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一人でも

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第三章

「頂上に行こう」
「そうだな」
 与平も平六の言葉に頷いてだった。
 そのうえでごんも連れて頂上に行った、すると。
 その頂上にだ、白く質素な丈の長い服を着てだった。長い髪と髭の老人が瞑想をしていた。その老人を見てだった。
 平六は与平にだ、こう尋ねた。
「あの人がだね」
「ああ、多分な」
「多分なんだ」
「仙人様だ」
「多分って祖父ちゃん前に会ったことあったんじゃ」
「実はないんだよ、わしも」
 こう孫に言うのだった。
「実はな」
「あっ、そうだったんだ」
「本当におられたんだな」
 その仙人がとだ、与平はしみじみとして言った。その彼の横にいるごんはその仙人と思われる老人を立ったままじっと見ている。
「そのことに驚いてるよ、わしも」
「そうなんだね」
「とにかくな」
「とにかく?」
「仙人様は今はな」
「村のお坊さんみたいに座禅組んでるね」
「あれは瞑想っていうんだ」 
 与平はこう平六に説明した。
「座禅とは似ているがまた違う」
「ふうん、そうなんだ」
「それでな」
「それで?」
「仙人様はまだ瞑想中だからな」
 だからというのだ。
「今は帰るか」
「折角お会いしたのに」
「いや、それでもだ」
「瞑想の邪魔をするのはよくないんだ」
「ああ、だからな」
「もう帰るんだ」
「そうしような」
 こう言ってだ、与平は平六とごんを連れて帰ろうとした。だが。
 ここでだ、その仙人がだ、
 目を開いてだ、二人と一匹に言って来た。
「別にいいぞ」
「あれっ、起きたよ」
「最初から起きている」
 仙人はこう与平に答えた。
「よく来てくれた」
「本当に仙人様がおられるなんてね」
「ははは、ここがわしの家だからな」
「家がないのに?」
「山全体がわしの家なのじゃよ」
 笑ってだ、仙人は与平に話した。
「庵はここから少し離れたところにある」
「それでなんだ」
「言うなら庵が屋敷でな」
 それで、というのだ。
「山全体が庭じゃ」
「そういうことなんでね」
「うむ、まあ誰が来て何を採ってもいい」
「すいません、頂きました」
 与平は頭を下げて仙人に謝罪した。 
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