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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第四十九話 学校までの道その九

「褒められた親じゃないから」
「だからなのね」
「そう、あまり誰にもね」
「会わせたくない」
「そうなんだよ」
 僕の偽らざる本音だ。
「だから八条荘の皆にも会わせたくないよ」
「じゃあ今イタリアにいることは好都合?」
「好都合かっていうとね」
 そう聞かれるとだ。
「親父が急にイタリアに行ってそこから僕は八条荘の管理人になったからね」
「その辺り急にお話が進んだのよね」
「ご本家の総帥さんも絡んでね」
「八条家の」
「そう、家長さんがね」
 八条家のだ。
「あの人が決められたみたいだしね」
「凄く偉い人よね」
「僕には優しいけれどね」
 分家筋でしかも末流と言っていい僕にもだ、家長さんは本当に優しい。それで何かと世話もしてくれたりする。八条荘のことにしても。
「何しろ一族の総帥さんだから」
「確か相当なお爺さんよね」
「うん、それでいつも和服を着ておられて」
「和服お好きなのね」
「そうみたいなんだ、吉田茂かな」
 僕はふとかつての総理大臣を思いだした。
「風格的に」
「ああ、終戦直後の総理大臣だった」
「あんな感じかな、ステッキも持っておられるし」
「葉巻も?」
「葉巻は吸われないけれどね」
 もっと言えば煙草自体を吸われない。
「薔薇もスコッチもお好きでね」
「洒落た感じの人なの」
「そうしたところもある方だよ。雅楽もお好きで」
 それでうちの学園の雅楽部の演奏にも来られたりする。
「音楽もお好きなんだ」
「何かドンって感じ?」
「うん、昔ながらのね」
「昔の政治漫画とかに出て来そうね」
「そうかもね、政界の黒幕とか右翼のドンとか」
 何か昔の政治漫画ではよく出て来たキャラクターだ。
「そんな風格の方だよ」
「それで義和は総帥さんによくしてもらってるの」
「だから八条荘の管理人になってるんだ」
「若し管理人じゃなかったらどうなってたの?」
「ううん、家はなくなってたし」
 まずこのことは確実だった。
「親父から仕送りがあってもね」
「それでもなのね」
「アパートを借りるか寮に入るか」
「そうしてたのね」
「多分ね。そうなってたと思うよ」
 学校はそのままでだ。
「少なくとも今みたいにはなってないね」
「全部総帥さんのお陰なのね」
「そうなんだ、あの人のお陰で」
 最終的な決定はあの人がしてくれたらしい、畑中さんからも聞いている。
「今八条荘にいるからね」
「私達とね」
「そう思うとね」
「総帥さんにはなのね」
「感謝してるよ、親父が言うには怖い人だけれど」
 あの親父の言葉ではだ。
「僕には優しい人だよ、他の人にもね」
「あの、ひょっとしてそれは」
「うん、親父の素行は一族の頭痛の種だからね」
 まさにそれに他ならないからだ。
「総帥さんも怒っておられるんだ」
「怒られるには理由があるのね」
「まあね、それでも勘当されないだけね」
 親父が言うには義絶だ、太宰治さんが実家から受けたこともあるらしい一族からの完全な離縁のことだ。 
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