英雄は誰がために立つ
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Life16 追い詰められたゼノヴィア
「ん~~~・・・・・・如何したんだ、アザゼル?いつになく真剣な顔をして」
サーゼクスは首の痛みに襲われながらも、アザゼルの剣呑とした雰囲気含めて質問した。
しかし当のアザゼルは切羽詰っているのか、サーゼクスを黙殺した上で視線を士郎から放さないまま詰問を続ける。
「藤村士郎よ、教えてくれ。お前は敵の何を知っている?それとも、何かの取引でもしなければ教えられねえか?」
「別に要りませんが・・・・・・随分と追い詰められたような顔をしていますね。余程重大な“何か”があったようですが、如何したんですか?」
「そ、そうですよ?先生!何かめちゃめちゃ怖いっすよ?」
アザゼルを窺うようにする士郎の言葉に、同調する一誠を視界に居れて漸く視線を士郎のみから、それ以外にまで広げられた。
見れば、一誠をはじめとするリアス及び眷属らは全員多かれ少なかれビビッていた。
それもそうだろう。
剣呑な雰囲気を纏わせて現れたのは神の子を見張る者の長であるアザゼルだ。
そんな大物からのプレッシャーの余波とは言えそれを受ければ、大概のものは恐怖に顔が引き攣っても仕方がないと言うモノだろう。
アザゼルに言い感情を持っていない朱乃でさえ今は、嫌悪感が消えて恐怖に塗り替えられているのだから。
そんな教え子たちの顔を見て、すぐさまに気を落ち着かせて剣呑さを抑制させた。
「ワリィ、お前ら。いくら何でも大人げなかったな・・・」
「構わないけど、ホントに何があったの?」
「堕天使領も襲撃された事は聞いていたが、先程のオーラからして君の友人である神の子を見張る者の幹部が誰か負傷或いは殺されたとか、かな?」
謝罪するアザゼルに許すと同時に理由を尋ねるグレモリー兄妹。
アザゼルは、そんな兄妹の兄の方に、訝しむ目を向ける。
「報告書は送っといたろ?読んでないの・・・・・・って、お前さんも忙しかったんだな」
「ああ、なかなかにね。後で正式に報告書も読むが、此処で何があったのか聞かせてくれないか?」
「いいぜ。堕天使領にはまず最初に他の血でも現れた機械兵器の軍勢が現れたのさ。それなりに苦戦させられたが、攻略法さえ見えれば時間の問題程度の相手だったぜ。それだけで終わってたならな」
「な、何があったんですか?」
一誠は恐る恐る続きを聞くように尋ねた。
「機械兵器の軍勢を9割近く殲滅してから、残党狩りに勤しんできたころに来たんだよ。問題がな」
「脅威?各地に現れたグレイフィアと互角以上の戦闘を繰り広げたり、タンニーンを戦闘不能状態に追い込んだ一騎当千の敵の様の者達の事か?」
「そっちに現れた厄介な奴らについては読んだが、奴は・・・Kraって名乗ったんだが、アレはそれ以上だな」
「その口ぶりからしてもしかしてだけど・・・・・・敵は1人だけだったの?」
リアスはアザゼルに恐る恐る聞く。
「正解だ、リアス。・・・・・・判るか?機械兵器の軍勢で負傷している奴もいたが、俺を含めた幹部たちは全員は勿論、俺達には届かないまでもグリゴリの手練れメンバー50人以上の堕天使達に対してたった1人で来て、俺達を圧倒したんだぞ?そんな事、うちを抜けたヴァ―リにだってまだまだできやしないし、俺自身も勿論できない。出来るとしたら各神話の主神か同等の力を持つ神クラスでも無きゃ無理だぜ?そんな奴に関する情報がほとんど無名も同然なんだ。これで危機感覚えないなんてそんな事あるワケねぇだろうが」
「ほとんど・・・・・・と言う事は、全く聞いた事が無かったわけではないんだね?」
サーゼクスの問いにアザゼルは、無言で頷いてから事情を説明する。
「――――って事で、俺はヴァ―リからコカビエルを連れ戻せなかった後に聞いたんでな、部下に情報収集をやらせたんだが、アイツがうちを裏切ったからあの時の言葉は奴のでっち上げと思って情報収集を辞めちまってたのさ」
「しかし実際には実在していて、今回君たち神の子を見張る者の面々をたった1人で圧倒する程の力を持った、未知の脅威だったと言う事か」
「しかも奴は、俺達も見た事も聞いた事も無い謎の神器も使う始末だ。あんな化け物放置できるかっての・・・・・・それで藤村士郎、お前さんはKraって奴に聞き覚えは?」
「ありません。初耳ですよ、そんな奴」
「ちっ・・・・・・やっぱりそうか」
アザゼルは、予想していた事とはいえ溜息を吐いた。
その後に直また士郎に目線を戻す。
「――――じゃ、話の腰を折っちまってすまなかったが、お前さんの知ってる敵の情報について教えてくれ」
「いきなり切り替えますね、別に良いですが・・・。率直に言いますと、昨日襲撃してきた敵は恐らく“英霊”です」
「・・・英『英霊だと!?』先生?」
「お兄様も知っているのですか?」
モード以外ではリアス達は全員知らないようであったが、サーゼクスとアザゼルは驚愕と共に身をのりだし、グレイフィアは無言ではあったものの瞳を全開まで見開いて矢張驚愕していた。
「ああ」
「まぁな・・・」
「士郎の言う“英霊”とは一体、何なのですか?」
「それは私が説明いたしましょう」
「グレイフィア?」
リアスの疑問にグレイフィアが答えるようだ。
「英霊とは、過去に存在した英雄達の霊です。神話や伝説中での功績から生まれた信仰をもって、人の霊から精霊の領域にまで押し上げられた存在です。信仰ーーー人々の想念こそが英霊足らしめる要因ですので、実際の人の歴史上の人物であろうと、空想上の物語の人物であろうと、その両方が入り交じった存在であろうと確かな信仰心と知名度さえあれば英霊達の集約される『世界』の外にあるであろう『英霊の座』に祭り上げられるのです」
「補足を入れるなら過去だけじゃなく、現在・未来もあるんだが、そんなの見た事なかったからな。事実上は過去だけの様なモノだったさ」
「そんな存在がいたのですか・・・」
リアスはグレイフィアの説明に興味と驚きを示した。
「しかし、どういう事だ?『英霊の座』に対するアクセス権は悉くに破壊されたはずだぞ?」
「悉く破壊されたはず、ですか?」
アーシアがおうむ返しのように聞く。
「ああ。お前らも知ってるだろうが、悪徳に極まった人間の悪行もろともに洗い流すためにっていう“大洪水”ってあったろ?あれは色々原因やら理由があるんだが、そのうちのひとつが『聖杯戦争』を悉く殲滅するためでもあったんだよ」
「聖杯戦争・・・・・・ってなんすか?」
「ん?そういやぁ、知らねぇんだったか」
自身の迂闊さにアザゼルは頭をかいた。
存在すら抹消された儀式と技術を悪魔に転生したての一誠は勿論、1世紀も生きていないリアス達のような若者が知っているはずもなかった事に。
しかし、ならばなぜ藤村士郎が知り得ていたのかと言う疑問は残るが、今それを追求してもまた話の腰を折ってしまう可能性もあるので自制して説明し出した。
万物の願望を叶えるとされるが、願い許されるのはただ一組のため故、それを求め奪い合う魔法使い達の殺し合い。
万物の願望器たる聖杯を求める七人の魔法使いと、彼らに召喚されて契約して七つのクラス、つまりセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーに当てはめられた英霊達がサーヴァントと呼称される、7騎になり覇権を競う。
「―――ってのが聖杯戦争なんだよ。とは言っても、召喚される英霊は年月が積み重なっている信仰心と知名度により強弱も変化するから、昔は英霊なんてさほど強くもなくて聖杯戦争に参加したと言う証程度でしかなかったんだ。それに当時は、物理法則が不安定な神代の魔法使い達の方が上だったんだよ。――――これ以上の細かい詳細は省くが、この悪行を悉く殲滅するために“大洪水”が起きた理由のひとつなんだよ」
「大洪水が起きた理由は理解できるが、一つおかしな点があるぞ。聖杯はこの世にただ一つだけのはずだ。それにも拘わらず、悉く殲滅するっていうのはそういう事だ?」
ゼノヴィアは元教会の戦士でもあったので、当然の疑問をアザゼルにぶつける。
「確かに本物の聖杯は一つだけだが、別に聖杯を模した偽物でも構わねぇんだよ。この殺し合いは。誰がどうやってそんな偽物を建造できたのかは未だに解明されていないが、一つ建造されれば二つ三つと次々に増えていき、たった半世紀で世界中合わせて3桁を越える聖杯戦争が起きてたそうだぜ?」
アザゼルの言葉に元教会出身の二人は勿論、リアスも他の眷属達も驚愕した。
その事実はさすがに知らなかった士郎とモードも、驚きはしつつも人間の欲と業の深さは理解しているので「馬鹿な」とは思わなかった。
「各々驚いてるところ悪いが話を戻すぜ。その聖杯戦争を悉く殲滅してからは『英霊の座』へのアクセス権は完全に消え去ったはずなんだが、どういう事だ?」
「これは俺の勝手な予測ですが、誰か或いはKraと言うやつらが聖杯戦争のシステムを復元した上で改造までして兵器として使用しているのではありませんかね?」
「・・・・・・その可能性は十分にあるだろうが、そもそも今回襲撃してきた敵が英霊と言う根拠はなんだ?」
Kraとい言う言葉を受けて、聖杯戦争のシステムの復元と改造と言う推測に驚きが引っ込んでしまったアザゼルだったが、当然の疑問を士郎にぶつけた。
「・・・・・・三大陣営が駒王学園での会談を開いた日に襲撃してきた敵のなかで、俺が戦った敵を覚えていますか?」
「んあ?忘れるワケねえさ。青白い筋肉だるまだろ?」
「・・・アイツはサーヴァント、バーサーカーです。しかも真名はローマの剣闘士で奴隷解放のために戦った反乱軍の将も勤めたスパルタクスですよ」
「何だとっ!?」
アザゼルは、士郎の口から出た言葉に目を剥いた。
それと同時にリアスが疑問を挟む。
「英霊になれば人間って異形化するの?スパルタクスは私もそれなりに知っているけど、彼の剣闘士はそんな異能を持っていたの・・・・・・って、まさか神器!!?」
「いや、あれは恐らく『宝具』によるものだ」
『宝具??』
「英霊達の生前の伝説の象徴であり、大小あれど奇跡の具現でもある。例えば、アーサー王のエクスカリバーやゼノヴィアが今所持している聖騎士ローランのデュランダルや聖ゲオルギウスのアスカロンのように基本的には武器なのだが、スパルタクスの生前に圧政者の狗たちからの攻撃にも何度も耐え抜いた末の伝説――――逸話が宝具へと昇華するタイプもあるんだが、まさにそれだな。あの“異形化”は」
「厄介だな・・・・・・。昔と違って英霊の数も増えているだろうし、何より年月をかなり重ねてるからな、これで知名度がとんでもない英霊を使われたら冗談じゃねぇぞ・・・・・・!」
アザゼルの言葉が他の者達と同じような感想だったようで、各々が何とも言えないような顔をする。
その中の1人でもあるサーゼクスが士郎に質問する。
「ところで士郎。祐斗君が相手をした敵が君を狙う為に人質として狙われそうになったんだが、心当たりはないかい?」
「士郎が・・・!?」
「本当なのか、木場!」
「うん、確かにあの敵はそのように言っていたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
祐斗が体験したことに、同じ境遇に遭いそうになっていたゼノヴィアは敢えて名乗り出る事をしなかった。
それは士郎を信頼している故からだった。
そして当の士郎は、此方から切り出す気だったので別にかまわなかったが、機先を制されるようで何となく不安感を抱きながら正直に吐露する。
(やっぱり聞いて来たか・・・)
「心当たりはありません・・・・・・ですが、実は俺自身が狙われたのは初めてではありません」
「え・・・!?」
「ほう・・・・?」
初耳だったゼノヴィアは軽く驚き、アザゼルはさらなる次の言葉を待つ。
「――――って事で、何故か祐斗が相対したキャスターと思わしき英霊が俺を狙っているらしいです。殺害では無く身柄を確保しようとしたと言うところも含めて、理由についてもさっぱりです」
士郎はあの日――――フィリップとケインとの報告などについての話を、全部ではないが話した。
さらには今回、ゼノヴィアが狙われた事にも話し始めた。
恐らく今回の件は、俺の身柄を押さえるための人質役の確保を取るための大規模な陽動兼足止めだったのではないかと。
「――――なるほど」
「バーサーカーにキャスターにアサシンか・・・・・・」
「でしたら私が闘った相手は剣士でしたので、セイバーと言った所でしょうね」
「恐らくは。――――グレイフィアさん直截的に訪ねますが、敵の特徴や言葉に何か覚えはありますか?」
士郎に質問されたグレイフィアは、昨日の戦闘時を思い出す為に瞑想に浸る様に瞼を閉じてから数秒で瞳を開く。
「鉢巻にマゲ、袴を羽織った侍。そして我々悪魔を、人間を食い物にすると言い放った明確な敵意。そして、突然3人の従者を出現させる前に『温羅討伐隊』と言った言葉・・・ですかね」
「・・・・・・・・・」
グレイフィアの言葉を聞いて思考に没する士郎だったが、これらに連想させる英霊など“あの存在”しか思い至らなかった。
そしてサーゼクスとアザゼルも、士郎と同じように考えてから導き出された答えが士郎と同一な存在だった。
「アレしかいませんね」
「・・・だな」
「ふむ・・・」
「もう解ったんですか!?って言うか、サーゼクスさんも先生も士郎さんも『温羅討伐隊』って何の事ですか?」
士郎達がグレイフィアの言葉から思考の海に没してから、答えを導き出すまで3秒も無い事に驚く一誠だが、聞きなれないキーワードの事も聞いて来た。
「一誠、日本の昔話でメジャーなのを挙げて見ろ」
「え、いきなり何」
「いいから」
「・・・分かりましたよ。え~と、『かぐや姫』『鶴の恩返し』『雪女』『うりこひめとあまのじゃく』位ですかね?あれ?どうしたんですか?」
士郎は一誠の答えに頭を抱えていた。
見ればリアス達――――一誠に好意を向けている女性陣全員が苦笑していた。
「メジャーかベターかは置いといて、如何して全員美人と推測されていた女性物ばかり何・・・・・・いや、何となくわかったから説明しなくていい・・・」
「そうですか?それで俺に何を言わせたかったんですか?」
「『桃太郎』は知ってるよな?」
勿論と先ほど以上に食いつきが良い位に一誠は食い付いた。
「だってあれでしょ?確か悪い鬼をとっちめて、その後ハーレム王になった侍――――」
「違う!ハーレム王になんかなって無い!お前の妄想と願望を、日本一メジャーな昔話と混合させるな!ああ、もう!?聞く相手を間違えた!!兎に角、セイバーの真名は恐らく『桃太郎』なんだよ!」
「えぇええ!!?」
一誠1人だけが驚く。
それ以外は、士郎の口から『桃太郎』と言うキーワードが出てから気づいたため、驚きなど薄れていた。
「グレイフィアさんの説明したキーワードに、一番共通するのが『桃太郎』である可能性が高いと言うだけだがな。グレイフィアさんを苦戦に追い詰めたと言う事は恐らく、日本の岡山県辺りで召喚したんだろうな」
「だろうな。あそこならかなりの知名度に成っていても可笑しくはない筈だからな。ステータスにもかなり影響するだろうよ」
「如何してオカヤマケンだと知名度が高くなるんですか?」
まだ日本の言葉を言いなれないのか、アーシアはぎこちない言葉で質問する。
「岡山は桃太郎のモデルとなった人物、吉備津彦命の墓は勿論、記録から信仰・伝承が盛りだくさんだからな」
「桃太郎にモデルとなった人物が居たの?それは私も初耳だわ」
眷属たちも皆、リアスと同様の感想だったようだ。
「これは少しは気が楽になったね。敵の情報を知り得ているか否かではまるで違うからね」
「確かにな。他は如何だ?」
「アサシンは恐らく『山の翁』ハサン・サーバッハである18人いる教主の1人だと思いますよ?ただ、あそこの教主の伝承などはほとんど記録などないので判りませんが・・・」
「『山の翁』か。アレについちゃあ記録があるかは俺の方で当たってみるわ。多分ねぇだろうが」
アザゼルは、厳しい顔つきで頭を掻く。
「後はキャスターですが、誰か解りますか?」
「ゴーレムを鋳造していた魔術師なんて探してたらきりねぇから、パスしようぜ。報告書を読む限りだと、ゴーレムに全ての戦闘を任せる典型的な魔法使いだろうから、今はそれで良いだろ」
これからハサン・サーバッハの事についても調べなきゃならないアザゼルは、気怠そうだ。
それをサーゼクスは、別に気にした様子は無いように反応する。
「そうだね。後はタンニーンを圧倒してサーヴァントだけど、実際戦った士郎とイッセー君からしてどうだった」
「銀色に鎧を着こんだ全身黒い、いえ・・・・・・暗闇みたいなやつで、タンニーンのおっさんの焔の息吹を食ったり、それを攻撃に利用してました」
『それとその化け物に跨っていた奴は、相棒の溜めに溜めたドラゴンショットをいとも容易く無効化していたぞ?威力だけなら既に上級悪魔の魔力弾を超えるモノだったと言うのにな』
ドライグが一誠の補足説明をした。
「跨る・・・・・・つまりそいつはライダーか」
「でしょうね。基本的にライダー自身はそれほど強くないと言う通り、そこまでの強さはありませんでしたよ?少なくとも白兵戦には慣れている様子には思えませんでした。それともう一つ」
「ん?」
「俺の攻撃によって謎の幻想種を包む白銀の鎧が一部分破損したとき、そいつは宝具であるにも拘らず、ライダーを攻撃したんです」
「・・・・・・なるほどな。ライダーの足が幻想種である場合、ライダー自身に忠義或いは信頼している場合と無理矢理服従あるいは隷属させている場合の2つだが、その幻想種は後者の様だな」
「そして何らかの条件が解除されたのでその幻想種は、ライダー自身に反逆行為をした・・・・・・ということかな?」
士郎の説明にアザゼルとサーゼクスは、各々で考えた自己分析を口にした。
「そうなんでしょうね。その後にそいつは、鎖で幻想種を拘束して大人しくさせていましたよ?」
「鎖・・・・・・士郎が前に使っていたモノと何か関係あるのかい?」
リアス達の証言により士郎はコカビエルとの戦闘で、鎖を使って動けなくしていたと言うのをサーゼクスは覚えていた。
「関係ありませんよ」
「そうか――――」
「あの、俺、その鎖から何か嫌な気を感じたんですけど?」
「イッセー君が・・・」
「・・・・・・とすると、悪魔の弱点となるようなもんってことか?こりゃ厄介だな。これからそいつと遭遇した場合、悪魔のお前らは基本的に戦わずに逃げろよ」
「タンニーンを圧倒する奴よ?そんな鎖が無くとも逃げるわよ!」
「ご尤も」
アザゼルの忠告に対してリアスが受け止めて返した。
その事に必要なかったかとアザゼルは苦笑する。
「残りはアーチャーとランサーだけど。人影は見てはいないけど、毒矢を使う敵に死傷者多数の基地からの報告はあったよ。士郎の友人であるレウスが追っ払ってくれたらしいが」
「それは俺の方でも報告書で読んだ毒矢って事はアーチャーなんだろうな。――――それにしても、藤村士郎よ。お前さんの知り合いはどいつもこいつも化け物ばっかりだな?」
「あん?」
士郎に皮肉るアザゼルは、目を士郎にでは無くモードに送っていた。
「報告書で読んだぜ?とんでもねぇ化け物剣士らしいじゃねえか!あまりの無茶苦茶ぶりにゼノヴィアが引いてたって・・・!」
「堕天使総督のアンタに言われたくねぇな?つか、オレが強いのは当然だが、それ以上にお前ら弱すぎだろ?ホントに悪魔かよ」
『むっ・・・・・・・・・!』
口元をにやつかせるアザゼルに対して、モードはあくまでも自分のスタンスを変えようとしない。
しかも思った事を口にし過ぎてリアス達はムッとする。
グレイフィアは立場上+大人なので、何も言わずに相変わらず微動だにせず、最初と変わらずにサーゼクスの後ろに控えていた。
「仕方ないだろ、モード。リアス達はこれからなんだ。戦慣れしてる俺達とは違うんだ。それ以前に、リアス達の歳を考えれば別に可笑しくはないどころかよくやってる方だろ?」
(お前さんも年齢変わらねぇだろうが!ついでにこの化け物女剣士も)
士郎の擁護にリアス達は、少し機嫌をリカバリーさせた。
そしてアザゼルが当然の感想を心の中で呟いた。
「――――っと、話し脱線させて悪かったな。つっても、ランサーらしきサーヴァントなんて見てねぇらしいから取りあえず此処までだな」
「そうだね。皆は他にとくに何かあるかい?」
サーゼクスの質問に無言で答える一同。
「そうか。ならリアス達はこの後から特訓再開だね」
「お、お兄様、お待ちください!こんな時に特訓など出来ませんよ!?私たちも修復作業などを手伝います!!」
「そうですわ!」
「うん、リアス。君の答えは僕や母上の予想通りだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?」
サーゼクスの言葉にリアス達は虚を突かれる。
「リアス達がそう言う風に言うと思って、母上からの伝言で『良いから特訓をしてレーティングゲームで私たちにいいところを見せると約束しなさい。これは命令です』だってさ」
「うぇえ!?」
考えを先読みされていた事に驚くリアス達。
とは言え親子なのだから親からすれば子供の事なんて手に取るように判るだろう。
それが既に、何百年以上生きている悪魔の貴族と言う、とんでもない年季のある傑物たちなら尚更だった。
「何度も言うけど、母上からの命令だからちゃんと訓練しなさい。いいね?」
『・・・・・・・・・はい』
リアス達はヴェネラナ達の気遣いにありがたみを感じつつ、頭を垂れながら頷いた。
「よし!ところで士郎、君に頼みがあるんだが。魔王としてでは無く、リアスの兄として」
「・・・・・・なんでしょうか?」
士郎はやや警戒しながらサーゼクスの次の言葉を待つ。
「タンニーンは昨夜でもう全快したんだが、一応念のために一誠君の修業の警備を頼みたいんだ。勿論、君が一旦人間界に戻る日は、僕の眷属の誰かから選抜するからさ」
「構いませんが・・・・・・タンニーン殿は了承しているんですか?」
「フフフ、それについては大丈夫さ。寧ろ自分を圧倒した敵を追っ払た君に、興味が出たと笑いながら了承していたよ」
「は、ははは・・・・・・・・・そ、そうです・・・か」
(如何考えても嫌な予感しかしないぞ?このパターンは・・・)
サーゼクスは何故かにこやかな笑顔で、士郎は乾いた表情で笑っていた。
正直断りたかったが結局、了承する羽目になった。
「――――そう言えばモード。ゼノヴィアの事、頼むぞ?」
「ヘイヘイ、めんどくせぇけど仕方ねぇな」
「何の話ですか?」
自分の知らない処で進行――――いや完了している話に、ゼノヴィアは怪訝さを覚えた。
「お前の修業中の警護をモードに頼んだんだよ」
「こんな人要りませんよ!?私は自分の身ぐらい自分で守れます!」
先程のモードからの悪口もあってか、即座に拒む。
「待てゼノヴィ――――」
「オレだってこんな、よちよちハイハイのお守なんざしたかねぇよ・・・!頼まれでもしない限り誰がやりてぇもんかよ!」
「何だと!?」
「あ?悪魔なのに聴覚弱ぇのかよ?有象無象の雑魚の警護なんて、つまんねぇって言ったんだよ」
「お前ぇ・・・・・・!」
モードは気怠そうにしながらもからかう様に、ゼノヴィアは憤怒の形相を作って睨み付けていた。
「何なら稽古付けてやろうか?お前程度なら無手で相手してやるよ?」
「その驕り、叩き潰してやる・・・!!」
「おい、お前ら――――」
士郎が止める間もなくゼノヴィアとモードは転移して行ってしまった。
さらにそこに追い打ちをかけるようにタンニーンが迎えに到着して、仕方なく気にかけておいてくださいとグレイフィアに頼み込んだ士郎は、一誠と共にタンニーンの下に向かったのだった。
-Interlude-
「なかなかの成果だったぞ?」
ほぼ同時刻、Kraは人間界のある場所で謎の神器を片手に乗せながら誰かと話していた。
「これでテストは終了だ。後はこれをお前に預ける。好きに活用しろ」
『――――――――――――』
「そんな事は気にしなくていい。これの性質上、どれだけ力を上げても世界に何ら負担は掛からないからな」
『―――――――、――――――――』
「――――ああ。アザゼルたちは色んな意味でこれに不気味さを感じた様だな」
『―――――――――――』
「お前の言う通りだ。神器の研究に精を出し過ぎて全く気付いていないだろうな」
一拍置いてから世界中の神器所持者や研究者などを思い出しながら、仮面の下で嘲笑うように嗤った。少なくとも表面上は。
「神器とは文字通り神器だ。ならば力の強弱関係なく、世界に当たる影響は調べると思うがそれをしないと言うのは、良くも悪くも研究者と言う事だな」
『――――ええ。神器がどれだけ世界を蝕んでいるのか知りもせず、気付きもせずにね』
世界の無知に憤る様にその人物は、静かに怒りに打ち震えていた。
-Interlude-
特訓日20目
一誠は、タンニーンに送られてグレモリー城に戻って来てから直に祐斗と合流を果たして廊下を歩いていた。
そこに体中包帯だらけのゼノヴィアが、暗い雰囲気を纏わせながら立っていたのを見つけた。
「ゼノヴィア?」
「如何したんだい?」
「・・・・・・・・・・・・ん?木場とイッセーか。丁度良かった。誰に頼もうか悩んでいた所だったんだ」
2人に気付いたゼノヴィアは、暗い面持ちで近づいて来た。
その暗さから、かなりの真剣な話と感じて、揃って身構える。
「僕たちなら大概の事は聞くよ?」
「だから元気出せよ」
「ありがとう、2人とも。それじゃあ頼みと言うのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私を殺してくれ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・は?』
あまりの斜め上の頼みごとに固まる2人。
「今の私は悪魔だから、木場が聖剣か何か作ってから私の心臓に突き刺して欲しい。それで全て終わる」
「ちょ!?ゼノヴィア落ち着け!」
「一体何があったんだい?士郎さんに真剣な告白をしてフラれたとかい?」
「違うんだ。実は――――」
そうしてゼノヴィアは語り始めた。
あの後、ゼノヴィアはモードに無手のまま圧倒されて何度も何度も負けてしまい、いつの間にか上下関係が構築されてしまい、遂にはゼノヴィアの心が打ち砕かれそうなところまで精神的に追い込まれて行ったらしい。
「大丈夫、だいじょうぶさ!!」
「ああ、ゼノヴィアの強さは俺達が保証するから頑張れ!!」
一誠はよりにもよって、鬱状態の人間に言ってはならない禁句を言ってしまい、ゼノヴィアは死の決意をした。
「そうか。私はこれ以上に頑張らなきゃいけないのか・・・・・・・・・・・・死のう」
「――――待て待てゼノヴィア、早まるな!?」
「僕、他の人呼んでくるよ!それまで頼んだよ!?イッセー君」
そうして一誠は祐斗が応援を呼んでくるまで、如何にか1人で死なせないように頑張った。
その後、祐斗が呼んできた応援に士郎とアーシアの2人によってゼノヴィアは何とか峠を越えた。
因みに修行の課題自体は上手くいったらしい。
そして今回の元凶に一誠達は揃って文句を言いに行ったが、本来は警護だけだったのに意固地になって強さを求めた上で、反骨精神を糧に自分に弟子入りしたゼノヴィア自身にも非は在るだろうと言い返して激しい口論になったそうだ。
結局お互いに非があるのだろうと言う結果に終わった様だった。
後書き
結局、週を越えちゃいましたね。かなり急いだので誤字脱字があるかもしれません。
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