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第五十九話 【SAO編】
前書き
この回からソードアート・オンラインになります。
SAOの開始年代が合っていない事は、二次小説と言う事で多めに見てください。
※転載に伴い少々設定が変わっています。以前のものはアオはソードスキルを使わないスタンスでしたが、ボス攻略を考えるとどうしても必要かと思い(威力的な問題)、改定しました。
リンゴーン、リンゴーン
けたたましく響く鐘の音が突如として事件の始まりを告げる。
ここはVRMMO『ソードアート・オンライン』アインクラッド大一層の『はじまりの街』
全てはこの鐘の音と共に始まった。
さて、あの海鳴での事件から数年が過ぎた頃、俺は又しても大きな事件に巻き込まれる事になった。
どうやら俺は騒動に巻き込まれる運命にあるらしい。
その日、俺はたまたま懸賞で手に入れた世界初のVRMMORPGである『ソードアート・オンライン』を物は試しと思い、ようやく一般家庭でも普及し始めたフルダイブ装置≪ナーヴギア≫を装着してサービス開始初日を迎えた。
ちょうどその日は母さんとソラ、なのは、フェイト、それと久遠とアルフ。つまり俺以外のメンバーは少し遅めの文化祭の代休と、土日が重なり4連休と言う事で今日の朝からミッドチルダに居るはやての所に遊びに行っていた。
とはいえ、高校生である俺には代休は存在しないので今回は遠慮したのだが、皆が戻ってくる間に、ある種のあこがれでもあるVRMMOを体験してみようと思ったのが運の尽き。
アニメやラノベ、さらにネット小説なんかが好きならば知っているのではないか?
VRMMORPGにおける一つの都市伝説を…
そう、デスゲームである。
つい先ほど、強制転移ではじまりの街へと戻された俺達は、アバターをどうやってか現実の美醜を再現され、このゲームの開発者である茅場晶彦によってデスゲームの始まりを告げられた。
ゲーム内での死が現実での死と言う現実に皆驚き、大いに困惑している。
終いにはこのアインクラッドの巨大な浮遊城であるこの監獄の淵から飛び降りるプレイヤーが出る始末だ。
そのプレイヤーはこんなの出鱈目だと証明するために自ら命を絶った。
結果、ただ一人の死者が増えただけだったが…
しかし、自らの行動で生死を選べた人たちはまだ幸運だろう。
なぜなら、このゲームにダイブするために装着しているナーヴギア。コレの取り外しでも死ぬと言う徹底振りだ。
外部から外された彼らには自ら選ぶ権利すらなかったのだから。
一時間が経ち、二時間が経ち、時間が経過するごとに信憑性が高まり、終には誰もがこれがデスゲームであると疑う事は無くなったのである。
ヘッドギア型のナーヴギア、それ自体が人質を兼ねた爆弾になった瞬間だった。
さて、問題が変わるがこのナーヴギア。脳信号をキャンセルする事に対してはすばらしく高性能であるようだ。
いくらマルチタスクで思考を分割しても一考に現実に戻る気配が無い。
さて、こう言った場合、デスゲームを開始した茅場晶彦氏から住所データは政府に送られているだろうし、真っ当な政府ならば直ぐに所在確認を行なうはずだ。
つまり、タイムリミットが存在する。
何のタイムリミットか?
それは誤魔化すためのだ。
運の悪い事に、今俺の手元にはソルが存在しない。
ミッドチルダに行く事にしていた母さんに携帯端末代わりに渡してある。
口が動かない俺は詠唱使用も不可能だ。
さらに、念での防御が出来るのかも不明だ。
そんな中で賭けには出れない。
ソラ達が居れば外からのアシストも可能だろうが、今はそれも出来ない。
つまり俺が言うタイムリミットと言うのは政府関連の人が来るまでと言う事だ。
政府関連の人が来て、もし死なずにアインクラッドから脱出できたのがバレるのは面倒極まりない。
政府の人間が来るまではどうとでも誤魔化せるのだが…
遅くても一日は掛かるまい。
人間、飲まず食わずで生きていこうとすれば点滴のお世話にならなければならず、そうなると、餓死する前に所在の確認と、スタッフを送らねばならない。
うーむ…
これは詰んだか?
さて、俺は一週間フィールドへは出ずにはじまりの街内で、初期所持金を減らしながら過ごしていた。
「今日で一週間か…」
アインクラッド内と現実世界の時間経過は同期しているはずだ。
となれば…
「ナーヴギア…侮りがたし」
そう、どうやらこのナーヴギア、本当に脳派伝達のカットと言う方向ではすごいスペック誇るようだ。
試してもソラ達からの念話が一向に繋がらない。
つまり、リンカーコアへの伝達命令すらカットしていると言う事だ。
逆もまた然り。
「うわ…マジかよ」
それと、外部から助けられるのならば絶対にソラ達がすでに助けてくれているはずだ。
後で聞いた話だが、ソラ達も何もただ見ているわけではなかった。
しかし、ナーヴギアから発せられる電磁波による脳破壊と、防御フィールドの展開、どちらが速いか分からず手が出せなかったようだ。
俺も失念していたのだが、防御魔法と言えば円形や球形で展開される魔法だ。
密着状態のナーヴギアと頭を分けるように展開するにはプログラムを書き換えなければならないし、密着しているのでミリ単位でも間違うと大惨事極まりない事になるだろう。
念による防御も同様。衝撃は軽減するはずなので、俺の体を『周』で覆う事も考えたのだが、他人の念を無意識とは言え俺が受け入れるのか分からないし、受け入れられなかった時、最悪ナーヴギアが誤認して脳破壊を行なう危険性もあった。
だから彼女らは俺が自力で帰ってくるまで辛抱強く待つ事を選んだらしい。
それは囚われている俺よりも、とても苦しい事だったと思う。
アインクラッドから生還した俺に何でよりにもよって俺なのかと散々愚痴られた物だ。
それはそうだ。
『星の懐中時計』ならレジストすら出来ずに瞬時に止まる。
止まるという事は干渉できないと言う事だ。
つまりナーヴギアからの干渉も受け付けない。
話がそれた。
つまり今、俺は選択に迫られている。
このまま引きこもって安全に誰かがクリアしてくれるのを待つか、それともフィールドに出てクリアを目指すか。
それは転生してから久しぶりに感じる死への恐怖だった。
転生を繰り替えずごとにいろいろな物を得て強くなっていると自分でも思っていた。
だけど、ここではその多くの超常の力が一切使えない。
念での身体強化、写輪眼での模倣。その他全てが…
ここでは自身のアバターの数値的な強さが全てだ。
つまり、ここでの今現在の俺はそこらに居るプレイヤーキャラの何も変わらない所に立っている。
その事にも恐怖を感じる。
あまり考えないようにしてきていたが、やはり心のどこかで人と違う事が出来る自分に優越感を持ち、その力に溺れていたのだろうか?
ここではレベルを上げなければいつまでも弱者だ。
さて、街の中はアンチクリミナルコードに守られ、ルール的には絶対に安全だ。
しかし、それは本当に絶対だろうか?
絶対と言う言葉を俺は信じない。
起こるわけもない転生を繰り返しているのだ。絶対なんて事はありえない。
弱ければ身を守ることは適わない。
何が俺を突き動かしたのかは分からない。
しかし俺はこのゲームをクリアして現実世界へと戻ると決めた。
はじまりの街の北にある門へと向かう。
そろそろ太陽も沈もうかと言う頃。
声を荒げパーティ募集を掛けている人たちがまだほんのわずかだが存在する。
まだゲームが始まって一週間。
固定PTを組もうにも、気が合わない者、死への恐怖から一度フィールドに出てからまた引きこもる者、様々だろう。
さて、ここに来た俺は直ぐに募集に答えてPTに加入する事を考えたわけではない。
まずは情報収集だ。
情報。
これはどんな世界、どんな時代、どんな状況でも大事なものだ。
とりあえず、フィールドから帰ってきたような人に目をつける。
20を超えたような青年達の集団だ。
青年達はどうやら一時PTを解散したようで、皆それぞれの目的のため、町の中へと散っていく。
俺はその中の一人に声を掛ける事に決めた。
少々目つきが悪く、無精ひげも生えていて顔は怖いが何処か面倒見の良さそうな感じがする。
「あの、すみません」
「あん?俺か?」
俺の声に気の弱い人なら物怖じしてしまうような声が返ってくる。
「はい、少し聞きたい事が有るのですが良ろしいですか?」
「聞きたい事?まぁ、別に良いがよぉ、今腹減ってるからどっかその辺のレストランで良いか?」
「構いませんよ」
レストランなどは利用するお金が無かったので今まで利用して来なかったため、俺はとりあえず青年についていく事にした。
道すがらお互いの名前を交換した。
クラインと言うらしい。
レストランのテーブルに着く。
ウェイトレスNPCがメニューを持ってくるが、残念ながら俺には利用するだけのコル(お金)を持っていなかった。
「注文しねぇのか?」
手前に座ったクラインが尋ねる。
「フィールドに出た事が無くて持ち合わせが心もとないんですよ」
クラインは「そっか」とつぶやいた後、自分の注文を二個ずつ頼んだ。
すぐさま注文した料理を運んできたウェイトレスNPC。その料理を半分俺の方へと強引に配膳した。
「まずは食え!オレがおごってやっからよぉ。話はそれからだな」
その行動に目をぱちくりさせて戸惑ったが、素直にその好意を受け取って食事を開始する。
この人かなりお人よしだ。
こういう人って結構好きだな。
このソードアートの世界では空腹が存在する。
その飢餓は食べ物アイテムの摂取でしか緩和できない。
まあ、食わないでいても死ぬわけでは無いだろうが、飢餓感が無くなる事は無い。
食事は簡素なサンドイッチとソフトドリンクだったが、この一週間で初めてのまともな食事だった。
目の前の軽食を食べ終えると、クラインの方から話を戻した。
「それで?オレに聞きたい事って?」
「あ、それはですね…」
俺は今現在分かっている敵の種類、攻撃方法、比較的安全な狩場、有効なスキルなどを質問した。
俺の質問に細かく回答してくれたクラインには感謝しても仕切れない。
はじまりの街から出てすぐのエリアに居るモンスターは動きが単調であり、直線的で、冷静に戦えば割と簡単に倒せるらしい。
しかし、安全を考えるならば、最低二人以上でPTを組んだほうが良いだろうとのこと。
ソードスキルを使えば1対1ならばまず負けることは無いようだ。
しかし、囲まれれば命の保障は無いわけで、そう言った場合はやはりPTを組んでいるほうが対処が可能だろうと。
ソードスキル。
魔法の無いこの世界で、言わば必殺技のような物か。
システムアシストにより規定のモーションを発動すればオートでまかなってくれる物らしい。
しかし、初動にはどうしてもほんの僅かだが溜めのようなチャージ時間が掛かり、さらに技の終了後には反動により規定の秒数硬直してしまうようだ。
ゾクッ
硬直中に敵に攻撃されればひとたまりも無いのではないか?
それは大技に対する弱点と言う訳か。
「どうだ、アイオリア。明日でよかったらオレ達と一緒にフィールドに出ねぇか?ここら辺りの敵でも1レベルだと万が一と言う事もありえるからよ」
大体の事を聞き終えるとクラインが俺をPTに誘った。
正直その言葉はとても有り難かったのでお言葉に甘える事にする。
明日の朝8時に北門前に集合と言う事でその日は別れた。
次の日。
二つ有るスキルスロットにメイン武器である『片手用曲刀スキル』と『索敵』の二つを選択する。
何故曲刀を選んだかと言えば、反り具合と長さから小太刀に近い物を感じたからだ。
さて、クラインと待ち合わせると、どうやらクライン以外の青年の姿もある。
話を聞くと彼らはリアルで知り合い同士なのだそうだ。
俺が合流すると、クラインは彼らと話をつけ、俺をPTに入れるとMob狩りにフィールドへと出発する。
程なくして見えてきた小さなイノシシを模したモンスターが一匹。
「少しスパルタだがな、あのモンスターなら初期装備でも二撃は耐えれる。クリティカルでも全損はねぇ。攻撃も突進だけだ。危なく成ったら俺たちがタゲ取るから安心して行って来い」
「はーい」
おどけた様に返事をして見せたが、内心ではやはりほんの少し緊張している。
やはり数値的に初期値である俺のAGI値はとてつもなく低い。
それに伴い俺は自分の体を悪い意味で持て余していた。
簡単に言えばイメージに体が付いてこないのである。
迫りくるイノシシの攻撃を加速しない体にいらいらしながら横へとスライドしてかわし、追いかけるように海賊刀を振るうこと7回。
ようやくイノシシのHPを消し飛ばす事に成功した。
ふぅー。
初戦闘はどうにか終了かな。
さて、とクラインを振り返るとポカンとしているクラインたち。
うん?
「どうかしました?」
俺の問いかけにようやく自身を取り戻したクラインが答えた。
「…いや、アイオリアってさ、何か武術やってたか?なんか身のこなしがシロートじゃないような気がしてな…」
「ああ。実家の方針で、生まれたときから剣術を仕込まれました」
「剣…術?」
「はい、剣術です」
その答えに、いまだに剣術なんて物があるんだと大層驚くクライン。
そっか、今は剣道が殆どか。
剣術流派は埋もれてしまっているな。
さて、気を取り直してMob狩り続行である。
次はソードスキルの実践だ。
これがこの世界での必殺技であり、命綱であるだろう。
クラインからのアドバイスを聞いて片手用曲刀基本ソードスキル『リーバー』の初動モーションに入る。
瞬時に俺の持った海賊刀にライトエフェクトが走り、大地をけった体は通常以上の速度で敵に向かって駆け、突き出した海賊刀がイノシシのHPを削る。
その威力は通常攻撃よりも高く、HPを減らしておいたおかげでその一撃で削りきったようだ。
そしてスキル硬直。
確かににうまく使えばこの上ない戦力になるだろう。
硬直時間が危険ではあるが。
半日、俺たちははじまりの街からそう遠くない所で狩りを続けたが、レベルアップは1回だけだった。
どうやら今現在POPの取り合いでMobが枯渇しているのだとか。
レベル的な安全マージンを得るためには、はじまりの街周辺からまだ離れられない人たちは多いし仕方の無い事かもしれない。
狩りを終えるとはじまりの街に戻って解散となった。
クラインは袖振り合うのも何かの縁と、明日も一緒にと誘ってくれたので恐縮しながらもその話を受ける。
彼らから得る物はまだあるだろうし、この縁を結んでおいても損は無いような気がしたからだ。
「それじゃ、また明日」
クラインやその仲間はどうにもお人よしの気質が過ぎる。もう少し警戒心を持ったほうが良いのではないかと思うが、そんな彼らを好意的に感じるので言葉に出すのは憚られた。
さて、レストランで食事を済ませた俺は、返す足でフィールドへと向かう。
この辺りのモンスターの行動パターンは覚えたし、毒や麻痺、睡眠と言った状態異常系の攻撃を持っていないとの見解が、いち早くフィールドに出て行った人たちの見解だった。
ならば、とも思う。
油断さえしなければアレくらいならば確実に一人で狩れる。
そう思った俺は人が少なくなる夜にもう一度フィールドに出て経験値を稼ぐ事にした。
時は朝の4時。
深夜の狩りで俺のレベルは5まで上がった。
そろそろこの近辺での狩りでは経験値的に打ち止めであろう。
俺がMob相手にこんなに冷静に戦えているのはおそらくグリード・アイランドの経験から来るものだろうか。
あれもどこと無くゲーム的な感覚だったからね。
さて、今から帰って三時間ほど睡眠時間をとればクラインとの待ち合わせ時間だ。
と、その前にNPCショップで海賊刀の耐久値を回復させないとだな。
始まって一週間しか経過していないし。さらにこんな時間までやっている鍛冶スキルもちのプレイヤーの知り合いなんていないからね。
結構高いらしいけれど、武器が無ければダメージを与えられないのだからここはケチる所じゃないね。
耐久値をもどし、しばしの眠りに付く。
ソロ狩りでコルも多少手に入ったので今日は宿屋に宿泊する。
今までは少ないコルを全て食費に当てていたため、ホームレスのような路上泊だったので、久しぶりのベッドの感触に酔いしれる。
アラームをセットするとものの数秒で眠りに落ちた。
ピピピピピっ
脳内にアラーム音が響く。
「…朝か」
ベッドから体を起こし、伸びをして脳を活性化させる。
よし、問題ないな。
宿から出ると、露天NPCからすぐに食べれそうなバケットを購入すると、歩きながら胃に納めつつクライン達との待ち合わせ場所に向かう。
時間が待ち合わせ五分前と言った所だ。
しかし、そこはやはり日本人。五分前行動が身についているのか、既に待ち合わせ場所にはクライン達の姿があった。
「すみません。待たせましたか」
「いや、オレ達も今来た所だ。なぁ?」
同意を求めるクラインに、後ろにいた彼らも同意の声を上げた。
「んじゃ、行きますか」
クラインが少しおちゃらけた口調で出発を宣言し、フィールドへと出た。
昨日と違って既に旨みが少ない敵を狩る。
索敵画面を確認して、常時敵の位置を把握しながら一匹一匹確実に仕留めていく。
「それにしても、ソードスキルに頼らなくてもそこまで戦えるとはなぁ」
クラインが感嘆の声を漏らす。
「俺としては、硬直時間が有るソードスキルは結構おっかないです。あの数秒が命取りになる事も有るかも知れません」
とは言え、それでも相手の攻撃を弾くために使わなければならなくなる事も有るだろうから、PTを組ませて貰っている間は練習も兼ねて使わせてもらっているが。
「かもしれねぇな。だが、そこを頼るのが仲間ってもんだろ」
確かに。
彼らはリアルの知り合いの為か、お互いの信頼が厚い。そんなチームならば安心して命を預けられるのだろう。
そんな彼らが少し羨ましかった。
俺にだってそう思える人たちがリアルには居るのだ。
彼女らが一緒にここに居れば、どれほど心強かった物か。
俺は思考を切り替えてシステム的な問題で今のうちに試しておくべき事柄を口に出す。
「そう言えば、武器は装備するとソードスキルが使えるんですよね?」
「ああ、そうだな。しかし、それはもう教えただろう?」
「ええ。しかし、武器アイテムは装備しなくても手に取る事が出来ます。だったら装備していない状態で敵を切りつけたら?」
「…ソリャぁ…どうなるんだ?」
分からず仲間に振り返るクライン。
しかし誰もその答えを持ち合わせていなかった。
「試してみますか」
俺はウィンドウを開いて装備を解除する。
一瞬でストレージに引っ込んだ海賊刀をアイテムウィンドウから取り出すと右手に掴み取った。
しばらく歩き、エンカウントした敵に俺は右手に持った海賊刀で斬りつける。
ザシュッ
一瞬、鮮血のエフェクトが飛び散りHPバーが減少した。
さらにもう一撃入れると敵のモンスターはポリゴンを撒き散らして崩壊する。
「ダメージは有るみたいですね」
「だな」
「クライン。もう一つ試したいのですが」
武器を装備状態から唯の手持ちに変えてもらいソードスキルが発動するか確かめて貰った。
結果は否。
武器を装備していないとソードスキルは発動しないようだ。
さらに左手に持ち直して攻撃してみたり、複数人で実証してみた所、今の段階では装備しようとただ手で持っていようとダメージに差が見られない。
「ふむ…」
俺は考えをまとめる。
「なあ、こんな事をして何か意味があるのか?普通に装備すりゃぁ良い事だろう?」
「いえ…そうですね。クライン、その海賊刀を貸してくれませんか?」
「あん?これか?…まあ良いけどよぉ」
ほらよっと差し出された海賊刀を受け取るとそのまま左手に持つ。
するとちょうど良くリポップした一体のイノシシ型の敵へと向かう。
まず右手に持った海賊刀で一撃、すかさず左手で二撃。
体に染み付いた二刀流。
三撃目を放つ前にHPを全損させていた。
そろそろここらでは本当に相手にならないようだ。
「なんだそりゃぁ!」
「まあ当然の結果か」
「すげぇなっ!手数が倍じゃねえか!」
「とは言えお勧めはしませんね。二刀流なんてスキルがある訳じゃないですし、ソードスキルが使えるわけじゃない。それに素人に二刀流は本当に難しいですよ?」
「そっか…そうだな。やはりソードスキルは重要だよな」
と言うかソードスキルは普通に考えたらこの世界での生命線だろう。
システムアシストによる連撃。
決まれば大ダメージが期待できる。
それに片手武器ならば空いたほうの手に盾も装備できる。
盾は重要な防御手段でもある。
序盤の今ならばさらに重要だろう。
その後、右手の武器は装備し、左手の武器をそのまま手持ちにしたままソードスキルが発動するか試してみた所、イレギュラー装備扱いになるのかソードスキルは発動しないようだった。
ただし、二本目を鞘に戻し、腰に射すなどして手を開けていればソードスキルは問題なく発動するようだ。
通常攻撃でのダメージ効率を取るならば二刀流もいいだろうが、咄嗟のときにガードが出来ず大ダメージ食らう事も考えられるし、ソードスキルの連撃の方がはるかに効率が良いのかも知れない。
素人はやらないほうがいいね。
それでも保険にと俺は海賊刀をもう一本買い、腰に吊るすのだった。
浮遊城アインクラッドに閉じ込められて数日。
日中のクラインとの狩りを終え、さて、夜のソロ狩りに出かけようと城門を目指す。
はじまりの街には先駆者を見習い声を荒げて募集するもの、すでに決まったPTで狩りに行くもの、皆それぞれだ。
PTの募集はひっきりなしに行なわれているが、自己の事で精一杯の現在では他者を助けようとする者は少ない。
そんな中、城門の片隅で声を掛けようとして、躊躇っている12・3歳の少女を発見する。
興味を引かれて近寄ると、躊躇いも無く声を掛けた。
「なにか困った事でもあるのか?」
その少女に声を掛けたのは何故だったろうか。
薄クリーム色の髪を玉飾りのついたリボンで両側で纏めているその様相がなのはに似ていたからかもしれない。
「え…あの…」
俺は少女の言葉を急かさずに待つ。
「あたしも一緒にフィールドに連れて行ってくださいっ!」
勢いで最後まで言いました、という感じで一息でそう言った彼女。
レベル上げ、又は生活するためにはフィールドに出なければならない。
別に食べ物は食べなくても死にはしないだろうが、四六時中襲ってくる飢餓に打ち勝てる精神力があればの話だ。
「もう夜だけど?」
「あっ…決心したのが昼間で…声を掛けようとここに来てたのですが…」
戸惑っている内に辺りはすっかり暗くなっていたと。
アインクラッドの夜は、その時間でもプレイ出来るように月が出ていれば真昼間とは言わないが、あたり一面見渡せる。
だから、夜と言えど狩りが出来ないと言う事にはならない。
「…どうしても今日?明日とかは?」
「…今日行けなかったら、多分あたしはもう外には出れません」
なるほど、恐怖に打ち勝って何とか最初の行動に移れるタイミングが今なのだろう。
今日では無く、明日となればまた心を奮い立たせるのにどれだけ掛かるか。
「…分かったよ。一緒に行こうか。でも今日は3時間ほどで帰ってくるつもりだよ」
「っはい!ありがとうございます」
凄い勢いで頭を下げる少女。
「あたし、シリカって言います。あなたは?」
「俺はアイオリア。アオでいい」
「はいっ!」
それが長い付き合いになる俺とシリカの最初の出会いだった。
夜の草原をシリカと二人でモンスターを狩る。
周りには人は殆ど見えない。
そんな中、海賊刀を振ってイノシシのHPを減らす。
「シリカっ!」
「はいっ!」
後ほんの一撃、それだけで倒せるほど弱らせてからシリカへとバトンタッチ。
ザッ
振ったダガーのソードスキルがイノシシに当たりポリゴンが爆発し、経験値が入る。
「それにしてもアオさんって強いんですね。リアルで何かしているんですか?」
「家が剣術を担っていてね。子供の頃から教え込まれているよ」
「へぇ、そうなんですか」
その後、シリカは何か考えるようなそぶりをしてから、
「あのっ!ぶしつけなお願いで申し訳ないと思うんですが…あたしにその剣術を教えてくれませんか?」
御神流を?
「…駄目ですか?」
眉毛をハの字に歪ませ、少し残念そうな表情で再度問いかけるシリカ。
「…いや、別に良いけれど、役に立たないかもしれないよ?」
「そんな事ありません。絶対役に立ちます」
「まあ、全部は覚えられる物でもないし、まずは歩き方とか、剣の振り方とかからだけど」
「あっ!ありがとうがざいますっ!」
まあ、頼られるのは悪い気持ちはしないし、ソラ達と同年代ぐらいの少女がこの世界の理不尽で死ぬのは見たくない。
出来る範囲で生き残る術を一緒に模索できればいいな。
次の日、クラインと合流すると、
「このロリコン野郎!」
と吼えるクラインを拳骨制裁する羽目になるのだった。
勿論安全圏内だったからHPは1ミリも減らなかったよ?
さて、昼間、今日はクラインと別行動でシリカと一緒にモンスターを狩った俺たちは一度はじまりの街へと戻る。
さて、まず今使っている海賊刀を売り払い、必要STR値ギリギリの海賊刀を二本買い、余ったお金で防具を見繕うと手持ちのコルが無くなってしまった。
むぅ…昼飯は質素にしよう。
クラインからメールが入り、シリカと一緒に待ち合わせ場所に行くとどうやらクライン達は先に来て何か話し合っている様子だ。
「お待たせしました」
「クラインさん、お待たせしました」
「おう、アイオリアとシリカか」
「何かありました?」
「いやな、そろそろオレ達もここら辺じゃ経験値がうまくねぇからよぉ、次の町へと狩場を移そうかと思ってるんだが、アイオリアはどうだ?」
確かに日に日に諦めたのか現実を受け入れてフィールドへと出て行くプレイヤーは増えている。それに伴ってソースの奪い合いが生じ始めている。
ならば見切りをつけて先に行くのも一つの手だ。
「構いませんよ。俺もここらじゃもう打ち止めでしょうから」
「あたしは皆さんほどレベルが高い訳じゃありませんが、確かにここ辺りでは厳しくなってきました」
「そっか、それじゃ幾つか候補が上がったんだが、オレ達はホルンカの村へと行こうと思う」
「そうですか」
「ああ、それに…こんな状況でさ、不謹慎かもしれないけどよぉ…ネカマの奴らを視界に納めるのがそろそろ精神的にきつい…」
そうなのだ。
茅場晶彦によって告げられたデスゲームの勧告。
それよりも俺の心を動揺させたのはアバターの改変。
現実世界の容姿を復元されたそれは、一瞬で阿鼻叫喚を呼んだ。
そう、女性アバターを選択していた男も強制的に戻されたのだ。
アレは衝撃だった。
むさくるしい、それこそ小太りの男共がピンクやら黄色やらのヒラヒラしたミニスカートを穿いているのである…
ネカマを悪く言う事はしない。
こう言ったMMOでネカマを許容できなければ男女比が男に偏ってしまうだろうし、それはMMOとしてはつまらないだろう。
しかし…しかしだっ!
茅場晶彦よ!防具の大きさを変更できるのならば、せめてズボンに変更しろよ!
さらに問題は名前だろう。
黒鉄宮のモニュメントにすでに刻まれた一万人の虜囚の名前。
しかしその名前はアバター名なのだ。
つまり…
ネカマのネームもそのまま記載されている。
コレはどんな羞恥プレイだろうか…彼にはこのアインクラッドを攻略させる気は無いと見える。
え?何故かって?
ネカマはPT組めないだろうっ!主に名前の問題で。
一定の条件がそろわなければ相手の名前は確認できないような配慮がされているが、PTを組めば相手の名前がHPバーと一緒に表示される。
つまりPTを組んだ瞬間相手が元ネカマだとバレるのだ。
…それはどれだけその人の心を折るだろう。
さらにコルの節約の為に装備を変更していないプレイヤーがちらほら居る現在のはじまりの街ではさらに顕著。
メインストリートからは外れるような小道に奴らは潜んでいるが、それでも目に付かないわけではない。
そんな彼らを見ると、生理的に少し来るものがあるとクラインは言っているのだ。
一ヶ月でアインクラッドの死亡者が2000人を超えたと言うが、その半分以上がPTを組めずにソロでフィールドに出たネカマだったそうだ。
茅場の悪意、恐るべし。
フィールドに出てクラインと一緒にホルンカの村へと向かう。
3時間ほど北上すると出てくるモンスターの種類が変わるが、こちらの人数も多いため特に問題は無い。
それに基本的にノンアクティブらしく、近寄らなければ襲ってこないようだ。
順調に進んできたのだが、今前方に一台の馬車が止まっているのが見える。
馬車なんて物が有るのか。
しかし、どうやら何かトラブルに見舞われている気配である。
「クラインさん、どうします?」
俺はどうするのかとクラインを呼ぶ。
「アリャなんかのイベントクエストだろうな。馬車なんて物がもし有ったとしても買えるようなプレイヤーはまだいねぇだろうし。とりあえず行って見るか」
「応!」
「もちろんだぜっ!」
「当然」
返事はそれぞれ異なったが皆行く気満々だ。
駆けつけると、どうやら少し歳の男性NPCが馬車の周りで困惑している。
「どうかしたのか?」
クラインがNPCに話しかけた。
「おお!旅の人、ちょうど良い所に。少々トラブルが起こりまして」
ちょうど良い所じゃねぇよ!
まぁ、テンプレとしては仕方が無いのか。
話を聞くとモンスターに襲われ、撃退する事には成功したが馬車を引く馬に逃げられてしまったようだ。
馬車の中に貴重品もあるため馬車を置いて馬を探しにはいけない。
そういう訳でちょうど良い所に来た俺達に馬を探してきて欲しいそうだ。
馬はここから左、西のほうに見える森の中に入っていったとの事。
うーむ。
「まぁいいか」
ぽろっとこぼした言葉は良いではなく無視しても良いかと言う意味だったのだが…
「え?アオさん受けるんですか?」
シリカのその言葉が引き金になったのかは分からない。しかし…
「おお!助かりますぞ。馬を連れてきてくれれば御礼もします。何とぞ」
なん…だと…?
あわててウィンドウを開くとクエスト受注状態になっていた。
よろしく~と見送られる俺達。
馬を発見して連れてくれば良いのだが、その馬、どうやらあのNPC以外は手綱を引いても付いてこないらしい。
じゃあどうやって連れてくれば良いんだよとなる訳だが、騎乗すれば言うことを聞くらしい。
なんて面倒な…しかし、この世界、そんな甘くは無かった。
目的の馬は戦闘を二・三回繰り返すだけで発見できたのだが、クラインが捕獲しようと手綱を握ってもいう事を聞かずに暴れ回り、逃げ出してしまう。
仕方が無いので捕まえた一瞬で協力してクラインを背に乗せてみたが、手綱捌きが下手でいう事を聞かなかった。
つまり…
「これって乗馬の経験がないと絶対に捕まえられねぇって事か!?」
ついにクラインがウガーッとキレたように声を上げた。
「だいたい普通馬なんて乗れねぇだろうがっ!」
「あ、俺は乗れますよ。貴族の嗜みでした」
貴族転生なんてものをすれば馬くらい乗れなければ遠出が出来ないのが普通だったからねぇ。
まぁ普段は魔法で飛んでたけど…乗馬は貴族の嗜みで覚えましたよ。
「じゃあオメェが最初からやりやがれっ!つか何だ!貴族の嗜みってのはっ!アイオリアは貴族なのかよ!つか!今の日本に貴族はいねぇっ!」
「そう言うロールプレイと言う事で」
さて、俺は今木の上で索敵画面を見ながらクラインが来るのを待っている。
そこに手はず通り馬を追い込んできたクライン達。
「おらっ!そっち行ったぞ」
「了解」
俺はタイミングを計り木から飛び降りた。
ヒヒンっ
目測どおり鞍に飛び乗り跨ると直ぐに手綱を引く。
「どうどうっ」
ヒヒーーーンッ
パカラパカラ
馬は俺の誘導に従い次第にそのスピードを落として停止した。
「ようやくかよ!手間ぁ取らせやがって」
悪態をつくクラインだが、今まで散々振り回されていたのだから仕方が無いか。
じーっ
視線を感じて振り返ると馬を操る俺を見上げるシリカ。
「…乗りたいの?」
「っはい!」
「しょうがないな」
手綱を左手に持ち、空いた右手でシリカを持ち上げて手前に座らせる。
「わぁ、高いですね」
「あんまりはしゃぐと落ちるよ」
余りスピードはあげてはいないから、徒歩より少し速い程度に走らせて依頼人の所へと戻る。
「もう少し速く走らせられないんですか?」
「馬って思ったほど安定して乗れるものでは無いんだ。こんな状況(二人乗り)でスピードを上げたら俺はともかくシリカは跳ね出されるんじゃないかな」
「むぅ…もっと速く走ってみたいですね」
「それは自分で練習有るのみと言う事で」
「アインクラッド内で機会があるかどうか分かりませんけれどね」
まあね。
アインクラッドで馬のレンタルなんてやってるだろうか?
馬に乗りながらクラインと歩調をあわせてNPCの所まで戻る。
「ほお、今の若者は馬も乗れない者たちばかりなのに乗りこなすとは。よろしいコレを持ちなさい。きっと貴方の役に立つでしょう」
俺のストレージで収納されたのはアイテム名『バーグの紹介状』
どうやらコレがあると厩舎のある街で馬のレンタルに掛かるお金がタダになるようだ。
「それと皆様方にも少ないですがこれを」
そう言うと皆のストレージにそこそこのコルが支払われた。
「おおっ!なかなか太っ腹だな」
クラインの言葉も頷ける。
はじまりの街の一番高い武器の値段の三倍ほどのコルが入っていたのだから。
「それでは私はこれで」
そう言うとバークさんは馬を馬車に取り付けると勢い良く走りだし、直ぐに地平線のかなたへと消えていった。
先ほどのクエストで時間を使ってしまった所為もあり、ホルンカの町に着いた時には日が沈んでしまっていた。
しばらくは、クライン達と一緒にフィールドでモンスターを狩り、モンスターの情報を得るとシリカと二人でレベルを上げる、クライン達が移動するのにあわせて彼らに付いて次の町へと移動しながらレベルを上げていくことを繰り返す。
二週間が経ち、すでにはじまりの街からは遠いデルクスの町。
狩りを終えた俺はシリカと別れアイテムショップへと寄り、そろそろ顔なじみになりつつあるNPCショップの店員にドロップしてきたアイテムを売りコルに換える。
MMORPGとして活気が溢れていればNPCショップに売るよりも商人を選択したPCに売るほうがコルになるのだろうが、まだ始まったばかりで資本となるコルも無く、そもそも商人を目指しているPCがようやく動き始めた段階ではこんな辺鄙な村では望むべくも無い。
「いつも贔屓にして貰ってすまないねぇ」
NPCの店員がこちらに話しかけてきた。
「いえいえ。いつも世話になっているのは俺の方ですよ」
「そう言ってもらえると助かるね。冒険者さん達の為にこっちも出来れば質の良いポーションを仕入れたいんだけどね、それにはどうしても必要なアイテムがあるんだけど、あんた取ってきてくれないかい。それが有れば品のいいポーションを仕入れる事も可能なんだけど」
なんか結構強引な上に所々意味不明な点もあるけど…つまりコレはクエスト依頼と言う事かな?
「分かりました。何を持ってくれば良いんですか?」
「トーチューカソーと言うアイテムだ。森に出てくる昆虫系モンスターが時々落とすんだけどねぇ。ただ、結構見つからないらしいよ」
聞けば昆虫系モンスターに寄生するように背中にきのこが寄生しているMobがたまに出るそうだ。
そいつが落とすらしい。
とりあえず一人では状態異常攻撃を持っている昆虫系モンスターは怖いのでクラインに話を持っていく。
一緒にミルパットの森に狩りに行こうと誘ってみる。
断れれたらこの話は無しだ。
「うーん。アイオリアの話を纏めるとアイテム解除のクエストの可能性が高いな。ここは受けておいたほうが良いとオレは思うぜ?」
「なるほど、ここで回復系のアイテムに追加が出れば確かに優位に働きますね」
そうシリカも納得して同意した。
それに俺も否は無い。
方針は決まり、明日の朝から狩りに行くと決め、今日はとりあえずポーションと解毒薬を大量に買うべくアイテムショップへと戻るのであった。
ミルパットの森へはデルクスの町から徒歩で一時間ほど行ったところにある。
状態異常系の攻撃をしてくるモンスターが多いこのエリアは人気が無く、俺達が森に入った他にPTの気配は無い。
まあ仕方が無いか。
解毒ポーションはゲームを始めたばかりではその価格は高く、それなりに狩りに重点を置いた生活をしている俺でも出来れば大量消費は避けたいアイテムだ。
大きな蟷螂のようなモンスターがその鎌を振るう。
ギィンっと言う音を鳴らして壁役が受け止める。
「今っ!」
その声に俺は急いで駆け寄り海賊刀で連撃を浴びせる。
「っ!まずい」
その隣で大きな蛾を模したモンスターの燐粉攻撃を食らった槍使いが唸る。
「大丈夫だっ!オラっ!」
直ぐにクラインが駆け寄りモンスターにソードスキルを叩き込む。
モンスターを全滅させると俺は槍使いに近寄り解毒ポーションを使う。
「すまない、助かる」
「いえ、誘ったのは俺です。むしろ助かってますよ。一人じゃ麻痺で囲まれた挙句たこ殴りと言う展開しか思いつきません」
「そうでもないだろう。君は一度も麻痺攻撃を食らってないじゃないか」
確かに、ね。
「それはしっかり皆さんがターゲットを取ってくれてるからですよ」
まだここ辺りの敵は行動の予測がしやすい上にその行動は緩慢だ。俺は的確にそれを避けているが、それはそもそもタゲを壁役が取ってくれているからで、ヘイトがこちらに向く事が少ないからだ。
一人で複数のMobに囲まれたら今のAGIじゃかわせそうに無い。
「しかし、中々でねぇな…本当にでるのか?」
クラインのその言葉に先ほどの槍使いが答える。
「βテスターから聞いた話だと、そう言った変種のモンスターはノーマル種を狩り続けていると確率がブーストするらしい」
「ってこたぁ、狩り続ければいつか出るって訳か」
「だけどすでに3時間は狩っているんだけど」
すでに結構な量を倒したはずだ。
「まぁ、MMOの確率なんてそんなもんだ。クエストなんだからそれなりに確率も高いだろう。確率が1%も有れば十分狙える」
クラインのその言葉に根っからのMMOプレイヤーの皆はうむうむと頷いている。
確かに1%もあるアイテムはMMO世界ではレアドロップとは呼ばないな。
1%は努力で手に入るレベルだ。
それ以上となるとリアルラックが必要になるが…
さらに狩り続ける事二時間。
目の前に背中から何かが生えている蟷螂のモンスターが出現した。
「…アレか!?」
「やっと…やっとか…ははっ」
「ここまでとは…リアルラックの低さにワロタ!」
あ、やばい。クライン達が壊れ始めた…
ウガーーーッと今までの鬱憤をぶつける様にフルボッコ…
俺の出番はありませんでしたよ…
「ッシャおらぁ!」
モンスターが爆散すると、皆一斉に自分のストレージを確認する。
「お、オレんとこに有ったわ。ほれっ、アイオリア」
そう言って投げ渡されるトーチューカソー。
「良かったです…武器の耐久値も限界ですから、これ以上の戦闘はマジで無理…」
キャッチしたトーチューカソーをストレージにしまいようやく一息つく。
「だな、コレだけ人数が居てこれじゃあな…まあ良かった。帰ろうぜ」
それに頷くとそろそろ日が翳り始めた森を後にして帰路に着いた。
NPC鍛冶屋を後回しにいの一番でショップへと走る。
そう言えば、先ほどの変種を倒す前のレベルアップでスキルスロットが一つ増えてるな。
何を入れるか…とは言え、今はまずクエストクリアが先決かな。
歩く先にアイテムショップが見えてくる。
「ごめんください」
「いらしゃい…あら、あなたは」
ストレージからトーチューカソーを取り出してNPCに渡す。
「おお!コレはまさしくトーチューカソー。これで店に出せるアイテムが増えます。御礼の印をお受け取りください」
渡されたのは耐毒ポーションが10個と…スキル?
いつの間にか空いてるはずのスキル欄が埋まっていた。
えと…『アイテムの知識』?
一緒に来たクラインがショップのレパートリーを確認するとどうやらアイテムが増えていたようで。
「お、耐毒ポーションだってよ。へぇ、時間は短いが事前服用型か。…しかし少したけぇな」
商品を確かめた後クラインが俺に問いかける。
「それで?報酬はなんだったんだ?」
「耐毒ポーションが20個と…えと、スキル『アイテムの知識』です。…ただ、さっき入手した空スロットが埋まってしまいました」
「…それは…どんな効果なんだ?」
選択の余地無しに埋められたスキルほど今の状況で困る事は無い。
次は『隠蔽』を取ろうと思っていたのに…
「……使用したアイテムの効果が増えるみたいですね。…熟練度初期値だと…3%くらい増えるらしいです」
「微妙だな…」
「はい…」
「クエスト発生条件はなんだったんだ?」
「たぶん、このショップで連続売買回数とか、その金額量とかじゃないですかね」
「…なるほど、しかし、俺らも次に取るスキルは決めてるし、検証のしようが無いな。…まぁそれは情報を流しとくから、誰かが検証するだろ」
「ですかね…」
さて、この『アイテムの知識』であるが、検証の結果、今現在では誰も取らないほうが良いと言う結論が出た。
熟練度を上げるためにはアイテムを使用しなければならないのだが、使用するアイテムと言うのは基本ポーションの類だ。
しかし、生命線であるポーションは今の稼ぎでは凄く高価なものなのだ。
熟練度上限が1000レベルなこのSAO内で、今取ってもほぼ腐る事が確定している。
とりあえず分かった事は情報はリークすると後はこのスキルをどうするかだ。
得てしまった以上腐らせるのはもったいない。
と言うことで、戦闘後のヒールは俺が受け持つ事になった。
そのおかげかレベルが上がるにつれてパーセントも増えるようで今現在は6%に上昇している。
うーむ、なんかこの作業にはすこしデジャブが…
かなり昔だが、精神力増強をしてた頃を思い出すね…
この地道さがなんとも…
まあ、今度のコレは金食い虫だけどね!
後書き
アオ達のスペックを考えたら、SAOでのデスゲームは多分無効化出来るのでしょうが、デスゲームもので一人安全とかどうよ?(茅場の奴はGMだしねぇ)と言うわけで突っ込まないでくださいね^^
TV番1話を見て一言。
ネカマぇ…
茅場さん、せめてスカートは自動調節してあげよう?ズボンとかさぁ…
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