真田十勇士
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巻ノ十四 大坂その十
「橋の多さも見ものですな」
「そうなるな」
「さて、ではどんどん召し上がって下され」
老人は話が一段落したところであらためて一同に述べた。鍋を食えと。
「海のものも茸もどんどん入れていきます」
「ははは、食う分には心配いらぬ」
「わしもじゃ」
清海と望月が言って来た。
「残さず食べるぞ」
「この汁も美味いわ」
望月は鍋の汁、椀の中のそれも楽しみつつ言った。見ればどの者もかなり食べているがこの二人と猿飛はとりわけだった。
一行は鍋を心から楽しんだ、そして。
その後の勘定はだ、老人が払おうとすると。
幸村がすっと出てだ、店の者に銭を渡して言った。
「これで足りるか」
「はい、充分です」
「ならよい、楽しませてもらった」
微笑んでつりを受け取りつつの言葉だった。
「また縁があれば来させてもらう」
「またのおいでを」
店の者とは明るいやり取りだった、だが。
店を出た後でだ、老人は幸村に問うた。
「あの、お勘定は」
「よい、店を紹介してもらったしな」
それにというのだ。
「こうした時は人に払わせるものではない」
「お武家様としては」
「武士は自分で払うもの」
「他の方の分も」
「家臣に払わせる者はおらぬ」
毅然とした言葉だった。
「だからじゃ」
「支払われましたか」
「そうなのじゃ」
だから払ったというのだ。
「気にすることはない」
「ですか、ではこのお礼は何時か」
「ははは、別によい」
お礼はというのだ。
「別によい」
「そうも言われますか」
「うむ、今回は世話になった」
幸村達の方がというのだ。
「海のもの、実に美味かった」
「海のものは堺にもありますので」
「そこでもか」
「楽しめます」
老人は幸村にこのことも話した。
「ですからあちらでもお楽しみ下さい」
「ではそうさせてもらう」
「その様に。ただ」
「ただ。何じゃ」
「堺の町は色々な者がいて」
「明や南蛮の者も多いと聞いておる」
「そういった国の者達とは言葉が違いまする」
老人がここで幸村に言うのはこのことだった。
「ですからお気をつけを」
「明の者とは字で話すことは出来ますが」
筧が幸村に言って来た。
「漢字で」
「つまり漢文でじゃな」
「それが出来ます、しかし」
「南蛮の者達はか」
「はい、文字も全く違います」
それでというのだ。
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