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真田十勇士

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巻ノ十六 千利休その十二

 家臣達に顔を向けてだ、こう言った。
「では奈良から伊勢、そしてじゃ」
「尾張に入り」
「そして徳川殿のご領地にですな」
「入られ」
「そうしてですな」
「徳川殿のご領地を見て」
「そして上田にですな」
 戻るとだ、彼等も応えてだった。
 幸村主従は利休と別れを告げて堺を後にした。そこから東に進み奈良に向かうのだった。
 その奈良への道中においてだ、幸村は家臣達に言った。
「奈良か、思えばあの町もじゃ」
「行かれたことはない」
「左様でありますか」
「伊勢もじゃ」
 奈良の次に向かうその国もというのだ。
「はじめてじゃ」
「それならば余計にです」
 伊佐は幸村のその言葉を聞いて進言した。
「奈良、伊勢に行かれるべきです」
「見る為にじゃな」
「はい、どちらも」 
 奈良も伊勢もというのだ。
「本朝において尊い場所なのですから」
「寺社があってじゃな」
「そうです、どちらもです」
「都もそうであったが」
「奈良もそうです」
「東大寺や春日大社か」
「他にもあります、長谷寺もありますし」
 伊佐はこの寺のことも話した。
「行かれるべきです」
「そうか、ではな」
「そして伊勢もです」
 この場所もというのだ。
「行かれて下さい」
「そうするとしよう」
「伊勢はよい場所です」
 こうしみじみとして言ったのは根津だった。
「あの神宮も是非です」
「行くべきであるからじゃな」
「そうです、行きましょうぞ」
 そこもというのだ。
「奈良の後は」
「そして尾張も」
「あそこもまた」
「考えてみると帰りも行く場所が多いですな」
 望月は話を聞きつつ腕を組んで言った。
「どうにも」
「そうであるな、確かに」
「帰るだけではなく」
「これが旅というものか」
「行きも帰りも何かとあり」
「見るものが多い」
「そうしたものですか」
 こうも言うのだった、幸村と話しつつ。
「それがしこれまで旅は何度もしましたが」
「それでもか」
「こうした旅ははじめてでした」
 望月にとってはというのだ。
「ここまで多くのことがあった旅は」
「こうして十一人揃ったしのう」
 穴山は笑って言った。
「殿とな」
「我等が揃ったのが行き」
 筧も言う。
「そして帰りもな」
「色々なものを見ることになるか」 
 穴山は筧にも笑みで応えた。
「上田に戻るまで」
「そうじゃな、そして上田に戻ると」
 その時はとも言う筧だった。 
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