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逢魔ヶ刻

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第三章

 その長くて太いものは確かにいた、何か嫌な音を立てて動いている。
 それを見てだ、絵里奈は眉を曇らせて言った。
「あれ蛇かしら」
「蛇かな」
「そうじゃないの?動いてるわよ」
「蛇ってあんな大きな蛇いるかな」
 達也は懐疑的な声で尋ねた。
「日本に」
「それは」
「いないよね、あれアナコンダ位あるよ」 
 アマゾンにいる大蛇だ、大きなもので十メートルにもなる。さらに大きなものになると二十メートルを越えるという。
「優にね」
「アナコンダ位って」
「しかも」
 達也はそれを見て言った、見れば確かに動いていて。
 鎌首をもたげてきていた、暗がりで姿はよく見えないが。
 両目が不気味に光ってだ、二人の方を見ているのがわかった。
 それを見てだ、達也は絵里奈に言った。
「僕達の方見てるね」
「ええ、しかも」
 絵里奈もそれを見て言う。
「あの大きさって」
「十メートル以上あるね」
「何処にあんな蛇いたの?」
「さあ、けれどね」
「ええ、ここにいたら」
「僕達食べられるよ」
 大蛇は人を飲み込む、このことからの言葉だ。
「そうなるよ」
「そうよね、じゃあ」
「逃げよう」 
 生命の危険を察してだ、達也は絵里奈に言った。
「ここから」
「それも全速力で」
「うん、逃げよう」
 こう絵里奈に言ってだ、彼女の手を取って。
 達也は実際に駆けだした、後ろは振り返らなかった。
 そのまま必死に駆ける、だが。
 今度は周りからだ、こんな声が聞こえてきた。
「小豆研ごうか」
「!?」
 川の方からだ、聞こえてきた言葉だった。
「それとも人取って食おうか」
「人!?」
「人って」
 二人は駆けながらその言葉にもぎょっとした、だが。
 声はそれだけだった、後はしゃりしゃりと小豆を研ぐ様な音が聞こえるだけだった。
 二人はその声と音にも怯えた、だが。
 駆けるのを止めなかった、達也は絵里奈の手を取ったまま駆け絵里奈も引っ張られながら必死に駆けていた。
 そしてだ、その中で。
 前から猫の群れが来た、その猫達は。
 何故か尻尾が二本ありだ、不気味な声を出していた。
「あの猫って」
「猫又!?」
 二人はその猫達を見て瞬時に思った。
「普通の猫じゃない」
「どう見ても」
「若しあの群れの中に入ったら」
「その時は」
「いや、このまま止まったら」
 達也は咄嗟に判断した。
「そこで襲われるから」
「どうするの?」
「このまま駆けて」
 そしてというのだ。
「あの群れの中にあえて入ってね」
「突き抜けるのね」
「そうしよう」
 是非にというのだ。 
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