キル=ユー
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5部分:第五章
第五章
車は黒のジャガーだ。アメリカの車よりイタリアの車が好きだ。
よくイタリアの車は故障が多いだの手抜きだらけだの言われる。だが外見は一番いい。それに何より乗っていると空気が違う。イタリアの車にしかない空気だ。
「アメリカや日本の車にはこんな空気はないからな」
乗っていていつも感じる。この風を切れる空気だ。やたらとでかいアメリカの車や性能はいいがどうにも線の細い日本の車にはない。イタリアの車にしかないこの空気が俺は好きだった。
俺はハーレムのあるホテルに車を入れた。そしてそこのフロントに向かう。
「お一人様ですか?」
アフリカ系のボーイが俺に尋ねてきた。ここは普段は悪い遊びに使うホテルじゃない。けれどこの時の俺は金があったのでそうした遊びに使うことにした。それだけだ。
「今は一人だけれどな」
俺は言った。
「後で一人増えるけれどいいかい?」
「ええ、いいですよ」
事情はわかっていてもそれを口にしないのがホテルマンというやつだ。この兄ちゃんはそれがわかっていた。
「それじゃあ。部屋は」
あえて高い部屋を選んだ。そしてその部屋のキーを受けてそこに向かう。部屋に入るとあの斡旋屋に電話をかけた。
「おっ、今からだよな」
「ああ」
俺はその言葉に頷いた。
「場所は何処だい?」
「場所はな」
俺は今いるホテルと部屋を教えた。
「わかった。じゃあそっちにチョコレートアイスを差し入れるな」
「楽しみに待ってるぜ」
俺は服を脱いでシャワーを浴びた。そして下着はそのままにしてガウンで待った。暫くソファーでくつろいでいると部屋のチャイムが鳴った。
「来たな」
すぐにわかった。立ち上がってドアの方へ向かう。
「どちら様で?」
「あの」
応対で聞くと女の声が返ってきた。
「ここに来るように言われまして」
「斡旋屋にかい?」
「はい。よかったら開けてくれますか」
用心の為にガウンの下にはピストルを忍ばせている。何があるかわからない仕事だから用心の為だ。
「どうぞ」
俺はドアを開けた。するとそこにはチョコレートアイスが差し入れられていた。
「はじめまして」
見ればモデルばりの綺麗なスタイルのアフリカ系の女の子がいた。唇は薄く、顔の彫は深い。髪はブロンドで長く波がかっていて目はブルーだった。
脚は素足でジーンズのミニだった。タンクトップのシャツからは胸がこぼれそうだった。斡旋屋が胸を張って紹介するだけはあった。
「私で。いいですか?」
「俺は美人は大好きでね」
俺は笑ってこう返した。
「断る理由も見当たらないな。入りなよ」
「はい」
こうして彼女を部屋に入れた。その時彼女が持っていたバッグに書かれた文字が目に入った。
『L』
そこには一文字だけ書かれていた。それがやけに目に入った。赤くて大きな文字だった。
「・・・・・・・・・」
「あの」
少女はまた声をかけてきた。
「!?何だい」
俺はその声にはっとして顔を彼女の顔に向けた。
「お金は」
「おっと、済まない」
ふとそれに気付いてかけてあるスーツから財布を取り出す。そして札束を数枚彼女に手渡した。
「悪いな、忘れていた」
「いえ。それじゃあ」
「シャワーかい?」
「はい。暫くベッドで待っていてくれますか?」
「それも悪くはないけどな」
彼女の魅力的なボディについ目がいった。するすると近付く。
「一緒に。浴びてもいいかい?」
「一緒にですか?」
「ああ」
彼女の耳元で囁く。買ったとはいえお互い楽しまなくちゃ損ってもんだ。男と女ってやつはどんな時であれ恋ってやつがなければ駄目だ。こんな仕事でも一瞬のことでもだ。そうでないと味気ない人生になっちまう。これが如何にもイタリア的だと言われるがそんなことはどうでもいい。
「どうかな。君が嫌ならいいんだけどな」
「いえ、それでいいですけど」
思ったよりサービスのいい娘だった。やっぱり紹介されるだけのことはある。
「それじゃあ一緒に入るか」
「はい」
そしてそのままシャワーを浴びながら楽しんだ。ひとしきり楽しんだ後で二人でシャワールームを出た。
「中々よかったよ」
「貴方こそ」
女の子を楽しませるのなら殺しの仕事より得意だ。殺し屋になる前はホストとジゴロをやっていた。
彼女はうっとりとした声になっていた。いいのは外見だけじゃなかった。服の下のボディはまた女神のものだった。
「こんなことって」
「今までの男とは違うだろ」
「はい」
熱い声で応えてくれた。
「けれどまだ終わりじゃないぜ。次はベッドで」
「ベッドで」
「楽しませてくれよ。存分にな」
「わかりました」
「けれどその前に一休みするか」
俺はそう言って部屋の冷蔵庫を開けた。
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