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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その9

 
前書き
その8の続き 

 
散々泣き喚いて里に対して罵倒し尽くした弟子の遺した自来也の名付け子は、自来也の腕の中で泣き疲れて眠りに落ちた。
久方ぶりに呼び出され、目にした子供は、以前出会った時よりも人間味を見せていた。
昔のナルトは人形だった。
自分で考え、自分で動くが、決められた事しかこなさないような印象しか与えなかった。
それが今は。
突然血なまぐさい場所に呼び出され、怒涛のような感情を激情のままに叩き付けられ困惑したが、一方で安堵も感じていた。
人として、きちんと成長しているらしい。
https://www.akatsuki-novels.com/manage/stories/view/207592/novel_id~57
ただ、懸念もある。
ナルト自身にも受け止めきれず、整理しきれていない感情を発露させるナルトからは、事情を聞き出すのも大変だった。
断片的な情報しか得る事が出来なかったが、それでもまあまあ事態は把握出来たと思う。
どうやってナルトが知り得るはずのない里の内部情報を得ていたのかという疑問はあるが、腐れ縁のある人間が漏らした聡明さが恐ろしいとの言葉が妙な実感を持って納得出来た。
鈍いとナルトにも罵られたが、否定は出来ないと自来也は一人ごちる。

それはともかく。

「おい、坊主。お前がサスケだな。起きてるかのォ?」

泣き喚いてしまっていたナルトは気づいていなかったようだが、自来也は、恐らくサスケ少年が覚醒している事に気づいていた。
ナルトが眠り込んでしまった頃合いを見計らい、声をかけた自来也に逆らわず、血の臭気の籠もる家に残された少年がむくりと起き上がる。
その子供の瞳に宿る闇に自来也は内心嘆息した。

友、なのだろう。

クシナはフガクの嫁と親好があった。
その縁だったのかもしれない。
詳しい事は里を離れて長い自来也には分からない。
だが、常に里に居り、自来也よりも大きな影響力を持つ火影のヒルゼンではなく、風来坊と言っていい自分を呼び出したのにはそれなりの訳がある。
ナルトは火影だけでは足りないと判断したのだろう。

「お前、この子の友かのォ?」

自来也の問いかけに、動揺したように瞳をさまよわせ、自分にかけられた掛布に気づいてかっと顔を赤らめて、自来也とナルトから顔を背けた少年は素直ではないらしい。
ならば、自来也の望む答えは返っては来るまい。

「ワシはの、この子に縁があって名付け親になったもんじゃ。とはいっても、この里を離れて大分経つがのォ」

自来也が身上を証した途端、身を起こした少年は自来也を振り向き、鋭い視線で噛みついてきた。

「あんた、ここでそいつが何て呼ばれてるのか知ってるのか?なんでそいつを放っておいた!」

自来也に対する怒りを宿す瞳に、自来也の頬が緩む。
まずまず心配はいらないようだ。
とは言え、気の強そうな少年の瞳は誤魔化しを許さない光を宿している。
そして、出会ったばかりの頃のナルトと同じ色もだ。
二人とも、どうやら目を離していて良い相手では無いらしい。
溜め息を吐いて自来也は誤魔化しのない正直な言葉を告げた。

「ワシにはどうしても止めなければならん相手がおる。奴とはガキの頃からの長い付き合いでのォ。ワシ自身の手でけりをつけねばならんのだ。それに他にもしなくてはならないことを幾つか抱えておる。正直、サルトビのじいさんを信用して、あの人に全てを任せておった。あの人程信用できるをわしは知らんからのォ……」

そう言った途端、少年の表情はこちらを探るような物へ変わった。

「あんたも、木の葉の忍なのか?」

色濃い疑いの眼差しに、自来也は太い笑みを浮かべた。
三忍とまで呼ばれるまで鍛え上げてきた自来也の自負が、少年に自分を侮らせる事を許さなかった。

「木の葉の忍以外の物になった覚えは無いのォ。里を離れていたとしても、ワシは木の葉隠れに生まれ、木の葉で育ち、木の葉の火の意志を受け継いだ木の葉隠れの忍の端くれじゃ。坊主。うちはの血を引くならば、お前も木の葉隠れの忍の一人だろう。違うか?」
「俺は…」

自来也の問いかけに、今まで考えた事もなかったと言わんばかりに動揺する少年に、自来也は微笑ましくなった。
ナルトを抱きかかえて立ち上がり、少年の隣にナルトを寝かせる。

「少し借りるぞ」

一声かけて、少年が使っていた掛布をナルトにかけた。
そして自来也は少年の頭に手を載せた。

「のう、坊主。お主これからどうする」

問いかけられ、自分が何をされているのか気付いた少年が自来也に噛みつきだした。

「俺に触るな!何するんだ!!」

自来也の手を振り払い、赤い顔で睨みつけてくる少年に自来也は笑った。
不意に、このうちはの血を引く少年とナルトの間にあるものに懸念が沸く。
悲劇に行き当たった者が選ぶ道は限られてくる。
この少年が選ぶ物に、生まれて初めて得ただろう友が選ぶ物に、恐らくナルトは否応なく影響されるだろう。
里に恨みを持つ九尾の器を、負の方向に刺激する材料になってもらっては困る。

「のう、坊主。これをした者を殺したいか」

問いかけた瞬間、ギラギラとした殺気と憎悪を露わにした少年に自来也は嘆息した。

「そうか……。止められはしないのかのォ?」
「当たり前だ!アイツはオレにしか殺せない!!」

怒りを露わにする少年を丸め込む材料を自来也は幾つも持っている。
だが、その中でもっとも卑怯で、もっとも確実性にかける手段を選ぼうと心に決めた。
幼い子供達を、お互いを拠り所として里に縛り付けて起きたかった。
そうすれば恐らくナルトは里に牙を向かない。
里に牙を剥かぬ為に、里人に関わらねばならないと理解していたナルトが、自分自身で見つけた繋がりだ。
それは強くナルトの心を掴んでいるだろうし、現にこの少年の為にナルトは動いた。
自分の為には動きもせず、ただじっと耐える事しかしなかったのに。
ならば、そこまでナルトが大事に思う人間には、出来ればナルトの側に居てやって欲しかった。

「お前が復讐を選べば、ナルトがこの里を滅ぼす事になってもかのォ?」
「は!?」

自来也の言葉に、少年が呆気に取られた表情になる。
そして直ぐに怒りを露わにしてきた。

「何でオレがそんな事気にしなくちゃなんないんだよ!オレにはそいつが何をどうしようが関係ない!オレの邪魔をするな!!」
「……この子の境遇を見て見ぬ振りをして、放って置いたワシが言う事でも無いがのォ。お前に切り捨てられたら、この子はまた一人になってしまうのォ……」

落胆を滲ませた自来也の呟きに、少年はぴたりと口を閉ざして沈黙した。
面白くなさそうに顔を歪めてはいるが、様々な感情に少年の瞳は揺れている。
少年にも、ナルトに対する何らかの感情はあるようだった。
少なくとも、即座に切り捨てられる程度の物ではないらしい。
ならば、付け入る隙はまだある。
その事に希望を持った自来也は、少々小芝居をし始めた。
落胆を装って溜め息混じりに言葉を吐き出す。

「ワシはお前を男だと見込んでおったんじゃがのォ。見込み違いじゃったかの?」

負けん気の強そうな少年は、自来也の挑発に素直に反応する。
唇を噛み締め、きつい眼差しで睨みつけてくる少年の気概に笑みがこぼれそうになった。

「そうか。ならばこの子を守ってやってはくれんかの」
「何でオレがそんな事をしなくちゃならない!」

心底不満を露わにする少年は、どうやらナルトの事を知っている訳ではなかったらしい。
てっきり、自来也は知っている物とばかり思っていた。

「坊主。お前、知らんのか?」
「何をだ!」

苛ついた少年の幼い声で問い詰められた自来也は、沈黙した。
確かにナルトの側に居てやって欲しいとは思ったが、ナルトの事情を少年が知らないとは思いもしなかった。
となると、ナルトはそれほどこの少年に気を許してはいないと言う事だろうか。
とは言え、この少年を気にかけているのは確かだろう。
あるいは、三代目の言い付けを忠実に守っているかだ。
ならばこの少年に知らせてしまって良いものか……。
子供とは言え、この少年は男だ。
そしてナルトは女だ。
知らせてしまえば、嫌でも無視は出来なくなるだろう。
だが、いたいけな少年の心をいたずらに掻き乱す事にもなりかねない。
悩む自来也に、何かに気付いたらしい少年の、面白くなさそうな声がかけられた。

「……そいつが木の葉の、この里の人柱力だって事なら知ってる」

里の中でも限られた者しか知らないその事は、少年に教える者はナルト本人しかこの里にはいない。
少なくとも、この年の少年には知らせる人間は居ないだろう。
火影の名の下、きつい箝口令が敷かれているのだから。

「それは、この子から直接聞いたのかのォ?」
「それがどうした!」

自来也の確かめる問い掛けに挑むような眼差しを向けてきた少年に、自来也は安堵した。
何よりも、ナルト自身が自分から九尾の器であることを開陳した同年代の少年だ。
ならば、何も遠慮する必要はあるまい。

「そうか。ならばこれも聞いているだろうのォ。ナルトは女じゃ。にも関わらず、この里にはこの子が頼りにできる相手は少なすぎる。ワシはそれが不憫でのォ……」
「……はぁ!?」

自来也の発言に驚愕を露わにする少年に、思わず自来也は驚いた。

「坊主、聞いとらんかったのか!?人柱力である事はナルトから聞いとったんじゃろう」
「そんなの、ついさっき聞かされたばかりだ!なんだそれ!!こいつは男だろ!?」

酷く動揺してナルトを指差す少年に、自来也は少し申し訳なく思った。
こんな風に不意打ち気味に知らせるつもりはなかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。

「いや、ナルトは女じゃ。女の人柱力は出産時に、尾獣の封印が弱まる事が分かっておる。それを未然に防ぐ為じゃろうのォ。ナルトが女じゃと言う事は伏せられとる。その上、人柱力は何かと狙われる立場でもあるしの。成長した時の危険をそらす意味もあるのじゃろう」

知らなかった事実を知らされている少年は、可哀相なくらい動揺していた。
悲劇に行きあったばかりの少年に突きつけるべき物ではない。
だが、自来也は敢えてこのまま突きつける事を選んだ。
上手くすれば、ナルトも、この少年も、有望な木の葉の忍びとして並び立つ事になるだろう。

何せ、うちはの血を引く少年と四代目火影の血を引く人柱力なのだから。

「しかし、だからこそワシにはナルトが不憫で仕方なくてのォ。この子が男として暮らしているのは間違いなくワシのせいでもあるからのォ。この子の両親に子が出来たと聞かされて、名付け親を頼まれて、ワシは男の名しか用意せんかった。まさか、生まれてきた子が女で、そしてこの子の両親がこの子に九尾を封印して、二人とも命を落とすなんぞ、欠片も思いもせんかった。そしてそのままワシが用意した名前を使われて、この子が男として育てられるとも思ってもみんかったしのォ」
「ま、待て!それじゃこいつ、本当に女なのか!?男じゃないのか!?」

酷く動揺して顔を赤らめている少年は年相応の少年だった。
先程までの、触れれば切れてしまいそうな鋭い殺気を放っていた姿はどこにもない。
ナルトを男と信じて心を許していたに違いない。
それが異性だと知った衝撃はいかほどか。
もはや遠い感慨となってしまったが、思い出せなくもない戸惑い混じりの若い頃の気持ちを思い出し、自来也は生暖かい表情で少年を眺め始めた。

少年の混乱はとても面白い。
ある意味次回作の取材に持ってこいだ。

「さあのォ。坊主に心当たりがなければ、ワシは何も言えんがのォ」

自来也の言葉に動きを止めて、じわじわと頬を染めていく少年の姿に、ふっと笑みがこぼれ落ちた。

「まあ、ワシは長い事里を離れておったから、良くは知らんがのォ。それはともかく、坊主。お前、うちはフガクとミコトの子じゃな?」
「それがどうした!」

自分に対する拒絶を乗せて睨みつけてくる少年に思わぬ所がないわけではない。
だが、紛れもなくこの少年はナルトが心を許し、護ろうとしている少年だ。
そして、この里をナルトから護る切り札になるかもしれない存在だ。
その為に自来也にナルト自身が差し出したようなものだ。

ナルト本人にそんな気はなかったのだとしても。

謀から切っても切る事の出来ない忍びとしての性分に苦笑しながら、自来也は少年に名乗りを上げた。

「そうか。ならばお前の身柄はこの自来也が預かる。この里で三忍と呼ばれるこのワシの名付け児が泣くからの。お前も聞いておったろう。お前の身に降りかかった災いに鳴き叫ぶこの子の叫びをな」

そう告げた途端、反感に顔を歪ませ、ナルトの事に思い至り、複雑な表情に変わっていく少年に自来也は笑いかけた。

「その代りと言ってはなんだがの、坊主を見込んで頼みがある」
「……何だよ」
「ワシは長く里に留まる事はできん。やらねばならん事があるからのォ。どれほど望んでもこの子の側に居続ける事は出来ん。そこでの、お前に頼みがある」

察しが良い少年はそこで自来也の言いたい事を飲み込んだらしい。
先手を取って、反感を叩きつけてきた。

「だからオレにそいつの側に居ろっていうのか!?なんでオレが!それにそいつは女なんだろ!?女の側になんかいられるか!!」

少年らしい青臭い反応に、自来也は目を細めた。
負けん気の強さはうちはらしい。
だからこそ、ナルトの側に引き込んでおきたかった。

「そうか。無理にとは言わん。女一人護れる自信もない子供に持ちかける話ではなかったのォ。すまんな、坊主。ワシの話は忘れてくれ。何、おぬしの身柄は保証する。ナルトにお前の事を頼まれたからのォ。便宜は図ってやる。今後を案じる必要はない」

自来也の言葉に少年の瞳が怒りに燃える。
だが、その怒りを鋭い一瞥でもって自来也は押さえつけた。

「よもやワシの申し出が不足だとでもいう気ではなかろうな?」

自来也の言葉に、少年が沈黙する。
そして低い声で提案してきた。

「……あんたの頼みを引き受けてやる。要はそいつの監視をすればいいんだろ。そいつが九尾を外に出さないように。なら、俺もあんたに条件がある」

ふてぶてしい少年の態度に自来也は少し口元を苦笑させた。
これほど幼いというのに、このふてぶてしさはまさに『うちは』そのものだ。
脅してやったというのに、怯む事なく自来也を睨みつけている。

「なんだ」
「あんたと繋ぎを取る手段が欲しい。そしてオレを弟子にしろ」

少年の言いぐさに自来也は束の間放心した。
そんな事を言い出してくるとは思いもしなかった。
一体何を考えているのだろう。

「繋ぎの手段については全然構わんが、ワシの弟子になりたいという態度ではないのう。お前、何を考えている」

自来也の問いかけに、不敵と評するのが相応しい、けれどどこか追い詰められた印象の笑みを少年が浮かべる。
ぎらぎらと憎悪に輝く瞳に自来也の胸に一抹の不安がよぎる。
本当にナルトの側にこの少年を置いておいて良いのだろうか。

「あんたの頼みは化け狐の力を暴走させるなって事だろ。だったら、オレが化け狐の力を抑えられるようにならなきゃ、オレがそいつを監視する意味はないだろう。違うか!?」
「いや、そこまで望むつもりはなかったんじゃが……」

そこまで本格的にこの少年をナルトの監視役とするつもりはなかった自来也は、少年の言葉に面喰い、少し考えた。

「それともオレじゃ役不足だとでもいうのか!?」

少年の剣幕に自来也ははっとなった。
無意識に発動させてしまっているのだろう。
不完全ながらも少年の瞳には紛れもない写輪眼が浮かんでいた。
その瞳に自来也の心が揺れる。
写輪眼を用いた瞳術を得意とするうちはの血族を導くには、幻術を苦手とする自来也は不適な存在だ。
だがしかし、九尾をねじ伏せる手札としては、うちはの血は魅力的だ。
そしてこの少年を導けるだろう相手に縁がないわけでもない。
数奇な事に、その縁もまた四代目が繋いだ縁だ。
うちはだからこその懸念と、少年自身が持つ闇に懸念がない訳でもないが、ナルトが友としたこの少年に賭けてみるのもまた一興。

何より、この縁が未来への芽を蒔く事に繋がるのならば、それもまた良し。

これも何かの巡り会わせなのだろう。
完全に心が定まった自来也は、小さく笑みを溢した。

「あいにくワシは忙しくてのォ。忍びにもなれていない相手を弟子にする余裕はない。だが、お主が忍びとして見どころがあるというなら考えてやらんでもない。それにワシとの連絡役もつけてやる。何かあればワシを呼べ」

不満そうに見上げてくる少年に、自来也は黙って微笑み、繋ぎ役と顔合わせさせる為に口寄せを発動させた。 
 

 
後書き
サスケに入れ知恵したのは自来也さんだったの巻。 
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