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ネクストブリーフィング

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ネクストブリーフィング

 
前書き
銭形の設定は、『ある新米巡査の思い出』 http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~14067 からの流用。 

 
 鹿内のブリーフィングの後、重苦しい空気が流れるが彼の後にも発表者は控えているのだった。
 与党の派閥争いから新党旗揚げによって政権を得た新首相は、それゆえに官僚達を掌握しきれていなかった。
 複数の政党の寄せ集めによって政権交代を成し遂げたはいいが、議席数では三位に甘んじている首相は勉強会という形で、各省庁の反主流派をかき集めて己の手足を確保するのに躍起だったのである。
 ここはそんな彼の頭脳であり、政策意思決定の奥の院でもある。
 衝撃的な発表があろうと、次の人間は控えているのである。

「湾岸戦争後、相次いだ東側国家の崩壊に対して、北日本政府はその政体を維持し続けています。
 その理由の一つは彼らの持つ核戦力である事はここにいる皆様にはお分かりだと思います」

 鹿内の次の発表者は、トレードマークのトレンチコートを着ていつもと同じように話す。
 鹿内が諜報等の裏の顔ならば、彼は警察と言う表の顔だった。

「あの銭型警部か?」
「強引に警視に出世させられて、警視庁新設の管理官として参加らしい」
「警視総監の説得すら首を横に振ったのに……」
「総理大臣自ら口説いたそうだ」
「後ろに居るのは後藤田長官だとか」

 そんなざわめきなど気にせずに、銭型は続きを口にする。
 彼はルパン逮捕の為に世界中何処でも問答無用で駆け回る事ができた。
 それをルパン逮捕だけに使うという贅沢を分断国家の日本がする訳もなく、彼のスタッフには多くのSRI職員--ニンジャコマンド--が配備されていたのである。
 彼らの手を持ってしてもルパン三世は今だ捕まっても殺されても居ない。
 それが、ルパン三世と彼を追う銭形の凄さを際立たせていた。
 
「ドロア内戦による東ドロア崩壊。
 ソ連のアフガン介入、ベルリンの壁崩壊、そして湾岸戦争。
 東側の崩壊の主たる要因はこれらの事例ですが、同時にこれらの介入に北日本政府は兵力を派遣して実戦経験を詰んできています。
 で、彼らの経済的見返りは何処にあるのか?」

 兵を出すにも金がかかる。
 北日本政府のバックであったソ連は経済崩壊の果てに国そのものが無くなった。
 彼らの資金源はどこなのか?

「捜査の結果、思わぬスポンサーの名前が浮かび上がってきました。
 カリオストロ公国による偽札偽造事件ですが、当時の大口の顧客にソ連がおりました。
 彼等はこの偽札をアフガン介入の資金にするつもりだったのですが、あてが外れてその後の崩壊に繋がっております。
 にも関わらず、現在においてでもブラックマーケットを中心にある一定量の偽札が出回っております」

 プロジェクターに次々と偽札が映し出される。
 そのどれもが精巧な出来で本物と見分けがつかない。

「『スーパーJ』。
 我々はそう呼んでおります。
 北日本政府が秘密裏に用意したこの偽札は資源国を中心に流通し、彼らの財務を助ける手段となっているのです」

 幽霊の正体見たり枯れ尾花。
 正体がわかれば怖くは無いと安堵の空気が流れる中、銭型と事前に知らされていた鹿内だけが厳しい顔のままだった。

「偽札が種かと皆様安堵の顔をなさっておられるが、本物のと区別のつかない精巧な偽者を作る技術をかの国が有している。
 そこは紛れの無い事実です。
 我々はカリオストロ公国の技術者の数人が北日本政府に雇われた事を掴んでおります。
 そして、カリオストロ公国よりはるかに国力のある北日本政府はそれに全力を出してきた。
 我々がバブルに浮かれてその後始末に苦しんでいる何分の一かは彼らの偽札によるものです」

 80年後半からのバブルとその崩壊によって日本経済は深刻なダメージを受けていた。
 その理由であるマネーの流入の大きな水源の一つが資源国にばら撒かれたこれら偽札である事を掴んでいたのである。
 後始末に追われて狂奔している大蔵省はそれゆえに北日本政府を敵視していた。
 参加者の顔が引き締まるのを見て銭型管理官は話を続ける。

「北日本政府はただ同然の偽札によって資源を得て、それを加工して東側に売る事で経済を回しています。
 では、それによって得た利益は何処に注がれているか?
 核です」

 参加者に納得の色が浮かぶ。
 話が繋がったからだが、銭型管理官はまだ壇上から降りない。
 更なる爆弾が炸裂したのはこの後の事である。

「先ほど鹿内氏の発言にもありましたが、彼らが大量のプルトニウムの確保に成功したそうですが、それに伴ってミサイルも更新されています。
 彼らの用意したミサイルは東側の核ミサイルではありません。
 西側のタイタンミサイルの改良型なのです」

 会場がざわつく。
 その空気の変化など気にする事なく、彼はプロジェクターを動かし一枚の小男の写真を写した。

「マモー。
 ハワード・ロックウッドと言った方がよろしいでしょうか?
 金融・情報関連を中心に世界の富を集めた謎の大富豪。
 そして、東西両陣営に喧嘩を売りコロンビアで死亡した彼は、自前の核戦力とクローン技術持っていました。
 彼の死亡後、ハワード財団は東西両陣営に分割併合されますが、その莫大な資産と技術を保護したのが北日本政府です」

 核よりもやばい言葉が飛び出て、参加者が皆口を噤む。
 鹿内だけは嘘つきにならずに済んだと安堵するどころか、嘘から出たろくでもない何かに頭を抱えていたのだが。
 人の欲望に不老不死はつきもので、それが独裁者と繋がれば必然的に何が待っているのか言うまでもない。
 
「クローン……か?」

 首相が声を出す。
 明確な意味を持っていなかった言葉に意味を与えたのは、銭形だった。

「こちらは、旧東側諸国の医療関連技術の売り上げですが、ある時を境に医療大国であるキューバを抜いて北日本政府が一位になっています。
 そして、これが川宮哲夫ですが写真をご覧ください」

 昔の川宮勝次とそっくりだった。
 親子というより双子と言った方が良いぐらいに。

「川宮勝次のクローンというのか?」

 首相の言葉に銭形が首を横に振った。
 それだったら良かったのにという表情で。

「川宮勝次に似せたマモーのクローンである可能性があります」

「証拠は?
 証拠はあるのかね?」

 首相の言葉に銭形が淡々と返事をする。
 その顔にはある種の説得力があった。

「北日本政府の諜報機関NSDと軍が対立しているのはご存知だと思いますが、独裁者は本来軍を信用せずに諜報機関を重宝する傾向があります。
 にも関わらず、川宮哲夫は軍についた」

「状況証拠ではないか!」

「ええ。
 状況証拠です。
 ですが、彼が直轄指揮下においている戦略ミサイル軍のICBMがタイタンである事の説明は?
 最後の切り札である核ミサイルを精度が良いとはいえ、東側から西側に変える。
 猜疑心の塊である独裁者がそれをみとめますか?」

「……」

 返事を返せない首相を見たまま、銭形は更にプロジェクターを動かした。
 そこには、隻眼の男が移っていた。

「ヤエル奥崎。
 東ドロア政府の工作員であり、ガラミティファイルの処刑人の一人。
 これはSRIからの提供ですが、この写真この間取られたものだそうで。
 で、こっちは東ドロア在籍時の写真」

 プロジェクターの中で、二つの写真が重なり一つとなる。
 誰も何も言わない。
 いえない。

「ドロア内戦は70年代。
 もうおっさんになっていておかしくないのに、この瓜二つぶり。
 東日本政府はクローンを稼動状態にあると判断します」

 核の次はクローンである。
 もう何が出てきてもおかしくないが、時間は誰にでも平等に流れる。
 銭形管理官の持ち時間はなくなろうとしており、彼はこの場での結論を首相に告げた。

「鹿内氏は『やられる前にやれ』と先の発言でおっしゃっていました。
 私が提案するのは、その『やる理由』の提示です」

「提示?」

 北日本のお家争いはあくまで内紛であり、外部勢力の介入という形になれば、建前上はこちらが悪となる。
 その為、北日本へ電撃侵攻する為にも、諸外国のみならず国民に分かりやすい理由が絶対に必要だった。

「はっ。
 北日本が合衆国軍への先制攻撃をかけた事で日米安全保障条約は発動して参戦が可能になります。
 私が提案するのは、北日本政府が合衆国軍に先制攻撃をかける十分な『理由』です」

 彼等とて好きに戦争をしたい訳ではない。
 合衆国軍の演習で理性が働いて自制する可能性があった。
 彼らにその理性を取り除いてもらわないといけない。
 銭形管理官は、彼らしからぬ気障さで--まるで日独戦が描かれた架空戦記の将校のように--それを告げたのである。
 
「私は、カリオストロ方式を提案いたします」



「カリオストロ方式ね。
 宇宙中継で逃げ場のないような場所で、その犯罪を暴露するか。
 貴方のお得意になってますね」

「そうでもありません。
 あくまで、ルパンを追ってたまたま偽札を見つけただけの事」

 ブリーフィング終了後、残った鹿内に銭形が煙草を差し出す。
 火をつけて紫煙をくべらせながら、二人の大嘘つきは笑い、鹿内は銭形に向けて正体をばらす。

「で、自分をダシにしての戦争を考えるなんてどういう了見だい?
 ルパン君」

「ばーれちゃしかたねぇや。
 で、鹿内さんだっけ?
 何時から気づいてた?」

 ルパンは銭形の顔をつけたまま声だけを変える。
 逃げないし逃げる必要も無い。
 お互い初対面だが、利害は一致していたのである。

「最初から。
 SRIは彼をスパイマスターとして24時間監視対象にしているのだよ。
 本人はそんな事まったく気づいていないというか、気にしていないがね。
 今頃は、彼はこっちに向かってくる頃じゃないかな。
 君の偽情報に踊らされてね」

「さすがは天下のトウキョウ・フーチ。
 抜かりの無いことで。
 何で、そこまで知ってて俺を使った?」

 彼との会話を思いながら、NSDとの楽しい思い出を鹿内は思い出す。
 互いに何かしくじったら命を落とす。
 これはそういう会話なのだと体が理解する。
 だからこそ、鹿内は笑った。
 哀れなKGBのスパイをはめて助けた時のように。

「諜報の世界なんて、正義と悪なんて綺麗事で片付く訳も無いからね。
 使えるか、使えないかだけさ。
 で、君とマモーの因縁を知っていたこっちは、それを使えば宣戦布告のいい理由になると気づいた」

「いけすかないなぁ。
 あんたと話していると、スタッキー大統領特別補佐官と話しているみたいだ。
 で、独裁者がためこんだお宝はもらってもいいのだろう?」

 ルパンはおどけた調子で取り分を要求する。
 祖国統一という日本民族の悲願の前ならば、核で焼かれる合衆国軍と同じく独裁者のお宝も等しく鹿内の前では無価値なのを知っての物言いである。

「構わんよ。
 しかし、影の大統領と呼ばれた人と同じ扱いは光栄だね。
 そろそろ行き給え。
 彼がやってくる時間だ」

 そう言うと、階段から騒がしい声が聞こえてくる。
 横を見ると既に銭形に化けたルパンの姿は無い。
 これが天下の大泥棒かと鹿内が関心したら、トレンチコート姿の銭形が凄い形相で駆けてきた。


「今、ここに俺が来なかったか!?」


 統一戦争と呼ばれるこの戦争において、政府が用意した開戦理由は有効に機能した。
 ルパン捜査官である銭形管理官から『ルパンの予告状が北日本政府に届いた事』を公表。
 彼と彼の捜査員を入国させるように、要請するが北日本政府は拒否。
 さらに、ルパン自身からの挑発によって、核ミサイルが米タイタンミサイルである事が暴露された米政府が核ミサイルの即時引き渡しを要求。
 川宮勝次の死亡による権力争い待っただ中の北日本政府はこれを黙殺し、米国の介入に乗っかる形で統一戦争を仕掛けたのである。
 ただ、誤算といえば軍の実力者である藤堂守によって戦術核の飽和攻撃が行われ、介入した米軍が初撃で壊滅した事だろう。
 これによって、短くも熱い統一戦争は日本人同士の殴り合いによって決着し、米国は東アジアにおける影響力を大幅に喪失する事になった。 
 

 
後書き
元々、マモーのクローン残党の復讐ものを書こうかとネタを暖めていたけど「征途で同人誌作るから何か一本書いて」という話で流用したもの。
ルパン世界と征途世界って結構相性が良くていろいろ書きたいけど、時間がないのでここまでで不法投棄。

元ネタは以下のとおり。

『ルパン対複製人間』
『カリオストロの城』
『次元大介の墓標』

 ヤエル奥崎を中ボス、マモークローンをラスボスもどきにして、ガチで当たるのは藤堂守コンドラチェンコという夢の共演を考えていたけど到底書ききる技量もないので、誰か書いてください。
 最後は核サイロで大和の主砲が落ちてくるまでのルパンとの対決は見えるのだが、そこまでの過程が真っ白なんだよなぁ。 
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