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茂みの声

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1部分:第一章


第一章

                    茂みの音
 中学校の放送部のミーティングで。不意にこの話が出た。
「そういえば俺さ」
「何だ?」
「ちょっと考えたんだけれどな」
 面長で黒い髪を長くしている学生がふと言ってきた。顔は色黒な感じで寡黙な印象を与える。しかしそれに反して案外話していた。
「考えた?何をだよ」
「録音してみようかなって思ってるんだよ」
 こう皆に言うのだった。机を円卓にしてそこでの話だった。
「ちょっとな」
「録音!?」
「ああ」
 彼はまた皆に答えた。
「それな。やろうかなって」
「おい天野」
 その彼に部員の一人が声をかけてきた。丁度彼の隣にいる髪の上の方を茶色にして横は黒くしている。その彼が声をかけたのだった。
「それで何処を録音するんだ?」
「ああ、原田」
 天野も原田の名前をここで呼んで応えた。
「山の音をな」
「山の音!?何だそりゃ」
「ちょっと聞いたことがあるんだ」
 こう前置きしてから言葉を続ける。
「聞いたことって何だよ」
「山にラジカセとかを録音できる状態にして置いておくだろ」
「ああ、それで?」
「そうすると色々な声が入っているらしいんだよ」
 彼はそう原田と他の部員達に対して述べた。
「それをちょっとやってみたくてな」
「何か滅茶苦茶眉唾な話だな」
 原田は天野のその話を聞いて眉を顰めさせた。
「それってな」
「そうか?」
「で、その声って何なんだよ」
「それが色々な噂があるんだ」
 天野はこう原田に対して話すのだった。
「色々な?」
「妖精とかそういうのの声がな。入っているっていうんだよ」
「何か余計に眉唾だな」
 原田は天野のその話を聞いてさらに眉を顰めさせるのだった。
「妖精か!?」
「ああ。信じないか」
「信じろっていう方が無理だと思わないか」
 原田はこう天野に言葉を返した。
「普通に考えてな」
「まあそうだがな」
 天野もそれはある程度わかっているようだった。嫌そうな顔をせず答えたのだった。
「それでも一応やってみようと思ってな」
「何だかな。何もないと思うがな」
「けれどあれじゃない?」
 ここで女の子の声がした。見ればそこにはセーターを制服の腰のところで巻いて茶色の癖のある長い髪を少し縦でカールにさせた女の子がいた。目が大きく丸い。ぱっちりとしている。少し太めな感じであるが肌は奇麗で目の光も強い。小さな赤い唇が微笑んでいる。
「それで何か入っていたら面白いじゃない」
「福田」
 原田は彼女に顔を向けて彼女の名を呼んだ。
「御前はそれでいいのか」
「駄目で元々よ」
 今度はかなり投げ槍とも思える発言だった。
「できたら御の字。だって功成君の考えたことだし」
「おい、幾ら何でもその言い方はないだろ」
「だって功成君っていつも簡単に騙されたりやはりそういうことだったかって言って全然話が違っていたりしてるから」
 福田の言葉は容赦がない。
「あてにならないのよ」
「幾ら何でも御前に言われたくはないんだが」
 天野も天野で福田に対して反撃する。
「一回でもいいからまともにクロスワードパズル解け」
「麻奈クロスワード得意なのよ」
「何処がだ」
 天野は福田の今の言葉を即刻否定した。
「毎回毎回俺か原田が全部答え書いてるじゃないか。この前なんか静脈が筋肉だとか書いていたよな」
「そうだったっけ」
「そうだ。それで行ける高校あるんだろうな」
「一応。それは安心していいから」
「全くそれでだ、原田」
 福田との話が一段落したところで原田に顔を向けてまた声をかけた。
「御前は反対か?」
「何もないと思うがな」
 原田は腕を組んで天野の言葉に答える。
「それでもな。やるのはただだしな」
「いいか」
「これで部費がかかってたら絶対駄目だな」
 そこははっきりと言い切るのだった。
「ただでさえこの写真部予算の使い方が滅茶苦茶だって言われるからな」
「高寺先生のせいじゃない」
 福田はここでその顔を少しむすっとさせた。それでも携帯をいじっているのがどうにも不真面目な態度に見えて仕方がない。
「変なところに予算注ぎ込んでそれが今までの部費の二倍じゃない。スケジュールの管理も先生が全部やるのはいいけれど毎回毎回ギリギリ越えてるし」
「何であんな人が顧問なんだ?」
「校長先生の制止を振り切って強引になってるんだよ」
 原田はうんざりする顔で天野に答えた。
 
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