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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第四十二話

 さて、ようやくやって来ました三河。
然程長くも無い航海の末に辿り着いたこの地でお別れなわけですが、野郎共が泣いて別れを惜しんでくれて有難いのなんの。
奥州に来ればずっと私と一緒にいられるよ、なんて言ったらアニキに怒られたけど、
遊びに行くとか言ってる辺り押しかけてきそうな予感。
つか、政宗様と面識はあるみたいだけど一体何時会ったのよ。

 「ところで、政宗様のこと何で知ってるの? 奥州と四国じゃ離れ過ぎてるじゃない」

 「あ? ああ、織田を破った時にな。一時的だが同盟を組んだんだよ。そん時に会って話をしたわけだ。
なかなか面白い奴だとは思ったが……まさか、女を手篭めにしようとするとは思わなかったぜ」

 なるほどね、道理で小十郎のこと知ってたわけだ。で、べったりと側にくっ付いているのも見られたと。
ああ、何だか頭が痛くなってきた。
全くこちらを知らない外部の人でさえべったりくっ付いてるなんて見られるなんてさぁ……
あの二人、デキてんじゃねぇのかとか噂流されたら大変だよ。
流れたら訂正しないでそのまま流れっぱなしにすると思うけどね。絶対。

 「……まぁ、若さゆえの過ちって奴だよ。あの人もまだ二十歳過ぎたところだし。
政宗様も反省してるみたいだから、もう私も咎めないことにするからさ。
でも、また同じことやったら今度はアニキの左目になるのもいいかな」

 なんて冗談めかして言ってやれば、少し間をおいてアニキが大笑いする。

 ……何、今の間は。

 「で、三河に着いたがどうすんだ。家康に話をして、奥州まで送ってもらうように言ってもいいが」

 「いや、流石にそこまでは……でも、無事に奥州まで帰れるように話をつけてもらえると有難いかな。
不審者って言われて捕らえられても困るし」

 また毛利の時みたいに、兵に見つかった瞬間捕縛されても困るしね。
知り合いだっていうんなら、それくらいはお願いしてもらってもいいかな。

 ってなわけで、家康さんに通行の許可を貰うべく城へと入っていく。
どうも何度も行き来しているのか、三河の家臣達とも親しげに野郎共が話しているのが印象的だった。

 だってさぁ、海賊と親しげに話してるって結構異様な光景だよ?
まぁ、うちだって族の集まりだし人のことは言えないけどさ。余程親しくなけりゃ、こんな光景は見られるわけがない。
本当、良い付き合いをしてるわけだね。アニキと家康さんは。

 「ところで家康は?」

 「この時間なら、おそらく見張り台にいらっしゃるかと」

 「何だい、国主自ら見張りに立ってるってか?」

 「あ、いいえ。見張り台で寝るのが気持ちいいと常々」

 昼寝ですかい。確かに今日は天気もいいし、風も気持ちがいい。外で寝るには持って来いな気候だもんねぇ……。

 言われた通りに見張り台へと向かっていけば、見張り台の下で男女の笑い声が聞こえてくる。
爽やかな好青年といった男の声と、まだまだ少女といったあどけなさが残るその声は何だか理想のカップルって感じだった。

 「なるほど、元親がなぁ……。まぁ、ここに顔を出すと言っていたから、じきに現れるだろう。それまで待つといい」

 「ありがとうございます、家康さん!」

 ……お? この声ってもしや、鶴姫ちゃん?
おいおい、爽やかなカップルってそれは不味くないかい? まさかの三角関係に発展とか?

 「おう! 家康!」

 そんな私のハラハラを全く気付かずにズカズカと踏み込んでくるアニキは空気が読めていない。
でも向こうも慌てた様子が無いからまだ良いのかしら。

 「おっ、噂をすれば……元親! お前に客が来ているぞ!」

 客、と言われてアニキが少し驚いた顔をした。
そりゃそうだ、家康さんの側にいるのは鶴姫ちゃんなんだから。
つってもさぁ、いくら何でも、客が鶴姫ちゃんだってのは分かるでしょうが。普通に声が聞こえてたわけだし。

 「お、おう、鶴の字……何してやがんだ。こんなとこで……勝負の真っ最中だろうが」

 「分かってます。でも、一応言っておかなきゃと思って、ここで待ってたんです」

 言っておかなきゃって……何だろう、鶴姫ちゃんもその気になってきたとか……?
それなら超展開過ぎて笑えるんだけど。っていうか、良いネタ拾ってきたって思えるんだけど。

 「船に戻って、いろいろとガラクタを弄って動かしてみました。
中には動かないものもあったけど、可愛い仕掛けがたくさん出てきて……あれは、贈り物のつもりだったんですか?」

 おおっと、直球で来ました。いや、まだこれは質問のうちだ。
さぁ、アニキどうする。どう出る? ここで素直になれなきゃ、男が廃るよぉ?

 「たっ……たまたま、作って勿体無ぇからくれてやっただけだ! べ、別に鶴の字にやろうと思って作ったわけじゃねぇ!」

 いやいや、それってどう考えても鶴姫ちゃんにあげたくて作ったって言ってるようなもんだし。
ほら、家康さんも野郎共も、ついでに家康さんの家臣までニヤニヤして見てるし。
でもま、アニキにしちゃ合格点か。素直に言えるくらいなら、そんな不法投棄紛いのことしないだろうしね。

 「ありがとうございます。ゴミなんて言ってごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げてお礼と詫びを言った鶴姫ちゃんに、アニキが呆気に取られている。
その光景に噴き出しそうになったけれど、そこは必死に堪えたもんだ。
まだだ……まだここは、笑うところじゃない。きっとこの先に笑いのポイントが出てくるはず……。

 「へ? ……お、おう」

 ほんのりを顔を赤くして、鶴姫ちゃんの言葉を素直に受け取ったアニキが何だか可愛い。

 「くれるんなら、ちゃんと今度は使い方を教えて下さい。でないと、ゴミなのか贈り物なのか分かりません」

 「お、おう……分かった」

 これはもしかして、上手くいくか? カップル成立か!? アニキ、頑張れ! 押せ、押すんだ!!

 「というわけで、言いたいことは以上です。勝負の途中ですから、先に行きますよ!」

 「へ? え、ちょっ」

 家康さんにお礼を言って、とっとといなくなってしまった鶴姫ちゃんを止めることも出来ず、
アニキはただ見送るしかないといった様子で佇んでいた。

 その情けない様子に堪えきれずに家康さんが笑い転げている。
私も悪いとは思ったけど、もう我慢の限界で同じように大笑いしてしまってアニキに涙目で怒鳴られてしまった。

 「だ、だって……もっ、元親が、元親がぁ……あっはっはっは!!」

 「アニキが可愛過ぎるんだもん! あはははは!!」

 「うっ、煩ぇ! 笑うな!!」

 もー、不器用なんだから。本当、孫市さんに恋の行方を調査してもらって結末を教えてもらおう。この恋の行方は気になる。

 「ところで、元親……こちらは?」

 孫市さんと同じような感じで、しかし笑いすぎて零れた涙を拭いながら私を見る。

 「おう、こいつは小夜って言ってな。あのザビー教に捕らえられてたところを偶然拾ってよ。
奥州に帰りたいってんでここまで送ってきたんだ。家康、そういうわけだから、無事に通れるようにしてやっちゃ貰えねぇか。
俺は奥州には寄らねぇからよ、頼めると助かる」

 アニキの説明に、私は少し驚いていた。
事実を話されると正直困ると思っていたこともあったんだけど、私の不利にならないようにと配慮して話してくれて
改めてアニキの懐の広さを知ったような気がする。まぁ、恋に関してはヘタレの域を出ないけど。

 「ザビー教にか……それは苦労したんだな。分かった、元親の頼みだ。
……まぁ、奥州まで送ってやることは出来ないが、国を無事に抜けられるようにはしよう。
だが、今奥州へ向かうのは少し危ないかもしれないぞ」

 「危ない?」

 「小田原攻めに豊臣が動いていてな、どうも豊臣を狙うべく独眼竜が動こうとしているという情報を得ている。
今から向かうと小田原攻めに巻き込まれる可能性も高い……しばらく、落ち着くまでは何処かで宿を取った方がいい。
何ならワシが手配して」

 「いえ、ありがとうございます。なら、すぐにでも戻らなきゃ」

 豊臣が今どの程度の力を持っているのかは分からないし、BASARAではどういう流れになるのかも知らない。
けど、一つだけ可能性として有り得るのは……伊達はおそらく豊臣には勝てないということ。
全く史実に沿ってないのかと思いきや、意外と大まかな流れは史実に沿ってるのよね。
まぁ、伊達と豊臣が戦ったという話はないけど、流れを考えるのなら負け戦になるのは予想出来る。
だってさ、確か関ヶ原の戦いまでは出てるわけでしょ? シリーズが。
アニメはちょっと設定がアレだけど基本的にシリアス、ゲームはネタで来てるのに、
BASARA3は鬱ヶ原とか言われるほどに重いってのは、どっかで見た覚えがあるもん。

 それを差し引いても、あの竹中さんがどう出るのか……それを考えると少し怖い。
いくら小十郎がいるとは言っても、あの人の才はなかなか侮れないものがある。
下手をすると小十郎を凌駕するかもしれない。あの人の軍略は。

 「伊達に仕える弟がいるんです。早く家に戻って出迎えられるように準備をしておかないと……きっと、許婚も不安だろうし」

 「そうか……ならば、巻き込まれないような道を教えておこう。だが、くれぐれも注意するんだぞ」

 「ありがとうございます」

 そんなわけで、家康さんから奥州までの最短ルートと戦に巻き込まれない迂回路を教えてもらった。
アニキとはここで別れて、とりあえず鶴姫ちゃんと上手くやるようにと応援しておいた。
ま、赤くなって怒鳴られたけどね。

 とりあえず、私が向かう場所は決まった。奥州じゃなくて小田原城へと向かわないと。

 城を出て、誰もいないようなところに向かい、辺りをよく見回して重力の力を発動させる。
コントロールが難しいからあまりやりたくないんだけど、四の五の言ってられる状況じゃない。

 一刻も早く小田原城へ。

 私は空を飛んで、小田原城を目指すことにした。 
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