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木の葉詰め合わせ=IF=

作者:半月
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IF 完全平和ルート
ススメシリーズ
  結婚相手のススメ

 私の初恋はまず間違いなくあのお方でした。

 そこらの男共が束に成っても敵わぬ程勇ましい性格に凛々しい気質をお持ちのあの方が、実は同性であったと知った時の悲しみは幼い私の心に衝撃こそ与えましたが、恐らくあの方が男でも女でも私があの方を好きになっていた事に変わりはなかったでしょう。

 ふふふ。どんな方だったか、ですか?
 先程も言ったでしょう、クシナ。
 とっても勇ましく、誇り高く凛々しいお人だったのですよ。そして誰よりもお強く、生き生きとしていて眩い程に輝いておられたお方でした。
 とっても親切でお優しい人でね、親元を離れて千手へと預けられた私に本当の家族……いえ、それ以上の愛情を注いで下さったのよ。

 ただ正直性格が男気に溢れ過ぎていたせいなのか、それともあの方の生来の強さが理由と成ったのか……。
 詳しい事はよく分かりませんが、世の人々はあの方の事を男だと誤認しておりましたの。
 ご本人も勘違いされている事に特に気を止める事なくこれ幸いと男性として振る舞っておりました故……私としてはなんとかしてあの方に女子として振る舞っていただけないかと少々策を巡らせたりしましたのよ?

 でもねぇ……。
 まさかそれが巡りに巡ってあの様な事態を引き起こすだなんて、想像すらしておりませんでしたわ。

 あら、気になるのですか?
 いいでしょう、旧い話に成るけど聞いてくれますね?

 あれはそう……。暑い夏の日でしたの。
 あのお方は長い間偽って来たご自身の性別を白日の下に晒して、木の葉の頂点である火影として書類仕事に精を出しておりました。
 そんな時ですわ。兼ねてより交流のあった他国の者達が火影であったあのお方の下へとご機嫌伺いに参ったのです。
 こちらも里を治める者として、礼を損ねる身なりで相対する訳にはいかないでしょう?
 ですから、早速私は滅多に身を飾ろうとしないあの方のために、精一杯腕を振るいましたのよ。

 夏の暑い日でしたから、涼し気な空色の和装を蓮の花を散らした帯で留めて……長い御髪を丁寧に結い上げて金色の飾りで留めれば――それはもう、惚れ惚れとする様な出来合いでした。

 今でも目に浮かびますわ。あら、クシナも? そう、それは嬉しい事ね。

 元々お顔の造形は整っておられる方でしたから、少々紅を差されるだけで普段の印象から一転してまるで別人の様になられるお姿はまるで魔法のようでした。

 そうね……。少しでも触れてしまえば、直ぐさま儚く消えていってしまいそうな……深い森の奥に現れる木々の精の様な……そんな神秘的な雰囲気でしたわ――口さえ開かなければ、と注意書きが必要でしたけど。

 それはもう私だけでなく、ご機嫌伺いに参った方々までもが思う存分目の保養をさせていただきましたのよ。

 ……ところがです。
 無事に挨拶も終わり、あのお方と二人で部屋へと戻ろうとしている最中にあの男が偶々、そう偶々通りかかったのです。
 あの男が誰かって……?
 そうね、まだクシナは知らなかったのかしら。一度しか言いませんわよ、あの男の名をうちはマダラと言うのです。
 兼ねてからあのお方の……認めたくないですけど好敵手として、あのお方に継ぐ実力の持ち主として、忍界にその名を知られておりましたわ。

 ですけど、性格はいたって礼儀知らずの傲岸不遜な男で……ことあるごとにあのお方へと突っかかって……思い出すだけて眉間に皺が、あらいやだ。
 あのお方がまたあの男の振る舞いを笑って許容なされるから、あの男もますますつけあがって……まあ、私の顔が恐い?

 ごめんなさいね。そんなつもりは無かったのだけれども。
 ついつい……。

 そうそう。それで、二人が顔を合わせてどうなったか、ですって?

 その頃にはあの男の方もあのお方の性別を知っていましたからね。
 女子の衣装をまとったあの方を見ても、微かに目を見開いただけでしたわ。

 取り敢えずすれ違っただけとはいえ、挨拶ぐらいはしなければとあのお方が立ち止まって、私も渋々足を止めましたの。
 ――何が悲しくてあのお方の艶姿をあんな奴に見せてやらねばいけないのですか。

 ああ、思い出すだけで腹が立つ。

 一言二言、お互いに当たり障りの無い事ばかりを会話して、そのまま私達が立ち去ろうとした時ですわ。
 先程まではあの男を睨むのに精一杯だったせいで気付かなかったのですが、あのお方の御髪が一房解けていたのに気付きましたの。

 そうしたら!
 あの男が、あの方の御髪を掬い上げて!

 ――ええ、そうです。
 無遠慮にも断わりの一つもなくです! 常の如くの仏頂面で、あの方の御髪を手にしたかと思うと、そのままあのお方の耳にかけて!

 確かに髪の乱れはそれで目立たなくなりましたけど、あの男がせずとも私がやりましたのに!!

 しかも「解れていた」ですって!?
 わざわざお前がしなくとも私がやりましたわよ! ほんっっとうに、余計なお世話でしたわ!!

 ――はぁ、はぁ……。
 嫌だわ、私ったらはしたない事を……まあ、恥ずかしい、おほほほ。

 あのお方も驚いておられたようですけど、私だって驚きましたわ。
 普段は人を人とも思わぬ態度しか取らぬ男が、そのような真似をなさるのですもの。

 あのお方は滅多に無い態度に驚かれたようですけど、直ぐさま微笑みを浮かべてあの男に礼を述べるのですもの。
 確かに誰に対しても気さくな態度こそあの方の最大の魅力と言ってもいいのですが……だからといってあんな男に礼を言う必要なんて……ああもう、心底忌々しい。

 そうしてからあの男がその場から立ち去った後、あの方は私に向かってこう仰ったのですわ。
「なんだか女だとバラしてから、マダラの態度が優しくなった様な気がするなぁ」と。
 ――気のせいですわ、と一応言っておきましたけど。

 …………。
 いいですこと、クシナ。
 貴方が将来どのような方を好きになるのか、私には分かりません。
 ですけど、顔がいいだけで性格の悪い男――例えばマダラの様な男だけは絶対に止めなさい。

 あの方は偽装とはいえ、自らの身をあの男に差し出す様な真似をなされたから後々苦労なされたのです。
 あのまま白い結婚を貫いたまま、離婚してしまえば……いえ、離婚させれば良かったとは、私がつくづく思っている事ですからね。

 あら。力強く頷いているとは結構な事ですね。
 そうそう、女子と言えど今の世では強くあらねば。
 ……そうでなければ世の荒波に押し潰されてしまいますもの、ね。  
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