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番外 リオINフロニャルド編 その3
「うーん、明日から夏休み。フロニャルドに行けるのは嬉しいんだけど、やっぱりくやしいよー」
一学期の終業式が終わり、皆でカフェでお茶をしていると、燃え尽きた後にだれだれになってそうぼやいた。
先日の地区予選の敗退が悔しかったのだろう。
ヴィヴィオの言葉にズーンと同じように突っ伏したコロナとアインハルトさんの二人。
「それより、コロナとアインハルトさんはちゃんとご両親に長期旅行の許可は取ったんですか?」
「私は…はい、ちゃんと許可は取りました」
アインハルトさんは流石年長者。しっかりしてるね。
アインハルトさんの肩に乗っているこの間からアインハルトさんの相棒になったアスティオンもコクンとうなずいている。
八神さん達に造ってもらったと言ったアインハルトさんのデバイスは豹のぬいぐるみ外装なのだけど、ヴィヴィオもウサギだし、流行っているのかな?
「わたしも大丈夫。ちゃんと無人世界カルナージで二週間の強化合宿をヴィヴィオ達としてくるって言っておいたから」
コロナも大丈夫と、それじゃあ後は出発の準備だね。
そのあと必要なものを皆で買いに行く約束をして解散。
後日皆で準備をして無人世界カルナージへ。
今回は行きの引率として八神さん一家が同行している。
たぶん、あの映画に出てきたリインフォースさんに会うためだろう。
なのはお姉ちゃんが会わせてあげるって言ってたからね。
まぁ、今回の事で一番説得に時間が掛かったのは実は両親よりもノーヴェ師匠達なんだけど…
どうやら夏休み、みっちりトレーニングメニューを考えてたらしいよ。
終いには自分も行くと言ってきた次第。
それを申し訳なくもなんとか断ってようやく出発の船に乗る事にこぎつけた。
フロニャルドへは連れて行くわけには行かないし、多分アオお兄ちゃんも連れて行かない。
アオお兄ちゃんは人との繋がりを自分がいる世界で完結させたがっているように感じたし、だからこそ今更ミッドチルダでの新しい人間関係はわずらわしいだけじゃないだろうか。
あたし達は偶然にも知り合えた。だからこそ呼んでもらえているだけなんじゃないだろうか…
臨行次元船で四時間。
無人世界カルナージへと到着した。
ここからあたし達はフロニャルドへと渡る事になる。
いつか来たルーテシアさん親子が経営している宿舎へは寄らずに小高い丘の上へと移動する。
時計を確認すると、アオお兄ちゃんとの待ち合わせまでもう直ぐだった。
すると、目の前の地面に魔法陣のようなものが発光して浮かび、その中から人影が三つ現れた。
一つはアオ兄ちゃん、もう一つはなのはお姉ちゃん。そして、最後の一つは…
「リイン…フォース…」
「はい…主はやて」
はやてさんはたまらずと駆け出すとリインフォースさんに抱きついた。
「おみ足は治ったのですね」
「そんなん、何年前の話をしてんねや」
そう口では軽口を言っているようだが、二人ともその両頬を涙で濡らしている。
「リインフォース…」
続いてヴォルケンリッターの面々が前にでる。
「将よ、すまん。将には苦労を掛けた」
「いいや。私達はあなたからかけがえの無い、大切な時間と言うものをいただけた。その時間で主を守るのは騎士の幸福」
「そうか…」
その後、ヴィータ、シャマル、ザフィーラと声を掛け…
「あなたが今代のリインフォースだな」
「はいなのです。…リインフォース・ツヴァイと言うのですよ…お姉ちゃん」
「…っ!…私を姉と呼んでくれるのか?」
「もちろんですっ!」
そう宣言するとその小さい体のまますぅーっと飛んで行き、リインフォースの頬に抱きついた。
そっと抱擁した後に、はやてやヴォルケンリッターを掻き分け、最後の1人へと歩を進めたリインフォースさん。その先には所在無さそうに小さくなっているアギトさんの姿があった。
「君は?」
「あ、あたしは…」
「この子はアギト。私らの新しい家族や」
どう答えてよいか戸惑ったアギトにはやてさんがそう説明した。
「そうか。リインフォースだ。よろしく頼む。アギト」
そう言って伸ばされた手はアギトの頭をなでている。
「お、おう…」
それをくすぐったそうに、それでもアギトさんはテレながら受け入れていた。
「わたし達の事、忘れられてるね…」
「みたいだね」
一緒に転送陣から出てきたアオお兄ちゃんとなのはお姉ちゃんがぼやいた。
「あ、あの。お久しぶりです」
あたしの言葉を皮切りにヴィヴィオ、コロナ、アインハルトさんと続く。
「うん、リオちゃんもコロナちゃんもアインハルトちゃん、そしてヴィヴィオも久しぶり」
「久しぶりだな、元気してたか?」
なのはお姉ちゃんとアオお兄ちゃんが挨拶を返してくれた。
感動の再会を邪魔するわけにもいかず、見守る事数分。
「再会も終わったところで、いいかな?」
アオお兄ちゃんが八神一家に向かって話しかけた。
「ええっと…どちら様や?」
「アイオリア・ドライアプリコット・フリーリア。アオでいいよ」
「アオ…さん?…アオ君なんか?」
「それは追求しないでくれると助かる」
しかし、その返答で確信は得ただろう。
「それで。リインフォースの事だけど、どうする?」
「どうって?」
アオお兄ちゃんの質問にはやてさんが聞き返した。
「リインフォース本人の意思、そして君達の考え、両方が一緒に居る事を望んだとして、その為の方法はあるの?」
「それは…」
「俺達に管理局の前に出て行く意思は無いし、面倒事もごめんだ。再生してしまった手前リインフォースには幸せになってもらいたいとは俺も思う。しかし、それで俺達に迷惑が掛かるなら、リインフォースは連れて帰るよ。なにも二度と会えなくなる訳じゃない。リオ達がまた俺達に会う事を望むのなら、数ヶ月に一度は会う事も可能だろう」
アオお兄ちゃんの言葉を聞いてリインフォースが決意したように言葉を発した。
「主。私はもう一度あなたに会えて、成長した姿が見れただけで満足です」
「せやかてっ!リインフォースはそれでええんか?」
「主。私の存在をどうやって管理局に説明するのです?助けられた手前、私は彼らに迷惑は掛けられない」
でも…
だけど…
と、八神一家はどうにかならないかと考えるが、今の現状ではどうにもならない。
「絶対っ!何とかしてリインフォースを迎えに行くっ!せやから、少しの間だけ待っててくれな」
「その手段の中に俺達の事を秘匿する事を忘れないでくれよ」
「も、もちろんや…」
あ、今の受け答えはちょっとは考えてたね…
「さて、行こうか。リインフォースはどうする?二、三日ここにいるか?はやて達もそのくらいの休暇はあるのだろう?」
「私は…」
「リインフォース、時間があるんやったらもう少し一緒に居て欲しい…まだまだ話したい事があるんや」
はやてさんのその言葉にアオお兄ちゃんの方を振り返るリインフォース。
「二日後に迎えに来るよ。それまでは好きに過ごすといい」
「ありがとう。アイオリア」
リインフォースさんのお礼の言葉にうなずきで返した後、アオお兄ちゃんはあたし達の方までやってきた。
「それじゃ、行こうか」
「「「「はいっ!」」」」
元気良く返事を返して荷物を掴み上げると、真下に転移魔法陣が現れた。
「ってぇ!また落ちるのーーーーーっ!?」
「ええええっ!?」
「わああああぁぁぁぁぁっ!?」
「……っ」
真下の地面の感覚が消えると重力に逆らうことなく落下していくあたし達。
転移門を抜けると空中に躍り出たあたし達は今度は混乱することなく浮遊の魔法を行使してゆっくりと地面へ。
天井の蒼に、稜線に掛かる空は紫色。
何処までも続く緑豊かな大地にはビルディングのような建物は無く、中世を思わせる街並み。
「きれい…」
誰とも無くそんな感想が口から漏れた。
前回もきれいだと思ったけれど、今のように心に余裕がある状態じゃなかったからね。
心に余裕があるときれいなものはよりきれいに見えるのかもしれない。
そのまま下降していくと大きな石造りのお城のバルコニーへと着地するコースだ。
隣を見ると同じように浮遊魔法で速度を軽減しつつ並走するアオお兄ちゃんとなのはお姉ちゃんがそのまま降りていく所を見るとあそこに降りろって事だね。
あたし達4人は着いていくようにバルコニーに降り立つ。
「ようこそお客様、フリーリア王国へ。お荷物はこちらへ」
着地すると、あたし達の荷物をさっと音も無く受け取り、運び込んでいくメイドさん達。
「え?ええ!?」
「あ、あの、これは?」
混乱するあたし達はかしずかれたメイドさんにビックリしてフリーズ。
あ、そう言えば今のお兄ちゃんって王子様なんだっけ?
だったらメイドさんくらい居る…のかな?
何とか混乱から立ち直るとアオお兄ちゃんに問い詰めた。
「ああ、異世界からの勇者召喚がどうやら思った以上に認知されちゃっててね、この世界で獣耳をしていない人間なんて居ない。必然的にリオ達を城に招くとなると、異世界人だというのはバレる。だから最初から彼女達には言っておいたのだが…どうやら我が国にも勇者が来ると勘違いしちゃったみたいだね」
戦と言う行事は興行のあと、映像媒体に記録されて市販されるんだって。
春のビスコッティの勇者の活躍はすばらしく、それを見た人たちにはその活躍を褒め称えているそうだ。
「ついでにリオ達が来た時の戦の映像も市販されているからな。リオ達を召喚ぶって言ったら彼女達の張り切りようと言ったら…この世界では人気者かもしれないよ?」
「「「「ええええええ!?」」」」
アオお兄ちゃんのその言葉には流石にビックリしてしまいました。
その後、応接室に通されるとフェイトお姉ちゃん達がそろっていた。
「久しぶりだねヴィヴィオ、リオ、コロナ、アインハルトも」
「はい、皆さんも」
フェイトお姉ちゃんの挨拶にあたしも挨拶で応える。
「ヴィヴィオ、久しぶり。会いたかったよ」
「あ、はい。わたしもです…シリカさん…」
うーん、なんかシリカさんてヴィヴィオに優しいよね?どうしてだろう。
「コロナもアインハルトもようこそ」
「あ、はい。お世話になります」
「あ、わたしもです。お世話になります」
ソラお姉ちゃんの言葉に返したコロナとアインハルトさん。
その後、ユカリさん、久遠ちゃんとかアルフさんと皆それぞれ挨拶を交わす。
「さて、遥々来て貰った所悪いが、今日は皆でビスコッティに呼ばれている。ミルヒオーレが是非お会いしたいそうだが、どうする?」
「そうなのですか?」
と、ヴィヴィオ。
「どうやらビスコッティ、ガレット両国での小規模の戦を開催するようだ。前回は紹介できなかった勇者とやらを紹介してくれるらしい。時間が合えばとのお誘いだ」
どうする?とアオお兄ちゃん。
本当は直ぐにでもアオお兄ちゃんに修行を見てもらいたかったのだけれど、ミルヒオーレさんに会うのも楽しみにしてたし…時間はまだまだあるよね?
「どうする?」
と、ヴィヴィオがあたし達に問いかけた。
「わたしはミルヒオーレさんに会いたいかな」
「私もです」
「うん、あたしも」
コロナの答えにアインハルトさんとあたしも同意する。
セルクルが引く馬車に揺られてビスコッティへと移動する。
ビスコッティに行くのはあたし達を除けばアオお兄ちゃんとフェイトお姉ちゃん、シリカお姉ちゃんの三人。
その他のメンバーはどうやら少し用事がある様だった。
遠くで剣と剣がぶつかる金属音が響いてくる。
「もう始まってるね」
「いいなー、楽しそうだなぁ。ねぇ、アインハルトさん」
「はい、楽しそうです」
「ダメだよ、今日はウチ(フリーリア王国)は不参加だからね」
フェイトお姉ちゃんがそう嗜めた。
「「「「えええええっ!?」」」」
ビスコッティ陣営の砦の中に招かれて、バルコニーへと案内された。
先にアオお兄ちゃん達が挨拶を終えたようだ。
そしてミルヒオーレさんの視線がこちらに向かう。
「わー、皆さんお久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです。ミルヒオーレさん」
歓迎の言葉を掛けてくれたミルヒオーレさんにあたし達も挨拶を返す。
「そしてこちらがレベッカさん。勇者さまの幼馴染さんです」
「あ、あのっ…レベッカ・アンダーソンです。はじめまして」
丁寧に、そして少し緊張からか震えながら自己紹介を返してくれたレベッカさん。
「リオ・ウェズリーです」
「高町ヴィヴィオです」
「コロナ・ティミルです」
「アインハルト・ストラトスと申します」
自己紹介を返し終わると、ビックリしたようにレベッカさんが問いかける。
「あ、あれ?あなた達は耳と尻尾が普通なんですね」
と、レベッカさん
「はい、わたし達の出身はミッドチルダですから。レベッカさんのご出身は?」
そうヴィヴィオが聞き返す。
「ミッドチルダ?そんな名前の国の名前は聞いた事が無いんだけど、姫さま、ミッドチルダってこの世界の国の名前ですか?」
「いいえー、この世界とはまた違った世界のご出身らしいですよ」
「そうなのですか?」
「はいー。そしてわたしがお答えしますが、レベッカさんは勇者様と同じく地球のご出身なんですよ」
ミルヒオーレさんがレベッカさんの代わりに答えた。
「地球…えと、管理外の第97世界だよね、アオお兄ちゃん」
97?と意味が分からないがとりあえずその視線をアオお兄ちゃんに向けたレベッカさん。
「そうだね。それだけ遠いって事だね」
アオお兄ちゃんが肯定する。
「そうですか」
「だけど、数字を使うのは俺は好きじゃないな。あの世界…地球には俺も、ソラ達もそれぞれ少なからず思い入れが有るからね。例え俺たちが過ごした地球ではなくても」
え?
「リオ達の第一世界ミッドチルダ。その世界もこのフロニャルドから見れば下位世界第165世界なんだけど、言われて見てどう思う?」
「下位…世界?」
「165?」
その言葉にショックを受けるあたし達。
自分達の世界は第一世界だと教えられてきたあたし達からしてみればその数字には劣等感を感じる。
それに下位世界と言う言葉も…
「すごく嫌です…」
「うん…」
「そうだね…」
アインハルトさん、ヴィヴィオ、コロナと言葉を零す。
「「「「ごめんなさい」」」」
あたし達はレベッカさんに謝った。
「あああっあの!あたしには意味が良く分からないから謝ってもらう必要は無いというか…」
それでも、きっと理解すれば嫌だと思うから。だから、ごめんなさい。
ごめんなさいが終わると戦場から歓声が響く。
「な、何?」
歓声にモニターを覗くとそこには金の髪の少年が颯爽と登場していた。
「だ、誰?」
「シンク・イズミ。ビスコッティの勇者様ですよ」
ミルヒオーレさんが誇らしそうに紹介してくれた。
モニターを覗くと、ガウくんと攻防を繰り広げている勇者シンクの姿があった。
「わぁ…はじけてるねぇ」
「そうだねぇ」
「正に勇者って感じ」
ヴィヴィオ、コロナ、あたしの感想。
アインハルトさんも無言で頷いている。
シンクさんが活躍していると、ガレットの方にも勇者が現れた。
どうやら勇者召喚で呼ばれたらしい。
え?レベッカさんの知り合い?
二人目の勇者登場にレベッカさんも参戦しませんかと誘うミルヒオーレさん。
しかし、レベッカさんは恥ずかしいのか自信が無いのか拒否したみたい。
「リオさん達はどうします?」
「出場しても良いんですか?」
「前回こちらにお預かりになったお金もありますし、参加費の問題は大丈夫かと」
そのミルヒオーレさんの言葉にあたし達は視線を合わせ、
「是非っ!」
と、そう言って参加の意思を表明した。
「とは言え、午前中の戦はもう直ぐ終わるので、午後の部からですね」
あうっ…
出鼻をくじかれて闘志が不燃焼です。
いいなぁ、楽しそうだなぁ。
それにしても神剣ってなんかデバイスみたいだよね。
あ、なんか両勇者から同時に放たれたすごい砲撃がぶつかった。
うわぁ…拮抗した後にばら撒かれた余波で敵も味方も被弾しているよっ!?
自軍の被害くらい考えようよね…勇者なんでしょう?
午前の部を終えてビスコッティの勇者であるシンクさんと、ガレットの勇者であるナナミを連れたレオ閣下がバルコニーに現れた。
「あ、あれ?耳の普通の人がいるー」
ナナミさんがあたし達を見ての第一声。
「あ、本当だ。もしかしてこの子達が手紙に書いてあった僕が帰ってからフロニャルドに迷い込んだ人達?」
「はい、シンク。彼女達はシンクもビックリの活躍だったのですよ」
「へぇ。今度手合わせをお願いしますね」
そう言ってシンクさんはあたし達の手を1人1人取ってよろしくと挨拶する。
何だろう…この人天然のタラシの素質がある気がします。
幾ら年下とは言えなんて事も無いように手を握るかなぁ?
普通しないよね。
とか何とかしていた時、空から大きなツバメに乗ってリスのような大きな尻尾を付けた女の子が騎士を連れて舞い降りた。
ミルヒオーレさんの声を聞くとクーベルさんと言うらしい。
「この試合ウチも、パスティヤージュも参戦したいのじゃっ!」
と、宣言したのだが…
その実、その来訪の目的はレベッカさんの拉致だったらしい。
拉致と言っても、気に入ったからパスティヤージュにご招待したいらし。
何ていうか、この世界って行動は突飛でも大らかで優しい人が多いよねぇ。
午後の部が始まろうとしている。
戦場の入り口近くで装備を借りて革鎧と短剣を装備する。
「懐かしいねっ!」
「うん」
ビスコッティ軍の歩兵の遊軍として参加。
戦が始まる直前、モニターにクーベルさんが映し出され、レベッカさんの強奪を宣言。
その後、シンクさんとナナミさんの両勇者が奪還を宣言。
なんと戦にパスティヤージュ軍が乱入しての三つ巴の戦いに。
そして戦が始まる。
とりあえず、あたし達は歩兵として進み、迫る敵を倒すべく動こうとしたんだけど…
「…まさか空中戦をする騎兵をビスコッティ、ガレットが共闘して相手にしている状況…この状況でガレット獅子団の相手はし辛いよね」
「うん…」
「確かに…」
あたしのぼやきに同意するヴィヴィオとコロナ。
「私はせっかくの機会です、なんとしてもあのレオ閣下とお相手をしてみたいです」
「あー、ずるいですよアインハルトさん。わたしも戦ってみたいです」
「えーっと、それじゃあわたしはあのジェノワーズの3人と戦ってみたい…かな?」
アインハルトさん、ヴィヴィオ、コロナがそれぞれ戦場での目標を定めた。
「リオは?」
コロナに問いかけられて、うーんどうしようか悩む。
あたしだってレオ閣下と戦ってみたいけれど、既にヴィヴィオとアインハルトさんがやる気みたいだし…ガウくんと再戦とか?
そう考えていると、空中に光が弾け、中から箒に跨った魔法少女が現れた。
「……ねぇ、ヴィヴィオ。あれって何に見える?」
「魔法少女…かな?」
「と言うか魔女じゃない?」
だって箒に跨っているし、おとぎ話に出てくる魔女が現代風にアレンジされた感じだ。
「かっかわいい…」
「本当ですね」
え!?
ガバっと視線をアインハルトさんとコロナに移せばまさかの感動…あ、あれ?あたしがおかしいのかな?
「って言うかレベッカさん!?」
良く見たら箒に跨っているのは先ほど連れ去られたレベッカさんだった。
しかもパスティヤージュの勇者と宣伝されてるし…もう完全に敵って感じ。
空中の自在に飛び回り、手に持ったカードを射出して魔力弾…えっとこの場合輝力弾?…えっと、アナウンサーの実況を聞くと晶術弾?で地上の敵を一方的に撃墜している。
高機動砲撃型。弾幕で押し切るタイプだろうか?
あたしの苦手としている所でもあるし、行って見ようかな。
「それじゃあたしは空に上がるよ。レベッカさんと戦ってみたいしね」
「そっか。それじゃ、ここで解散かな?」
と、ヴィヴィオの言葉で皆散開し、それぞれの目標へと走り出した。
「それじゃ、ソル。あたし達も行くよ」
『了解しました』
地面を軽く蹴ると次の瞬間にはあたしは空を翔ける。
【おおっとっ!?パスティヤージュの独壇場へと翔け上がるあの少女はもしかして以前の戦で大活躍した異世界人かぁ!?】
【ただ今手元に届いた資料に拠りますとフリーリア王国が帰国なさった彼女達を再召喚したらしいです】
【なるほど、どうやって飛んでいるのかは企業秘密だとフリーリア王国の王子アイオリア殿下からのお達しです。
しかし、コレで戦況がまた変わっていく事でしょう。今回の戦は思いも拠らない事ばかりだぁっ!】
実況さんもいつもどおりハイテンションですね。
「レベッカさーんっ」
レベッカさんの進路の手前に躍り出る。
「え?ええ!?空を飛ぶなんて、魔女っ子!?」
「レベッカさんこそっ!」
「ええ!?」
え?気付いてなかったの!?
でもとりあえず今はっ!
「勝負ですっ!」
「はいっ!」
お互いに敵と認めて戦いが開始される。
今回はあたしルールで飛行魔法以外の魔法は封印。
なので、使用するのは輝力っ!
「いきますよー。輝力開放っ!」
あたしの背中に紋章が発動する。
久しぶりの紋章術。
「雷遁・千鳥、ヴァージョン輝力っ!」
あたしの両手に雷に変換された輝力が纏わり着く。
と、いいますか、輝力攻撃は今のところこれくらいしか出来ないんだけどね。
「えええっ!?」
あたしは驚くレベッカさんへと距離を詰める。
「くっ…」
箒の手元のボタンをいじったレベッカさんは、急激に速度をまし、その進路を下方に修正し降下していく。
「なぁっ!」
速いっ!
空中戦闘専用の箒と言うこともあり、その速度はあたしの最高速度を軽々と越えていく。
うー…足場のある地上なら速度で負ける事は無いのに…
「バレットセット、発射っ!」
下方からまた上昇し、振り返ったあたしの正面へと着いたレベッカさんはポーチから引き抜いた二枚のカードになにやら術式を込めてこちらへと投擲した。
投擲されたカードは空中でそこに込められた輝力をその術式にしたがって開放され、稲妻のようにあたしの手前に展開された。
「わっわわっ!?」
それは雷のように決まった軌道が無く、ランダムにあたしに向かって襲い掛かる。
【おおと、勇者レベッカの繰り出した晶術から放たれたそれはまさしく雷のようだーーーっ!】
迫り来るそれを隙間を縫うように翔け、どうしても避けられないそれは両手の千鳥で切り裂いた。
【かっ…雷を切ったーっ!?】
「ええ!?そんなの有り!?」
レベッカさんが驚いてるけど、有りですよね!
「今度はこっちの番だよっ!」
突き出した右手から竜の頭を象った雷撃が発射される。
「なんのっ!」
直線的な攻撃だったために直線上からすばやく加速して回避したレベッカさん。
今度も遠距離からまたもカードが飛んでくる。
飛び出す雷撃。
だからその攻撃は避けるのが辛いんだけどっ!
「なっ!何で当たらないのーっ!」
「気合で避けてますっ!」
と、強がっているけれど、打ち払い、避けてはいるけれど予想しづらい分いつ食らうか分からない状況。
さらに相手は高機動型で最大速度は相手が上。
【おおっと、勇者レベッカ、弾幕を張ってリオ選手をまったく寄せ付けませんっ!】
さらにあたしの両腕を警戒して絶対に近寄ろうとせず、弾幕を張り続けている。
うわー…これは根比べだよ。あたしが回避できずに被弾するのが先か、レベッカさんの輝力が切れるのが先か。
何か弱点は無いかな?
あたしは冷静に相手の戦力を分析する。
攻撃方法は遠距離砲撃型。
速度は向こうが上。
操作は手元のボタンのようだ。その為速度の上げ下げの度に片手、もしくは両手が使えなくなる。
箒に跨っているという体制から真後ろへの目視は難しそうだ。
高速度の為に進路変更は弧を描かねばならず、旋回性能が悪い。
うーん、一度後ろにつければ速度で離されようとその前に落とせるかな?
うん、それで行ってみようっ!
あたしは右手の千鳥から雷撃弾をレベッカさんの方へと飛ばす。
もちろん、直線攻撃故にかわされるが問題ない。
「ブレイクっ!」
「え?きゃあっ!」
一瞬にして圧縮してあった雷に変換された輝力が開放されて閃光を伴って当たり一面に四散する。
単純な眼くらまし。
だけど、この一瞬であたしはレベッカさんの真後ろへと移動した。
【おおっと、リオ選手、今回始めて勇者レベッカの後ろを取ったっ!】
雷撃弾を複数レベッカさんに向かって射出する。
迫る雷撃弾を錐揉みしながら運良くかわすレベッカさん。
真後ろが見えている訳じゃないから、いつかは当たるとさらに追い詰める。
加速で離されるより先におそらく被弾するだろう。
【勇者レベッカ、これは流石にいつまでも避ける事は出来ないか!?】
「くっ…」
それを避けるために直線上から弧を描いて離脱を試みるレベッカさん。
だけど、これをあたしは待っていた。
弧を描いて旋回したレベッカさんの軌道にあたしは一瞬足元に魔法陣を形成し、勢い良く蹴って直線で距離を詰める。
あ、もしかして今のは魔法かもっ!
まあいいやっ!
「うくっ…」
鋭角に針路変更をしたために体に掛かるGが少しきついけど大丈夫。
「え?ウソっ!?」
捕らえたっ!
と、そう思った瞬間あたしの体を掠めるように一筋の砲撃が放たれた。
たまらず回避すると、レベッカさんはすかさず距離を取った。
誰だと周囲を見渡すと、空飛ぶじゅうたんのようなものに乗ってあたしとレベッカさんが居る空域に乱入してくるリス耳リス尻尾の女の子。
「レベッカーっ!助けに来たのじゃっ!」
「く、くーさま!助かりましたーっ」
クーベルさまの手に持ったマスケット銃のようなものから砲撃が飛ぶ。
【クーベルさまの援護射撃。これで状況は二対一これはリオ選手劣勢か!?】
「わははははっ!どうじゃ、わらわとレベッカのコンビネーションはっ!」
「バレットセット、発射っ!」
あたしを左右から挟みこむように囲い、二人がそれぞれの武器で砲撃してくる。
確かに先ほどよりも回避に余裕が無くなる。
…だけどっ!
後ろからクーベルさんに追われていたあたしは進路をレベッカさんに向ける。
丁度一直線に並び、二人が攻撃を繰り出した気配を感じ取ったあたしは、そのまま空中で飛行魔法をキャンセル。
両手を広げ制動を掛け、重力に惹かれるまま落下する。
「へ?」
「クーさま、避けてーーっ!」
ドドーーーンっ
対象を失った二人の攻撃はあたしを抜いて二人にそれぞれ直撃した。
【なんと、お二人はお互いの攻撃で相打ってしまったっ!】
「ふにゃぁ…」
「きゅー…」
危なかった。レベッカさんが乱入してこなければごり押されて負けてたかもしれない。
やはり空中高機動砲撃型はあたしの天敵かもしれないね。
あのままレベッカさん1人で攻撃するか、もう少し戦場の位置を気にしていたらこんな事にもならなかったんだけど…
とりあえず、撃墜させてもらいます。
「やあああっ!」
ヒュンヒュンと腕を振るい、レベッカさんとクーベルさんを攻撃する。
ビリビリっ
音を立ててその装備が破壊される。
「きゃーっ!」
「む、無念なのじゃ…」
【勇者レベッカ、クーベルさま、両者防具破壊。この戦闘を制したのはどうやらリオ選手のようだっ!】
「ブイっ!」
回転翼のついたカメラに向かってピースサイン。
観戦している観客からの声援に包まれた。
さて、そんなこんなで戦も終わり。結果は僅差でビスコッティの勝利。
ヴィヴィオとアインハルトさんがレオ閣下を撃墜したのが結構ポイントが高かったみたい。
どうだった?と二人に聞けば、勝利を譲ってもらったとの事。
レオ閣下ってすごく強いものね。
いつか必ず本気で戦いたいとヴィヴィオもアインハルトさんも言っている。
戦勝イベントの熱気に包まれるビスコッティの街をヴィヴィオ達と眺めた後、その日はもう遅いとあたし達はフィリアンノ城の客室を貸してもらう事になった。
夕食を終えてからあたし達は城の中庭へと移動した。
念の鍛錬を行うためだ。
練習はアオお兄ちゃんが見てくれている。
フェイトお姉ちゃん達はミルヒオーレさんやレオ閣下達と一緒に今頃大浴場だろう。
シリカお姉ちゃんもこっちに参加したかったみたいだけど、フェイトお姉ちゃん達が引きずって行っちゃった。
あたし達もと誘われたが、まずはこっちを優先し、その後に入浴した方が疲れもとれるだろうからね。
「それじゃ、まずは『纏』から」
「「「「はいっ!」」」」
纏から絶、そして練を一通りこなす。
「へぇ、みんなきれいに出来るようになったね」
「ほ、よかったよ」
「よかったー」
「あ、ありがとうございます」
アオお兄ちゃんの褒める声にうれしそうなヴィヴィオ達。
「さて、最初の三つが合格点に達したし、ヴィヴィオ達も新しい事を覚えたくてうずうずしてるだろう」
その言葉にこくりと頷くヴィヴィオ。
それを確認するとアオお兄ちゃんは懐にあった何の変哲も無い巾着のような袋に手を突っ込むとそこから4つのグラスとピッチャーを取り出した。
「い、一体それは何処から?」
たまらずコロナが突っ込んだ。
まぁ、気になるよね。袋の大きさとグラスの容量を考えればどうやっても入らないものね。
「何を言ってる。デバイスの格納領域だって似たような事はできるだろう」
「そ、そうですね」
説明は面倒なのかする気は無いようだ。
だけど、目の前のそれはただの袋だよね?
アオお兄ちゃんは中庭を歩き回り、地面に落ちている木の葉を4枚拾い上げ、グラスにピッチャーから水をつぎその上に木の葉を浮かべ、あたし達に一つずつ手渡した。
「これは?」
アインハルトさんの質問。
「念における四大行。纏、練、絶、そして最後が」
「発…」
あたしの口から漏れた言葉にヴィヴィオ達が「はつ?」と疑問を浮かべた。
「そう、『発』。オーラの操る技術の集大成」
それから念には強化系、変化系、具現化系、特質系、操作系、放出系の六系統有り、それぞれ個人の資質が分かれると説明される。
そして、それをどうやって見分けるのかに関係するのが先ほど渡されたグラスだ。
水見式と言う。自分の念系統を知るための儀式。
「両手でグラスを挟んで『練』をする、その変化で自分の系統が分かる。リオ、ちょっとやってみて」
「はいっ!」
グラスを地面に置いて座り込み、両手で挟み込むようにして、『練』
「えっと、何か起こるんですか?」
変化の無いグラスに戸惑うヴィヴィオ達3人。
「コップの水を舐めてみて」
言われるままに皆人差し指をつけて一滴グラスの中の水をなめる。
「何これっ!」
「あまーい」
「ガムシロップでもそそいだんですか?」
「いいや、ただの水だよ。それは自分のものを舐めてみれば分かる」
言われるままに自分のグラスの水をなめてみた3人。
「本当だ」
「ただの水です」
と、ヴィヴィオとアインハルトさん。
「水の味が変わるのは変化系の証、リオは変化系と言う事だね」
と、アオお兄ちゃんが答えた。
「変化系、オーラを何かに変化させる事に優れている系統。炎や雷と言った現象や、風船のような弾力をオーラに持たせる事も可能。自分に有っていると感じれば、予想外な物への変化も可能だろうね」
「もしかして、あの火の玉って」
「火の玉?」
どういう事とアオお兄ちゃんがこちらを向いた。
「えと、以前オーラの扱いでどんなものかと言う事で火遁豪火球の術をヴィヴィオ達に見せた事が…」
なるほど、とアオお兄ちゃん。
「確かにリオは変化系だし、炎に変換したりするのに向いている。しかし、リオが見せたのは忍術。一定のプロセスを行えば素質有るものならば誰でも行使できる」
こんな風にね、と火遁豪火球の術を行使して見せたアオお兄ちゃん。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
「あつっ!」
「ああ、ごめん」
火遁豪火球の術を終息させて謝ったアオお兄ちゃん。
「これとは別に、一概にとは言えないが、一連のプロセスを必要としない能力も覚えられる。そちらの方を俺達は念能力と言っている」
「どう言ったものがあるんですか?」
「まさしく千差万別。人によっては予想外の能力を持っている事もあるから、どう言った物があるとかは君たちの可能性を狭める。言わない方がいいだろうね」
「そう…ですか」
「そう言う事で、次はヴィヴィオ達だよ」
ヴィヴィオの質問に答えると、アオお兄ちゃんが次はヴィヴィオ達の番だと促した。
「「「はいっ!」」」
それぞれグラスに手を添えて『練』をする。
まず見て取れる変化が起きたのはアインハルトさん。
「これは?」
グラスを見るとグラスから水がほんの少しずつ溢れている。
「アインハルトは強化系か」
と、アオお兄ちゃん。
「強化系…ですか。どんな系統なのですか?」
「その名の通り、何かを強化するのに向いた系統だ」
「強化…それは身体強化も含まれるのですか?」
「当然含まれる。強化系に下手な個別能力は必要ないとさえ言われるくらい純粋な強化系は戦闘方面に特化している」
「純粋とは?」
「後で説明するが、系統をそれぞれの頂点とすると、大抵他の系統に多少は寄っているものなんだ。強化系なら放出系と変化系のどちらかに寄る事が多い。アインハルトがどうなのかは今現在では分からないけれどね」
「…そうですか」
さて、次はコロナだ。
「えっと…」
自信なさそうなコロナの声。
「良く見て。葉が揺れているだろう?」
「あ、本当です」
「葉が揺れるのは操作系の証だね」
「コロナらしいね」
とはあたしの感想だ。
巨大なゴーレムを操り、自分の体すら操作するコロナの魔法での操作技術は他者を隔絶しているからね。
「どう言った系統ですか?」
と、コロナ。
「何かを操る能力系統。操る物に限りは無い。人形から人の心まで。純粋な力は弱いが、俺としては一番戦いたくない系統だ」
「…そうですか。でも、わたしらしいのかな?」
最後はヴィヴィオだ。
「えーっと、なんかグラスの中が濁ってきたような?」
「不純物が混ざるのは具現化系だね」
アオお兄ちゃんはもはや三回目と問われるより先に話を続ける。
「具現化系はやはりその名の通り、何かを具現化する能力だ。自分に慣れ親しんだ物の方が具現化しやすいらしいが、具現化した物に特殊能力が付加される場合が多く、応用の幅も大きいね」
「そうなんだ」
「と、皆の系統が分かった所で、さっきちょっとだけ説明した六性図の説明に入るよ」
そう言ってアオお兄ちゃんは六性図の説明を終えると、ヴィヴィオ達はひたすら『発』の練習だだ。
変化が顕著になるまで練習しろとの事らしい。
「えと…どの位の期間この練習が続くのでしょうか?」
期間が指定されなかったために不安を覚えたアインハルトさんが聞いた。
「普通にやったら一月と言った所か?」
「一ヶ月…」
「まぁ、短縮手段も用意してあるから、今日の所はまず頑張れ。念能力の行使の感覚を覚えてもらわないと次には行けないから」
短縮方法ってもしかして…
「リオはこっちだな。『流』の練習に付き合ってやるから」
「あ、はいっ!」
そうして初日の夜は更けていった。
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