死者の誘い
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3部分:第三章
第三章
「その時はホテルでね」
ジュリアスは笑みを浮かべてそれにまた返す。
「二人でじっくりお話したいな」
「やっぱりイタリア男ね、そこは」
「さて」
笑ってそれを誤魔化す。
「それで何処かいい場所知ってるかな」
「ええ、一つね」
エミリアはやっと彼にそれを教えた。
「ここから少し行ったところに」
「歩いて行けるかな」
「歩いて行くの?」
「だってさ、タクシーはね」
ジュリアスはここで暗い顔になった。
「今のでさ、やっぱり」
「あら、臆病なのね」
「女の子に対しても」
「またそんなこと言って。けれどそれならそれでいいわ」
エミリアは悪戯っぽくジュリアスに笑ったまま述べた。
「行き方があるから」
「どうするの?」
「地下鉄を使いましょう」
すぐ側にあった地下鉄へ向かう入り口を指差して言った。
「それならすぐよ」
「そういえばワルシャワにも地下鉄があったんだね」
エミリアに言われてそうやく思い出したようであった。
「そうよ、まあ新しいけれどね」
一九九五年に開通したばかりだ。モスクワのそれと比べるとかなり新しい。
「それでいいわよね」
「うん、タクシー以外ならね」
ジュリアスはそう答えた。
「じゃあ行くか」
「ええ、茸料理が絶品よ」
「それはいいね」
ポーランドは茸を使った料理が多い。それを紹介するというのだ。イタリア男らしく女の子と酒だけでなく食べ物にも目がないジュリアスにとってはいい話であった。
とりあえずタクシーのことは忘れて地下鉄に乗った。そしてそこから降りる時に一人の男と擦れ違った。その瞬間あの悪寒を感じた。
「!?」
「どうしたの!?」
「今のって」
電車の方を振り向く。だが今扉が閉まったところだった。
「まさか」
「何かあったの?」
「いや、タクシーの時と同じでね」48
彼は言う。
「何か纏わりつくみたいな」
「気のせいよ」
エミリアはそれを笑い飛ばす。
「ここはイタリアより寒いから」
「いや、そうじゃないよ」
それでも彼の悪寒はまだ残っていた。
「この感触は」
「じゃああの運転手が今地下鉄にいるっていうの?」
エミリアは彼の顔を見上げて問う。
「そんなの有り得ないわよ」
「それはそうだけれど」
それはわかっている。だが。
「まだ飲んでもいないのに酔ってるなんてのはなしよ」
「ああ」
暗い顔になっているのが自分でもわかる。
「けれどね」
「けれどもこれもないわ。さあ行きましょ」
エミリアはあらためて声をかける。
「いいバーだからきっと気に入ると思うわ」
「うん」
それに頷いて先へ進む。後ろでは電車が出発する音がする。
振り向くがそこにはもう電車はない。だがジョリアスは確かに感じていた。そこにあったものを。それはえも言われぬ不気味で不吉なものであった。彼はそれをはっきりと感じていたのであった。
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