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八百屋の前

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第四章

 お互いの姿を認識しつつだ、静は言うのだった。
「お店にいる時はね」
「そうなんだね」
「それで貴方はお休みの時は」
「こんなのだよ」
「それで出勤する時に」
「シャワー浴びてね」
 それからというのだ。
「髪の毛整えて髭も剃って」
「ああした格好になるのね」
「そうだよ、出勤の時はね」
「お互い化けるのね」
「今は違うけれどね」
「そうなるのね、本当に」
 二人供というのだ。
「夜は」
「うん、夜はね」
「けれど昼はこういうことね」
「全く、昼と夜でお互い全く違ってて」
「驚いたわ」
「本当にね」
 こう二人で話してだ、それが一段落したところで。
 俊彦は自分の手にある柿、ビニールに入れられたそれを見つつだ。そのうえで静に対して言ったのだった。
「じゃあまた夜に会う?」
「携帯の番号交換する?」
「しようか」
「そうね、じゃあまた夜にね」
「今度はちゃんと整えて来るから」
「私もそうするわよ」
「じゃあその時はまた」
「楽しみましょう」
 その夜の大人の出会いをとだ、俊彦と静はお互いに笑い合って別れた、俊彦はそのまま自分のアパートに帰って行った。
 その彼をだ、店の中から出て来た静の母が見て言った。
「あら、お客さんだったの」
「そうよ」
「何かね」
 その彼、遠くに行こうとしているのを見つつ娘に言った。
「起き抜けって感じね」
「そうね」
「まああんたと同じ様な格好ね」
 店の中にいる静も見て言ったのだった。
「全然着飾ってないから」
「そうね、言われてみれば」
「あんた最近夜飲みに行く時奇麗にしてるけれど」
「駄目?」
「普段もああいう格好じゃなくても」
「八百屋で?動きにくいわよ」
 笑ってだ、静は母の言葉に笑って返した。
「いいわよ、そんなの」
「そう言うのね」
「お昼はこれでいいの、動きやすいので」
「それで夜はなのね」
「夜は夜よ」
「そういうことなのね」
「お昼はこれでいいの」
 こう言って母に笑顔を向けるのだった、化粧気のないその顔は何の色気もないものだった。夜の時とは全く違っていて。


八百屋の前   完


                          2015・3・17 
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