| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Chapter2「父を探して 山科悠子の依頼」
  Story8:『山科悠子』の依頼

 
前書き
 
結構かかりました。
今回は滅茶苦茶長くなったので、二分しました。
  

 
 





「暮海さん、コーヒー買ってきましたよ。挨拶回りも一通り済みました」

「そうか、ご苦労だったな。かなり個性の強い面々だっただろう?」

「えぇ、こっちが面喰っちゃう程でしたね」

「ふふ、流石中野に住まう人々といったところか…うむ」


 挨拶回りと買い物を終えて、事務所に戻ってきた。暮海さんは俺の持つコーヒー豆を見て、ご機嫌な様子で返してくれた。


「と、依頼については、ホワイトボードで完了の報告をして、依頼完了だ。忘れずにな」

「はい」


 管理は厳しいんだな。まぁ人と関わる仕事だしな。
 取りあえず言われた通り、ホワイトボードに張られた依頼書に赤で『完了』と書き足して置く。これで暮海さんからの依頼は終わりっと。


「書けましたよ」

「うむ、ではこれが依頼の報酬だ」

「え? 報酬ですか? そんなの…」

「いらない、とは言わせないぞ助手くん。キミは私の助手とはいえ、れっきとした『探偵』だ。依頼には必ず報酬が付くし、それを完了したというのなら、その報酬を受け取ってしかるべきだ
 なんにせよ、これで初の依頼を終えたんだ。受け取り難いなら、そのご褒美とでも思えばいい」


 ……そっか、世の探偵はこうやって自立してるんだもんな。暮海さんの言う通り、俺も助手とは言えその一員になったんだ。
 俺は暮海さんの説得に応じ、暮海さんが持つ報酬の入った封筒を受け取り、ポケットに入れた。


「さて、挨拶回りが済んだところで、次は街に出てもらうぞ」

「街に、ですか?」

「あぁ。半電脳体のキミが、現実世界に完璧に溶け込めるかどうか……順応テストの最終段階といったところだ」


 え、じゃあさっきの挨拶回りも、その順応テストの一環だったんですか?


「『新宿』で、聞き込みをしてきたまえ。キミのことが噂になっているかもしれない。何せ、あの姿を目撃されたのだからな」

「あの姿……あ、『壊れたデータの怪人』ですか?」

「あぁ、それがどれだけ噂になっているか、確認も兼ねてのことだ。行ってくれるな?」

「はい、勿論です」


 色々考えてくれているな……本当に、凄い人だ。


「その間に、私は私の仕事を片付けさせてもらう。又吉刑事にも、調査結果を報告しておかないといけないのでね」

「先日の『セントラル病院』と『EDEN症候群』、『隔離病棟』の件ですね」


 俺がそう聞くと、暮海さんはしっかりと頷いた。
 そもそも、あれは又吉刑事が持って来た案件。その報告をするのも、探偵としての義務といったところだろうか。

 頭の中でそう考えていると、「あぁそうだ」と暮海さんが何かを思い出したかのように口を開いた。


「ひとつ重要な事を伝えそびれていた。―――キミの…母親のことだ」

「え…母さん、ですか?」

「あぁ、親御さんが仕事で長期海外出張しているのは、不幸中の幸いだった。キミが倒れたと聞いて帰国しようとしていたところを、間一髪、すぐに退院すると連絡して退き止めておいた」


 母さんが…そう言えば、俺は母さんのところへ行くために休学届けを出したところだったな。昨日の事件の所為で、すっかり忘れていた。心配しているだろうか。


「キミからも連絡して、安心させてあげたまえ」

「は、はい…!」


 暮海さんにもそう言われたので、探偵事務所を出たところで母さんに連絡を入れた。
 仕事中にも関わらず、電話に出てくれたようだ。なんだか忙しそうにしていて、母さんの身体の方が心配になってしまったが……

 それでも、母さんはしきりに俺の事を聞いてきて、やっぱり心配をかけてしまったんだと再確認した。
 改めてそっちに行くのは見送ることと、母さんからの連絡にはなるべく出るように努めることを伝え、連絡を終えた。


「親御さんの様子はどうだったかな?」

「いつも通り…いえ、いつも以上に忙しそうでしたよ。でも、心配を掛けてしまったようで。取りあえず俺の声を聞けて、安心してました」

「ふむ、問題なさそうだな、何よりだ。これからは連絡が来る事もあるだろう。親御さんの件はキミに一任する…しっかり対応したまえ。これは、“人の子”としての義務でもある」

「はい、心得ています」

「よし、では行動開始だ……『新宿』へ向かいたまえ」

「了解!」


 俺は暮海さんの指示に、ビシッと敬礼して事務所を出た。
























 「新宿」に到着すると、やはりと言うべきか、かなりの人で賑わっていた。
 取りあえず聞き込みを始めたが、俺のあの姿を見たとか、「青い怪人のような姿をした人」などの話は、あまり出回っていなかった。

 あまり噂とかにはなってないのかな…?


「―――あ、タクミ!」

「ん…? あ、真田!」


 その途中、偶然にも白峰と同時に出会った青年―――真田アラタが、俺に声を掛けてきた。


「おたく、何とも無かったんだな!」

「あぁ、そっちこそ大丈夫そうで何よりだ!」

「そうだな。まぁ強いて問題を探すとしたら…ノキアのやつ、かな」

「白峰?」


 首を傾げながら聞くと、真田は「あぁ」と言って答えた。


「チキンにゃ、刺激強すぎたハズだぜ。ま、ほとんど自業自得だけど」

「そうか? あんなの見れば誰だってあんな風になると思うが…」

「それだ、問題はあの化けモンだ」


 真田の言葉に、俺は表情を変える。
 『あの化けモン』……つまりは、白黒の身体をしたアンモナイトみたいな見た目の、あれだ。おそらく、俺の身体を変えた張本人。


「あんなの、はじめて見たぜ……何となく、噂にゃ聞いたけどよ。『他のデータを捕食する、あぶねープログラムがある』ってな」

「他のデータを、捕食する…? そんなの、できるのか?」

「ある意味、ウイルスの一種と考えれば妥当なんだが…EDEN内であんな風に実体化(リアライズ)するのなんて、普通のウイルスじゃまず無理だ」


 そうだよな…普通に考えて、あんなものが人の手によってできたなんて、考えたくない。


「それでな、あの後運営に問い合わせてみたんだが、知らぬ存ぜぬの一点張りだ」

「運営…カミシロにか?」

「あぁ、どう考えたって不自然だと思わないか? あんなモン、運営が気付いていないはずないだろ?」

「確かに、な…」

「どうにも気になるんだよなぁ…。ちっとばかし、本腰入れて調べてみっかな。少なくとも、公式のイベントや底辺ハッカーの悪フザケってんじゃなさそうだ」


 そうだな、確かにそんなんじゃなさそう―――あ、ハッカーと言えば…白峰も言ってたな。


「真田、お前ハッカーなのか?」

「え? いや、まぁ…それは、何つーか、アレだな……うん、まぁ…アレだわ……」

「……ハッカーなんだな?」

「ッ……」


 俺の質問に、一瞬言葉を詰まらせる真田。そんな見え見えのごまかし、俺には通用しないぞ?


「―――ああっと、俺、約束があったんだ。そんじゃま、行くわ」

「あ、おい…!」

「また、そのうちな」


 ………行っちまったな。まぁ約束があるようだし、無理に退き止めても…な。―――本当に約束があるのなら、の話だが。
 とりあえず、このまま聞き込みを続けてみよう。













 ―――とまぁ、一通り聞き込みをしてみたんだけど……

 青く光ってスケスケの身体の“妖怪スケスケ”。新宿地下深くにある研究室から改造デジタル人間が逃げ出した。カーアクションも含めた特撮映画のゲリラ撮影。etc、ect……

 まぁ尾ひれが付いたり、変に解釈されているが、あの日起こった事から生まれた噂は、こんなところだろうか。
 しかし、ほとんどの人がこの事柄を信じていないようだ。それならそれで、問題なさそうだな。

 ……ん? あれは…?


「―――…ん? ……んんん? ……んんんんんん!?」


 ……今日はよく知り合いに会うな~…
 丁度歩き回っている最中、宣伝用の大型モニターのあるビルの下で、俺の通っていた高校の制服を着た男女を見かけた。しかもそれが、俺の親友ときたもんだ。


「お前こんなところで何やってるんだよ!? お袋さんトコ、行ったんじゃねーの!? 」

「あ、あぁ…その予定だったんだけどな、急に白紙になっちまってな」


 俺のことに気づいて、大きな声を上げて驚く青年―――武井 リョウタ。俺と同級生で、クラスメイトだったやつだ。
 ご覧の通り、元気でちょっとばかしやかましい、憎めないタイプのバカだ。


「海外! …あ~、なんつー国だっけ……なぁサクラ、どこだっけ!?」

「……えー…? ……うん、そうだねー……えっと………ぐん……ま……?」

「ば…ッ、ぜってーちげーよ! つかそれ、外国じゃねーよ!? ニッポンだよ!?」

「……うん……そう、だねー……」


 そして今、リョウタと会話(?)をした女性―――藤咲 サクラ。リョウタと同じく同級生でクラスメイト。
 今はなんかおっとりとした口調で表情もボーっとしているが、俺が学校にいた頃は名前に似合った可愛い笑顔を皆に振り撒いていた、可愛い女の子……だった筈なのだが……


「りょ、リョウタ…お前、群馬の場所わかるようになったのか!?」

「おまっ、俺はそこまでバカじゃないぞ!?」


 そ、そうだったのか…!!


「それで、どうしたんだサクラのやつ? なんか前と様子が違うぞ?」

「そうなんだ、最近ずっとこのチョーシなんだ……何か『ジミケン』にハマったらしくてよー。四六時中ジミケンジミケンうるさかったと思った、今度はこんなだよ…。家じゃ、ず~~~~~っとジミケンのPV見てるらしいしよー……さすがに心配だぜ」

「ジミケン…? なんかのバンドか、それとも歌手かなんかか?」

「お、珍しくアーティストの名前知ってるじゃんか。なんか最近ジミに売れてんだぜ? 何がいいんだか、俺にはさっぱりわかんねーけど!」


 いや、ジミにってどういうことよ。


「…まぁ、曲はそこそこよかったりするけどよ」

「……そうなんだ」


 どういう事だよ…とにかく、曲はいいんだな。


「つか、お前だよお前! 海外行かずに、何やってんだ?」

「あ、あぁ…ちょっとな」


 ―――かくかくしかじか―――


「で、でんのうたんてい!? な、な、なんだそりゃ? なんか、すげーアツくなる響きだな、デンノータンテー! なぁ、サクラ? 聞いたかよ!? こいつ、デンノータンテーになったってよ!?」

「…………………」

「おい、おいってば!」

「…………………」


 取りあえず白峰と同じように、これまでの経緯(半電脳体などの事は省いて)を説明した。
 それに対し、何故か心が沸き立ったリョウタだったが、逆に変わらない反応を示すサクラの肩を掴み、ユサユサと揺らした。しかし、サクラはいい反応を示さない。


「………………(さわさわっ)」

「あ、おま、何処触って…!」

 リョウタはそんなサクラの様子を確認してから、両手を伸ばしてサクラの身体を触り始めたのだ。俺は流石に友人がセクハラで捕まるのは見たくないので、すぐに止めようとしたのだが……
 次の瞬間、サクラの腕が高速に動き、俺の目に残像を残した。


「―――ぐぼあへ!?」


 そしてその腕は見事にリョウタの腹へめり込み、リョウタは腹を抑えたまま両膝をついた。


「い、今ならイケると…思ったんだぁ…」

(…いや、イケるも何も……そこ触られて怒らない女性はいないだろうに)


 リョウタがどこをお触りしたのかは、ご想像にお任せします(by作者)


「とにかく、お前がデンノータンテーになって、ガッコさぼりまくってるってコトはわかった…」

「いや、別にサボってるわけじゃ…」

「送別会したのにな~。俺、泣いちゃったのにな~」


 わ、悪かったな! 送別会もしてもらったのに、数週間も開けずに顔合わせちまって!


「けど、これからもお前に会えるなら、いっか! な、サクラ?」

「………うん」

「ッ…リョウタ…!」

「へへへっ! ま、そーゆーこった!」


 こ、この野郎……急に涙腺に来ること、言うんじゃねぇよ! ちくしょうめ!

 それから少し世間話をしてから、二人とは別れた。その世間話の中にも、先程の噂話は出てこなかった。もう問題なしと見て、いいかな。
 とにかく、これまでの事を暮海さんに報告しよう。そう思い、俺は探偵事務所に戻るべく歩を進めた。





 


















「ふむ…先頃目撃されたキミの姿も、大した騒ぎには発展してなかったようだな」

「そうですね。よく聞く都市伝説程度の話までにしか、なってませんでした」

「その様子なら、キミも大手を振って街を歩けるだろう」


 新宿から事務所へ戻り、新宿での聞き込みを一通り暮海さんに説明した。
 俺のあの姿は目撃されたようだが、そこまで大きな話にはなっておらず、尚且つそれが俺だとは誰にも気づかれていなかった。

 これなら暮海さんの言う通り、ドヤ顔で出歩けるというものだ。


「ところで話は変わるが、キミに新しい『EDENアカウント』を用意した」

「『EDENアカウント』? それなら自分のがありますけど…」


 『EDENアカウント』とは、文字通りEDENを利用する為のアカウントだ。これがなければ、仮にEDENにアクセスできたとしてもそのほとんどの機能やサービスを利用できなくなってしまう。

 俺が暮海さんの言葉に反応しそう言い返すと、暮海さんは首を横に振った。


「現在キミのアカウントは、EDENネットワーク上で正しく認識されていない状態だ。そのため、通常手続きでEDENにログインできない」

「そ、そうなんですか? それじゃあ…」

「そう、コネクトジャンプで“侵入”できるとしても、不正なアカウント扱いでは、まともにサービスを利用できまい。そのような状態では、職務にも差し障る。今後は、用意した新規アカウントでログインしたまえ」

「りょ、了解です」


 しかし、今回もそうだし、母さんへの連絡も、衣食住の確保の件も、色んな事が暮海さん任せだな…少し申し訳なくなってきた。


「そんな顔をするな。先程も言ったが、職務に差し障ってはキミも私も困るだろう? それを未然に防ぐためだ」

「な、なんでわかったんですか!?」

「ふふ、探偵をあまり侮らないほうがいいぞ?」


 それに、と暮海さんは続ける。


「こんな事で迷惑をかけてるなんて思わないことだ。キミは私の助手で、私はキミの上司にあたるのだから」

「は、はぁ……」


 なんか、ツンデレっぽく聞こえるのは気のせいだよな。この人に限ってそれはない…よな?


「さて……そろそろ時間だな」

「時間…? 何か約束でもあるんですか?」

「ふふ…“仕事”の時間だよ、助手くん」


 “仕事”、その言葉を頭で理解した瞬間、探偵事務所の出入り口の向こう側から、控えめな女性の声が聞こえてきた。


「あの……暮海…探偵事務所は、こちらでしょうか…?」

「約束した時間通りか。ふっ、なかなか優秀な依頼人のようだ」

「く、暮海さん!? そういうのはもうちょっと控えめに…!」

「ようこそ、暮海探偵事務所へ。どうぞ、お入りください」


 少し慌てる俺もどこ吹く風とでも言わんばかりに無視し、扉の先にいるであろう女性を声で招き入れる。
 そして扉を開けて、「失礼します」と言って入ってきたのは―――セントラル病院で出会った、「悠子」と呼ばれていた黒髪の女性だった。


「あっ…! あのときの…!」

「……!! あなたは……」

「ほう? キミたちは知り合いか?」

「……いえ…知り合いと言うほどでは」


 少し困ったような表情で、そう言ってくる「悠子」さん。俺はその間に、暮海さんの側へより、できる限り小さい声で囁いた。


「(この人、セントラル病院で『EDEN症候群』について話してくれた人です。岸部リエとも面識があるようで、岸部は彼女を『悠子ちゃん』と呼んでいました。なんでも、カミシロに世話になっているとか)」

「(そうか…)」


 それを聞いた暮海さんだが、取りあえずその事は後回しにするつもりなのだろう。表情一つ変えずに、そのまま「悠子」さんに話しかけた。


「依頼人の『山科(やましな)悠子』さんですね?」

「……はい、私が…山科悠子、です」

「では、依頼内容を伺いましょう。そちらのソファへお掛け下さい」

「………はい…」


 いつも通り、暮海さんは「悠子」―――もとい、山科さんを依頼人用のソファの方へ促し、自分はその反対側のソファに座った。


「―――父が…私の、父が…消えてしまいました」

「…消えた、とは?」

「失踪の類とか?」

「そう、です……行方不明に…なってしまったんです。探偵さんには、消えてしまった父…『山科誠』を探し出して…欲しいんです」


 なるほど、捜索依頼か……しかし、それだったら別に警察に任せてもいいんじゃないか?


「ふむ…お父様に関する情報はありますか?」

「はい…父の、基本的な情報はこちらに。…データを送ります」


 そんな疑問を抱く俺を他所に、二人の会話が進んでいく。彼女はデジヴァイスを操作し、その父親の基本的な情報が入ったデータを、暮海さんに送った。
 送られたデータを、早速確認する暮海さん。俺もその後ろからのぞき込むように見る。


「ですが…その中で手がかりになりそうなのは、父が使っていた『EDENのアカウント情報』くらいで…。アカウント情報を問い合わせると…現在も、アクティブな状態なんです…でも……」

「呼びかけても、応答しない?」

「…全く、反応がありません」


 アカウント情報を問い合わせるというのは、EDENを管理するカミシロ・エンタープライズに情報を問い合わせるということ。アクティブならば、それはEDENへログインしているということになる。
 呼びかけるというのは、現実世界からEDENにログインしている人へ呼びかけることだ。しかしログインしている人が応答しない限り、それが繋がる事は一切ない。

 しかしどういうことだろう。ログインしているのに、こちらからの呼びかけには応答しない。しかも相手は自分の娘ならば、少しの反応があって然るべきだ。
 それがないということは、反応が返せないということ。EDENでそれが起こっている、ということはつまり―――


「………父を…見つけ出してください」

「…わかりました、お引き受けしましょう」

「…! よろしく、お願いします…」


 と、俺が思考している間に、話が進んでいたようだ。丁度暮海さんの言葉を聞いた山科さんが、少し明るい表情で顔を上げたところだ。


「では、すぐに調査を開始しましょう。進展があれば、お知らせします。連絡先を教えて頂けますか?」

「…………」


 しかし、暮海さんが山科さんの連絡先を聞いた途端、彼女は少し悩んだ様子で顔をまた俯かせた。


「……いえ…その必要は、ありません。しばらくしたら、また、来ます」

「……?」

「それでは…これで、失礼します」


 結局、彼女は連絡先を伝えぬまま、探偵事務所を後にした。


「…………なるほど、な」


 だが暮海さんには何かわかったらしく、顎に手を添えて納得顔でそう呟いた。
 ……え、今の会話で何かわかったんですか?

 彼女が事務所を去った後、暮海さんはデスクにある大きなPCを使って、山科誠のアカウント情報を調べ始めた。


「結論から言おう。このアカウントは、何者かに乗っ取られている可能性が高い」

「ッ、やっぱり…! 最近多い、『アカウント狩り』ですね?」

「あぁ。その証拠に、アカウントの動きに不自然な点が多々見受けられる。同時に“複数の山科誠”が、EDEN内を闊歩していたりな。キミの言う通り、最近巷を賑わしている『アカウント狩り』に間違いない」


 『アカウント狩り』。EDENで使われているアカウントを乗っ取り、自分のアカウントとして使う事例だ。
 勝手に多額の買い物をし、本人の知らないところから多額の請求が来たり、買ってもいないものが届けられたりする。まぁT○it○erの乗っ取りに近いものだ。


「キミにはまず、現在もアクティブな山科誠のアカウントの追跡からはじめてもらう。アカウントの乗っ取りは、往々にして組織的な犯行であることが多い。
 EDENで聞き込み調査をすれば、アカウント狩りに関する情報が、何かしら得られるだろう」

「はい、分かりました」

「出番だ、ワトソンくん……ふふ。EDENへ赴き、聞き込み調査をしてきたまえ」

「了解!」


 ……しかし、ワトソンくんって…なら暮海さんは、さしずめシャーロック・ホームズですか?





  
 

 
後書き
 
タクミの母親:この世界での主人公の母親。世界を駆け回るジャーナリスト。

『あの化け物』:EDENに出現し始めた化け物。どうやらデータを捕食する能力を有しているらしい。

憎めないタイプのバカ:いるよね、クラスに一人ぐらい。

ジミケン:最近ジミに売れているらしいバンド。タクミはまだ聞いたことはないが、歌はいいらしい。

『山科悠子』:今回の依頼人。タクミは一度セントラル病院で出会っている。

T○it○erの乗っ取り:一時期問題になったらしいこれ。皆さんは気を付けてくださいね。






いや~、ここまでは結構前に書けてたんですが……
友人に勧められた『モンハン3rd』が面白くて、ついつい……

取りあえず次回分は大分書けているので、次回もこっちです。
ご指摘ご感想、よろしくお願いします。ではでは~ノシ
 

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧