首なし屋敷
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1部分:第一章
第一章
首なし屋敷
誰もいない屋敷である。廃墟である。
明治に建てられたというその洋館は壁にはヒビが入り窓はあちこちが割れている。屋根にもそのヒビの入った壁にも緑の蔦がかかっている。庭は荒れ放題であり門も何もかもが壊れ朽ちていた。まず誰も寄らない屋敷であった。
だがこの屋敷に不穏な噂が流れていた。それが何かというとだ。
「出るんだってよ」
「幽霊がかよ」
「それが出るのかよ」
「ああ、出るんだよ」
こうした廃墟にはお決まりの話だった。
「中に入った奴は絶対に殺されるんだってよ」
「おいおい、絶対にかよ」
「それはまた物騒だな」
皆それを聞いてまずはこう言うのだった。
「それで幽霊に殺されるんだよな」
「そうだよな」
「ああ、そうだ」
これはもうわかることだった。幽霊が出てそれで中に入って殺されるとなればだ。幽霊に殺されるという展開しか有り得なかった。
「その殺し方もえげつなくてな」
「えげつないのか」
「どんなのなんだよ、それで」
「首を切るんだよ」
それだというのだ。
「その中に入った奴のな。首を切るんだよ」
「首をか」
「それをか」
「それで首を切られた奴がな」
それからもまだあるのだった。
「首は洋館の門に飾られて胴体はその前に置かれるんだよ」
「つまり晒し首か」
「何か横溝な話だな」
「まあそんな感じだよな」
確かにそうした話だった。少なくとも尋常な話ではない。
「それで名付けて首なし屋敷な」
その横溝的なネーミングだった。
「それがあの屋敷の名前なんだよ」
「また嫌な名前だな」
「全くだな」
話を聞く者はその屋敷の名前についても不快感を示した。示さざるを得ないものがそこにはあった。人間の本能からそうなるものだった。
「それでその屋敷に入ったらか」
「幽霊に首を切られる」
「そうなるってことか」
このことはすぐに街中に広まった。それで誰も近寄らなくなった。実際に首を切られた者がいるかどうかはわからない。しかしその噂を聞いて誰も近寄らなくなった。
ところがである。その噂を聞いて街の不良達が興味本位でその屋敷の中に入ってみた。すると次の日には実際に起こってしまった。
彼等は全員首を切られて門の前に放り出されていた。首は門の柵のところに突き刺されて並べられ身体はその前に転がさせられていた。噂通りのことになった。
警察はこのことを公にしなかった。只の殺人事件として処理した。マスコミも流石にこのことは報道できなかった。しかしであった。
人の口に戸口は立てられない。噂として急激に広まっていった。ネットにも流れ忽ちのうちに知られるようになった。そうしてだった。
この街の署にだ。一人の神父がやって来た。初老で背の高いすらりとした、引き締まった顔の神父だった。銀髪を丁寧に後ろに撫で付けている。
彼の横には一人の少年がいた。まだ十五程度である。見事な金髪に青い目をした美しい少年で背はかなり高かった。彼もまた黒い法衣を着ている。
その二人が来てだ。署長に対して言うのであった。
「噂は聞きました」
「あの屋敷のですか」
「はい、バチカンから来ました」
こう署長に話すのだった。バチカンと聞いて署長は自室で緊張をみなぎらせた。
「バチカンからといいますと」
「屋敷の件の解決に参りました」
「そういうことですか。話には聞いていましたが」
署長もバチカンのことは聞いていた。とはいっても噂であるが。所謂エクソシストである。それを行う者がいるということをだ。
「まさか。実際にこの目で見るとは」
「しかし私は今ここにいます」
神父は厳かな声で署長に対して述べた。
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