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天上の大空を目指して

作者:白月黒夜
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6.そして、

『―――健闘を祈る』

 その言葉が静寂の中、広場に響き渡った。
 茅場は、茅場の操っていたアバターは静かに上昇し、システムメッセージの中に溶けるようにして消えていく。すべてが同化すると同時に、メッセージもまた唐突に消え去った。
 だんだんと本来の街の様子に戻っていく。BGMが遠くから押し寄せ広がっていく。
 ゲームとしての本来の姿を取り戻す。以前までとは明確に異なる部分はあったが。
 そしてようやく、一万のプレイヤーは反応を見せた。
 一気に騒がしくなる広場。叫び声を上げるプレイヤーたち。泣く者、怒る者、呆然とする者、多くの感情が入り乱れ、混乱を極めた。
 ただのゲームのプレイヤーから囚人へと変えられた人々は、様々にこの状況から目をそらそうとしているようでもあった。
 俺は、もうどうすればいいのか分からなかった。ただただ、この場にとどまっていても意味は無いことだけは解った。
「クライン、ちょっと来い」
 そんなとき、耳に聞こえた、あの二人のうちの片方の声。
 俺は何を思ったか、彼らの後についていった。
 おそらくこの混乱の中で、最も早く動いた彼らに。いや、彼に。
 何とか人込みをかき分け、見失うことなく追いつく。いくつもある街路の一本。俺は彼らから見えないよう、壁を背にして会話を聞いていた。そちらに気を向けていると、不思議と周りの喧騒が遠のいていくように感じた。
 なぜこんなことをしているのか、自分でもよくわからない。現実だったら完璧ストーカー扱いだな、と心の中で苦笑する。
 それでも、追わないといけないような気がしたんだ。頭の奥がチリチリと何かを伝えてくる。どこか馴染みのある感覚だ。
 俺の予想が正しかったなら、やっぱりこの世界でも――――
 思考が深く潜りそうになった時、足音が聞こえ、慌ててその場を離れる。考え事をしていた割に、不思議と彼らの、特にあのキリトと呼ばれていた黒髪の少年の言葉はちゃんと頭に入っていた。
 この世界で生き残るには自分を強化し続けなければならない。MMORPGというのはプレイヤー間でのリソース、つまりは資源の奪い合いが行われる。限られたモノをいかに多く獲得できるかを競い、多く獲得できたものがより高みへと昇っていくことができる。そこが最も重要だということ。
 そして、この《はじまりの街》周辺はすぐに狩りつくされてしまうだろう、と。
 だからあの少年は今のうちに次の村を拠点にしようと、クラインと呼ばれていた赤髪の青年に持ち掛けていたようだ。青年はほかの友人たちのために一緒には行けなかった。いや、行かなかった、か。
 このことを念頭に置き、俺は自分がどう行動すべきか悩んだ。
 少なくとも今のところ、この世界に俺には知り合いがいない。ほかの人を守れるかは考えず、今はとにかく自分が生き残ることを考えるべき?
 あの少年のように次の村へ行こうにも、俺には知識がない。あの少年は多分ベータテスター。狭き門をくぐった強運、今となっては凶運の持ち主か。少なくとも一層のデータはあるんだろう。
 こんなところで無駄にリスクを冒す必要はない。まずは少しずつこの世界に慣れていかないといけない。
 俺はこの世界を知らなすぎる。
「・・・・・・っ」
 そして、俺は気づいた。
 今までどれだけみんなに、リボーンに頼っていたか。支えられていたのか。
 これまでの出来事で身に染みて分かっていたはずなのに、いま改めて突き付けられてように感じる。
 俺はまだまだ弱い。
 戦い方も今までと違うこの世界。俺はちゃんと戦える?冷静でいられるのか?
 独りだということを強く感じる。自分の弱さを今まで以上に痛感する。
 そしてふと思った。
 もし仮に、今現実に戻れたとして、そこで何か、みんなの身に今まで以上の危機が迫って来たら・・・・・・?

 俺は、ちゃんとみんなを護れるのか?

 仮想の寒気に身震いする。
 仮定とはいえないとはいいきれない。今までは何とかなってきたけど、今度こそだめかもしれない。
 頼ることも大事なのはわかってる。けど、いざとなったとき、俺が頼りなかったら・・・・・・。
 いまだに、収まらない喧騒の中、俺は一人、黙り込んだ。
 けど、けど今は。いや、だからこそ今は、

「俺は、一人で戦っていかないと・・・・・・」

 死にたくないのもある。けど、こんなところで死ねない。死ぬわけにはいかない。

「もう、一人じゃ何もできないダメツナなんかじゃいられない、よね」

 俺はこの世界で、生きて、生き残る。
 そして必ず現実世界へ帰る。

「みんな・・・・・・」

 今は会えない仲間を思い出し。強くこぶしを握り締める。
 向こうに残してきたものがある。
 待っていてくれる人たちがいるから。
 俺は、必ず。



「この世界で生き残る!」




 喧騒に包まれる広場で一人、決意を新たにした。

 
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