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家に帰ると

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第一章

                 家に帰ると
 村上俊介は笑って大田太洸に帰り道に話していた。
「昨日の阪神にはひやひやしたな」
「確かにな」
 太洸もこう俊介に返す。
「もう少しでだったな」
「サヨナラ負けだったな」
「あのファールはな」
「あと数センチでだったな」
「ホームランだった」
「逆転サヨナラホームランな」
 ここでだ、俊介はこうも言った。
「打った方は気持ちがいいが」
「打たれた方はな」
「これ以上嫌なことはない」
 それこそというのだ。
「本当によかった」
「ったくよ、阪神ってな」
 俊介はその色の濃いしっかりとした眉を顰めさせていた、目ははっきりとしていてやや面長だ。黒髪を真ん中で分けたショートにしていて引き締まった身体をしている。背は一七八はある。
 太洸は二重のクールで少し寂しげな目に細めの眉を持っている。肌は白くやや面長な感じで細い髪の毛を左で分けたショートにしている。背は一七一程だ。
 その俊介がだ、こう言うのだ。
「そんな試合多いな」
「他のチームに比べてな」
「サッカーの日本チームも多いけれどな、そんな試合」
「阪神はもっと多いな」
「何であんなにそんな試合が多いんだよ」
 観ていて心臓に悪い試合がだ。
「しかもそれで負けることもな」
「多いからな」
「サヨナラ負けとかな」
「あと逆転負けだな」
「あと一歩で打てないとかな」
「いきなり一本が出たりな」
「そんな試合ばかりだな」
「阪神って何かあるのかよ」
 俊介は心から思い言った。
「何か取り憑いてるのかよ」
「だから甲子園には魔物がいるだろ」
 太洸は怒った感じの俊介に冷静に返した。
「本拠地にな」
「そんなの東京ドームに行けよ」
「それで巨人がか」
「負けちまえよ」
 これまた心からの言葉である。
「あそこは負けていいからな」
「それは同感だな」
 太洸にしてもだ。
「阪神は勝ってな」
「巨人が勝っていいことがあるのかよ」
 日本、いや世界にとってだ。
「ガチャ目でスキンヘッドのおっさんとかシャモジ持って他人の御飯漁るだけの奴とか長嶋と同じ大学ってだけの競馬狂いが悦ぶだけだろ」
「何処mバーゲンにならないしな」
「巨人買って新聞安くなるのかよ」
「なる筈がない」
 そんな話は噂さえ起こらない。
「何もいいことはない」
「そうだろ、けれど巨人が負けたらな」
 全人類普遍の敵である忌まわしいこのチームの敗北はだ。
「見た人が喜んで元気が出てな」
「仕事も勉強もやる気が出るな」
「それでだよ」
「日本自体が元気になってな」
「いいんだよ」
 巨人の敗北を見て人々が元気になってだ、それでだ。
「巨人が負けたら飯が美味い」
「元気が出てな」
「それで日本経済も産業も学問もな」 
 とにかく各分野がだ。
「上向くんだよ」
「本当に巨人は負けてくれないとな」
「それもうんと無様にな」
 どうせ負けるのならだ。
「徹底的に負けてくれていいんだよ」
「巨人は本当にそうだな」
「甲子園に憑いてる魔物なんてな」
 それこそだというのだ。 
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