たまかりっ! ~小悪魔魂奪暴虐奇譚~
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エピローグ
「ただいま戻りました、パチュリー様ぁッッ!!」
「ぐふっ」
パチュリーの目の前に突如として転移魔法陣が開き、中からこぁが吶喊してきました。完全に油断しきっていた彼女はおもっくそ体重の乗ったタックルを腰に受け、一撃で瀕死の憂き目です。ふたりして図書館の床に倒れこみました。
「お、お帰りなさい、こぁ……。は、早かったの……ね。一日も経ってないわ……よ……?」
しかしそれでも笑顔を崩さず、帰還を喜びます。主としての意地がそうさせるのでしょうか。
「はいっ! ただいまですパチュリー様ぁ! こぁがんばりました! こぁ寂しかったです!」
「ふふ、私もよ、こぁ」
パチュリーの大きな胸に顔をうずめてむせび泣くこぁの頭を、優しく撫でさすります。慈母のごときその愛は、ダメージのほどをまるで感じさせません。
「でも、もうそうなることもないのでしょう?」
「……はい! もちろんですパチュリー様!」
ようやく満足したらしく、こぁが胸の谷間から顔をあげました。そして自信満々に、腰に付けていた革袋をパチュリーに手渡します。
「これは?」
「開けてみてください」
母親に誕生日プレゼントを渡す子供のように、無垢な笑顔でこぁが言いました。パチュリーは期待と喜びをなんとか押さえながら、その革袋を開けます。
「こ、これは……!?」
中に入っていたのは、ビー玉を思わせる6つの魂の塊でした。
しかし、真なる魔女であるパチュリーはその質を一瞬にして見抜きます。
「なんてこと……これ、全部合わせたら世界創成が可能なレベルじゃないの!」
「えへへっ」
……そう。
そのビー玉は魔王の魂なのでした。それも6体分。これがどういうことなのか説明しますと……ええと。単純に、ハルマゲドンかラグナロク6回分? 魔王1体で1回分なのでまぁそのぐらいですか? 多分?
「あっちの世界で、タイミング良く目覚める寸前の魔王がたくさんいまして。寝起きぶっ叩いてきました!」
「さすがね、こぁ」
さすがで済ますのはどうなのか。
「貴女の力はやはり、小悪魔でいていいものなんかではなかった。私の目は確かだったわ。……証明してくれてありがとう、こぁ。愛しているわ」
「私もです! パチュリー様!」
寝起きとはいえ、魔王6体とガチンコしてきた彼女です。疲労なんて言葉で表現できないくらいに疲れ果てているはずなのですが、そんな気配を微塵も感じさせません。彼女もまた、主であるパチュリーの前で気高く己を保っているのでした。
「でも……少し寂しくなるわね」
「はい?」
「もう、わかっていないの?
貴女はもう決して『小悪魔』なんてランクじゃないのよ? 大悪魔どころか魔王……いいえ、魔王すら超えた『魔神』と名乗って当然なくらいの働きをしたのよ、貴女は。
この魂を精製し、貴女の身体を循環できるようにすれば、悪魔界での貴女の立場はそれこそ最上位に近づくでしょう。だからもう、『こぁ』なんて呼べな……んんっ!?」
言いかけたパチュリーの唇を、こぁが唇で塞ぎました。数秒して、離します。
「……こぁ?」
「違いますよ、パチュリー様」
こぁは、パチュリーにだけ向ける、いつもの笑顔を見せていました。
「わたしが証明したかったのは、わたしの実力なんかじゃないです。わたしの主、パチュリー・ノーレッジの使い魔はこんなに凄いんだぞって示すことが目的だったんです。
本当に凄いのは、そんなわたしを従えることのできるパチュリー様なんだって、それを証明したかったんです。だから……」
こぁは、パチュリーの手から魔王の魂を優しい手つきで取り戻し───すべてをあっけなく、握り砕きました。
「パチュリー様さえ、わたしの力を知っていてくだされば、わたしはそれでいいんです。
わたしは、パチュリー様だけの『こぁ』でいいんです」
「ふふっ」
くすりと笑い、パチュリーがこぁを抱きしめました。
「愛しているわ、こぁ」
「わたしもです、パチュリー様」
そうして、ふたりは幸せなキスをして終りょ
「こぁ」
「はい?」
「─────────私の知らない女のニオイがするわね?」
「……あぃえぇー……?」
こうして世界は救われたのでした。
めでたいよーなそうでもないような。
~今度こそFin~
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