女人画
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
10部分:第十章
第十章
「ですがやはり一番評価が高いのは」
「人物画ですね」
「俗に美人画と言われています」
こう述べる早百合だった。
「それは。そして私は」
「今モデルをされているのでしたね」
「はい、そうです」
こう答えるのであった。
「もうすぐ完成されるそうです」
「もうすぐですか」
「はい。ですから今から」
「モデルになられるのですね」
「その時は二人になります」
早百合はこう静かに述べた。
「画伯と二人です」
「そうなのですか」
「はい、二人です」
また二人という言葉が繰り返された。
「二人で。画伯は絵にはとても厳しい方ですので」
「はい。それでは」
「そこを御気をつけて」
「わかりました」
そんな話をしながら屋敷の中に入った。屋敷の中もやはり和風でその内装は実に整っていた。畳は眩いまで新鮮な緑であり廊下も光を反射させていた。だが二人はその奇麗な屋敷の中を二人で見回りつつあることに気付いたのだった。
「おかしいですね」
「そうだな」
年輩の女が若い女の言葉に頷いていた。何故かここでは声は男のそれになっていた。
「これだけ広い屋敷なのに人がいませんね」
「使用人が何人かいてもおかしくはない広さだがな」
「ですね。あまりにも妙です」
若い女はまた言った。
「一人もいないのは」
「どういうことですかね」
「異様なことがあるのは間違いない」
年輩の女は述べた。
「それはな」
「部屋も一つ一つはおかしなところはないですね」
「ああ」
また若い女の言葉に頷いた。
「とりあえずはな」
「けれど屋敷全体としては」
「異様だ」
また異様という言葉を出した。
「あまりにもな」
「何かがあるのは間違いないです」
若い女は言う。
「絵も一つ一つは問題はないですが」
「うむ」
「今度はこの部屋に入りますか」
左手の襖の前に立って述べた。襖も質のいい和紙を使っておりやはり見栄えがいい。しかし何処か無機質なものもそこにはあった。
「そうしますか?」
「そうするとしよう」
年輩の女も襖の前でその提案に頷いた。
「ではな」
「さて、今度こそ人がいますかね」
「それとも絵か」
年輩の女は呟いた。
「何が出るかだな」
「ですね」
そんなことを言い合いながら襖を開けた。するとそこには。
絵があった。それもかなり巨大な絵だ。壁に添えられているようにしてそこに置かれているその絵に描かれているのは。二人をして顔を顰めさせるに足るものだった。
「これは」
「美人画!?だが」
「ええ。一人ではありませんね」
「そうだな」
二人はその絵を見て顔を顰めさせ続けていた。そこに描かれている美人達は様々な年齢に顔立ちに服装だった。その数は一見してどれだけいるのかわからない程だった。
だが問題はそれではなかった。それは。若い女がそのうちの一人の顔を見て言った。
「この人は」
「どうした!?」
「失踪した女性の一人です」
こう言うのである。
「そしてここにも」
「その人もか」
「はい。この人もこの人も」
彼女は続けて言うのだった。
「皆そうですよ」
「どういうことだ」
年輩の女は彼の驚いている言葉を聞いて顔をさらに顰めさせた。
「だとすると」
「それにです」
ここで彼女はさらにその年輩の女に述べた。
「この人は」
「むっ!?」
「早百合さんですよ」
こう言うのだった。
「間違いありません。描きかけですけれど」
「むう・・・・・・」
「しかもです」
若い女の顔が曇ってきた。顰めさせただけではなくなってきた。
「次第に」
「次第に!?」
「さらに描かれています。ほら」
「なっ・・・・・・」
年配の女はそれを聞いて実際に絵を見て驚愕の声をあげた。見れば確かにその通りだった。絵はそこには誰もいない筈なのに勝手に絵が描かれていく。二人はその一人でに描かれていくその絵を見てそこからあることを察したのだった。
ページ上へ戻る