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魔法少女リリカルなのはVivid ~己が最強を目指して~

作者:月神
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第4話 「八神家の弟子」

 今日僕は再びミッドチルダの南部に足を向けた。
 このように言うと、またミカヤさんと手合わせをすると思う人も居るかもしれない。けど今回向かっているのは抜刀術天瞳流の道場ではなく、潮風を感じることができる湾岸部の方だ。
 ……正直に言うと、僕であの人の代わりが務まるとは思わないんだけどな。
 僕が今向かっているのは、優秀な騎士として世間にも知られているであろう八神家の方々が開いている道場だ。通称《八神道場》と呼ばれているけど、ミカヤさんのところみたいにちゃんとした道場はなく、いつもトレーニングは浜辺で行われている。
 だからといって道場と呼ばないわけではない。砂地でやっているからこそ経験も多いのだから。何より鍛錬を行ってくれる方々が普通ではありえない。
 基本的に道場に通っている子達を見ているのは、優れた体術と防御魔法の使い手であるザフィーラさん。無口な方ではあるけど、通っている子達の中には彼のことを師匠と呼んでいる子も居たはずなので充分に慕われていると言えるだろう。
 ザフィーラさん以外にも、管理局員への教導経験のあるヴィータさんや剣の達人であるシグナムさんが時間があるときに見てくれている。
 これを踏まえて話を戻すと、今日はシグナムさんも八神道場の稽古を見てくれることになっていた。けれど急な任務が入ったらしく、戻ってこれる時間を考えても今日の参加は不可能。そのためザフィーラさんが僕に代役を頼んできたというわけだ。

「精一杯やるつもりではいるけど……気が重い」

 シグナムさんとは何年も前からたまに剣を交えさせてもらっているというか、稽古してもらっている。稽古する度に上達していると言ってくれるのだが、僕の主観ではシグナムさんの本気は見たことがない。
 魔法ありでやれば違うのかもしれないけど……こちらだけ使ってあちらは使わないみたいになりそうな気がしてならない。それは何か嫌だな……。
 僕は剣を振り始めたのはこの世界に来てからの4年間。
 それに比べて、シグナムさんは僕とは比べ物にならない時間を剣のために費やしているはず。手を抜いて鍛錬する人でもないので、僕よりも遥か高みに居て当然の人ではある。
 それでも……僕はシグナムさんの本気を見てみたい。同じ剣を扱う者として。これを為すには、僕が彼女の本気を引き出す必要がある。言い換えれば、僕が強くなるしかないのだ。
 だから……今日は一応教える立場として赴くけれど、稽古をする相手はザフィーラさん達がみんなで鍛えている子だ。よく観察すれば、ザフィーラさん達の技やそれらが合わさったものが見えてくるはず。
 それにあの子は今年から大会に出場するはずだ。大会で当たったときは互いにベストを尽くして戦うことになるだろうし、その日が来たときのことを考えて稽古中は集中を切らさないようにしないと。

「――よし!」

 気合を入れ直した僕は、道行く人の数が減ったこともあって走り始めた。八神道場が開かれている浜辺までの距離を考えると、ウォーミングアップにはちょうどいい距離だろう。
 周囲に気を付けながら走り続けていると、建物で遮られていた視界が一気に開け遠目に青い海が見えた。それに伴って心地の良い風が吹いてくる。久々の海の香りを感じながらしばらく走り続け、ついに目的地に到着した。
 浜辺にはふたつの影。近づいていくと、浅黒い肌の男性がアップのような練習を行っている短髪の少女を見守っている姿が見えた。

「……来たか」

 こちらの気配に気が付いた男性が静かに話しかけてきた。声や姿からして、僕が知っているザフィーラさんに間違いない。

「お久しぶりですザフィーラさん。待たせてしまってすみません」
「急に頼みごとをしたのはこちらだ。気にする必要はない……さて」

 ザフィーラさんはいったん口を閉じると、少し離れた場所で体を動かしていた少女――ミウラ・リナルディに声を掛ける。名前を呼ばれたミウラは元気良く返事をすると、すぐに意識をこちらに向けた。同時に僕に気が付いたようで、急いでこっちに駆けて来る。

「キリヤさん、お久しぶりです!」
「うん、ミウラ久しぶり……何だか今日は一段と気合が入ってるみたいだね」
「それはお前が稽古相手だからだろう。お前にシグナムの代理を頼んだと言ってからずっとこの調子だ」
「し、師匠、そういうことは言わないでくださいよ!?」

 ミウラは顔を真っ赤に染めながら激しくうろたえる。
 僕の記憶が正しければミウラは今12歳だったはずだ。僕よりも4年ほど遅く生まれていて、インターミドル・チャンピオンズシップにも今年から参加するらしい。
 けどザフィーラさん達に鍛えられてることもあってかなりの実力を持っている……ただ彼女は気が弱くておっちょこちょいなところがあり、また極度の上がり症なのだ。
 僕とは何度も顔を合わせてるミウラも今みたいにからかわれるというか、恥ずかしくなるようなことを言われなければ大丈夫だけど……予選の時は大丈夫かな。
 ミウラとは大会中はライバルという関係になってしまうけど、彼女が毎日のように一生懸命自分を鍛えているのは知っている。そのため、できれば勝ってほしいと思うのは当然だろう。
 ただ大会では運悪く勝負することになることもあるのが現実だ。
 もしそうなった場合、僕は悔いが残らないように全力で戦うだろう。そうしなければミウラにも悪いし、勝っても負けても後悔をしてしまうだろうから。

「あああのキリヤさん、変な誤解とかしないでくださいね。べ、別にボクはキリヤさんだからこういう風に慌ててるわけじゃなくてですね、誰にでもこうなるといいますか!?」
「分かってるよミウラ、とりあえず落ち着いて。ほら深呼吸深呼吸」
「え、あっ、はい。深呼吸ですね……」

 普段から慌ててしまうことが多いだけに立ち直りというか、こういうときはいつも以上に素直になるのかミウラはすぐさま大きく息を吸って吐き始めた。真剣に深呼吸を行って先ほどのことから意識が逸れ始めたのか、徐々に顔の赤みが消えていく。

「大丈夫?」
「はい、大分落ち着きました」
「そう……じゃあそろそろ始めようか」
「そうですね、よろしくお願いします! ……えっと……あとでお話ししてもらえますか?」
「え? あぁうん、もちろん」

 ミウラと会うのは久しぶりだし、お互い今年初めてインターミドル・チャンピオンズシップに出場するのだ。話したいことは山ほどあると言っていい。

「僕もミウラとは色々と話したいからね」
「え……そそそんな風に言ってもらえるとボ、ボクも嬉しいというか……!?」
「ミウラ?」
「――っ!? だ、大丈夫です。大丈夫ですから。じゃあボク準備しますので!」

 ミウラは俊敏な動きで敬礼すると、その勢いのまま振り返って走り始める。停止した場所は、前のトレーニングを行ったときよりも倍近く離れた位置だった。確かにある程度距離を取る必要はあるだろうが、いくら何でもこれは離れすぎだ。

「クロミネ、ミウラももう12歳であれこれと考え始める年頃だ。言葉には気を付けておけ」
「えっと……ミウラが多感な年頃なのは分かります。けど……僕そこまでおかしなこと言いました?」

 甘い言葉を吐いた覚えはないし、体に触れたりもしていない。ただ話したいと言っただけで……。
 まさかこれだけで口説いてるみたいな扱いされたのかな? もしかしてロリコンみたいな認識持たれたり……いやいや、そんなはずないよね。僕は16歳でミウラは12歳。12歳って言葉はよろしくないように思えるけど、世の中にこれくらいの年の差があるカップルや夫婦はたくさんいるはずだし。
 そもそも話したいって言ってきたのは向こうからだし、久しぶりに顔を合わせたわけだから話したいと思うのは普通のことのはず。断じて僕が変態と思われるような言動はしていないはずだ。

「今日はまだ言っていない。が、お前ならさらりと言いかねんからな」
「いやザフィーラさん……僕、一応ミウラのことも異性と思ってますからそういうことを軽はずみで言ったりはしませんよ」
「前に可愛いと言っていた気がするが?」
「え、そんなはず……」

 …………ないとは言えないかもしれない。前にミウラから自分は本当にダメな子なんだ、みたいな話をされたときに言ってしまった気がするし。でもあれは励ましというか……。
 いやこれだと嘘で言ったみたいになるか。実際のところ僕はミウラのことを可愛いと思っているわけで。って、これも何だか誤解されそうな気がする。でも……仕方がないじゃないか。誰だって親しくしてる年下の子は可愛く思えるものだろ!

「まあ今はトレーニングに集中しろ。ミウラはすでに準備万端だ」

 誤解されそうな可能性があるだけにここで打ち切りたくはなかった。が、ミウラに意識を向けてみると、そこには愛機のスターセイバーを起動させて戦闘服を纏っている彼女の姿があった。今日ここを訪れたのはトレーニングがメインなだけに気持ちを切り替える他にない。

「――来てくれ、シュヴァルツアイゼン」

 騎士服を身に纏いながら黒い刀を握り締める。ミウラとの距離がいつも以上に離れているのが気にはなるが、今日の僕は僕としてミウラと手合わせしにきたわけじゃない。シグナムさんの代わりとしてここに居るんだ。
 ――思い出せ……あの人の剣を。
 脳内に保管されているシグナムさんの記憶を高速で辿り、彼女の体捌きや太刀筋を復習する。
 この世界に転生してからしばらくの間、僕は剣や魔法を他人から学んでいない。全て独学だったり、他人のものを見て盗んでばかりいた。
 魔法に関しては資質的に使えるものは限られている。だから技術を盗んだりすることは難しい。
 けれど剣ならば話は別だ。きちんと観察して太刀筋や型、呼吸を理解できれば相手の剣を自分のものにすることは充分に可能。そう思って取り込んでいる内に、僕は《複写剣技》とも呼べるものを完成させることに成功した。

「お前のそれは相変わらずだな。シグナムの剣はそうそう真似できるものではないはずだが」
「完全に自分のものに出来ているわけじゃありませんよ。シグナムさんの本気は見たことがありませんから。なので、これを使って戦ったところで勝ち目はないでしょうね」

 それも当然の話だ。流派が同じでも使用者によって技の威力は異なるのだから。僕とシグナムさんでは剣の技量に明確な差がある以上、今の《複写剣技》で勝てる可能性はないに等しい。
 ただ……シグナムさんの本気の剣技を見切ることが出来たなら話は違ってくる。
 敵の剣術を完全に封殺する方法。これを僕なりに考えた答えは、敵の剣術の欠点をなくした上位互換の剣術を編み出すことだ。これが出来れば、こちらは相手の欠点を知り尽くしていて、尚且つこちらには欠点がない。必然的にあらゆる攻防で優位に立てる。
 まあシグナムさんレベルの剣を見切るのはとても時間が掛かるんだけど。今使えるものも何度も手合わせしてやっと形になったものだし。大会までにもっと仕上げられるといいんだけど。実質僕は剣を使って戦うしか出来ないんだから。

「それは否定せんが……。それにしても……お前の洞察力を考えると、あまりミウラと手合わせはさせたくなくなる」
「あはは……そこまで心配しなくても大丈夫じゃないですかね。大会までまだ時間はありますし」

 僕が手合わせできる人は限られているし、可能な限り情報を集めて対策というか戦い方を練るのが僕のスタイルだ。ここに出入り禁止なんてされると結構……いや非常に困る。まあ言われたら素直に従うけれど。
 ……なんて考えてる場合じゃないか。ミウラはやる気満々だし、久しぶりにミウラと手合わせできるんだ。前のミウラからどれくらい成長したのか体感できる機会なんだし、集中して取り組まないと。

「さて、話はここまでにしましょう。ミウラ、準備はいいかい?」
「はい!」
「なら始めようか」
「はい、よろしくお願いします!」

 
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