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第一章

                        鬘 
 フランス王ルイ十三世には悩みがあった、それは何かというと。
 まだ二十代だった、しかし。
 鏡に映る自分自身を見てだ、こう周囲に言うのだった。
「まただ」
「髪の毛がですか」
「それが」
「薄くなっているな」 
 自分の頭を重点的に見ての言葉だ。
「余はまだ若い、若いというのに」
「まあそれは」
「何といいますか」
「これもまたです」
「神の思し召しかと」
「そうではないかと」
「ううむ、神の思し召しにしても」
 それでもとだ、王は困り果てた顔で言うのだった。
「あまりにも惨くはないか、二十代でだ」
「髪の毛が薄くなる」
「そのことが」
「そうだ、何という残酷な運命なのか」
 王は心から嘆いて言った。
「このことを何とすればいいのか」
「難しいですな」
「冠で隠すことも出来ますが」
「帽子等で」
「そうしたことも」
「しかしそれは髪の毛ではない」
 だからだとだ、王は周囲に答えた。
「あからさま過ぎる、ここは周囲に髪の毛だとわかる様な」
「そうした感じで、ですか」
「頭を隠したい」
「そうされたいのですか」
「そうだ、そういえばユリウス=カエサルもだ」
 王はここでローマの英雄の名前を出した。
「髪の毛が、だったな」
「はい、確か前髪がですね」
「薄くなっていてですね」
「本人はかなり気にしていた」
「そうだったのですね」
「そうだったな、だが余はカエサル以上に深刻だ」
 その髪の毛の状況がというのだ。
「まさに伐採し尽くした森林ではないか、このままでは草原ですらなくなってしまう」
「陛下、そこまで仰るのは」
「どうにも」
「しかしだ、実際にこうなっているからだ」
 それで、というのだ。王は。
「何とかしたい」
「では我等もです」
「何か見付けてみます」
「そして陛下のお悩みをです」
「解決してみせます」
「頼むぞ」
 王も必死だった、それでだ。
 周囲にも頼むのだった、その中には学者達もいてだ。
 学者の一人がだ、王に言った。
「鬘はどうでしょうか」
「鬘だと」
「羊等の毛を髪の毛の様に仕立ててです」
 そしてというのだ。
「頭に被るものです」
「そうしたものがあるのか」
「かつてのエジプトやローマにはありました」
「そのカエサルのか」
「はい、エジプトにもです」
 この国にもだ、その鬘というものがあったというのだ。
「古代エジプトではわざわざ髪の毛を剃ってです」
「そのうえでか」
「その鬘を被っていたのです」
「そうだったのだな」
「実際にローマでは、その」
 ここから先はだ、学者は口ごもってだった。
 視線を泳がせてだ、こう言ったのだった。
「何といいますか」
「余のことだな」
「申し訳ありません」
「よい、そのことについての話だからな」 
 王にしてもこう言うしかなかった、最初からこう言うつもりだったにしても。 
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