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ハンバーガー

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4部分:第四章


第四章

「ああして並ぶのはいらいらするが楽しいんだよな」
「楽しいですか」
「ああ。今か今かと待つのがな」
 こうハリスに述べる。
「それがいいんだよ」
「そうなのですか」
「待つのは嫌いか」
「はい」
 一言で答えてみせてきた。そこには完全な否定だけがあった。
「私にはそんな趣味はありません。時間が最も貴重なものだと考えていますので」
「仕事もそうか」
「そうです。素早く行い素早く終わる」
 まるで何処かのエージェントの様な言葉だ。FBIらしいと言えばらしいが。
「それがいいと考えております」
「君の考えはわかったよ」
 ホージーは助手席でその両手を頭の後ろで組んでから答えた。リラックスした姿勢だ。
「そういう考えもあるな」
「そういうことです」
「まあ俺は待つ楽しみを味わうのが好きだからな。それにしても」
「今度は何でしょうか」
「本当によく並んでいるな」
 またハンバーガーショップの列を見て言う。今は信号待ちなのでじっくりと見ることができた。
「繁盛しているものだな」
「それ程美味しいということですね」
「そうだな。本当に俺も一度・・・・・・んっ!?」
 ここでホージーは客達を見て声をあげるのだった。
「どうされました?」
「いや、並んでいる客達だけれどな」
 彼はその客達を見続けてハリスに答える。
「おかしいな」
「おかしいのですか」
「ああ、これは」
 目を剣呑なものにさせてハリスに述べる。窓を開けて身を乗り出してその並んでいる客達を見ていた。彼等から目を離さない。
「ひょっとして」
「何かおありなのですね」
「あるから見ているんだよ」
 これまでよりも真剣な言葉だった。
「これは。まさか」
「まさか?」
「一旦事務所に帰ろう」
 彼は言った。
「一旦な。それからだ」
「わかりました。しかし」 
 ここでハリスは言う。
「どうした?」
「また随分と長い信号待ちになっていますね」
 前を見て言うのだった。
「一体どうしたのでしょうか」
「そのうち青になるだろう?」
「もう五分になりますが」
「五分もか。壊れたか?」
「そうかも知れません」
 やはり前を見たままホージーに述べる。
「幾ら何でもこれは」
「やれやれ、じゃあ警察を呼ぶか」
「私達がそうですが」
「いや、そうじゃなくてだ」
 FBIは連邦警察である。全米単位での捜査を担当するのだ。色々と小説や特撮にも出て来ているが実際はアメリカ合衆国の組織の一つに過ぎないのだ。もっともその初代長官であるフーバーは盗聴が得意であり歴代の大統領の弱みを握って半世紀もその座にいた人物だったが。
「州の警察をだよ」
「そちらですか」
「そう、そちらだ」
 話はそこだった。
「我々の管轄ではないだろう?信号は」
「確かにその通りです」
「だからだよ。じゃあすぐに連絡を入れる」
「州警察にですね」
「そうだ。それにしても信号の故障とは」
 首を捻っての言葉だった。
「世の中何が起こるかわからないな」
「それが世の中です」
 ハリスの事務的な言葉が車の中に響く。州警察を呼んだ後でようやく事務所に戻ることができそれから本格的な話になるのだった。
 まずは。ホージーが口を開いた。
「あのハンバーガーショップだが」
「はい」
「密かに調査を開始するぞ」
「ハンバーガーショップをですか」
「そうだ。これは俺の予想だがな」
 真剣な顔でハリスに述べる。
「一連の失踪事件だが」
「それですね」
 他ならぬ彼等の担当事件だ。だからそれが話に出てハリスの顔も雰囲気も緊張したものになる。
「殺人事件かも知れないな」
「最初からそれは予想していましたね」
「ただしだ。ただの殺人事件じゃない」
 ホージーはこう言い加える。
「下手をすればな」
「では一体それは」
「それがわかるのはこれからの捜査次第だ」
 こうは言っても自分の考えが外れているとは心の中では思っていなかった。
「これからのな。しかし」
「しかし」
「これから何が起こっても驚かないな」
「!?何をでしょうか」
 ハリスは今のホージーの言葉の意味は理解できなかった。表には出してはいなかったが言葉だけは疑問符になっていた。
「何が起こってもとは」
「まあそれはな。調べているうちにな」
「それもですか」
「そうだ。さて」
 また話をする。
 
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