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大正牡丹灯篭

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9部分:第九章


第九章

「それでわかったな」
「わかりました」
「だが。死を恐れないとはな」
 そのことについて思うところがあるのが藤次郎にもわかった。
「我々ならともかく」
「軍人なら、ですか」
「我々はまた特別だ」
 将校は言う。軍人は命をかけて戦うものである。だからこそ死ぬのを恐れないというわけだ。そのことを藤次郎に告げたうえでまた言うのであった。
「その軍人から見ても。そこまで覚悟を決めているとはな」
「何分愚かな男ですので」
「それは誰も同じだ」
 将校はそれを問題としなかった。
「だが。それでも望むとは。凄いものだ」
「はあ」
「それならば望む通りにすればいい」
 こうまで述べた。
「それでな。これでいいか」
「わかりました。それでは」
 彼はこれで完全に意を決した。そうして顔を晴れやかにさせた。その日はそれで帰ったが次の日であった。彼は会社では静かに一日を過ごした。
「わかっていると思うがな」
 社長はその彼に対して告げる。怪訝な顔で。
「帰ったならば」
「はい。家から出ずにですか」
「本来はこうして会社に来るのも止めるべきなのだ」
 念には念を入れてである。だが彼が無理を言って来たのである。それは何故か、彼だけが知っている事情からであった。彼だけが、である。
「絶対にな」
「申し訳ありません」
「だが。来てしまったのなら仕方がない」
 目をかけているうえに仕事ができるということもあり。だからこそ彼もそれを認めたのである。やはり彼を気遣った渋々にであるが。
「だが。明日からはな」
「はい。それでは」
「暫くの間だ」
 こうも告げた。
「その間だけ我慢すればいい。わかったな」
「わかりました」
 口ではこう述べる。しかしその意志は決まっていた。彼は会社に帰ればどうするかもう決めていた。そうしてそれを実行に移すのであった。
 会社から出ると社長から逃れるようにして去った。そのまま向かう場所はもう決まっていた。あの洋館であった。
 洋館の前に来るといた。彼女が。
 恨めしそうな、それでいて嬉しいような。そうした顔で藤次郎を見ていた。そうして彼に言うのであった。女の、擦り切れるような切つない声で。
「何故今まで来て下さいませんでしたの?」
「迷っていました」
 彼はじっと麗華を見詰めている。そのままで彼女に告げた。
「どうするべきか」
「では貴方はもう」
「はい、知りました」
 彼はそのことをそのまま述べた。
「貴女のことを」
「そうですか」
 麗華はそれを聞いて俯いた。その顔を諦めが支配していく。
「御知りになりましたのね、やはり」
「全て聞きました。何もかもを」
「そうですか。それでは」
 彼女はそこまで聞いてその顔に完全に諦めのものを見せた。もうそれは変わらないかのようであった。藤次郎にはそう見えるものであった。
 
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