかったんだ」
「博士がそんなに僕の事評価してくれてたんですか……」

 ツクシは何よりもその事に驚いているようだ。

「何、君の数々の研究成果を知ってれば誰でもそう言うよ。でね、僕は一応エンジュ大の客員教授だし、採点には携われなかったけど開示を請求したんだ。見たところ答案は合計800点中633点で合格ラインには入っていたんだよ」
「そうだったんですか!?」

 ツクシは目を丸くして、おどけたような声で言った。

「じゃあどうして落としたのです?」

 レッドは横槍を入れる。

「ま、それは後で、驚くべきは生物は前代未聞の100点満点でこれにはビックリしたね。流石だと思った」
「尚更不可解ですね」

 ウツギはレッドの横槍に対し、適当に相槌を打ちながら続ける。

「そうだよねー。だから僕は学長と試験委員長、人事課長全員に掛け合って合格させろと三時間ぐらい直談判したけどね。ダメだった。一度決定したことは覆せないってね。流石お役所だよ」
「博士……」

 ツクシは博士に対し、感謝の念に満ちたまなざしを向けている。

「力不足で申し訳ない。そこでだ」

 ウツギはツクシに浅く礼をした後、本題に入る。

「君を僕の研究所の研究員として雇ってあげたいんだけど……どう?」

「え……、ほ、本当ですか!?」

 ツクシはウツギの提案に目を点にして応じて見せた。

「男に二言は無い。給料はもちろん出すし、住む所だって用意する。どうだい? 虫ポケモンの博士になりたいと願う君には持ってこいの話だと思うんだけど……」

 ツクシは5分ほど考えた後、

「願っても無いお話ですが……。ジム等色々な事を考えるとすぐには……」
「そうか。ま、そんなすぐには決められないよね。いつでもいいから、決心ついたら研究所まで一本電話入れてくれよ。それじゃ……」

 こうしてウツギは去っていく。
 レッドは図鑑の事について聞こうかとも思ったが、とてもそんな雰囲気ではなかった為今回は諦める。

「……憧れていたエンジュ大がそんな所だったなんて。僕、もうどうしたらいいんですか? レッドさん!!」

 ツクシは今までやってきた事がなんだったのか分からなくなったのか、レッドに感情をぶつける。

「うーん……、よく考えなさいな」

 レッドからすればあまりにも次元が違う話なので、それ以上の返答はしない……いやできなかった。

「ゴメンなさい。僕、今すぐヒワダに戻ります」
「え」
「僕、自分を見つめ直す機会が来たようです。ヒワダに戻ってガンテツさんと話合ってみます」
「そうか。まぁそれも大事だよ。俺も三年間シロガネに篭らなければ、自分とは何か分からなかっただろうし。行かなかったら少なくとも絆も深まらなかったろうな」

 レッドにはそれ以外にかけられる言葉が思いつかなかった。

「一旦コガネに戻って身辺整理をするので……。エリカさん…そしてアカネさんにも宜しくお願いします」

 ツクシはそう言うと、深々とお辞儀をして、立ち去ろうとする。

「おい!直接言いにいけよ」

 レッドはツクシの肩に手を置いて呼び止め、そうしようと促すが

「いや、もともと無理やり連れてこられたんで。さようなら!」

 ツクシはそう言うと、レッドの制止を振り切り、否応無しに立ち去る。

「おいツク…なんて逃げ足の早い奴。体まで虫になってんのかよ……」

 レッドはそう呟いて、合流を果たす為に公園の中心部に戻っていく。

―自然公園 奥噴水前―

 エリカとアカネは先ほどから座っていた場所より動かずに居る。

「あら?あれって……ツクシさん?」

 すると、エリカの目には噴水の水越しに出口に向かって走るツクシの姿が映った。

「ッ…」
「何だか分かりませんけど、行ってあげたほうが宜しいのではないですか?ご学友なのでしょう?」

 そうエリカが言うと、今まで黙していたアカネは元の元気な声を出した。

「そんなん……、エリカに言われる間でも無いわ! ツクシィーーー!!」

 こうしてアカネはツクシの後を追っていった。

―午後4時 自然公園 入口付近―

「ツクシ!」

 アカネは息を切らせながらもなんとかツクシに追いつく。
 辺りはもう夕焼けに染まっている。
 ツクシは声に気付いてアカネの方を向く。

「?、アカネさん! どうしたんですか?」

 ツクシは汗だらけのアカネを見て、気にかけている。

「そらこっちのセリフや! どないしたんや? そんな急いで」

 アカネがそう尋ねると、ツクシは珍しくぶっきらぼうに

「……。アカネさんには関係ないよ!」
「何言うてんねん! ウチら親友やろ!?」
「それでも関係ないものは関係ないよ!」

 ツクシは反抗的な態度である。一刻も早く故郷に帰りたがっているのに足止めをされているのだ。
 当然といえば当然である。

「いいやある! ウチはツクシの先輩や! 後輩が先輩に悩み事相談するのは世界のジョーシキ言うもんやで!」
「……。それなら言いますけど、僕ウツギ博士の研究所の研究員に誘われたんです」

 ツクシは埒が明かないと見たのか、先ほどの内容を話した。

「すごいやん! それで?」
「相談する為にヒワダに戻るんです! これでいい」

 ツクシが言い切ろうとしたが、アカネが遮る。

「なら……なら、ウチも行く!」
「意味が分からないです! どうして先輩が後輩の後をついていくんですか!」

 ツクシはもう憔悴しているのか、苛立ち気味である。

「くぅ……しゃーないな。ほな……、分からしたる!」

 アカネはツクシの唇に唇を重ねる。しかも身をツクシに委ね、ツクシの肩に手を回し、きつく、きつく抱きしめながら。

「!?」

 夕焼けを背景にしたその二人の姿はまさに美しいと言うほかにない。

「ハァ……これで分かったやろ? ウチの気持ち。ウチは……ウチはツクシの事、好きなんや!」

 数十秒の接吻の後、アカネは遂に告白した。

「あ……ぅ……。ゴ、ゴメンなさい……僕やっぱり虫以外には……興味がいかないっていうか、その、今はそれ以外に気を割けないないんです。いや、でも信じてください! 決してアカネさんが嫌いだからとかそう言うんじゃなくって」

 ツクシは答えに至るまで多少の迷いはあったものの、アカネにとって芳しくない。例え口付けをされてもその態度を貫いたのは見事とも言える。

「分かっとるって! 別にツクシがウチの気持ち受け取れへんでもええ!、でもなウチ、エリカに言われて目、覚めたわ! やっぱ自分に正直になって、気持ちを伝える事が大事なんや!」
「……」
「やから、ウチはツクシに気持ちを伝えてスッキリしたんやで! 別に返してくれへんでもウチはそれだけで満足や! ファーストキスの相手がツクシなら言う事もあらへんぐらい満足なんやで!」

 アカネは立て板に水の如く、ツクシに自らの感情を伝える。

「アカネさん…成長しましたね」

 エリカはアカネとツクシがいる所より20メートルぐらい後方から見守る。

「せやから、ツクシも自分の気持ちに正直なって自分の進みたい方向決めるんやね! ウチはツクシがどんな方向に進んでも応援するで!」

 アカネは最後、爽やかにはにかんだ。

「ありがとう……アカネさん!」

 こうしてツクシはアカネを背にしてゲートを出た。アカネは掌を広げてにこやかに送り出した。
 そして―――

「後悔せんなよ……ツクシィ……! エグッ……」

 アカネはツクシが出た直後、地面にしゃがみ大泣きする。

「なんだか、ジム戦の時の涙とは違うな」

 レッドはいつの間にかエリカの後ろにいた。

「あら、来ておられたのですか。……確かにそうかもしれないですわね」

 エリカはそういうと少し微笑んだ。

―20分後―

「アカネさーん」

 エリカは優しい声でアカネを呼ぶ。

「あ…エリカ」

 アカネは涙で腫れた涙袋を手で拭って、立ち上がった。
 
「そろそろ行きませんか? もうすぐ日が暮れてしまいますわ」
「あー……せやな! 行こ行こ!」

 そう言うとアカネは二人の所に駆け寄る。彼女は最早、ツクシの事など忘れ去ったかのようにすっきりとした表情である。

「はぁ。良かったアカネさん立ち直ったみた……いいいい!」
「調子に乗った口を利くんやない!」

 アカネはレッドの頬をつねる。

「レッド! アンタはウチより年下や! 生意気に上から目線で語るんやないで!」
「ふぁい」

 レッドはつねられながら答える。

「よし。ほな行こかエリカ!」
「そうですわね」

 元の木阿弥となったレッドをしり目に春風に誘われるかのように、三人は古都、エンジュシティへと向かうのであった。
 この日の夕焼けは心なしか、いつもより少しばかり茜色が強い。



―第五話 茜の空 終―
 
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