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幽霊はいつも気まぐれ

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1部分:第一章


第一章

                 幽霊はいつも気まぐれ
 この頃ハイウェイで奇妙な噂が流行っていた。何でも真夜中にいつも奇麗な女が立っているというのだ。
 彼女は言うらしい。連れて行ってくれと。そして彼女を乗せて目的の場所に止めるともう彼女はいない。探しても何処にもいないというのだ。
「何だよ、怪談かよ」
 そのハイウェイにあるファミレスでその話を聞いて竹部隆一は思わず笑ってしまった。何度も聞いたことのあるような話であったからだ。
「もっと変わったのねえのか?」
 赤い髪を掻き揚げて笑ってそう言った、向かいの席にはその話をする同じゼミの仲間がいた。彼は大学生で車が趣味だ。よくドライブをしている。それでここのハイウェイも来たのである。
「それから乗せないと四つんばいになってバイク並のスピードで追いかけてくるとかよ」
「何なんだよ、それ」
 彼のゼミ仲間である小塚卓也はそれを聞いて顔を顰めさせた。
「訳わかんねえぞ、それ」
「ああ、これ神戸にある話なんだ」
 隆一は卓也にそう答えた。
「何かな。六甲の方に出るらしいぜ」
「怖いな、それって」
「神戸って結構そんな話が多いんだよ。何かハイウェイ絡みでな」
「へえ」
「他にもあったかな。そうそう、人面犬とかな」
 話がありきたいなものになってきていた。
「それは何処にもあっただろ?」
「あっ、そうか」
「後口裂け女とかな」
 二人は自分と古臭い話をはじめた。
「そんなのは何処にもあったじゃねえか」
「それもそうか」
「そうだよ。で、その女だけれどな」
「どうせここの交通事故でもあったんだろ?」
「よくわかったな」
「こうした話の定番じゃねえか」
 両手を頭の後ろに回して冷めた声で述べた。
「で、その成仏できねえ幽霊ってわけだろ」
「その通りさ」
「そこまで全部一緒だな。変わり映えしねえっていうか」
「けれど本当に見た奴も何人もいるらしいぞ。乗せた奴も」
「そのままホテルに連れて行けばいいんじゃねえのか?」
 ふとそう思ってそのまま口に出した。
「よく今までそういうことする奴いなかったな」
「そういうのはすぐに見破るのかして乗らないらしいな」
「よくできたお話だねえ」
 シニカルに感心してみせる。
「そういう話の定番だよな。あと暴走族追っかける首なしライダーとかか」
「そういうのもあるのか」
「あるぜ。他にも幾らでもな」
 隆一は笑って言う。
「どうせここのもそうした作り話だろ。実際に見たって奴はいつもいねえんだよ」
「御前こういう話は信じないんだな」
「当たり前だろ」
 口の端を歪めて笑ってきた。
「あくまでお話なんだよ。だから面白いんだ」
「じゃあ実際に今夜ここを走ってみるか?」
「ああ、いいな」
 それに乗ってみせた。
「じゃあ行くか」
「おい、俺もかよ」
「どうした?」
「いや、俺はいいよ」
 卓也は嫌そうな顔をしてこう言ってきた。
「そういうのはよ。ちょっと」
「恐いのかよ」
「苦手なんだよ。とにかく俺は行かないからな」
「ちぇっ、面白くねえな」
 隆一は顔を顰めさせた。ここまで来て何を言っているんだと思うが本人が嫌だと言ったら仕方がなかった。それ以上は言うつもりはなかった。無理強いはしない主義だ。
「じゃあ俺だけで行くからな」
「ああ」
「後で話聞かせるぜ。会えればいいな」
「期待してるぜ。じゃあ月曜に学校でな」
「楽しみにしてな」
 そんなやり取りの後で店を出て車に乗ろうとする。駐車場で卓也は声をかけてきた。
「そうそう、何でも赤い車が好きらしいぜ」
「俺の車まんまじゃねえか」
 それを聞くと笑みを浮かべた。彼の車は赤く塗装されている。それが夜の中でもはっきりとわかる。
「ライトバンは乗らないらしいな、しかも」
「後ろに誰かいるの警戒してるってか」
「多分な。まあ御前のだと大丈夫だな」
「ああ、俺のはな」
 彼の車はスポーツカーである。バイトで無理して買ったものだ。買うまでとこれからのローンがかなり大変だが思い切って買ったものである。
「他に誰かいる心配もないしな」
「そうだな。じゃあな」
「ああ、また月曜な」
 卓也に別れを告げて駐車場を出る。そしてハイウェイを進む。暫くして道にひとりぽつんと立つ影を見た。
「おやおや」
 それを見て笑みを浮かべる。もう出て来たのかと思った。
「じゃあ停めるか」
 車をその影の側に停めた。白いワンピースに黒く長い髪の女がそこにいた。全体的に痩せていて幽幻がする。そうしたところまで如何にもといった感じであった。
「どうしたんだい、あんた」
「乗せてくれるかしら」
 女は静かな声で言った。
「その車に」
「何処までだい?」
「ハイウェイの終わりまで。いいかしら」
「ああ、いいぜ」
 内心はこれからどうなるか期待しながら返事をした。どうせ偽者に決まっているから証拠を掴んで月曜に卓也に言うつもりであった。少なくとも幽霊だとは全く思ってはいなかった。
「横に乗りな」
「ええ」
 扉を開けると横に乗ってきた。そして進みはじめた。進みながら彼女に声をかける。
「どうしてここにいるんだい?」
「ちょっと」
「ちょっと、か」
 それを聞いて増々胡散臭いと思った。
「それでハイウェイの終わりまでか」
「いい?」
「だから乗せたんだよ」
 隆一は笑ってこう答えた。答えながらちらりと彼女の横顔を見る。奇麗な顔だが色が白く表情に乏しい。本当に幽霊みたいな感じであった。

 
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