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真田十勇士

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巻ノ十五 堺の町その八

「普通の茶道ではありませぬな」
「御主もそう思うな」
「はい、茶というよりは酒です」
 それの飲み方だというのだ。
「これは」
「そうじゃな、どちらかというとな」
「面妖ですな」
 清海も唸って言った。
「この様な茶の飲み方は」
「しかしここでこう飲んでいるのなら」
 伊佐はここでも生真面目だった。
「いいのでは」
「畏まって飲むだけが茶道ではないか」
「利休殿はそうも仰りたいのかと」
 こう幸村に話すのだった。
「そうも思いますが」
「それもまた茶道か」
「茶道は実に奥が深いとl聞いています」
「茶を飲むだけではないのか」
 猿飛は伊佐に少し驚いた顔になって問うた、一行は用意されていた敷きものの一つの上に座って車座になってだ。筧がそこに置かれていた茶と茶器を使って淹れはじめている。
「茶道は」
「そうではない様でして」
「奥が深いのか」
「利休殿はそうお考えの様です」
「たかが茶を飲むだけではないのじゃな」
「どうやら」
「ふむ、茶道といえば畏まっていてじゃ」 
 猿飛は彼らしくざっくばらんな調子で言う。
「それで格式ばって飲むと思っておったが」
「それが違いまして」
「奥が深いというのじゃな」
「そうです」
「そういえば道じゃな」
 ここで猿飛は気付いた。
「茶の道じゃな」
「はい、それも果てしない道だとか」
「ううむ、忍の術と同じか」
「そして仏の道とも」
「そうか、何処までも上に先にある道か」
 忍術のことからだ、猿飛は述べた。筧は話の間も手を動かしている。
「茶道もまた」
「その様です」
「そうしたものか。では今からじゃな」
「その茶道を行います」
「わかった、では飲もうぞ」
 こう言ってだ、そのうえで。
 幸村主従は全員で茶を飲みはじめた、菓子はなかったが炒り米がありこれを菓子代わりとすることになった。
 筧が茶を淹れ終えると全員で飲んだ、淹れた筧や伊佐、それに霧隠は畏まっており根津の物腰は武士然としているが他の面々はざっくばらんだ。ただ幸村は生真面目な物腰でだ。
 その物腰を見てだ、筧は唸って言った。
「殿、お見事です」
「何が見事か」
「そのご姿勢が」
「無作法にならぬ様気をつけておるが」
「はい、それがです」
 実にというのだ。
「お見事です」
「茶道においての振る舞いとしてか」
「左様です」
「ならよいがな、しかし拙者はな」
「茶道は、ですな」
「殆どしておらぬ」
 このことをだ、筧に言うのだった。
「武田家においてだけじゃ」
「しかしです」
「茶道をしておらぬのにか」
「お心がありますので」
「人の心か」
「そうです、茶道をあまりしておらずとも」
 茶の心得、それがなくともというのだ。 
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