羅刹鳥
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5部分:第五章
第五章
「本当によかったです」
「全くです。そして」
「そしてですか」
「あの赤い札ですが」
次に話すのはそれだった。赤い札のことだった。
「あれは魔を滅ぼす札でした」
「魔を滅ぼす」
「その札だと」
「人に化けている魔物が正体を現した時に焼き滅ぼす札だったのです」
そうであったというのである。あの赤い札はである。
「その魔物の身に着けていなければならないですがその通りです」
「それによってですか」
「あの札は」
「赤い札まで役に立って何よりです」
くれぐれもという思いがその言葉の中にはっきりと存在していた。
「本当に」
「その通りですね。ただ」
「ただ?」
「あの魔物はまた現われます」
道士はこう言うのであった。暗い顔で。
「墓場の人の陰の気が尽きない限りはです」
「それがあの魔物を生み出すからですね」
「それによって」
「その通りです。現れます」
道士は話す。
「ですから婚礼の時なぞに墓場の前を通るのはです」
「避けるべきなのですね」
「それで」
「そういうことです。くれぐれもです」
そしてだ。それを聞いていた花嫁の父はまずは瞑目した。そうしてそのうえでその口を静かに開くのであった。
「いや、今回は私が迂闊だった」
彼は己の過ちを認めていた。
「あの時墓場の前を避けていればこうしたことにはならなかった」
「いえ、ですが」
「それは」
「いや、そうだ。危うく婿殿も娘も害を受けるところだった」
「目をですからね」
袁もここで言った。
「目を喰らわれるところでした」
「そうですね」
そして花嫁も言うのだった。
「危ういところで」
「ですが難は逃れました」
道士がここでまた言ってきた。
「それをよしとしましょう。それでは」
「それでは?」
「魔物は出ましたが御二人はめでたく結ばれました」
彼が今言うのはこのことだった。
「ですからそれを祝福しましょう」
「それをですか」
「今は」
「はい、祝いましょう」
また言う彼であった。
「難を逃れたこともまた」
「そうですね。それでは」
彼の今の言葉に最初に応えたのは花婿である袁であった。
「今から再び」
「はい、それでは」
「また」
「宴を開きましょう」
夜も更けようとしていたがそれでも再び宴をはじめる彼等だった。難を逃れた後の宴はまた楽しいものであった。これは北京で実際にあった話である。北京では今も婚礼の行列が墓場の側を通らないのはこの話に由来する。また墓場にいる鳥がこの街で事の他忌み嫌われるのもこれがはじまりである。
羅刹鳥 完
2010・3・8
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