魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico38-B竜の終焉 ~Angel Overthrown~
†††Sideはやて†††
「はぁはぁはぁ・・・、あり・・・えへん・・・」
地面に倒れ伏すわたしら対ハート2班。視線の先には、わたしらが戦ってたハート2が空中に佇んでる。ハート2。純粋な人間やないホムンクルスってゆう人形らしくて、その身体を器として天使を宿す存在。天使ってゆう神様に一番近い神秘の塊ってことで、すんごい強いのは判ってた。そやけど・・・
(こんなに強いなんて・・・)
戦闘開始からずっとわたしらは攻撃を続けてた。ホンマに手加減無用で。それやのに傷1つとして付けることが出来ひんかった。しかも、ハート2は攻撃らしい攻撃はしてきてへん。わたしらにしてくる事と言うたら、わたしらの攻撃を防ぐためのシールドを発射して突き飛ばすくらい。たったそれだけやのに、わたしらは全滅してもうた。
『リイン・・・、まだ行けるか・・・?』
わたしのパートナーでありユニゾンデバイスでもあるリインに確認する。リインは今、わたしの中で一緒に頑張ってくれてる。リインが居って魔法発動のサポートしてくれるからこそ、わたしは魔導騎士で居られる。
『リインならまだ大丈夫ですよ、はやてちゃん。でも、はやてちゃんがもう限界ですぅ・・・』
少し涙声なリインに『ごめんな。そやけど退けんのや』ルシル君もなのはちゃん達もそれぞれ強敵と戦ってる。それやのにわたしらだけなんも出来ずに倒れてました、なんて言いたくあらへん。
『シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。まだ戦えるか?』
『『『もちろんです!』』』『全然余裕!』
『すずかちゃん、ルミナ、ベッキー先輩、セレスちゃん、アルフはどないや・・・?』
『私もまだまだやれるよ・・・!』
『同様に・・・!』
『私も問題ありません・・・!』
『リタイアする気は無いよ・・・!』
『愚問だね!』
戦闘続行の意思を確認し合って、フラつきながらもわたしらは立ち上った。
「癒しの風、行きます!」
シャマルの治癒魔法によってわたしらの魔力やダメージ回復、防護服修復が完了。するとハート2の背中から生えてる4枚の翼がバサッと羽ばたいた。まるで、大人しく寝ていれば良いものを、って言ってるような感じや。はわたし1人で空に上がって、ハート2の頭上10mほどで停止。
「リイン! 大魔法また行くで!」
『はいですっ!』
“夜天の書”をペラペラと捲って、とあるページで止める。アウグスタさんに体を乗っ取られた時、それ以前に蒐集してた何かしらの魔法が消えて、代わりに追加された魔法を使うために。ルシル君たちが言うには、消えた魔法を合わせてもそれ以上に強力なものやとのこと。ラグナロクやポラールリヒト・ノーヴァのような魔力的やない、物理的な魔法での最強・・・。
「我が呼びかけに応じ参ぜよ。深淵奈落を支配する冥府の女王の槍。空穿つ螺旋の唸りは破滅与える喜びの咆哮。突き進む道妨げる壁を無残に穿ち、其に純然たる破壊を齎す!」
『行くですよぉ・・・!』
「『ヴルフシュペーア・デア・ウンターヴェルト!!』」
対艦の一撃、巨大な螺旋の槍を具現させる。ハート2の対魔力・対物理の防御力は冗談みたい高い。そやけどコレほどのものやとどうやろうな。“シュベルトクロイツ”を脇に挟んで、柄を両手で掴む。そして・・・
「『往っっっけぇぇぇぇぇーーーーッ!!』」
直下に居るハート2へと向かって投げる。槍はゆっくりと回転を始めて、降下し始めた。わたしは『ハート2の様子はどないや!?』シグナムらに確認する。答えてくれたんは『大丈夫、回避行動に入ろうとしてません!』シャマルや。
『(あくまで真正面からわたしらの攻撃を受け切るつもりなんやな・・・!)了解や! 着弾後はみんなにお任せするな!』
唸りを上げてハート2へ向かって降下してた槍が、ズンッって轟音と一緒に降下を止めた。ハート2のシールドにぶつかったんやな。わたしは槍の柄の側まで降下して、“シュベルトクロイツ”の柄を両手で握りしめて振り上げる。
「『クロイツ・・・』」
杖のヘッド部分に魔力を付加。武器に魔力を込めて打撃するベルカ式の本領による一撃をお見舞いしたるわ。
「『シュラァァァァァーーーークッ!!』」
槍の石突に“シュベルトクロイツ”の振り下ろす。ガキィーンって甲高い音が響く。すると槍がガクッと落ちた。さらに「あーらよっと~!」振り上げては石突に“シュベルトクロイツ”を叩く。そやけど今度は下がらへんかった。アカン、威力が足りひん。
『はやて!』
“グラーフアイゼン”をギガントフォルムに変形させてるヴィータがやって来て、わたしの横に並んだ。そんで「杭打ち交代!」“アイゼン”を肩に担いでそう言うた。確かにわたしより適役やと思う。
「頼めるか? ヴィータ」
「おう!」
野球のバッターみたく“アイゼン”をブンブン振り回すヴィータ。わたしはヴィータが抜けた穴を埋めるために急いでシグナム達の元へ翔ける。その途中、「ギガントハンマァァァーーーッ!」ヴィータの掛け声と一緒にドォーン!轟音が空に響き渡ると、槍がまたガクッと下がった。
『さすがヴィータちゃんですね!』
「そうやな! わたしらも負けてられへん!」
地表へと到着すると、シグナム達は棒立ちのハート2へ猛攻を仕掛けてた。ハート2は片腕を槍の先端へ掲げてて、直径1mほどのシールドで完全防御。シグナム達からの飽和攻撃にもシールドを張っては防御。中には直撃してるのもあるんやけど、ハート2はよろけもせえへん。
「リイン!」
『はいです!』
膝辺りまで地表に埋まってしもてるハート2へ「『ブラッディダガー!』」短剣型の高速射撃を15発と一斉発射。わたしの射撃魔法に合わせて「フローズンバレット!」すずかちゃんも射撃魔法を15発と発射。全周囲から迫る攻撃にもハート2はシールドを同数展開。完璧に防御したんやけど、爆発時に発生した煙に呑まれた。
「セレス! ベッキー!」
「「はいっ!」」
「飛竜・・・一閃!」
「グローム! ピーカ・モールニヤ!」
「氷星の大賛歌!」
シグナムの砲撃級斬撃、ベッキー先輩の雷精グロームが変化した雷槍、セレスちゃんの氷雪砲撃による左右と背後からの三方同時攻撃。さらにヴィータがまた槍の石突を打ったことで上からの攻撃も追加の四方同時攻撃や。着弾時の衝撃波で煙がかき消えてハート2の姿を視認できた。ハート2はシグナムとセレスちゃんの攻撃をしっかりとシールドで防いでたけど、わたしの槍によって直立不動のまま腰辺りまで沈んでた。
『ヴィータ!全力全開で行ったって!』
重量級の物理攻撃の効く効かへんは横に置いといて、ああして動きを止めることは出来る。いつかは身体にヒビとかはいらへんやろうか、とか、砕ければ良えのになぁ、なんて思うわ。
『うんっ!』
ハート2がシールド越しの槍と一緒にゆっくりと上昇してく。せっかくのチャンスを逃すわけにはいかへん。
「逃さない!」「逃すものか!」
――戒めの糸――
――鋼の軛――
シャマルのデバイス、“クラールヴィント”の指輪と先端の振り子ペンデュラムを繋ぐ魔力の糸による拘束魔法、ザフィーラは対象を杭で貫くことで拘束できるを拘束魔法を発動。続けて「封縛!」わたしも、「チェーンバインド!」すずかちゃんも、「リングバインド!」アルフも発動した。ハート2は鋼の軛だけにシールドを張って防御したけど、他のバインドはなんも対処しないまま捕まった。
――ギガントシュラーク――
その直後、ヴィータの最強技――ギガントフォルムの“アイゼン”のヘッド部分が超巨大化しての一撃が槍の石突に撃ち込まれた。すると槍はハート2を押し潰して、さらにはここ天空城レンアオムを貫通させてしもうた。
「・・・もしかして、これで決まった・・・?」
そう言ってルミナが地面に開いた大穴を覗き込んだ。わたしらも続いて大穴を覗き込む。見えるのは青い海。そんで海面から突き出てるんは崩れた槍の一部。ハート2の姿はどこにもあらへん。
「最後くらいは私も参加したかったのにな・・・」
「ルミナは戦闘開始からさっきのトドメに入るまでずっと頑張ってたやん。それだけで十分やない?」
わたしが槍――ヴルフシュペーア・デア・ウンターヴェルトを発動する直前までルミナは最前線でシグナム達と戦ってくれてたし、一番ハート2に攻撃を打ち込んでた。MVPがあれば絶対にルミナが受賞するわ。
「いやいや、待って。まだ居る、感じる・・・!」
セレスちゃんが神器・“氷結剣クロセル”と同化してるデバイス・“シュリュッセル”を構えて周辺を見回した。うん、正直な話そうやないかなぁ~って思うてたよ。警戒態勢に入ってすぐ、バキバキって近くの地面がひび割れ始めて、粉塵と瓦礫を撒き散らしながら大きく爆ぜた。
「なおも健在か・・・! ルシリオンから貰ったカートリッジも残り1つだ」
「本当にうぜぇ・・・! あたしもあと1発だ」
シグナムとヴィータがポツリと漏らす。2人のカートリッジを使っての攻撃力は重要やのに。ここでそれを失うんはかなりの痛手や。
「ハート2・・・! ・・・ん?」
堂々と宙に浮くハート2の、白亜の石像のような体をキッと見つめると気になるものがあった。ちょうど胸の中央、心臓の辺りにヒビが入ってるんに気付いた。それをみんなにも伝えようとした時、その辺りが強く発光して、「あっ!」みんなが声を上げるような事が起きた。
「神器だ!」
「体内に取り込んでいたのね!」
ハート2が所有してた書物型の神器・“ヒドゥンカリグラフィ”が光る胸の中から出現した。アレにルシル君から貰った神器封じのお札を貼り付けることが出来れば、わたしらの逆転勝利や。しかも嬉しいことに、「天使化が解除されました!」ベッキー先輩の言うようにハート2が元の普通の人の体(色はまるで腐食してるような薄紫色で気色悪い)に戻った。
――シヌイ――
神器書のページが捲れ始める。新しい天使を召喚して天使化する気や。合図とか何も有らへん中、ルミナが「ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース・・・!」クラウチングスタートからの高速ダッシュでハート2へ突進。
「サポート!」
――雪花飛刃――
冷気を纏う“シュリュッセル”を振るって氷の花弁を数枚と高速回転させながら放ったセレスちゃんの指示に応じるよりも早く、わたしらはすでに発射準備を終えてた。
「リイン、最速の一撃や!」
『ブラッディダガー、発射です!』
――ブラッディダガー――
「スノーホワイト!」
――バインドバレット――
「行くよ!」
――フォトンバレット――
「うらぁぁぁぁぁぁッ!」
――シュワルベフリーゲン――
「おおおおおおおッ!」
――鋼の軛――
「ジムリャー!」
――クラードビシェ・ドゥラーク――
わたしとヴィータとアルフは攻撃を、ザフィーラとすずかちゃんは拘束を、ベッキー先輩は地の精霊ジムリャーが発動した・・・攻撃か拘束か判らへんけど、地面から突き上がった4本の岩石の柱に四肢が呑み込まれてる。そこにわたしらの魔法が爆発、煙が発生。そこにルミナが突撃した。
「上手く行ったでしょうか・・・?」
「シールドを張れる天使を宿していなかったこともありますし、おそらく――」
――イェリダー・マルアフ・ピュリキエル――
ベッキー先輩とシャマルの話し声が途切れさせたのは『ごめん、失敗!』ルミナからの謝罪の思念通話やった。それとほぼ同時、煙を消し飛ばす炎が噴き上がって、ルミナが「熱っ、熱っ、熱い!」炎に包まれながら飛び出して来た。わたしとシグナムとシャマルは慌ててオーバースカートを外して、バサバサとルミナをはたいて火消し作業。
「っ! ヴァダー、水を!」
ベッキー先輩が“ドゥーフヴィーゾヴ”をシャランと鳴らして、サメ型の水精ヴァダーを召喚。ルミナを覆うように水の渦が発生して、「けほ、けほ、助かったよ、ベッキー」見事に消火完了や。
「ルミナも無事で良かったわ・・・。そやけど・・・」
オーバースカートを付け直しながらルミナからハート2へ視線を移す。そこには、足元から炎を噴き上がらせてるハート2が居る。ザンクト=オルフェンで戦って負けた時とおんなじ火の天使を宿してる。
「これって最悪じゃないかい? さっきまではただのシールドだったけどさ、炎熱が付いたらいよいよ手が出せないんじゃないか」
「炎熱に耐性が出来ちまうとシグナムもそうだし、セレスも戦力外になるんじゃね?」
「む」
「あぁ、氷結系ですからね私・・・」
「そうなると私もダメっぽい、かな・・・」
シグナムとセレス、それにすずかちゃんが戦力外になりそうな雰囲気や。それだけやない。リインが『ヴィータちゃんも近接攻撃が出来ないですよ』って言うた。そうや、ヴィータは攻撃の大半は近接系やし、あの天使の炎やとさすがに大火力以外の攻撃は全部燃やし尽くされる。いよいよどうやって戦おうかと不安になってたところ・・・
「大丈夫です! この戦いは私たちの勝利です!」
そう言うたシャマルがニコニコ笑顔を浮かべた。真っ先に「はあ? あんな化け物相手にあたしら抜きでどう勝つって?」ヴィータがちょう苛立ち気にシャマルに訊き返した。
「神器書がどこにも無くてどうしようかと思ってたけど、持ってるなら盗っちゃえば良いのよ♪」
シャマルの、盗っちゃえば、ってゆう言葉ですぐに理解できた。すずかちゃんは体験済みやし、ルミナ達にも何度か模擬戦で見せたことあるから、全員の表情が希望に満ちたもんになる。ハート2が神器書を持ってへんかったからこれまで使わへんかった魔法やけど、体内に有るゆうんやったら出し惜しみする必要は無い。
「クラールヴィント、お願い!」
――旅の鏡――
“クラールヴィント”で作った鏡の中にシャマルが手を突き入れて、「え~っと・・・」何かを探るような声を出して・・・
「・・・見つけた!」
シャマルが表情を輝かせて手を引っ張り出した。その手に有ったんは間違いなく「神器書!」やった。ルミナだけでなくすずかちゃん、わたしも残りの神器封じのお札を神器書にベタベタと張りまくる。
「さぁ、ハート2はどうなるのかな!」
お札塗れの神器書からハート2へと視線を戻すと、「ケケ、クク、クケケ、ッ!!」奇妙な笑い声を上げて苦しみもがく姿が目に入った。しかも体の至るところから小さな爆発が何度も起きてるし、火も噴いてる。どう見ても「暴走・・・?」のようや。わたしらを閉じ込めてた結界も消失してるし。
「ケケケ、キャキャキャ、ケキャキャキャ、クキャキャキャ!」
ハート2の全身が炎に包まれたかと思えば、炎の尾を引いて空に上がってクルクル回り始めた。
「シンダ、シンダ、ヤツガシンダ! エグリゴリガシンダ!」
なんか言うてると思うて耳を澄ますと、“エグリゴリ”が死んだ、って聞こえた。それはつまり、「ルシルの奴、シュヴァリエルに勝ちやがった!」ヴィータや、「すごい、すごい!」シャマル、それに『さすがですぅ、ルシル君!』リインが大いに喜んだ。そんでわたしは「ルシル君・・・、良かったぁ」喜びよりも安堵でいっぱいや。
「ジユウ! ワレハジユウヲエタリ! カエラネバ! ワガシュガオラレルミザノモトヘ!」
ハート2が降下を始めたから身構えたんやけど、全く別の方向に向かって行ってドォン!と落下。安堵したのも束の間、とんでもない爆発が起きて、空が真っ赤に染まった。しかもその衝撃もまたすごくて、「きゃあ!」その場で転んでまう。黒煙が立ち上って空を覆い隠す中でも震動が治まらへん。
「ミチハドコダ! テンヘカエルミチ!!」
また別のところから爆発が起きて、そこから先端が人の顔をした蛇のようなモンに変化したハート2が飛び出して来た。そんで「ミチ! カエレヌデハナイカ! ドコダ!」そう叫びながら建物や島を破壊しながら、ミチ、ってゆうんを探し続けるんやけど・・・
「ミチって、この神器書のこと・・・よね?」
ルミナがお札で全体が見えへんくなってる神器書の表紙をポンポンとノック。天使を召喚する本やから、天界に帰るにはこの本を通らなアカンみたい。そやけど、「お札剥がしちゃいます?」ってわたしらみんなに訊いたシャマルには誰も答えへん。どっちにしても良い結果にはならへんことは誰もが解ってる。
(あのまま放っておいたらレンアオムが壊されるし、神器書を解放したらまたハート2と戦わなアカンくなるかもしれへんし・・・)
「オノレ、エグリゴリメ! ワレヲテンカイニカエサズニシヌナド!」
怒りはもう限界みたいやし。八方塞り状態な今、解放するかしないかで話し合おうとした時、「ワカル! ワカルゾ!」さんざん暴れてたハート2・・・とゆうよりは、ハート2ってゆう器に閉じ込められてもうてる天使が嬉しげな声を上げた。そんでその軌道を変更。向かう先は・・・
「こっち来る!?」
「ちょっ、マジか! あんなの掠っただけでも炭化じゃねぇか!」
「散開! 1ヵ所に留まらなうように注意!」
ルミナの指示に従ってその場から四方八方にわたしらは飛び立つ。天使の軌道が少し乱れたんやけど、すぐにある1人に向かって突撃を再開した。そうなるってことはすぐにでも判ることやった。
「「「「ルミナ!」」」」「「ルミナちゃん!」」「ルミナさん!」
神器書を持つルミナが標的にされてた。天使は「ニンゲン! ソノショモツヲワタセ!」怒声を上げてルミナへ突っ込んでく。ルミナは高速移動魔法で逃げに徹するんやけど、天使はそれ以上の速さで追い縋ってく。しかも火の尾から火炎弾を無差別に何十発とバラ撒いて来る。それがわたしらのルミナへのフォローを邪魔してくるし、ルミナの逃走も妨害。
「ヴェーチル!」
――ツヴィトーク・タイフーン――
ルミナを護るように現れたスズメ型の風精ヴィーチルが、天使の突撃を止めるために暴風の花を作りだした。そんで、その花に突っ込んだ天使は「セイレイゴトキガッ!」怒声を上げて自身を覆う炎を爆破させた。
「っ!?」
『はやてちゃ――』
目の前が真っ赤になって、爆音で耳がキーンとなった。体が浮く感覚、宙を舞う感覚、そんで何かにぶつかった感覚を順々に得た。今のわたしの状況が判らへん。目を開けてるんか、耳が聞こえてるんか、立ってるんか、倒れてるんか、なにも判らへん。
『・・・ちゃ・・・』
何か聞こえた・・・?
『・・・やて・・・』
リイン・・・?
『はやてちゃん!』
「リイ・・・ン・・・」
自分の声が聞こえた聴覚が無事やとゆうのを確認。リインが『静かなる風を発動するです!』“夜天の書”から治癒魔法を発動してくれたおかげで、視覚も回復し始めてくれた。真っ先に視界に入ったんは更地と化した地面やった。あと・・・
「(腕・・・?)っ、ザフィーラ!?」
わたしを庇うように四つん這いになってるザフィーラに気付いた。わたしはザフィーラの下から這い出て、完全に気を失ってる「ザフィーラ!」を仰向けに横たえさせたその時、色んなところから爆発音が轟いた。
「・・・っ! すずかちゃん、アルフ!」
音の出どころより先に見えたんは、気を失ってるんか俯けに倒れてるすずかちゃんとアルフ、さらに「シグナム、ヴィータ、シャマル! ベッキー先輩、セレスちゃん!」家族や友達みんなが倒れてるんが見えた。わたしは側に落ちてた“シュベルトクロイツ”に手を伸ばして、杖を支えに立ち上がる。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「っ!? ルミナ・・・!?」
また爆発音が聞こえたかと思えば今度は悲鳴付き。声の主が誰なんかはすぐに判った。空を見上げると、ルミナがたった1人で戦ってた。相手は人型の炎の塊。間違いなく天使や。そんなルミナは空を錐揉み状態で吹き飛ばされてて、天使の格好の的になってた。
「リイン、ルミナを優先や!」
『は、はいです!』
「『クラウソラス!』」
“シュベルトクロイツ”の先端から1発の砲撃を発射。ほんのちょっとでもええ。ルミナが体勢を立て直せるだけの時間を稼ぐことが出来れば。砲撃は天使の前方スレスレを通り過ぎてったこともあって、その動きを止めることに成功。
『はやて!?』
ルミナは追撃を受けることなく体勢を無事に立て直してくれた。それを確認して『ルミナ! 本は!? もうこうなったら解放するしか・・・』天使が怒ってる理由である帰り道を開ければ、怒りは収まるはず。あとはハート2が再召喚する前にまた神器封じのお札を張れば・・・
『ダメ、出来ない! あの馬鹿天使が無理やり帰ろうとして突っ込んだから、灰も残らない程に燃え尽きた!』
(ちょう気を失ってた間に最悪な展開になってたんやな・・・)
『だからどうにかして倒さないと全滅するわけ! で、はやてにはみんなを起こしてほしいんだけど、出来る!?』
『うんっ!』
人数は多いけどなんとかなるはず。まずはシャマルを優先に回復させれば、みんなの回復も早くなる。シャマルの側に駆け寄って、「静かなる風よ。癒しの恵みをみんなに」発動。効果が現れるより前に「っ!!」とんでもない“力”を感じた。
ルミナと天使の方に視線を戻すと、そこには信じたない光景があった。天使が片腕を突き出してて、そんで相対してたルミナはゆっくりと墜落を始めてた。そのルミナの体には真っ赤に輝く三叉槍が突き刺さってた。
『っ!!』
「ルミナ・・・? ルミナ! ルミナぁぁぁぁーーーーーッ!!」
魔法には非殺傷設定がある。そやけど神秘の有る魔力での魔術はすべて殺傷力アリのものばかり。その一撃を受けるようなことがあったら・・・。急いでルミナの元へ翔ける。その最中に『リイン! コードを検索!』“夜天の書”のページを捲り続ける。
『コードって・・・ル、ルシル君の術式を使うですか!? 危険すぎです、はやてちゃん! ルシル君からも注意されたじゃないですか! はやてちゃんとリインの体やリンカーコアがもっと成長するまで使うな、って!』
アウグスタさんに乗っ取られた時にはバンバン使われてたけど、あの時は融合騎として最高クラスのアインスや、敵ながら魔力運営技術が巧かったアウグスタさんの2人が居ったからこそ出来たって、ルシル君から使用せぇへんよう注意された時に一緒に聞いた。
(今のわたしやリインのレベルやと、ルシル君の魔法の上級は使えへん。そやけど・・・!)
地面に叩き付けられる前にルミナの両手を取ってキャッチ。ゆっくりと横向きに横たえさせる。三叉槍は一瞬だけ燃えてすぐに消失。ルミナの体に1つの穴だけを残した。
「ルミナ! 気をしっかり持って!」
半開きの目に微かな息、脈も弱なってくのが判る。ルミナが今にも死んでしまいそうな状況に涙で視界が滲んでく中、「リイン! エイルを、ラファエルでも良えから!」ルシル君の治癒術式の発動のサポートを指示する。
『ラ、ラファエルでもはやてちゃんへの負担は大きいです!』
「そんなこと言ってられへん! ルシル君を待ってるわけにもいかへんし!」
シュヴァリエルに勝ったようやけどルシル君の今の状態が判らへん。エイルを発動できるだけの余力はあるか、それとも魔法も扱えへんほどにボロボロなのか、も。そんなルシル君に期待するわけにはいかへん。
『でも・・・!』
「今はわたしの心配よりルミナの生死の方が重要や!」
『リインははやてちゃんの家族でパートナーです! マイスターの事を優先するのは当然です!』
言い争いに入りそうなほどに切羽詰まってる。こうしてる間にもルミナは・・・。それに天使かてこちらに向かって降下を始めてる。ルシル君の魔法を使うにはリインのサポートが必須やし。迷ってる時間は無い。
「ワレヲコノチニトドメシザイニンニハシヲ!」
「自分で帰り道を燃やしておいて・・・!」
怒りで頭に血が上ってガンガン痛む。そんなわたしの頭の中に『逃げ・・・て・・・。私、もう・・・ダメ・・みたい・・だし・・・』ルミナからの思念通話が。そんなん言われても「嫌や!」としか言えへん。友達を見捨てる真似なんか出来ひん。
『・・リイン・・・、はやて・・・連れて・・・げて・・・』
その思念通話を最後に、ルミナの呼吸が止まった。
「・・・ルミ・・ナ・・・?」
頭の中が真っ白になる。助けられへんかった。
『はやてちゃん! はやてちゃん!』
「ルミナ・・・、ルミナ・・・。アカンよ、ルミナも一緒に逃げな・・・」
――ユニゾンアウト・アウトフレーム――
「はやてちゃん!」
誰かに腕を引っ張られる。リインがユニゾン解除してて、さらにヴィータくらいの身長にまで変身してた。
「逃げるんですよ、はやてちゃん!」
「ルミナを置いてけへん・・・」
「ルミナさんは・・・、ルミナさんはもう・・・」
見ればリインの顔も涙に鼻水、ボロボロな泣き顔やった。
「キサマラモシヌガヨイ!」
真夏の日差し以上の熱がわたしを襲った。天使はすぐそこまで来てて、ルミナを貫いたものと同じ真っ赤な三叉槍をすでに振りかぶってた。リインが「はやてちゃん!」わたしに覆い被さってきた。このままやとリインまで居らんくなってまう。わたしはほぼ無意識にパンツァーシルトを四重展開。三叉槍が1枚目を一瞬にして砕く。2枚目もまた一瞬、3枚目も同様。4枚目は2秒くらい保ったけど、やっぱ砕けた。
「あ・・・」
まるで世界のすべてがスローになったような感じの視界になる。リインの肩越しに見える三叉槍の先端。そんで横から突き出されてきた誰かの握り拳にされた右手。誰の? その答えは、手首にある漆黒の腕輪が示してる。
「ルミナ・・・?」
「へ?・・・ルミナ、さん・・・?」
スローの世界の中でわたしは見た。死んでしもうたはずのルミナが天使の三叉槍を殴って弾き飛ばして、左の拳で天使を殴り飛ばしたんを。わたしとリインを護るように立ち塞がってくれる「ルミナ・・・」の傷が無くなってる背中に声を掛ける。元の速さに戻った世界の中、ルミナはチラッとわたしとリインを見て・・・微笑んだ。
「判らないものね。終極と恐れられたテルミナスが、殺すほどに大嫌いだった人間を護るだなんて」
ルミナがボソボソってなんか呟いた。なんて言うたか訊ねる前に「ニンゲンンンン!」天使の怒声が大気を震わせた。
「はやて、リイン。この場から離れて。巻き込まない自信が無いの」
「あ、え、う、うん・・・!」
「ありがとうです、ルミナさん!」
元のサイズに戻ったリインと一緒に逃げ出したところで、ガキィーンって金属を打ち合って鳴らしたような音が背中に届く。聞き覚えのある音や。ルミナの2つの腕輪・“ツァラトゥストラ”を打ち合ってる音や。
「Fortitudo in laboribus periculisque cernitur」
――勇気は勤勉と危険とにおいて――
ガキィーン。
「temperantia in praetermittendis voluptatibus」
――節制は快楽の忘却において――
ガキィーン。
「prudentia in delectu bonorum et malorum」
――知恵は善悪の識別において――
ガキィーン。
「justitia in suo cuique tribuendo」
――正義は各人にその権利を帰することにおいて認められる――
ガキィーン! 今まで以上に高い金属音が聞こえた。振り返ってみると、「ま、悪くないけど。こんな生き方も・・・ね!」“ツァラトゥストラ”が飴細工のように融け合って、全く別の物に変わった。
「「十字架・・・?」」
腕輪やった物が2mくらいの長さな漆黒の十字架になった。普通の十字架とは違くて中央に輪っかがある。確かケルト十字ってゆう名前やったっけ。ルシル君が好きなデザインや。ルミナは十字架に変化した“ツァラトゥストラ”を振りかぶったまま天使へ突進。天使もまた三叉槍を構えて突進。
「クスクスクスクス・・・!」
「ナニガオカシイ!」
天使が三叉槍を繰り出した。ルミナは“ツァラトゥストラ”を振るって、縦棒の長い方で三叉槍を弾いてその場で旋回、横棒の方で天使を殴った。
「きゃ・・・!?」「ひゃあ!?」
殴り飛ばされた天使がわたしとリインのすぐ側を通り過ぎてった。そっちに振り向くより早くルミナも超高速でまたわたしらの側を通過してった。遅れてそっちに振り向いた時、ルミナは“ツァラトゥストラ”で天使をボッコボコに殴り続けてた。あまりにも圧倒的なその強さに、驚きよりも夢やないかって疑問がいっぱいになる。
「クスクス! さっさと消えてちょうだい!」
「ムグゥ・・・!」
“ツァラトゥストラ”の打撃で空に舞い上げられた天使は、わたしほどの大きさにまで体を削られてる。ルミナは“ツァラトゥストラ”の先端を宙を舞う天使へ向けて・・・
「クス。終わりよ。さようなら、神属の天使」
――Fata viam invenient――
銀色に輝く砲撃を撃った。その砲撃は天使を呑み込んで空へ消えてった。通過した場所にはなんも残ってへん。ううん、何かが落ちて来た。よう見ればハート2であるホムンクルスやとゆうのが判る。天使はもう憑いてへんようやし、神器書ももうあらへん。それはつまり・・・
「勝った、んか・・・?」
「勝ったです・・・?」
リインと顔を見合わせる。喜びが込み上げて来て大声を上げそうになったんやけど、ドサッてルミナが倒れたのを見て引っ込んだ。
「ルミナ!」「ルミナさん!」
側に駆け寄って「リイン!」ともう1度ユニゾンして、気を失ってるルミナに「静かなる癒し・・・!」を掛ける。そんな中、ケルト十字やった“ツァラトゥストラ”がまた融けて、元の2つの腕輪になってルミナの両手首に戻った。ひょっとしてコレも神器なんやろか。なんかそんな感じがする。
「・・・っ!? あれ、私・・・? いっつ・・・」
「ルミナ!」
『ルミナさん!』
「なんかすごい頭が痛いんだけど・・・っていうか、私、死んだ!? 死んだよね!? じゃあここは有名な死後の世界! もしかしてはやてとリインも死んだ!? 最悪過ぎる!」
ガバッと上半身を起こして頭を抱えるルミナ。天使を斃したこと憶えてへんのやろか。とにかく「ルミナが無事に戻って来てくれて良かった!」ルミナを抱きしめて、生きてくれてることに最大の感謝をしようと思う。
「えっ、どういうこと!? 無事!? 私も、はやてやリインも無事なの!?」
『はいっ、そうですよ! リイン達もルミナさんも生きてるですよ!』
「生き・・・てる・・・、私、生きてる・・・。生きてるよぉ・・・」
ルミナの目からも涙が溢れ出した。わたしはさらにギュッとルミナを抱きしめると、ルミナも抱きしめ返してくれて、「私、生きてるよぉ!」泣き声を上げた。ルミナの背中をポンポンとあやすように優しく叩く。そんなルミナの様子にわたしもまた涙が溢れだす。
「うぅー。ぐすっ、なんか年上なのに、先輩なのに、見っとも無いトコ見せてるね・・・」
「ううん。そんなことあらへんよ。これはしゃあないと思う。誰だって死ぬのは怖いもんな」
『ですよ、ルミナさん」
「ぐす。ありがと、はやて。もう大丈夫」
泣いた所為か恥ずかしい所為か、もしくは両方か、ルミナは顔を真っ赤にしてわたしから離れた。そんでルミナは咳払いを1回して「えと・・・て、天使はどうなった?」そう訊いて周囲を見回した。袖で涙を拭いながらわたしは「天使はその、うん、ルミナが斃したんよ」ありのまま答えた。
「えっ、うそ! 私、何も憶えてないんだけど!」
「何てゆうか、そう、まるでシャルちゃんとシャルロッテさんのような感じに人格が変わったようになって」
口調はそのまんまなんやけど、纏う雰囲気がちょう畏れ多いって感じやった。ルミナは「別の・・・人格・・・」なんか心当たりがあるんか考え込み始めた。そんな時・・・
「主はやて!」「はやて!」「「はやてちゃん!」」
「ルミナ!」「ルミナさん!」
「おーい! 2人とも無事かい!」
意識を取り戻してくれたシグナムとヴィータとシャマルとザフィーラ、それにすずかちゃんとアルフとベッキー先輩とセレスちゃんがこっちに向かって駆けて来た。みんなと合流して改めてハート2の撃破を喜んでると・・・
『こちらジャスミン。対ハート2班の皆さんをこれより本艦へ転送します。その場からしばらく動かないでくださいね』
そうゆうことみたいで、その場でわたしらは待機。シュヴァリエルクラスって言われたハート2をなんとか撃破。ルシル君もシュヴァリエルを倒せたみたいやし。なのはちゃんら対ハート3班はどうなったんやろう。でも不安は無い。シャルロッテさんとフィレス二尉が居ってくれるんやし。きっと勝ってるはずや。
後書き
チャオ・アウム。
あれ、おかしいな。前回と今回と次回で1万5千文字~2万文字の1話にする予定だったのに、きっちり3話分になってしまっている。みんなのちょっと見せ場を作ろうと思ってしまったのがそもそもの失敗。とにかく次回でリンドヴルム編の一応の決着です。
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